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菊池川における水制設置に関する事例と検証

国土交通省 菊池川工事事務所
 玉名出張所 技術係長
坂 田 光 一

国土交通省 菊池川工事事務所
 調査課 係員
佐 藤 宏 美

1 はじめに
菊池川は阿蘇外輪山を水源とし,熊本県北部を東西に貫流して有明海に注ぐー級河川である。(図ー1)
菊池川では,水衝部における河岸侵食の防止対策の一つに,水制の設置を行っている。経験技術(伝統工法)の典型といわれる水制は,設計や配置等の技術体系が確立されておらず,未だ暗中模索のところがある。
そこで水制の設置について検証する際,効果的であるのが水理模型実験である。菊池川では職員の手作りによる水理模型実験を計5回にわたって行っており,それぞれに成果を上げている。
本報告は,当事務所が行った大浜地区における水制設置の水理模型実験の結果と,過去に水理模型実験を実施し,水制を施工した小浜地区において,水制設置の効果を検証するものである。

2 大浜地区における水理模型実験
(1)大浜地区の概要
大浜地区は菊池川左岸3/100~3/500付近に位置し,有明海の潮位の影響により水位が大きく変動する感潮区間である。河道は3/600付近で緩やかに蛇行し,当区間は水流が直接河岸にあたる水衝部である。(図ー2)
今からおよそ400年前,当区間には,加藤清正により,15基の水制が設置されていた。(図ー3)昔からこの区間で,河岸保護に苦心していたことが伺われる。
現在は,老朽化した空石積護岸と根固めブロックによって河岸保護が図られているが,永年の洪水や河床低下等の影響によって大浜橋上流の河床洗掘が進行し,護岸崩壊の危険性が高まっている。特に3/500付近左岸側の護岸は平成11年の台風19号時,高潮と重なり,波浪の影響を受け,護岸の損傷度合いが高く,補強が必要な区間である。(図ー4)
そこで今回,当区間の河岸保護の為に,水制の設置を水理模型実験により検討することとした。

(2)水理模型実験実験概要
① 実験条件
模型の範囲:菊池川3/100~3/500(図ー5)
模型の縮尺:1/400
水制模型:紙粘土製直方体模型 2cm×2cm×10cm(図ー6)
相似則:フルードの相似則
     縮尺 KL=1/400  流量 Kq=KL2.5  速度 Kq=KL0.5
対象流量:小規模洪水時の流量を想定し,1,000㎥/sとした。
河床材料:比重の小さい畑土を用いた。
その他,実験の諸元は表ー1の通りとした。

② 実険パターン
水制の間隔は,一般的に水制の長さの1.5~2倍程度,水制の傾きは,上向き70度程度が流速低減効果および水はねの効果が最も得られるとされている。これらを踏まえて,図ー7に示すような位置に,組み合わせを変えながら水制模型を設置して実験を行った。

③ 実験方法
実験は,以下に示す順序で行った。
・現況の流れと同様になるように河道を調整する。
・上流から水を流し(三角堰で流量を調節),現況と同じ流れになったところで(流速の確認)水制模型を設置する。
・上流から着色剤を流して,流れの状態を観測する。その後ウキ(直径5mm)を流し水流の向きを観測する。
・水を止め,水が流れ終わった後,河床の洗掘,堆積を観測する。

(3)実験結果
図ー8は水制を設置する前の流れの様子である。ウキの流れが示す流心線は,左岸側に接近しており,河岸が侵食される様子が確認された。

表ー2はパターン別(図ー7)の実験結果を示したものである。水はねおよび護岸付近の流速低減効果の程度を◎,〇,×で示した。図ー9は,最も水はねの効果が得られた水制の配置である。(A,B,Dの配置)水制設置前と比べて,流心線が中央に寄っていることが分かる。水制間では,渦流が生じ,流速が低減される。
しかし,それによって流れが中央に移動する為,中央部の流速は増大し,かなりの河床洗掘が見られる。特に,大浜橋のピア付近は大きく洗掘を受けている。

水制の設置によって,河岸付近の流速は低減されるが,その分,川中央部の流速は増大することとなり,河床の洗掘も大きくなる。特に構造物の周りでは,流れが複雑となる為,その影響が大きく出ている。(図ー10)

(4)考察
今回の実験より,検討区間に水制を設置することで河岸侵食を防ぐ効果は得られるものの,中央部の流速増大によって大浜橋のピア付近が大きく洗掘される恐れがあることが分かった。
実際に現在のピア付近の洗掘状況を確認したところ,図ー11に示すように施工時の河床高から約1mの位置まで河床が洗掘されていることが明らかになった。
したがって今回,水制の設置を検討する為に水理模型実験を行ったが,当区間に水制を設置することによって,大浜橋のピアがこれ以上に大きく洗掘される恐れがあることから,水制設置は妥当でないと判断し,現場では根固め工で対応することとした。
このように,構造物に近接している地区の場合は,水制の設置による流れの変化が,構造物へ影響することを慎重に考慮しなければない。水制による河岸侵食の効果が得られたからといって,むやみに水制を設置することは大変危険である。

また,水制の設置とは別として,橋脚の根入れの基準は河川管理施設等構造令で2mまたは1mとあるが,これはあくまで最低の基準であり,河床変動の著しい区間においては,必ず橋脚付近における河床の局所洗掘について検討し,それに応じた根入れ深さを考慮する必要がある。

3 小浜地区における水制の効果
当事務所では,過去5回(千田,小浜,河崎,菰田,大浜)にわたって,水理模型実験により水制の設置を検討し,施工に至っている。今後,その効果について,モニタリング調査や事後評価を実施していく予定である。その一環として,水理模型実験により水制の設置を検討し,施工を行った,小浜地区の現在の状況について調査結果を示す。
小浜地区は,菊池川右岸4/000~5/000付近に位置し,大浜地区と同様に感潮区間にあたる。河道は小島橋下流で大きく湾曲し,湾曲部の外側にあたる右岸側は大きく洗掘を受けており,当時,護岸は危険な状態にあった。(図ー12,13)

そこで,平成9年,水制の設置を水理模型実験(図ー14)で検討し,その検討結果から,当地区に水制8基を設置した。(図ー15)

現在,水制を設置した河岸には,土砂が堆積しており(図ー16),水制による河岸防護の効果が表れている。図ー17のコンター図を比較すると,施工前における河岸付近の全体的な深掘れが,水制の設置によって緩和されていることが分かる。
図ー18からも,年々低下傾向にあった河床に土砂が堆積していることが分かる。

しかし,一部の水制付近で局所的に大きな洗掘が生じている。図ー17を見て分かるように,水制設置前は,最深でT.P.-4.0mだったところが,水制設置後最深でT.P.-5.3mまで下がっている。これは,水制に刎ねられた水流が集中し,8基の水制を設置した最下流部で最大となり,河床を洗掘している為と思われる。また,最下流部だけでなく,水制の先端部の洗掘は,水制本体の崩壊を招くこととなり,大変危険である。しかし,水制先端部の局所洗掘はある程度避けられない為,施工時にあらかじめ捨石等で手当てをしておくことが望ましい。
土砂の堆積に関しては,目視によって確認が出来るが,洗掘については,なかなか把握しづらいので,測量等の定期的なモニタリング調査が必要である。
水制付近の環境については,釣り客も多く,堆積した土砂には,ムツゴロウやゴカイ等が多く棲息している。
しかし,一部の意見では,水制設置による微細な土砂の堆積で,エビやシジミなど以前にこの周辺で見られた生物が見られなくなり,生態系に影響しているのではないかと言う声が上がっている。
図ー19は,水制周りの粒度分布を示したものである。水制の先端部と,水制の背後とでは,粒度分布が異なっていることが分かる。水制の背後では,より粒子の細かい土砂が堆積している。
エピやシジミの減少に,この堆積土の変化が関わっているか否かは,現在のところ不明であるが,今後,水制の効果とともに,水制設置による生態系の変化なども検討して行く必要がある。検討するにあたっては,地元住民や,学識経験者等を交えた,「小浜地区川づくり勉強会」の中でも意見交換を行い,様々な角度から検討することとしている。

4 まとめ
大浜地区の事例より,水制の設置は,河岸防護について効果的であるが,その効果を期待して,事前の検討なしに水制を設置するのは大変危険である。特に,構造物近辺では慎重に検討することが必要である。周辺の状況を良く把握し,その場にあった工法を適用する為にも,水理模型実験は有効である。
また,水制を設置した後も,定期的なモニタリング調査を実施し,地域住民や学識経験者の意見も交えながら,改善するべきところは手直しを加えていく必要がある。その際,水理模型実験は,関係者間のコミュニケーションを容易にし,大勢で様々な角度から川づくりの討論を行うことに大きな力を発揮するものと確信している。
現在施工されている水制は,過去の技術の集積であり,かつ各現場で各種問題点の解決が図られているものである。経験技術の典型といわれる水制を我々が効率的に利用していく為には,これらの技術を水理学的理論に基づいて整理していくことも必要である。その為には,これまでの水制設置に関する事例や問題点などのデータの蓄積とその解析が必要不可欠である。今後,水理模型実験の他に,数値解析等も積極的に取り入れ,現場技術に反映させながら,水制技術の向上に努めたいと思う。

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