「道路 の走りやすさナビ」の開発
~全国初!走りやすさを加味した「道路のルート検索システム」~
~全国初!走りやすさを加味した「道路のルート検索システム」~
国土交通省 九州地方整備局 九州幹線道路調査事務所
調査課長
調査課長
甲 斐 誠 生
国土交通省 九州地方整備局 九州幹線道路調査事務所
調査課 調査係長
調査課 調査係長
大 川 雄一郎
国土交通省 九州地方整備局 九州幹線道路調査事務所
調査課 主任
調査課 主任
池 末 泰 輔
1 はじめに
1. 1 取り組みの背景
我が国では2010年までに訪日外国人旅行者数を1,000万人とする目標を掲げ、官民挙げての訪日促進キャンペーンである「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を積極的に展開し、観光立国の実現に向けた様々な取組みが行われており、道路政策においても観光を支援する施策の重要性が高まっている。
そこで、国土交通省では、観光交通の支援や道路利用者の視点に立った道路評価を目的として、道路構造に関する「走りやすさ」を分析・評価し、「道路 の走りやすさ」が一目で分かる地図、「道路 の走りやすさマップ【全国版】」を平成18年9月に公開した。
「道路 の走りやすさマップ【全国版】」の利用者アンケート結果から、約7割の人が”今後も利用したい” と答えており(図-1)、また、”カーナビにも必要と思う”という意見が約7割あった(図-2)。
調査期間:約2ヶ月間
調査対象:全国お試し版道路の走りやすさマップ利用者(全国に20万部無料配布)
有効回答数:約1万5千以上
この結果を踏まえて、国土技術政策総合研究所と民間企業(カーナビメーカ等10社)において、「走りやすさマップのカーナビ等への活用に関する共同研究」が平成18年12月より開始され、「道路 の走りやすさマップ対応カーナビ」の平成20年度の実用化に向けた取り組みが行われている(図-3)。
1. 2 九州地方整備局の取り組み
カーナビ等への展開に先立ち、走りやすさを加味したルート検索に関して、利用者のニーズや意見を把握するために、九州に限定した「道路の走りやすさナビ(Web版ルート検索システム)」(以下、「走りやすさナビ」) を試行的に作成し、平成19年4月より九州地方整備局九州幹線道路調査事務所のHPにて公開している。
これにより得られた利用者からの意見は、今後の「道路の走りやすさマップ対応カーナビ」の実用化に向けた基礎資料として、活用していくことを考えている(図-4)。
2 走りやすさナビの概要
2.1 走りやすさを加味したルート検索機能
一般にカーナビ等で用いられている「時間や距離を優先する」や「高速道路を利用する」などの条件に加えて、全国で初めて「道路の走りやすさ」を加味したルート検索が行える機能を付加している。
特に、「走りやすい道路」と「走りにくい道路」との差を実感してもらえるように、走りやすさを加味する度合いを3段階に分けて、
① 走りやすさを最も重視する「走りやすさ重視」
② 通常のカーナビ等のルート検索に用いられている「時間や距離」を優先した「走りやすさ無視」
③ その中間として、走りやすさを若干加味した「走りやすさ考慮」
の3つのルートを検索することができ、地図によるルートの確認や時間・距離の比較ができる(図-5、図-6)。
2.2 道路状況の画像確認機能
検索されたルートの道路状況(道路の幅やカーブの状況など)を確認するため、走行調査の際に撮影した静止画像を表示することができる(図-7)。
2.3 検索ルート周辺の各種情報の検索機能
検索されたルートやその周辺の各種情報(主要な観光地、道の駅、とるぱ等)を表示し、クリックすることで詳細情報が検索できるようにリンクを設定している(図-8)。
その他、「事故危険箇所」や「異常気象時通行規制区間」など、道路管理者等が保有する各種情報についても提供している。
3 走りやすさナビの技術的特徴
3.1 ルート検索機能の仕組み
「走りやすさナビ」では、「走りやすさ評価ランク」ごとに「重み係数」を設定している。
走りやすさ評価ランクの高い道路(走りやすい道路)ほど「重み係数」の値を大きくし、これにより、「走りやすい道路」が優先的に選択されるようにしている。
“距離優先”または”時間優先”の検索条件に応じて、各区間の距離や時間を「重み係数」の値で除して補正を行い、補正後の距離や時間が最小となるルート(最短経路)が検索される。
具体的なルート検索機能の仕組みは、次の通りである。
■重み係数による補正
「走りやすさ評価ランク」を考慮した区間の
距離(時間)の補正値
= 区間の距離(時間)/重み係数
図-9に示すように、「走りやすさ評価ランク」を考慮しない場合、最短距離経路は「Start→Ⅰ→Ⅱ→Goal」(実距離55km)となる。
一方で、「走りやすさ評価ランク」を考慮した場合、「重み係数」によって補正を行うため、最短経路は「Start→Ⅲ→Ⅳ→Goal」(実距離60km)となる。
3.2 重み係数の設定
「重み係数」の検討にあたっては、短・中・長トリップなどの様々なケースを用いてトライ&エラーチェックを行い、できるだけ理想的なルート検索結果が得られる値を設定した(表-1)。
「重み係数」の設定に当たり、考慮した点は次の通りである。
① 評価ランク別に重み係数を設定
⇒道路の走りやすさは6段階(M~D)に分類して評価ランクが設定されていることから、評価ランク別に重み係数を設定した。
② 極端な迂回が生じない重み係数のバランス設定
⇒通常の距離や時間の最短経路上に走りにくい区間が存在した場合、「走りやすさ評価ランク」を考慮したルートは、走りにくい区間を避けて迂回する結果となる。
各評価ランク間の重み係数の差が大きすぎると極端な迂回が発生し、非現実的なルートとなる場合が生じるため、表-1に示すように各評価ランクとの重み係数のバランスを考慮した。
4 利用状況と意見
4.1 利用状況
「走りやすさナビ」の利用状況は、平成19年4月5日の公開から11月末までに、総アクセス数は67,675件、日平均で282件のアクセス数がある。
5月の大型連休によるアクセス増から、6月にはアクセス数が減少するが、最近では月間アクセス数が10,000件を超えるなど、増加傾向にある(図-10)。
4.2 利用者からの意見
「走りやすさナビ」について、道路関係事務所職員を対象に利用者アンケート調査を行った。以下に、利用者の意見を示す(図-11)。
5 今後の課題と方策
5.1 重み係数の更なる検討
(1)新たな重み係数の基本的考え方
現在の重み係数は、前述の通り、様々なケースを用いてルート検索結果のトライ&エラーチェックを行い、理想的なルートが得られるよう「経験的な値」を設定している。
今後、走りやすさを加味したルート検索機能をカーナビ等への展開を進めていくためには、合理的根拠のある「重み係数」の設定が必要であると考える。
そこで、以下のような基本的考え方に基づいて、現在、新たな重み係数を検討している。
※4) 岡部洋一:スキーの科学とスノーボードの科学、2007年6月
「走りやすさ評価ランク」は、カーブの大きさや多さで評価されていることから、走りにくい道路ほどカーブが多く、それに伴う遠心力(カーブの外向きに働く力)を受けることになる。
そこで、「走りやすさ評価ランク」ごとの単位距離当たりの力積量を算出し、その比率を新たな重み係数として設定することとした。(但し、Sランクの重み係数を「基本値(=1)」とした。)
(2)新たな重み係数の設定
「力積=遠心力×時間」であることから、「力積=横方向加速度×質量×時間」となる。
そこで、「走りやすさ評価ランク」ごとの”平均横方向加速度(図-12)”と”平均速度(図-13)”を九州全域の路線を対象として算出し、新たな重み係数を設定した(図-14,図-15)。
(3)新たな重み係数の妥当性の検証
今回算出した新たな重み係数を用いて現行システムの検索結果と比較し、妥当性を検証した。
結果として、約8割のケースで現行システムの検索結果と「ほぼ一致」し、残りの2割のケースについても概ね妥当性が確認された。
但し、検索結果の妥当性については、各個人の土地勘や道路精通度などで評価に違いが生じるため、引き続き利用者アンケート調査等を通じて、妥当性を検証していく方針である。
5.2 走りやすさナビのPR・普及
より多くのニーズや意見を把握し、検索結果の妥当性を確認するために、「走りやすさナビ」のPRを効果的かつ戦略的に行っていく必要がある。
今後は、Webアンケートの実施、各自治体の観光協会のサイトや民間の九州観光情報サイト等へのバナーの貼り付けやレンタカーなどの観光者が多く利用する施設などで「走りやすさナビ」が利用できるような取り組みなどを検討していく。
6 おわりに
国土交通省では、ITS(高度道路交通システム)の推進に向けて、様々な検討や取り組みを行っている。
そのような中で、「走りやすさマップ」が持つ各種データ(走りやすさランクや距離、時間、道路構造、事故・渋滞情報等)をカーナビ情報として利用者に提供することは、ルート選定の選択肢を広げ、安全走行支援やITSサービスの高度化に大きな役割を果たすことが期待される(図―16)。
「走りやすさナビ」は、カーナビ展開に向けたニーズ把握のためのツールとして位置づけ、更なる改良を進めていくとともに、PRと普及に努めていく所存である。
(補足)『道路の走りやすさナビ』へのアクセスは「きゅうかんウェブ」から可能である。
ドライブや旅行の前にご活用頂き、皆様のご意見やご要望を是非お寄せ下さい。
(URL:http://www.qsr.mlit.go.jp/kyukan/)
謝辞
この度、「道路の走りやすさナビ」に関して、アンケート調査に御協力を頂きました皆様に、心より感謝の言葉を述べさせて頂く次第でございます。
また、今回の取り組みについて御助力頂きました本省道路局ITS推進室の塚田様、吉本様、国土技術政策総合研究所の藤本様、湯浅様はじめ九州地方整備局道路計画第二課の皆様、及び本論文の作成にあたり御助力頂きました関係諸機関の皆様に、厚く御礼申し上げる次第でございます。