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鹿屋分水路トンネルの施工
(地下水位下しらすのトンネル掘削 その2)

建設省九州地方建設局
大隅工事事務所長
板 垣  治

飛島・熊谷共同企業体
鹿屋分水路作業所長
橋 詰 順 一

基礎地盤コンサルタンツ(株)
福岡支社技術課長
松 雪 清 人

1 まえがき
鹿屋分水路が建設されている肝属川は,鹿児島県大隅半島のほぼ中央部を東流する,幹線流路延長34kmの1級河川である。本川は,南九州地方特有のしらす台地中を貫流する河川で,その中流域に位置する鹿屋市においては,市街地の中心部を流下している。ところが市街地中の本川は,計画高水流量の約半分程度の流下能力しかないため,図ー1に示す分水路によってその不足分を市街地上流部で分流し,洪水を防止する計画となっている。

鹿屋分水路は,開水路およびトンネルよりなる総延長2,639mの施設であるが,そのうちの1,609mはトンネル河川として計画されている。このトンネルは,図ー2に示す如く標高50~60mのしらす台地下を土被り20~40mで貫通する大断面トンネル(断面積約105m2)で,全線にわたって地下水位下のしらすを掘削することとなる。さらに,一部区間においては,しらす下位に存在する高透水性(k=1×10-1cm/s)で極めて豊富な滞水層である降下軽石層(通称ぼら層)に近接した施工となる。また,台地上には家屋が密集しておりトンネルは薄い土被りでその直下を掘削することとなる。
このように本トンネルは,地下水位下のしらすや降下軽石層を対象とした,家屋密集地下の土被りの薄いトンネルというこれまでに全く例の無い問題の多いトンネルである。そのため,本トンネルの計画・設計に際しては,通常のボーリングを主体としたトンネル調査の他に,限界導水勾配試験や有限要素法による地下水・変形解折,試掘坑掘削試験,地下連続壁試験工事といった多くの調査・試験を行うとともに,その結果に基づき他のしらすトンネルでは例を見ないウェルポイント工法や直巻き覆工コンクリート工法,全断面防水シート敷設,地下連続壁工法といった特殊な工法を採用している。
これらの検討結果の詳細については前回(九州技報No.1)報告した通りであり,ここでは昭和62年12月より開始されたトンネル施工の具体的な方法や手順,計測結果等について述べる。

2 トンネルの施工
本トンネルは,民家密集地下を薄い土被りで通過する,地下水位下のしらすトンネルという極めて特殊なトンネルである。そのため本トンネルでは,まず先行ウェルポイント工により地下水位を施工基面下まで低下させ,その後にトンネル掘削を行っている。また,覆工方法については,地表面沈下や復水後の内部侵食防止のため地山の緩みをなるべく小さくし,かつ復水後にみず道となるような地山と覆工の間に空隙を生じさせないという観点から,支保工建込み直後に型枠を用いて地山に密着した一次覆工コンクリートを打設するという,NATMに準じた直巻工法を採用している。
掘削方式については,ウェルポイント工との関係から排水と掘削が交互に,かつ同時に施工可能なように側壁導坑方式にて施工を行っている。即ち左側導坑が掘削の場合には,右側導坑ではその間にウェルポイントを施工することとなり,これを1サイクル10.8m間隔で左右交互に繰り返す形となる。
その他,本トンネルの特異な施工として,復水後のトンネル内への漏水防止のためにインバートを含む全面防水シートの敷設や,復水後の水圧や土圧を考慮してインバート部およびアーチ部全長に補強鉄筋が施工されている。
本トンネルの加背割りおよび施工順序を図ー3,4に,また支保パターンを表ー1に示す。以下,地下水位下しらすトンネルである,本トンネルの特徴的な工種の具体的内容についてまとめる。

2-1 ウェルポイント工
ウェルポイント工は,図ー5に示すように導坑切羽下部より進行方向斜め下方に約15°の角度で,片側7本,計14本打設する。本トンネルでは,正確な配置で,かつ孔壁崩壊等を防止しながら打設する必要があるため,ボーリング機を使用して打込みを行っている。ボーリングに際しては,ストレーナーパイプを挿入するまでの孔壁保護用にケーシングパイプが必要となるので,試錐機はエアー用トリコンビット装着のボーリングロッドと,メタルクラウン装着のケーシングロッドで同時に削孔する二重管方式のシールドボーリング工法にて行っている。スライム排出はエアーを用いるのを原則とするが,状況に応じて水も使用する。施工は,所定深度(ℓ=13.75m)まで削孔,内管となるボーリングロッド引抜き,先端部5.5m間にストレーナー加工を施したライザーパイプ(SGP40A)挿入,外管となるケーシングロッド抜管の順で行う。なおストレーナ一部には,サンドフィルターのかわりにステラシートを巻きつける。ウェルポンプは,真空渦巻ポンプとセパレートタンク等が一体となったプラントポンプを使用している。

2-2 掘 削
導坑掘削には,カッターローダ(CL 92BS)と4.5m3鋼車6台,8tバッテリーロコを使用し,鋼車の入替えのためカーシフターを設置した。上半掘削では,切削機械としてカッターローダ(CL 101UB)を,ずり処理にはサイドダンプ式タイヤショベル(CAT936)と6.0m3鋼車,8tバッテリーロコを,また当り取り等のためミニバックホー(0.12m3)を用いている。大背掘削用には,バックホー(0.6m3)と6.0m3鋼車,8.0tバッテリーロコを,インバート掘削用としてはバックホー(0.45m3)と6.0m3鋼車,8tバッテリーロコを配置して施工を行っている。
2-3 一次覆工(導坑・上半)
本トンネルでは,覆工コンクリートと地山との間に空隙を生じさせず,かつ地山の緩みを最小限に抑える目的で,掘削直後に地山と密着した一次巻きコンクリートを施工する。ただし,導坑では側壁コンクリート部のみ一次覆工を行い,その他の部分は矢板工法にて施工している。施工手順は鋼製支保工建込み後,支保工の内側にエキスパンドメタル(XS33-12×30.5×2.3×3.0)を張り,これを型枠がわりとしてコンクリートを打設する。コンクリートは,坑外に設けたバッチャープラント(0.45m3)よりスクリュークリート(6.0m3)にて運搬・打設する。スクリュークリートより打設箇所までの配管は,デリベリホース(φ100mm)を使用して行う。打設時の足場として,導坑ではビディ枠,上半については支保工建込時使用のエレクタ一台車を使用する。コンクリートは導坑δ=160kgf/cm2,最大骨材15mm,スランプ12±2cm,上半δ=210kgf/cm2,最大骨材15mmスランプ12±2cmを使用している。また上半の一次覆工は,導坑内よりずり投入口を利用して配管・打設する。
2-4 防水シート(側壁,アーチ,インバート)
地下水復水後のトンネル内への漏水を防ぐとともに,地下水流動によるしらすの内部侵食発生を防止するため,トンネル全面に防水シートを敷設している。材料としては,表ー2に示す西ドイツ製のカーボバーン(ECBシート)と,厚さ3mm,重量300g/m2の不織布を使用している。施工は,図ー6に示す如く一次コンクリート面にロンデルの上からコンクリート釘で不織布を留め,手動溶着機で防水シートとロンデルを溶かして張りつける。各シート間は,8~10cm重ね合せて自動溶着機で接着する。シート間溶着部の検査は,二列の溶着箇所中央に残っている検査孔(図ー7)に,圧力2~3kgf/cm2のエアーをノズルで注入した後1~2分間放置し検査孔内の圧力が低下しないことを確認して完了する。漏気が確認された場合には,その箇所に補修用シートを上から溶着する。

2-5 裏込注入工
本トンネルでは,一次覆工として地山に密着した直巻コンクリートの打設を行っているが,覆工コンクリートの地山との間に小さい空隙が残る場合を想定して,アーチ部を中心として裏込め注入工を施工している。注入は,トンネル延長10スパン(105m)間隔で1断面当り5本の注入口(φ50mm)をアーチ部に設け,所定の注入量・注入速度・注入圧力を確認しながら実施する。注入速度および最大圧力は,それぞれ10ℓ/min,2kgf/cm2を原則とする。表ー3に注入材の配合を示す。

3 下流側坑口付近の地下水対策工
本トンネルのルートは,降下軽石層に近接しすぎるとウェルポイント揚水時にしらすの限界流速以上の地下水流が生じ,その結果内部浸食や地盤陥没問題が発生するおそれが出てくるため,原則として降下軽石層から20m以上の距離を確保するよう設定した。しかし,下流側坑口付近の約170m区間においては,ルート線形および用地上の問題から降下軽石層との離れは5~20mと極めて近接した施工となる。そのため,この区間の地下水対策工として,降下軽石層中の地下水を遮断するための地下連続壁を打設することとした(図ー8)。

3-1 地下連続壁の施工
この地下連続壁の施工は,地表部が急傾斜地であること,また打設長を極力短くする等の理由から図ー9,10に示すような作業坑を地下水位上に設け,坑内から降下軽石層の下位に分布する難透水層中に2m貫入する深さまで連続壁を打設することとした。作業坑と本杭の距離は,緩み範囲を極力小さくするため,有限要素法解析結果より10mとした。

(1)掘削および固化壁打設
本区間における地下連続壁の施工では,施工深度が15~50m前後となること,また作業坑内からの施工となるためBW掘削機(やぐら改良型ロングウォールドリル)による泥水固化方式を採用した。その施工手順を図ー11に示す。BW工法は,まず先行エレメントを掘削・固化した後,7日強度を確保して後行エレメントを施工する。その場合,今回は作業坑内での施工となるため,通常用いられるジョイント部のインターロッキングパイプは使用せず,図ー12に示すように先行エレメントと後行エレメントを20cm重複させて掘削を行った。

掘削深度は,問題となる降下軽石層が極めて不規則な起伏をなして分布するため,事前に約10m間隔でチェックボーリングを行うとともに,連続壁施工時にもスライムによって根入れ層への到達を確認した。所定の深度まで掘削が完了したら,超音波測定器によって孔壁の状況および偏位を測定し,偏位が生じている場合には再掘削を行った。
次いで,掘削スライムが完全に除去されるまで洗浄を行った後,掘削泥水と新液を置換して安定液の比重を1.05以下としBWドリルを撤去する。そして最後にトレミー管を建て込み,安定液(新液)を表ー4の固化剤と置換する。固化液は,CBプラントでフンチンオートフィーダ定量ポンプで自動計量され,モノーポンプ(20m3/h)および4吋管で圧送した。打設量は設計量に対して約30%増加したが,これは降下軽石層内への浸入やブリージングの発生等が原因と考えられる。

(2)安定液の配合および管理
BW工法では,掘削工を安定液(泥水)によって流体輸送しているが,掘削が進むにつれて泥水中に土粒子が溶け込み,泥水比重が上昇してくる。泥水比重が必要以上に上昇すると,掘削効率が低下するとともに,各種機械装置に故障等が発生しやすくなる。とくに今回工事では,泥水プラントから掘削箇所までの距離が100~300mと長いため,使用するポンプの効率からみても,孔壁の安定が保たれる条件の中でできるだけ低い比重で管理する必要があった。本工事に使用した安定液の配合や管理基準を表ー5,6に示す。
ただし実際の施工では,後行エレメント施工時に先行エレメントのモルタルを一部掘削する形となるため,セメント汚染によるゲル化現象が発生し安定液が著しく劣化した。そこで,調泥の際にベントナイト量を減らし,増粘剤および分散剤の添加量を増して対応した。また,設計逸泥量は20%としていたが,降下軽石層掘削時には逸泥量が40~70%と増加した。

(3)廃棄泥水の処理
本工事では,掘削時に使用した安定液および固化剤と接する6m間の安定液(新液)は,土粒子や固化剤の混入により著しく劣化しているため廃棄した。廃棄泥水は産業廃棄物であり,余剰泥水を極力減少させることが望まれる。そのためには,泥水中のより細かい土粒子を分離・分級除去および脱水処理できる装置が必要であり,本工事では両機能を併せもった遠心分離機(マッドセパマシン)を使用した。即ち,掘削土はサイクロンスクリーンにて残土処理した後,マッドセパマシンにて分級脱水処理し,廃棄泥水は薬品を添加した後に脱水ケーキと処理水に分離した。処理水は,中和処理後放流したが,SS濃度最大60ppm(日間平均40ppm以下),pH5.8~8.6の基準は十分に満たすことができた。
3-2 薬液注入工の施工
地下連続壁施工後,揚水井(φ300mm)を坑口付近および連壁区間奥側に設置し揚水を開始した。しかし,計画排水量の約10倍を揚水しても連壁内の水位は所定の位置まで低下せず,また連壁周囲に約10m間隔で設置した観測孔の水位に異状が認められたため,連壁内に当初想定以上の地下水が流入しているものと判断した。そこで,水位や地下水流向流速等に異常な挙動が見られた,図ー13に示す範囲について薬液注入工を行った。

(1)注入工の配置および改良範囲
注入孔は,図ー14に示すように連壁から幅2mの範囲を改良できるよう孔間隔1mピッチで2列(列間隔1m)配置した。また深度方向の改良範囲としては,降下軽石層上面+1mから連壁下端-1m間とした。

(2)注入工法
注入工法は,崩壊しやすい地盤に適し,かつ所定区間への限定注入および繰り返し注入が可能なスリーブ注入とした。
(3)注入材料
昭和53~55年にかけて実施された試掘坑での実績から,表ー7に示す懸濁型薬液(LW-1)と溶液型薬液(クリーンロック)の複合注入とした。

(4)注入率および注入基準
注入率は,試掘坑実績よりしらす40%(懸濁型5%,溶液型35%),降下軽石層75%(懸濁型30%,溶液型45%),礫質土30%(懸濁型10%,溶液型20%),とした。注入基準は,注入速度10ℓ/min注入圧力7~10kgf/cm2の定量注入を原則とした。
注入後に再度揚水を開始したが,所定の揚水量で施工基面以下までの水位低下を図ることができたので,地下連続壁の止水性は十分確保されたものと判断してトンネル掘削を開始した。

4 計測工
鹿屋分水路トンネルは,家屋密集地下を薄い土被り通過する地下水位下のしらすトンネルという極めて特異なトンネルであるため,表ー8に示すような数多くの計測を行っている。また,施工時の管理基準値を,掘削初期段階の計測データおよび有限要素法による逆解析結果から表ー9~11のように設定し,安全性を確認しつつ施工を行っている。
これまでの計測結果によれば,一部区間を除き地下水・変形関係とも安全レベルⅠの段階で収っており,揚水量の急激な増加や有害な地表面沈下の発生といった問題は全く生じていない。

5 おわりに
本トンネルは,地下水位下のしらすを大断面で掘削するというわが国でも初めてのトンネルであるため,色々な懸案事項が提案され,これらを鹿屋分水路工法検討委員会(九大名誉教授山内豊聡委員長)を設け,試行鎖誤を繰り返しながらさまざまな検討を行ってきた。とくに降下軽石層に関係したしらすの内部侵食の問題は,土木工学的にも解明の遅れていた分野であり,そのために本トンネル独自とも言える各種の調査・試験・解析や対策工を行ってきた。その結果,地下水位下しらすトンネルに関する貴重なデータが集積され,今後の同様な工事に対し大いに参考になるものと考えられる。工事は,現在導坑掘削が約1,200m,上半掘削が約1,000m進んでおり,問題となった下流側坑口付近およびトンネル中央部の降下軽石層付近区間の施工も無事にほぼ完了し,今年度中に導坑が貫通する予定である。

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