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九州地方整備局における河川CIM基本フレームの
構築状況について

国土交通省 九州地方整備局
河川部 河川管理課
梶 谷 憲 靖

キーワード:河川CIM、三次元管内図、インフラDX

1.はじめに
河川は水源から海に至る間で、それぞれ異なる地域特性を有しているほか、土砂の流出や植生繁茂により経年的な変化は必ずしも一様なものではなく、流況によっても変化が異なる。この河川の維持管理を行う上で、ある時点の健全度を把握し評価することとしているが、そのための作業は多大な労力を要することや専門技術が必要になる。一方で、従来からの人による目視調査から三次元として点群データの取得による調査へと技術移行している状況のなか、その結果を可視化することは必須事項となる。このことも踏まえながら九州地方整備局は、河道管理を目的とした河川CIMの導入を平成27 年より進めてきている。
本稿は、これまで検討を行い構築した河川CIMの基本フレーム(以下、基本フレーム)について、その概要や活用事例を紹介する。なお、維持管理だけでなく計画、設計、施工においても河川の状態を把握し作業を行う必要があることから、それらすべての段階を含めた河川管理として以降は記述する。

2.基本フレームの概要
(1)基本フレームの構成
河川管理に用いるデータは膨大であり、全てを三次元化することや各種データをモデルに紐付けることによりデータ容量が大きくなり一般的な規格のPC ではモデルの動作性が悪くなり日常的に使用することが難しくなる。シンプルかつ職員が使い勝手がよいシステムとするためには職員が日常で活用したい情報を厳選し必要最低限の情報で構成する必要がある。このため基本フレームのモデル構成は3 部構成のモデルとした(図- 1)。基本フレームは、全体モデルと詳細モデルで構成しており、応用系モデルは各河川が抱えている課題や必要な情報について、詳細モデルに情報を追加することとしている。情報量が膨大になることが想定されるため、詳細モデルからリンク先に渡すことで一連のモデルとする等、操作性も踏まえて検討を進めた。なお、全体モデル、詳細モデルを無償のビューワソフトAutodesk Navisworks Freedom で閲覧できるように構築しており、職員のPC で閲覧できるような環境も考慮しながら進めていった。Autodesk Navisworks Freedom の機能として延長・面積の計測や任意箇所の断面化などが可能である。

図1 基本フレームの構成

(2)全体モデルの概要
全体モデルは、管内全体の地理空間情報を三次元地形上で確認できるモデルとして構築している(図- 2)。そのデータ構成として、既存の管内図、治水地形分類図を用いて空間的な位置情報を把握し、また、索引図としての機能も持たせている。

図2 全体モデルのイメージと諸元

(3)詳細モデルの概要
詳細モデルは、「川の概要を知る」ために航空写真、河川図(S=1:2500)、距離標を詳細地形に合わせて三次元化したモデルと「川の弱点を知る」ための定期縦横断(4 時期)を同様に三次元化したモデルから構成している(図- 3)。詳細モデルはメッシュデータと点群データの2 種類を検討しているがメッシュデータは面であり視認性が良いが既存の横断図を重ね合わせると地形に埋もれてしまう課題がある。点群データでは既存の横断図は確認できるものの、点の集合体であるため地形に近づくと視認性が悪くなる課題がある。このため、活用場面に応じたモデルの選択等も必要となる。なお、全体モデルと座標整合させており、全体モデル上に詳細モデルの範囲を図郭として表現し、その図郭が詳細モデルと対応する構造としている(図- 4)。

図3 詳細モデルのイメージ諸元

図4 全体モデルと詳細モデルのリンク

(4)応用系の例
1)河床変動および植生の発達状況の把握
河床変動の把握を目的として2 時期の河道地盤高をもとに標高差を算出し、河床変動量を色付きの点群データとして構築した(図- 5)。構築したモデルを詳細モデルに追加することで、構築範囲の土砂の侵食や堆積している箇所の把握が容易となる。加えて、管理基準面が設定されている河川であればそれとの河道地盤高の標高差を算出することでより河川管理が必要な箇所を可視化させることが期待出来る。
河道内樹木の生長把握も同様に行うことで、定量的な評価等が可能となる。

図5 河道地盤高の標高差

2)河川環境情報図の重ね合わせ
河川環境情報図を地形モデルに重ね合わせたモデルを詳細モデルに取り込むことにより、保全対象種が好む物理的環境の特徴把握やその後の地形変状による予測などを行うことが可能となる。河川環境情報図をリンク先として設定することで詳細な情報が確認可能となる(図- 6)。

図6 河川環境情報図の重ね合わせ

3)地質構造の把握
堤防点検区間の地質縦断図と横断図のパネルダイアグラムを詳細モデルに読み込むことで、地質構造の把握を可能とする(図- 7)。例えば、フーチング等の地中部の根入れ範囲や深度等を三次元上で地質構造と合わせて確認したり、掘削時の河床地質を確認したりすることが可能となる。

図7 地質構造の可視化

4)事業による背後地への影響把握
河川整備計画の形状をCADデータ等から三次元化し、詳細モデルに読み込むことで、事業による現況施設や背後地への影響について事前に三次元空間上で把握することが可能となる(図- 8)。例えば、引提区間の影響により、改築が必要となる樋門等の施設の位置把握や構造台帳をリンクしておくことにより、台帳などの情報を瞬時に確認することが可能となる。

図8 引堤する堤防の計画モデルと現況地形の重ね合わせ

5)竣工図の重ね合わせ
二次元竣工図を三次元化し地形データと重ね合わせることにより河床洗掘後における低水護岸基礎の健全度を評価することが可能となる(図-9)。なお、構造物データの三次元化については、詳細部分まで三次元化すると作業量が増えるため、目的に合わせて、どこまで構造物を簡略的に図化させておくかを検証する必要がある。

図9 竣工図の重ね合わせ

3.今後の展開
(1)データ更新の仕組みづくり
河川管理を行う上でデータの取得年次は重要である。樹木繁茂範囲の計測を行おうとした時にオルソ画像が古く、樹木が成長しておらず作業が出来なかったケースが発生する等、オルソ画像や地形データの更新を適切に行うことが維持管理・調査では重要になってくる。
国土交通省では、河道の状態把握のための測量を5 年以内に1 回程度または出水により大きな河床変動が生じた場合に実施することが基本となっている。全川をまんべんなく点群測量を行うためには、費用の課題もあるため、現地の状況や変状を的確に把握するための観測頻度や観測手法を目的に合わせて再検討する必要があると考えられる。

(2)維持管理・調査段階から設計・施工段階への引き継ぎ手法の確立
維持管理の状況を設計・施工に引き継ぐためにも、各段階での作業結果を確認出来るよう基本フレームがプラットフォームとして機能することを望んでいる。そのためには、各段階に適したソフトから構築された三次元データを統合モデルとしてデータ保管し、職員のPC で日頃から閲覧出来る仕組みを構築する必要がある。この一連の引き継ぎ手法について具体的に検討していく必要があると考えられる(図- 10)。

図-10 各段階と基本フレームの関係性(案)

(3)スキルアップ(人材育成・技術力向上)
基本フレームの導入河川を増やすことと併せて、河川CIMに関することや基本フレームの操作技術に関する勉強会を継続して取り組んでいく予定である。便利なツールの確保により作業効率がよくなる一方、各作業間でこれまで必要だった専門技術力が低下することのないように留意したい。職員のスキルアップが今後の河川CIMの拡がりにつながると考えている(写真- 1)。

写真1 基本フレームの勉強会の様子

4.おわりに
今後インフラDX の推進と合わせて河川CIMの活用機会が増えてくることが考えられる。本稿で紹介した河川CIMの取組内容に留まらず、各河川の課題に適応した河川CIM活用の構築及び活用の定着化がなされることを期待する。
最後に、九州河川CIM基本フレームの構築に向けてご助言や作業協力頂きました、熊本大学大学院先端科学研究部の小林一郎特任教授、同じく増田敦彦研究員をはじめ関係者の皆様に感謝の意を表す。

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