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しらす盛土補強工法試験調査について

前建設省九州技術事務所
材料試験課長
金 丸  弘

建設省福岡国道工事事務所
特殊車両係長
(前建設省九州技術事務所
材料試験課第二係長)
森 山 義 幸

建設省九州技術事務所
材料試験課技術職員
稲 又 正 俊

1 はじめに
近年ジオテキスタイルを用いて盛土を補強した,いわゆる急勾配補強盛土が多く施工されている。九州南部地方に広く分布するしらすを用いた盛土にも補強土工法を適用することが注目されているが,経験的にも未解決な部分が多いこともあり,しらす盛土の補強メカニズムやその適応性を把握することが求められている。
そこで,ジオグリッド(テンサーSR-55:以下補強材と表記)で補強した急勾配の試験盛土を鹿児島県加治木町に新設された一般国道10号加治木隼人バイパス加治木ジャンクションに腹付け盛土し,1年間の動態観測を行うとともに,その天端において載荷試験を実施した。図ー1に試験盛土の平面図を示す。
本稿は動態観測の結果とともに,載荷試験の結果を中心に報告するものである。

2 試験盛土の概要
試験盛土の施工の経緯を以下に記し,表ー1に使用した盛土材の特性を,図ー2に計器配置図を示す。
 試験盛土の施工開始:平成3年11月5日
 試験盛土の竣工  :平成3年11月22日
 載 荷 試 験  :平成4年11月16~18日
 動態観測の終了と計器撤去:平成4年11月19日

3 動態観測結果
3.1 盛土の変形
図ー3に観測期間の盛土の変形図を示す。この図に示すように,盛土の規模に対する変位の相対量は基礎地盤の沈下以外には非常に小さく,基礎地盤の沈下への追従に伴う回転的な変形以外には大きな変形は生じなかったといえる。観測期間中には100mm以上の集中的な降雨も経験したが,それに起因すると思われるような変形は特に見受けられず,のり面浸食も生じなかったことから,試験盛土は非常に安定していたといえる。のり面浸食が起きなかったことは,植生土のうがのり面を効果的に保護しているためであろう。

3.2 補強材の張力
図ー4は観測期間中の補強材張力の経時変化を示す。年間を通じてみると張力の大半は大きく波打ったように増減を繰り返して変化しており,この波形の形状は温度変化(日平均気温の変化)に追従しているように思える。すなわち天端に近いH=5.10mの全体や法面側のT2-5などは,温度が約10度上昇すれば張力は見かけ上逆に,100kgf/m程度減少することを意味する。この温度の影響を考慮しても全体的には幾分,張力緩和傾向が認められるようである。

図ー5に観測期間中の補強材の張力分布を示す。この図から以下のことが観察できる。
◦H=1.80mの法面側は観測期間中比較的変化が少なく,最も高い張力を維持して最大値は,Tmax=479kgf/m(H=1.80m)となった。補強材敷設時には端部に平均200kgf/m程度の初期緊張力を加えているが,その後の増分であるこの値は設計強度Td=2200kgf/mの22%である。
◦補強材の中央部分は張力の緩和が起こり,減少している。
◦補強材の末端部は鉄筋で固定されているため,敷設時の初期緊張力を保持しているようである。

4 載荷試験
4.1 静的な載荷試験
(1)試験方法
動態観測が終了した後,補強盛土への載荷試験を実施した。図ー6に静的載荷試験の見取り図(正面図と平面図)を示し,静的載荷のパターンを表ー2に示す。写真ー1には載荷試験中の試験盛土の全景を示す。

(2)試験結果
図ー7は長方形等分布載荷による張力増分の分布を示す。この図の載荷重が大きいケース1-2の場合をみると,最上段の補強材(H=5.10m)の張力増分は△T=720kgf/mの範囲で,特に分布が偏っている傾向はないが,上から2段目では端部側の4kgf/mからのり面側の16kgf/mへと暫増している。4段目になると均等に発生しているものの,その増加量は△T=3kgf/mと僅かである。この傾向はケース1-1も同様である。図ー8には帯状載荷による張力増分の分布を示す。載荷位置が異なる2ケースとも張力増分の大きさ,分布形状とも大きな差はなく,H=1.80mでの張力の増分は△T=7kgf/m程度と僅かだが,H=3.90mと5.10mでは法面側に集中して発生して△T=60kgf/m前後である。図中には潜在すべり線として最大張力が発揮されている部分を2つの直線で結んだ線を示している。載荷による発生張力は設計強度に比較すれば僅かなので極限平衡状態の破壊モードを知ることはできないが,載荷重を増加させていった場合のすべり線は概ねこれに近いものと考えられる。

図ー9は帯状載荷ケース2-2によって発生した張力と土圧の測定値をまとめたものである。
この図に示すように,載荷による土圧増分よりも,張力増分の方が低い結果となった。これは補強材張力とともに見掛けの粘着力などのしらすのせん断強さが土圧に抵抗していること,削面が1:0.5の勾配を有する斜面であること等に起因するものと考えられる。

4.2 動的な載荷試験
(1)試験方法
静的な載荷試験が終了した後ケース2-2と同様に車両の接地面の端をのり肩から1.0mの位置で維持しながら,のり面と平行に重機を走行させた。走行範囲は天端の端から端までの走行可能な範囲とし,走行回数と測定項目は以下の通りとした。
① 重機1台×100回(往復)走行
 ◦走行所要時間……1時間30分
 ◦測定項目……補強材の張力,水平土圧,法面変位,沈下量
② 重機2台×100回(往復)走行
 ◦走行時間……1時間15分
 ◦測定項目……同上
(2)試験結果
図ー10は車両走行による繰返し荷重によって累積した張力増分の分布を示す。累積した張力の分布形状は,最上段は車両の直下に張力が集中する傾向にあるが,相対的には静的な帯状載荷(ケース2-2)と同様にのり面側に偏っている。さらに,累積された張力は除荷後もすぐには(走行試験終了後から16時間後に観測),もとの張力まで戻らない。このメカニズムは,しらすが繰返し荷重によって弾性ひずみを繰返しながら塑性ひずみを累積していき,それに噛み合っている補強材の伸びも追従していくものと考えられる。
道路盛土上の走行車両による荷重は一般的には舗装と路盤によって応力分散されるので,本試験のように路床に直接載荷した試験は,補強材にとってはかなり厳しい条件を与えたことになる。舗装された路面上の車両走行による増加鉛直応力は,さらに応力が分散されることから,実際には今回のH=1.8~3.9mでの応力条件となるものと考えられる。いずれにせよ繰返し荷重によって張力が累積する傾向があることは確かめられたので,路盤までの土被り厚が薄い場合などの補強盛土の設計においては,このことを考慮しておく必要があるものと考えられる。

図ー11は車両走行後の盛土の変形を示す。この図に示すように,盛土の変形は最上段の補強材から天端までの間の水平方向の張り出しが顕著である。走行試験後ののり肩の最終的な張り出し変位は約20mmであったが,1段目の補強材の箇所はわずか5mmであることから補強材が効果的に変形を抑止しているものと考えられる。

5 おわりに
試験盛土の動態観測と載荷試験によって,ジオテキスタイル(ジオグリッド)を用いた補強土工法がしらす盛土に対しても十分有効であることが確かめられた。
今後は観測,試験結果をさらに詳細に解析検討し,これまで室内において実施してきた実験結果とともに総合的に考察して,しらす盛土に対する設計・施工にあたっての手引き書,さらには指針作成のための有効な基礎資料としたいと考えている。
試験盛土の施工にあたっては,建設省鹿児島国道工事事務所および日本道路公団加治木管理事務所の関係各位にご協力頂きました,末筆ながら心よりお礼を申し上げます。

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