トンネル覆工の耐久性向上について
国土交通省 九州地方整備局
北九州国道事務所 工務課長
北九州国道事務所 工務課長
今 田 一 典
国土交通省 九州地方整備局
北九州国道事務所 工務課
北九州国道事務所 工務課
平 尾 亮 二
1.はじめに
近年、トンネル技術はめざましい発展を遂げてきた。しかしながら、その一方でトンネル覆工においては、平成11年に新幹線の安全神話を崩壊させるトンネル覆工コンクリートの剥落事故が発生するなど、今日においても依然として「ひび割れ」「空隙」並びに「耐久性向上」といった課題が残っている。
現在、福岡201号烏尾トンネル新設工事では、これら課題に対する対策として新技術・新工法を開発・活用し、『世界一のトンネル覆工』を目指して施工を進めている。
本稿では、福岡201号烏尾トンネル新設工事で開発・活用している4つの最新技術「高品質トンネル覆工締固めシステム」「クラウン部水平圧入打設工法」「コンクリート充填圧管理システム」「パラソル30ミスト工法」について紹介する。
2.高品質トンネル覆工締固めシステム
本システムは、「センサー付バイブレータによる自動締固めシステム(12台)」と「長尺バイブレータによるクラウン部締固めシステム(4台)」からなっており、これまで困難であった鉄筋区間、施工継目部およびクラウン部の均一な締固めを可能とするものである。また、本システムにより狭隘部での苦渋作業を無くすと共に省人化も実現している。
センサー付バイブレータは、コンクリート感知センサーを取り付けたバイブレータとそれを巻き取る電動リールおよびバイブレータ間欠運転装置からなり、センサーがコンクリートを感知すると自動的にバイブレータを約10cm巻き上げるものである。(写真-1)
クラウン部締固めシステムは、打設前にあらかじめ長尺バイブレータを型枠全長にわたって設置しておき、打設完了後に電動リールで妻側に引き抜きながら締固めるものである。これまで無筋区間においてはパイプ式バイブレータが主流であるが、本工事では無筋区間でも使用できるリール式バイブレータを開発している。(写真-2)
上記開発に当たっては実証実験および検証を行い効果の確認を行っている。
3.クラウン部水平圧入打設工法
本工法は、図-2に示すようにアーチ部に圧入可能な吹上げ口(従来のクラウン部吹上げ口と同じもの)を4箇所増設し、クラウン部吹上げ口からの打設量および打設時間を最小限(打設量:約15m3、打設時間:60分以内)とすることで、コンクリートの充填を確実にするものである。また目視可能な最大高さまで水平に打ち込む(圧入)ことができるため、型枠の全長にわたって目視で充填状況を確認することが可能となる。更にコンクリートをバイブレータで流す必要が無いため、ブリージングも少なくなる。写真-3,4にアーチ部の吹上げ口、写真-5,6にアーチ部吹上げ口からの打設、圧入状況を示す。
■実証実験:「コンクリート硬化に伴う流動性について」
クラウン部吹上げ口からの打設時間をできるだけ短くすることが空隙対策に有効であることを確認するために、本工法の開発に先立って実証実験を行った。本実験では、コンクリート練上り~打込みまでの経過時間が充填性にどのように影響するのかを確認するため、最も空隙ができやすいと考えられるアーチ肩部について、図-3に示すような型枠モデルを作成し、所定の経過時間によりコンクリートを型枠モデルに圧送充填し、充填状況の比較を行った。
実験の結果、経過時間が40~60分以内であれば完全に充填できるが(写真-7)、経過時間が100分を超えると充填が困難であることが明確となった(写真-8)。しかしながら、経過時間100分でもバイブレータをかけることで再度コンクリートが流動することも解り、長尺バイブレータによるクラウン部締固めシステムとセンサー付バイブレータによる自動締固めシステムの有効性がここでも確認された。
4.コンクリート充填圧管理システム
従来、クラウン部のコンクリートは妻部からの漏コン確認で打設を終了としていたが、これだけでは充填圧が不足し、空隙ができる可能性があった。本システムは、セントルのクラウン部に11個の圧力センサーを設置し、パソコン画面で充填圧を確認しながら打設を行うことができる打設管理システムである。これにより、型枠の強度を考慮しながら最大限の圧力で打設することができるため、コンクリートをより確実に充填することが可能となっている。写真-9,10に圧力センサー設置状況およびパソコンによる充填圧測定状況を、図-4,5に従来の打設工法の場合と本システムによる打設工法の場合のクラウン部の充填圧分布を示す。
■実証実験:「密充填されたコンクリート特性に関する実験」
本実験では、十分な充填圧で密充填されたコンクリートは圧力を開放すると一気に溢れ出しコンクリート量が増える現象を確認した。結果として、写真-11に示すようにコンクリート量が2~4%増えることが明らかとなった。この増えたコンクリート量を「仮想巻厚」と呼んでいる。空隙を作らないトンネル覆工の構築では、この仮想巻厚を形成することが最も重要なことであることが解った。図-6に仮想巻厚の概念図を示す。
■実証実験:「実物大モデルによる仮想巻厚の検証」
烏尾トンネル新設1期工事内において実物大モデルを用いて仮想巻厚の検証を再度行った。その結果、本検証においても密充填されたコンクリートは圧力が開放されると一気に溢れ出す現象が実証された。写真-12はクラウン部締固めシステムにより圧力が開放されコンクリートが溢れ出している状況である。
写真-13は、脱型後に巻厚を測定した結果である。通常、密充填されていないコンクリートを締固めると2%程度の沈下が生じるが、本結果では全く沈下は見られなかった。ここでも本システムの有効性が実証された。
5.パラソル30ミスト工法
本工法は、軽量パイプの骨組みにシートを張り付けた移動式パラソルを覆工天端に懸架してミスト噴射による湿潤養生を行うものである。移動、設置が容易で施工性が良く、またミスト養生による視界不良を無くし、通過車両の安全も確保できる。
養生期間は約1週間であり、乾燥収縮量が最大となる期間を湿潤養生することから乾燥ひび割れの抑制および耐久性の向上に繋がると考えられる。写真-14に養生設備設置状況を示す。
6.効果の確認
(1)空隙の有無
本工事では、3スパン毎にクラウン部の検測ピンを岩着させ(写真-15)、トンネル覆工のクラウン部背面の空隙の有無をファイバースコープにより確認する方法をとっている(写真-16,17)。これまで打設したトンネル覆工のクラウン部背面には空隙なく、100%完全に充填されていることを確認している。(現時点での覆工施工延長620m)
(2)ひび割れの有無および美観
目視によるひび割れ調査では、現段階ではひび割れの発生は認められない。
また標準工法の場合と比較して、縞模様が少なく、仕上がりがきれいである。(写真-18,19)
7.今後の課題
前述のように現在のところひび割れの発生は認められない。しかしながら、今後貫通に伴う通風による乾燥ひび割れの発生が懸念されることから経過確認や対策を検討する必要がある。
これらの諸問題を解決して工法の確立を産官学協力のもと進めていきトンネル覆工のさらなる品質向上を行っていきたいと思います。