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宮崎・日南海岸リゾート構想と
土木部における観光施策について

宮崎県土木部技術次長
三 浦 春 美

宮崎県土木部都市計画課
課長補佐
安 芸 国 宏

1 はじめに
昭和62年6月,「総合保養地域整備法」(リゾート法)が制定され,本年7月9日,本県の日南海岸リゾート基本構想が福島県,三重県とともに,主務6省庁(国土庁,農林水産省,通商産業省,運輸省,建設省,自治省)の承認を受けた。
国は,第四次全国総合開発計画において,豊かな自然環境や地域の文化等を活かした多様な人々の交流の拠点として,レクレーション,スポーツゾーン等を複合的に配置した比較的規模の大きい長期滞在型のリゾート地域づくりを展開していくこととしている。
本県は,同様の観点から,来たるべき社会状況に対応する観光レクレーションの基盤づくりの施策を図らせるため,昭和30年代,土木部に観光行政部門を設置している。
土木部における観光行政部門は,計画観光課(昭和38年以前),観光課(昭和38~49年),都市緑地公園課(昭和50~54年),そして,昭和55年から現在の都市計画課へと変遷している。
今回,リゾート法に基づき承認を受けた「宮崎日南海岸リゾート基本構想」策定に至るまでの土木部における観光政策について述べることにする。

2 観光資源の保護と開発
宮崎県は,昔から日向(ひゅうが)のくにと呼ばれており,陽の光にあふれ,九州の東南部に長い海岸線を控えて広がる一帯が,暖かい黒潮の影響を受けて,高温多雨で日照時間も多く亜熱帯的な気候をもたらし,緑豊かな自然景観を育んでいる。
また,記紀にゆかりの地や,神話,伝説等の人文資源も多く,日本のふるさととして知られているところである。
このような県内の優れた自然や人文資料を保護・育成し,観光レクレーションの場として,その積極的な活用を図ってきたところである。
(1)自然公園の整備拡大
霧島屋久国立公園は,昭和9年に,我が国で最初に指定された国立公園で,主峰韓国岳と高千穂峰を中心に23座を連ねた火山群と多くの火口湖がある。
国定公園は,昭和30年に,南国宮崎を象徴する日南海岸を,昭和40年に,大分にまたがる広大な山岳で知られる祖母傾を,昭和49年には,日向灘と豊後水道に眺むリアス式海岸の日豊海岸を,そして昭和57年には,日本の照葉樹林を代表する熊本県にまたがる九州中央山地の四つの国定公園の指定を図った。
国定公園のなかには,海中景観や海中の動植物を保護するため,海中公園地区が設定されているが,我が国最初の指定は,日南海中公園や公園地区であった。
県立自然公園は,祖母傾,尾鈴,西都原杉安峡,母智丘関之尾,わにつか及び矢岳高原の6つの公園指定を行い,県内の優れた自然景観の保護を図ってきた。その総面積は,約92,000haに及び県土の約12%になっている。
この他,特に海岸線の日豊および日南海岸国定公園区域内の景観保護対策については,公園利用計画に基づき,道路改良計画との調整を図り,用地を先行購入して,施設整備の促進を図ってきた。
(2)都市公園の整備促進
本県は,住民の快適な居住環境の整備と魅力ある観光地としての整備促進を図るため,都市公園事業の積極的な取り組みを行っている。
本県の1人当たりの都市公園面積は,11.1m2で全国2位の高い整備率をほこっている。
県営公園は,基幹公園としての総合公園が1箇所,特殊公園としての歴史公園が1箇所,大規模公園として,2箇所の広域公園を都市計画決定しており,その面積は,650.0haになっている。
a 平和台公園(総合公園)
宮崎市の北西,海抜60mの古墳台地にあって,紀元2600年記念事業として,昭和15年に御幣を形どって建てられた平和の塔(高さ37m)がある。
平和の塔をシンボルとするこの公園は,昭和32年に,68.8haの都市計画決定を行い,総合公園としての整備を図っているが,園内には,古墳を偲ぶ,ハニワ園を設けている。
また,この公園は,オリンピック東京大会の第2起点になったことから,昭和40年に,東京都の日比谷公園と姉妹都市を締結している。
b 特別史跡公園西都原古墳群
西都市妻の西方,東西2km,南北4kmの小高い台地に,宮内庁の御陵墓参考地の男峡穂塚と女峡穂塚を中心とする大小300余基の古墳が点在している。
この古墳群を保存し,人々が文化遺産に親しみ,その理解と認識を深めるとともに,古代さながらの環境を永久に保存するため,史跡公園としての環境整備を図った。
この事業は,文部・建設両省の初めての試みとして実施した事業で,昭和40年に,文部省の「風土記の丘」の第1号指定を受け,翌41年に,歴史公園として都市計画決定を行い整備したもので,68.5haを共用開始している。
c 総合運動公園
本公園は,置県80周年記念事業として,昭和38年に,整備を着手したもので,昭和54年開催された第34回国民体育大会の主会場である。
総面積138.7haの敷地の中には,17種の近代的競技施設と500種42万本の修景植栽を行っており,「緑のスポーツ公園」として親しまれている。
また園内に県内の景勝地を取り入れた回遊式日本庭園「日向景修園」を設置した。
d 阿波岐ケ原森林公園(広域公園)
宮崎市の東方,ーツ葉海岸にあって,この地は記紀の「筑紫の日向の橘の小戸の檍が原」の伝承の地である。
宮崎平野の母なる大淀川が,日向灘に注ぐ右岸一帯に,県都宮崎市の海の玄関口,宮崎港が建設されている。
この公園は,宮崎港に隣接する幅約680m,長さ5,500mの松林が続く海岸の区域で,昭和32年に374haの都市計画決定を行い,昭和50年から森林公園として整備を行っている。

3 美しい郷土づくり運動の推進
昭和37年に始められたこの事業は,県下全域の生活環境を清潔に整え,美しい花をいっぱいに咲かせ,県全体を一つの花園にたとえて,新しい観光地に衣がえしていこうとするもので,これによって観光客の誘致を図るとともに,県民生活に潤いをもたせようとするものであった。
一大県民運動として展開されたこの運動は,県民一人一人の郷土愛に根ざしているものであることが期待されていた。
昭和38年,この運動を推進するためのものとして,民間による「郷土を美しくする運動」推進協議会が結成され,この協議会を母体として,次のような事業が展開された。

(1)沿道の花木植栽
昭和37年当時,本県の国道は,ようやく道路改良に伴う舗装時代を迎えようとしていた。この年,本県は,東京オリンピックの聖火リレーの第2起点として決定された。それを受けて,舗装改良された路側に,沿道美化植栽が始まったのである。路側は,固められた砂利であるために,植栽花木の品種は,限られたものであったが,今日でも,真夏には,真赤なカンナが咲きほこり,秋風には白いパンパスグラスがゆれて,道行く人を楽しませている。
この計画は,国道,県道,及び市町村道にまで及ぼし,主要観光地間の道路を花木で結ぼうとするものであった。このため,この植栽事業は,県事業ばかりでなく,市町村の協力に対しては,花木交付補助事業を設けて,県内至るところで,沿道の植栽が展開されることになった。
(2)屋外広告物等の美化整備
自然の風景に恵まれ,住居や公共施設等の環境づくりが進められても,ともすると人工によって折角の調和した美をこわすことがある。
必要によって設置される広告物は,常に周囲の景観や建物と調和するような美しいものであるべきである。
このような観点から昭和39年,屋外広告物製作技術の向上及び,屋外広告物のあり方について,一般の認識を図るため,郷土美化屋外広告展を開催し,その普及と啓蒙に努めている。
(3)色彩診断
この運動のなかで注目されるのは,昭和38年12月に実施した色彩診断で,全国でも初めての試みであった。
空,海,山,田園,そしてそれらのなかに点在する家々。これらの総合的な色彩の調和を図るため,専門家に依頼して,県内の色の配合を調査した。この調査の結果,宮崎の基調になる色は,グリーン系統で,建物は,青空を生かすようにすべきである。また,樹木の冬枯れを考慮に入れ,薄いものから濃い色までのグリーンを技術的に工夫することが大切である。特に橘通りは,気品を考え,広告,看板の統一した形や色の指導がなされた。
(4)宮崎沿道修景美化条例
本県では,昭和37年度から,沿道の景観美の育成を図るため,主要国道や県道沿線に,花木類を植栽し,特色ある宮崎の風景づくりに努めてきた。
沿道における景観,あるいは樹木等は,社会全体の財産である。これらの保護,育成を図るため郷土美化に対する県民の思想を統一し,その健全な実現を促してきた。
住民の社会経済活動の中心となる道路沿線の,生活環境を整え,公共の福祉に資することを考慮して,昭和44年4月,憲法第94条,地方自治法第14条の規定を根拠とする「行政事務条例」として,「宮崎県沿道修景美化条例」を制定した。
この条例は,全国に先がけて制定されたもので,人と道路と自然の三者の調和を図った画期的な条例と言われた。
そして,昭和48年には,県土における自然の保護と創出を更に総合的に進めていくために,「宮崎県における自然環境の保護と創出に関する条例」を制定し,全て,人間と自然の調和を基本においた考え方に徹して,数多くの実績を創ってきた。

4 亜熱帯性ベルトパーク構想
宮崎市を含む県南地域は,日南海岸国定公園に代表されるように自然の景観・温暖多照の気候,豊かな農林漁業資源,また各種の史跡文化等,自然資源,人文資源に恵まれており,観光地としてのポテンシャルの極めて高い地域である。
昭和52年,県は,県南地域の発展を具現化するため「県南地域発展可能性調査報告書」をとりまとめ,「亜熱帯性ベルトパークの形成」を提案した。
一方,国においては,第3次全国総合開発計画において,南九州を観光レクレーション基地として位置づけ,更に,九州地方開発促進計画では,亜熱帯ベルトパーク構想を南九州における観光レクレーション振興策として明示している。
これらの状況を踏まえ,提案による構想を更に発展調査させるため,昭和53年土木部都市緑地公園課に,広域修景対策主幹を置いて,超長期的な観点に立った全体構想としての「亜熱帯性ベルトパーク構想」をとりまとめたのである。
(1)構想調査の経緯
昭和52年度
県南地域発展可能性調査を実施し,「亜熱帯性ベルトパークの形成」を提案公表する。
昭和53~54年度
地域全体の観光開発の可能性を抽出するための調査を行い,「亜熱帯性ベルトパーク基本構想」を策定する。
一方,運輸省と建設省においては,南九州地域開発計画調査を行い,「海洋性レクレーション基地構想」を提案する。
昭和55年度
構想の中核的拠点としての候補地及び整備の可能性を検討するため「大規模公園基礎調査」を行う。また民間企業の立場から魅力のある事業について,具体的に実現していくための方策を検討する「亜熱帯性ベルトバーク構想の推進に関する課題」調査を実施する。
昭和56年度
超長期的な「亜熱帯性ベルトパーク構想」のビジョンを活かしながら,現実的なステップとしての,実施構想を作成するため,「亜熱帯性ベルトパーク実施構想」調査を実施する。
昭和58年度
21世紀に応える海洋性リゾートを中心とした,「亜熱帯性ベルトパーク」の形成を図るための実施構想を策定する。

(2)実施構想の目標と基本方針
目標
基本地域の恵まれた自然景観,温暖多照の気候条件等の地域の特性を充分に活かし,亜熱帯性植物の大規模修景植栽を進め,太陽とみどりと花と開放感あふれる南国情緒豊かな環境を創出し,多彩な眺望の展開を図る一方,リゾート型観光レクレーション需要に対応し,若者から高齢者までが楽しく遊べ,いこえる施設を多彩に配置した。
我が国を代表する国際海洋性リゾート地域の形成を図っていくものとする。
基本方針
本地域の観光開発においては,自然環境の保全と調和のなかに,国民の観光ニーズの変化すなわち,これまでの静的,受動的なものにかえて,積極的に楽しむといった能動的なものへの新たな観光志向の変化に対応し,健康で,清潔な,海洋性観光レクレーション基地等の形成を図ることにより,地域の住民が,大きな自信と誇りを持てる郷土を実現するための構想の推進を図ることとする。

(3)ゾーン区分と開発拠点
本地域は,日南海岸国定公園を有する県内でも有数の観光地である。
この地域は,自然景観に恵まれた海岸地域と,人文資源に恵まれた内陸部に区分され,また,海岸地域については,比較的,既存資源の集積の高い北部と,今後,開発可能性の多い南部に区分される。
ゾーンの設定にあたっては,これらの地域特性,資源の分布性向,交通体系により,宮崎市街地を中心とする日南海岸北部ゾーン,大堂津から,都井岬に至る日南海岸南部ゾーンと,飫肥地区を中心とした内陸部の南那珂文化ゾーンの三つに区分した。
開発拠点については,ゾーンの区分ごとに,次の拠点整備を提案した。

5 宮崎・日南海岸リゾート構想の概要
本県においては,すでに昭和58年に,国際級の海洋性滞在型レクレーションづくりをめざした,「亜熱帯性ベルトパーク実施構想」を推進してきており,今回,リゾート法に基づく基本構想の承認を全国に先がけて得たことは,昭和61年に策定した第三次宮崎県総合長期計画の目標である「日本一住みよい宮崎県」の創造のための一翼を担うものであり,次に構想の概要を紹介する。

(1)構想の理念
「日向の国」宮崎のシンボルは,太陽である。太陽は,この地に大いなる恵みを与え,温暖な気候と青い海,緑あふれる自然を育んできた。
本県では,この美しい風土の上に,人間と自然との調和する開発を進め,全国的,国際的に誇りうる観光都市を造りあげてきた。
宮崎・日南海岸リゾート構想は,先人たちが,進めてきた自然の美,創造の美,人情の美という3つの基本姿勢を堅持しながら,21世紀に向けて,人々の「ふれあいと交流」を通じた創造,発見,再生の舞台の構築をめざすものである。
そして,さんさんと輝く太陽のもと,日向灘の海と緑を活かし,県民・国民はもとより広く世界の人々が集う国際的な交流都市,様々な階層,世代の人々が,憩い,やすらぎ,明日への創造的活力を培う都市,そして,海と緑を基調とした魅力的な都市「宮崎太陽海岸都市」(Miyazaki Sun Coast Resort)の創造をめざすものである。

(2)特定地域の概要
法に基づく特定地域として設定された地域は,宮崎県南部に位置し,総面積は約13万3千haで県土の1.7%にあたる。対象市町村は,宮崎市,日南市,串間市,清武町,田野町,佐土原町,北郷町及び南郷町の3市5町で構成されている。
特定地域の設定理由は,次の通り。
a 日南海岸国定公園の広大な海と豊かな森林空間を有し,一体的なリゾート開発が可能な地域である。
b 県内外の民間資本によるリゾート開発が相次いでおり,リゾート整備が確実に図られる地域である。
c 観光宮崎の主要拠点であり,リゾートとしてその集積が活用できる。
d 北部地域(宮崎市と周辺3町)と南那珂広域市町村圏(日南市等2市2町)は,JR線,国道,主要地方道等で結ばれており,従来から観光面を中心として,経済的,社会的に一体的な連携が図られている地域である。

(3)重点整備地区の整備方針
それぞれの地域の有する自然環境の特性を踏まえ,6地区を設定する。
一国際海浜コンベンションリゾート地区一
宮崎市から佐土原町に至る区域で,国際コンベションやイベントを中心として国際的なビジネス・文化活動等の交流が展開される地区。
一青島スポーツファミリーリゾート地区一
青島をはじめとする海浜レジャーやスポーツ活動などを通じて,あらゆる世代の人々の交流が展開される地区。
一国際級海洋性リゾート地区一
日南市から串間市に至る海岸区域で,行動的な海のスポーツ・レジャー活動を中心として,国内はもとより,国際的な人と人との交流が展開される地区。
―農林漁業体験型リゾート地区一
串間市の海岸一帯で,農林漁業の体験活動を中心として,亜熱帯性気候の風土や自然とのふれあい。交流が展開される地区。
―保養・歴史リゾート地区一
飫肥城下町の歴史や伝統的な町並み,豊富な温泉資源を背景に,伝統的な生活文化体験や健康づくりなどの交流が展開される地区。
―森林活用型リゾート地区一
わにつか山麓の豊かな森林空間の中で,森のコンサートなどの多彩なレジャー活動や農山村での生活体験を通じての交流が展開される地区。

6 おわりに
宮崎県は,昭和40年代まで,修学旅行や新婚旅行のメッカとして,日本を代表する観光地であった。
土木部における観光施策は,昭和30年代のえびの高原観光開発に始まり,県内を含む自然公園の指定,史跡を保存し,歴史を偲ばせる史跡公園や置県80周年事業による総合運動公園の建設,そして,四季おりおりの花のある宮崎を創った沿道修景美化条例の制定等,全ての事業に,宮崎の風景を活かす,宮崎の技法を配慮している。
国際級のリゾート基地づくりに当たっては,民一体となって,熟度ある技法による地域づくりを行ってこそ,国際級のリゾートが実現できると思うのである。

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