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アスファルト混合物事前審査による
アスファルト混合物の品質向上について
佐藤研一
稲田徹郎

キーワード:事前審査、アスファルト混合物認定、自主管理、改善指導

1.はじめに

九州地区のアスファルト混合物事前審査制度(以下、事前審査制度)は、「品質承諾手続きの合理化・省力化」、「混合所の自主管理による品質確保・向上」、「コスト縮減」を目的として、平成11年4月に制定され、福岡県および長崎県に所在する41混合所において運用が開始された。現在では、佐賀県、熊本県及び大分県の一部の混合所も参加し、計44混合所により運用されている。
一方、同制度の「第三者による公平、公正な審査」を行う審査機関として(財)道路保全技術センターが、平成11年2月建設省九州地方建設局長(現国土交通省九州地方整備局長)より指定を受け、平成23年3月31日の任期満了日まで審査業務を遂行してきた。
その後、審査機関は公募により選定され、国土交通省九州地方整備局長より審査機関の指定を受けた(社)日本道路建設業協会九州支部が平成23年4月1日より審査業務を遂行している。
(財)道路保全技術センターが審査機関として実施してきた制度創設以来12年間の九州地区のアスファルト混合物事前審査において、その変遷と効果について紹介する。

2.事前審査制度の概要

事前審査制度とは、アスファルト混合所(以下、混合所)から製造・出荷される加熱アスファルト混合物(以下、混合物)を事前に審査機関が審査・認定する制度である(平成23年4月より認定は、審査委員会が行う)。
同制度の導入により、認定された混合物を使用する場合は、工事毎に認定証の写しを監督職員に提出することにより、従来、工事毎に行われていた材料承諾書、試験練り、品質管理報告書等による品質検査が省略できる。
混合所においては、混合物の製造に関して自主管理(日常管理)を行い、認定混合物の品質保証に努める。自主管理にあたり混合所は、作業標準書を整備し、適切な品質管理を行う。
審査機関には、審査委員会(内部に立入調査部会)並びに事務局が設置され、審査委員会から指定を受けた指定試験機関が混合物の品質確認試験を行う(図-1参照)。立入調査部会は、年2回混合所に立ち入って混合所の設備、自主管理状況等について調査・確認及び指導・助言を行い、審査委員会に報告する。審査委員会(年2回)は、品質確認試験結果及び調査報告をもとに総合的に合否判定を行い合格となった混合物に対して認定証を発行する。認定有効期間は1年間である。

3.制度参加混合所数の推移

九州地区の事前審査制度に参加している福岡・長崎両地区の混合所数の推移を図-2に示す。平成11年度の制度施行以来、41~45混合所の間で推移し、他地区(佐賀県、熊本県、大分県)からの新規参加による増、混合所の閉鎖や統合による減を繰り返し、平成21年度以降44混合所となっている。また、県別の混合所数と参加混合所数を表-1に示す。現在、福岡地区は32混合所で、その内訳は、福岡県の27混合所、佐賀県、熊本県の各1混合所、及び大分県の3混合所である。長崎地区は、離島(五島)の2混合所を含み12混合所である。
平成23年3月末現在、当制度に参加後の経過年数別混合所数の内訳は、図-3に示すとおり最長12年経過の11混合所から、最短2年経過の1混合所まである。経過7.5年以上の混合所は、44混合所中38混合所(86.4%)であり、残り6混合所は経過5年以下である。経過5年以下混合所の内訳は、福岡県2混合所、熊本県1混合所、及び大分県3混合所である。

4.認定混合物数の推移
4-1.申請混合物数の推移

申請混合物数の推移を図-4に示す。概ね500~550混合物前後で推移しており、572混合物(平成22年度)が最高申請数であった。
1混合所当たりの申請混合物数は、福岡地区がほぼ変わらず平均13混合物で、長崎地区が平成19年度より微増を続け平均9混合物から平均12混合物となっている。混合物製造数量が年々減少傾向にある中、申請混合物数が減少してないため、少量多品種を申請している状況にある。

4-2.不合格混合物数

九州地区の事前審査では、更新時に代表混合物制度を採用している。新規申請混合物を除き更新申請混合物の半数(代表混合物という)に対して指定試験機関による確認試験を行い、合否判定基準を満足すれば残り半数も合格と見なした。代表混合物において合否判定基準を満足しない混合物があれば残り半数の確認試験(追加試験)を行い、全数の合否判定を行う。確認試験の結果、不合格の混合物は認定されないが、半年後に再申請を行うことができる。
経過12年間の確認試験結果において合否判定基準を満足しなかった不合格混合物数は20種63混合物であり、年当たり平均5混合物程度である。なお、不合格混合物数は該当混合所当たり概ね1~2混合物である。不合格混合物種の内訳、および不合格要因を図-5に示す。

一般混合物では、開粒度型やギャップ粒度型の混合物が不合格になる傾向が高く、また一般混合物より再生混合物が不合格になる傾向が高い。この傾向の原因については、今後の検討課題であるが、不連続粒度の混合物や再生混合物の配合設計は、より慎重な対応が必要と思われる。
不合格混合物63個の合否判定基準を満足しない不合格要因別内訳を図-6に示す。「空隙率」「フロー値」「安定度」の3要因が不合格の70%程度を占めている。

不合格の要因別の特徴として「空隙率」は、合否判定基準値を下回る傾向があり、かつ再生混合物の不合格要因の主因となっている。「フロー値」は、一般混合物と再生混合物の割合がほぼ同数で6割以上が基準値を上回っている。「安定度」は、基準値を満足しないものが多く、一般混合物(主として開粒度型混合物やギャップ粒度型混合物)に集中している傾向がある。また、「アスファルト量」の基準値を下回っている一般混合物の3個は、全てポーラスアスファルト混合物である。

4-3.認定混合物数

認定混合物数は、図-7に示すとおり、初年度(平成11年度)を除けば500~550混合物前後で推移している。1混合所当たりの認定混合物数は、平均して12混合物程度である。
また、一般混合物の認定数は平成13年度をピークに減少し、平成19年度より変化がない状態であるが、再生混合物の認定数は平成16年度に一般混合物数を上回って以後、微増を続け、再生混合物の需要が高まっていることを裏付けている。
九州地区の事前審査制度では、平成14年度より溶融スラグ入り混合物の認定を行っている(図-8参照)。溶融スラグは、JISにて規定された「一般廃棄物焼却灰」「下水汚泥焼却灰」の2種類を認定対象としている。溶融スラグ入り混合物の認定数は、総認定数の7%以下であったが、平成22年度は、長崎県において需要が見込まれると予測されたため11%に増加し、認定数量が増加した要因となっている。
このように同制度は、舗装発生材および他産業再生資材の使用等のリサイクルの推進にも寄与している。

九州地区の事前審査での耐流動混合物には、ポリマー改質アスファルトⅠ型(以下、改質Ⅰ型)やポリマー改質アスファルトⅡ型(以下、改質Ⅱ型)が使用される。また、重交通路線用としてポリマー改質アスファルトⅢ型(以下、改質Ⅲ型)が用いられることもある。改質Ⅲ型も毎年1~2混合物が認定されているが、ここでは改質Ⅰ型、改質Ⅱ型の認定混合物数の推移を図-9に示す。九州地区の耐流動混合物の認定数は、改質Ⅰ型が多く、改質Ⅱ型の約1.5倍となっている。
耐流動混合物における本制度の動的安定度の合否判定基準は1,500回/㎜以上である。国土交通省九州地方整備局の基準(「土木工事設計要領 H23.7 版」)では、改質Ⅰ型は3,000回/㎜以上、改質Ⅱ型は5,000 回/㎜以上となっており、発注機関は認定証記載の動的安定度の測定値により材
料承諾適否の判定を行っている。

5.自主管理状況の推移

本制度では、アスファルト混合所での製造や品質管理、または舗装工事の施工管理の実務経験を有した有識者が調査員(立入調査員という)として年2回混合所へ立ち入って混合所の自主管理状況を調査・確認し、改善すべき事項があれば指摘し改善指導を行っている(写真-1)図-3に示す経過7.5年以上の38混合所について1混合所当たりの改善指導件数の推移を図-10に示す。
平成11年度から平成22年度までの12年間の改善指導総数は、747件で1 混合所当たりの平均件数は、図-10左に示すとおり申請時の1~2年目に多く、次第に減少している。このことから本制度により混合所の自主管理状況が改善され、品質確保に貢献していることが伺える。
経過5年以下6混合所においても同様に改善指導件数は申請1年目に多く、その後急激に減少する傾向を示している(図-10右)。途中参加の場合、本制度をある程度学習して参加しているため指摘件数は少なくなったものと思われる。
また、申請1~2年目と最近の2年間(平成19~20年度及び平成21~22年度)の1混合所当たりの平均改善指導件数の比較を図-11に示す。経過7.5年以上38混合所の申請時2年間は、まだ本制度の理解度も浅いこともあり混合所間の指摘件数のバラツキ(最小1件、最大15件)が大きく、平均8.1件に対し、最近の2年間では、混合所間のバラツキ(最大4件、最小0件)が減少し、平均値もH19~20年度では1.5件、H21~22年度では0.9件と激減している。特に最近は指摘0件の混合所が増加しており、本制度の成果の一つと考えられる。

改善指導の項目を表-2に示す6項目に区分し、全体及び申請1~2年目と最近の2年間(H21~22年度)の項目別件数を図-12 に示す。経過12年間において改善指導の指摘件数が多い項目は、②材料(28%)、⑤品質管理(24%)及び③設備(14%) に関する事項で、次いで⑥試験室・試験器(13%)、④製造(9%)、①作業標準書(9%)に関する事項である。

申請1~2年目の件数306件は指摘総数の41%を占めるが、最近の2年間の件数は35件で全体の4.7%と減少し、改善効果が現れている。
しかし、全般的に件数が減少している中において、⑥試験室・試験器及び③設備に関する事項は、減少の度合いが小さい項目であり、②材料、③設備及び⑤品質管理に関する事項は、全体、申請1~2年目、最近の2年間に共通して指摘件数が多い項目となっている。
改善効果の具体例として、申請時の2年間と最近の2年間の指摘内容について比較した図-13から、②材料管理においては、入荷骨材の異種・異物混入、管理不適やアスファルト貯蔵温度不適などの指摘が減少している。③設備管理では、計量器や温度計、設備の定期点検の不適・不備が減少している。④製造管理では、材料のキャリブレーション未実施・不適が減少している。⑤品質管理では管理図による管理が浸透している。⑥試験室・試験器具管理では、試験器具の定期点検も実施されるようになった。一方試験器の整備不良の指摘については、件数は少なくなったものの時折指摘される傾向がある。

6.アスファルト量問題

平成18年度に設計アスファルト量が九州地方整備局「土木工事共通仕様書」(以下、共通仕様書)のアスファルト量範囲の下限値を逸脱した認定混合物があるとの指摘があり、その件に関して臨時の審査委員会が2回開催された。
アスファルト量範囲を逸脱した混合物は、粗粒度アスファルト混合物、密粒度アスファルト混合物および密粒度ギャップアスファルト混合物の3種類で総認定数の13%(H17年度)であった。
申請者は、(社)日本道路協会編「舗装施工便覧」に記載されている配合設計の手順により設計アスファルト量を求めている。しかし、申請混合物の設計アスファルト量は、「共通仕様書」のアスファルト量範囲の中央値付近ではなく、下限値付近に集中した分布となっている(図-14参照)。

手順に従った配合設計にもかかわらずアスファルト量範囲逸脱の原因は、①吸水率が小さく高密度の粗骨材を使用している。②耐流動対策として突固め回数75回の混合物の要求が増していることなどが挙げられた。①については、混合物の最適アスファルト量(設計アスファルト量)とは、配合された骨材を被覆するに十分な量(容積)である。アスファルト量の表示は重量%であるため、密度が高い骨材を使用した場合は、同じアスファルト容積量でも、重量%では小さな数値として表示される。②については、突固め回数75回の最適アスファルト量は、突固め回数50回より少なくなる。突固め回数50回のアスファルト量の実績平均が範囲下限値付近のため、75回のアスファルト量は、より範囲逸脱の可能性が高くなる。
したがって、臨時審査委員会では、共通仕様書のアスファルト量範囲を逸脱した申請混合物については、次の条件を全て満足する限りにおいて、認定混合物とするとした。
  1. (1)アスファルト量を除く、粒度範囲およびマーシャル基準値(空隙率、飽和度、安定度、フロー値)を全て満足している。
  2. (2)立会審査により混合所の設備管理状況、品質管理状況および指定試験機関による確認試験結果等の審査項目の全てにわたって合格判定基準を満足している。

7.あとがき

九州地区の事前審査制度は、創設以来12年経過した。創設当初は、申請者が不慣れなところもあり多数の改善指導が指摘されたが、最近は改善指導の指摘件数も減少しており、当制度本来の目的(品質確保等)を達しているように思われる。
最近の混合所設備は、各種の制御・計測機器の自動化により混合物の製造精度が向上し、品質が安定している。
しかしながら、自動化と云えども混合物の配合比等の基本的な数値は手動入力が不可避であることや、設備や装置は日常あるいは定期的なメンテナンスが不可欠であり、これらが正しく実施されているかどうかを第三者により確認することが重要である。混合所に立ち入ってのこのような項目の調査・確認を行う同制度のシステムは、品質の安定に向けて重要なポイントと位置づけられる。
また、平成22年度10月より、1年間を通じて立入調査員による改善指摘が全くない混合所に対し「年間優良」の表彰制度を導入した。
今後も、同制度を通じて混合所の品質向上に向
け日々努力していく所存である。

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