「デジタル自動データ収録装置」による河川水位と
堤体内間ゲキ水圧の応答観測例
堤体内間ゲキ水圧の応答観測例
建設省九州技術事務所
材料試験課長
材料試験課長
金 丸 弘
建設省九州技術事務所
材料試験課材料試験第二係主任
材料試験課材料試験第二係主任
稲 又 正 俊
応用地質株式会社九州支社
技術部土質技術課長
技術部土質技術課長
塚 元 伸 一
応用地質株式会社九州支社
技術部土質技術課
技術部土質技術課
住 田 賢 二
1 まえがき
構造物周辺の漏水調査の一環として,間ゲキ水圧計を構造物の近接箇所に埋設して長期の動態観測を行う必要が生じた。観測に際しては,経年的な変化を捉えるために,観測が長期に及ぶこと,当該調査箇所が感潮河川となっているため夜間も含む経時的な変化を把握する必要があること,多点同時観測となること等を考慮する必要がある。オンラインによる集中観測システムや人手による観測では経費が膨大になるため,無人でも自動観測が可能で集中観測システムより安価なデジタル自動データ集録装置(Digital Storage-Corder:DSC)による観測システムを採用することとした。本報文では,このDSCを用いた観測システムの概要とその観測結果を紹介するとともに,このシステムの動態観測業務への適用についても述べる。
2 DSCを用いた観測システムの概要
2-1 DSCの仕様
DSCは,写真一1に示すような円筒型で,そのケースは防水構造となっている。表ー1には,DSCの主な仕様を示した。
DSCは,2チャンネルの入カチャンネルを備えたデジタルレコーダーで,観測されたデータを内蔵のメモリーに1チャンネル当り最大2305個まで記録させておくことができる。
データの集録は,スイッチの切換えにより10秒~24時間の間で,16通りのサンプリングタイムを選択する事ができ,水位変動の周期等を考慮した効率的なデータ集録が行える。
DSCは乾電池(単一8個)を電源とし,2チャンネル使用で1回/日のデータ集録を行う場合には,約3ケ月間の連続観測が可能である。
2-2 観測システムの概要
DSCを用いた観測システムの概要を図ー1に示す。図示のように,DSCに記録された観測データはRS-232Cインターフェイスを介してジオロガー3030と呼ばれるデータ集録装置を用いて回収される。その後,データ集録装置からデータをパーソナルコンピューターに転送して,図化処理やデータの打出し等が実施可能となる。
各段階での作業時間は,データの回収に電池交換を含めて約10分(1台当り),データの転送に約1分(1地点当り)の作業時間となり,一般に用いられるフロート式や触針式の水位計に比べ,記録紙の回収,交換,データの読み取り,整理等の作業を大幅に省力化することができる。また,人手によるデータ処理過程が少ないため,データ処理上のミスも少なくなる。
3 観測結果
3-1 観測の概要
今回の水位観測は,空洞発生の恐れのある河川構造物を対象に,構造物に近接した堤体内における間ゲキ水圧の河川水位に対する応答を把握することを目的として実施した。水圧の応答比および応答時間の変化を,漏水に関する評価に利用しようとするものである。観測孔の配置は図ー2に示すような配置とし,8箇所に設置した間ゲキ水圧計を,4台のDSCに接続させて実施した。
データの収録は,観測箇所が感潮区間に位置していたので,変動する河川水位を出来るだけ正しく把握できるよう20分間隔で行った。この場合,1日当りの収録データ数は72個となり(1チャンネル当り),最大記録容量が2305個であるから,データ回収は32日間に一度でよいが,安全を見込んで約3週間に1度,データ回収を行った。
3-2 観測結果
観測は,昭和63年度から平成2年度にかけて,河川水位の高い時期(6~9月頃)を選んで行った。図ー3は,その代表例として平成2年度に行った4地点分の観測結果を示したものである。図示のように,河川水位の上昇に伴なう,堤体内の間ゲキ水圧の変動状況を良く表している。
図ー4は,代表2地点における昭和63年度から平成2年度にかけての経年的な応答比の変化をまとめて示したものである。図中に併記した一次式は,各年度毎の河川水位上昇量と堤体内間ゲキ水圧の関係を一次式で近似したものである。ここに応答比とは,河川水位上昇量Hと堤体内の間ゲキ水圧上昇量hの比(h/H)である。(図ー5参照)図示のように,各地点とも経年的に応答比か変化していることがうかがえる。
図ー6は,河川水位と堤体内間ゲキ水圧の各々のピーク時間の差(タイムラグ)の変化を示したものである。図中,河川からの距離は,14m,20m,27mが各々No.4,5,6地点に対応している。また,図中に示した計算値は,被圧地下水に関する理論式により計算したものである。
図示の通り,経年的にタイムラグは短かくなっている。
また,透水係数を逆算すると,昭和63年当時は1×10-4㎝/s程度と推定されていたものが,平成2年には1×10-2㎝/s程度と推定されるまでになっている。
以上のように応答比が増大し,タイムラグが短かくなった理由としては,以下の点が考えられる。
① 当該地は感潮区間に位置するため,連日の水位変動の影響により,構造物周辺の土砂が吸出されたものと思われる。
② 平成2年7月の出水時に,過大な動水勾配が作用し,パイピング現象を生じ,空洞・水みちを拡大した恐れがあること。
以上の様にDSCを用いることにより業務の省力化が図られると同時に高品質のデータを長期間にわたり安定して得ることができ,構造物周辺の漏水に関する評価に役立てることができた。
4 DSCの動態観測業務への適用
DSCは,今回紹介した間ゲキ水圧の観測の他,孔内領斜計,伸縮計あるいは土圧計等の計測にも使用する事ができる。従って,適用範囲は広いものとなる。図ー7は,その一例として地すべり地における動態観測システムの概要図を示した。このシステムは,地すべりの挙動や地下水位の状況などをあらかじめ設定した時間間隔で自動的に観測するシステムで,観測されたデータは,DSCのメモリーにいったん収録される。さらに一般の電話回線を用いることにより,オフィスに直接データの転送が可能となるため,現場に行かずとも地すべり地の状況をリアルタイムで監視することが可能となる。
このように本システムを有効に利用すれば,かなりの省力化と観測の高品質化が期待できる。
5 あとがき
これまで述べてきたように,DSCは長期間におよぶ現場でのデータ収録から,集録データの処理や図化までをもパソコンを用いて短時間で行う事ができるため,データ読み取り等の作業を大幅に省力化する事ができた。また,手作業で行われてきたデータ処理をパソコンで行えたため,人為的なミスを防止する事ができた。また,データについても信頼性の高いものが得られ,構造物周辺の空洞の状況を推定するうえで,有意なデータを得ることができた。今後は,DSCをデータ集録装置として用いるだけでなく,地すべり動態観測システムのような観測システムに応用し,道路盛土や河川堤防等の動態観測業務にも適用範囲を広げるなど,より一層の有効活用を検討していく必要があろう。