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都市と河川環境の整備

建設省土木研究所都市河川研究室
主任研究員
島 谷 幸 宏

1 再び水辺と都市が手を握る時代へ
日本の都市はたいがい川と接している。九州の都市も例外ではない。福岡と那珂川,佐賀と多布施川,熊本と白川,鹿児島と甲突川など,代表的な都市はおおむねそうである。これらの川は,以前は舟運や防御用の堀として利用されてきたが,現在では都市の中の貴重なオープンスペースとして,街にうるおいや,にぎわいや,やすらぎを与えてくれる。
しかし,これまでは都市の側からも河川の側からも,積極的におたがいを意識し,おたがいのためになることを考えてきたわけではない。都市開発は流量の増大につながり,河川と関連が深まれば深まるほど,防災調節池の設置や,放水路の施工,河川改修事業との調整が必要となり,経済的にも,時間的にも大きな負担となった。戦後,早急に宅地の供給をはからねばならなかった都市計画サイドの人に,なるべく河川との関係を少なくしたいという気持ちが働いてきたのは,やむをえないことであろう。千里ニュータウンなどの大規模開発に河川がほとんど取り込まれていないのはその典型的なあらわれであろう。
一方,第2次大戦による国土の荒廃を一因とした大規模な水害の頻発は,戦後の復興期,それに続く高度成長期を通して,治水事業を強力に推し進めた。いかに経済的に,短期間に治水事業を進めていくかが課題となり,治水以外の河川の機能について,十分に気を配る余裕はなかった。
日本が一応の経済成長を遂げた,1970年代なかばごろより人々の価値もうるおい,精神的なゆたかさへと緩やかにうつりかわり,河川の環境的な機能が注目されるようになってきた。
この時期のひとつのエポックは,昭和56年度に河川審議会から出された「河川環境管理のあり方について」と題する答申であろう。それ以前にも,水質の浄化や,高水敷の整備を中心に河川環境整備事業が行われていたが,河川環境の機能が治水・利水機能と並んで河川事業の目的であることが明確にうたわれたのはこの答申以降である。その後,マイタウン・マイリバー構想,ふるさとの川モデル事業,桜づつみモデル事業などの各種の河川事業が展開されてきている。
河川審議会からの答申から,約10年が経過し,河川環境の重要性に対する認識もしだいに定着してきた観がある。いまこそ河川・都市がお互いに協力し,水辺のある,すみやすい環境を再生してゆく時が到来しているのではなかろうか。
いくつかの事例を参考に,都市と河川整備について考えてみよう。

2 宮崎市と大淀川
宮崎市を流下する大淀川は,流域面積2,230km2の九州第2の大河川である。宮崎市内の左岸高水敷上に大規模なせせらぎ(L=420m,B=5m)と河川プールがある。この河川プールは砂礫をブルドーザーで押し分けただけのものである。せせらぎがある高水敷は,もともと彎曲部内側の固定砂州で,明治33年,測図の地形図にもみられる。低水護岸はプールサイドとして利用できるようにされている。河川プールが設けられる夏季は,監視員がいて,午後3時には子供たちに掃除道具を貸し出し,遊びの一環としてプールの掃除をさせる。せせらぎの水源は伏流水で,水道3級の水質を保っている。せせらぎ水路では幼児が,プールでは小学生が遊ぶ。昨年の実績では,一夏4万5千人の小学生が利用している。人口20万人の都市で,1日1,000人もの小学生が利用することは驚くべきことである。この施設は砂州をただ整理しただけのものなので,出水のたびごとに維持管理が必要であるが,子供たちは自然の中で安全に遊ぶことができる。このプールが優れている点はいくつかあるが,その中でも河川の砂の移動特性を良く理解して作られている点であろう。明治時代から存在することを考えると,比較的位置が安定しているし,砂州の下流部に位置するので,大きな洗掘はうけにくく,常に河川プールとしての整正が可能である。またせせらぎの造形も比較的単純であり,河川らしい,のびのびとした広がりを感じる風景を楽しむことができる。まことに良く考えてある。

この地点の下流部左岸は,NHKのテレビ小説「たまゆら」で有名となった観光宮崎のシンボル地区である。大きなフェニックス,青と赤のロンブル,大淀川の青い水面が南国情緒を感じさせてくれる。この地区の左岸堤防は計画堤防高まで完成しておらず,現在「大淀河畔河川改修事業検討協議会」において,堤防のかさ上げと河川環境の調和についての検討が行われている。この地区は,宮崎市の中心部に位置し,市民あるいは観光都市宮崎のシンボルとして重要な地区である。この協議会からは治水安全度の確保とともに現状の環境を更に向上させる考え方や方法が提案されるであろう。21世紀に向けて都市と河川の新しい関係が形成されることが期待される。よりよい河川がつくられることによって,都市も発展するという,日本の代表的な例となるであろう。

3 東京大川端
都心の定住型住宅の供給を目的に,東京都中央区の隅田川河口近くの佃島の北端周辺に,住宅供給戸数約3,800戸,開発計画人口7,500人,敷地面積約28haの超高層建築を主体とした,再開発事業が計画されている。そのうちの一部はすでに完成し,入居からおよそ2年が経過している。ここでは入居者へのアンケート調査から,隅田川のそばに住むことをどのように評価しているかを見てみよう。
アンケートは東京都中央区佃二丁目にある高層建築のイーストタワーズ8号棟(公団:108戸:19階)とリバーポイントタワー(三井:390戸:40階)の全戸を対象にアンケート調査を行った。うち有効回答は190票であった。
隅田川の水辺に居住しての満足度をみてみよう。「非常に満足」43.7%,「やや満足」45.8%合わせて89.5%もの人が水辺居住に満足しており,水辺に居住しての満足度は極めて高いといってよいだろう。また不満を示した人は3人,1.6%にすぎない。それでは理由は何なのであろうか。

図ー4に示すように,その理由は「夜景がきれい」82.1%,「広々としている」50%,「水辺がさわやか」48%,「情緒がある」42%の順となっており,風景の重要性を指摘している。
また「川がよく見える」人は「ほとんど見えない」人に比べ,「非常に満足している」と答える人が圧倒的に多い。
それではどのような風景要素を好ましく思っているのであろうか。
好ましい要素のトップは隅田川(73.2%),つづいて船(61.6%),東京の町並み(44.7%),橋梁(44.7%),東京タワー(43.7%),富士山(38.4%)の順となる。これを見てもわかるように隅田川,船,橋梁などの水辺に関連のある景観要素の評価が高い結果となっている。

以上のように大川端の居住者は水辺に住むことを圧倒的(89.5%が満足)に支持している。特に隅田川が見える人の評価が高い。理由としては風景が良いことが挙げられ,風景要素として,水辺に関連するものが上位を占めている。過密化した都市の中で河川はくうの空間として見はらしのよさ,開放感があることなどがよくあげられるが,大川端の例を見ると,河川が景観資源として大きな価値をもっていることを実感できる。

4 長崎と中島川
人口約45万人の長崎市の中心部を流下する中島川は流域面積18km2の小河川で,長崎大水害と眼鏡橋で有名である。昭和57年7月の長崎大水害では中島川流域で,浸水面積107ha,家屋半壊12戸,床上浸水3,294戸,床下浸水736戸等と甚大な被害を受けた。とくに長崎市中心部の浜市商店街,中通り商店街,観光通りなどの商店はのきなみ冠水し,その深さは1~2mに達し,土砂の堆積による被害も大きかった。
その後,河川激甚災害対策特別緊急事業により再度災害の防止を目的とした河川改修が進められた。中島川には国の重要文化財である眼鏡橋と,市の指定文化財の石橋群があったので,その取り扱いについてさまざまな議論がなされてきた。ここでは様々な議論を踏まえて整備されてきた中島川が,一般市民にどのように評価されているのかを,中島川沿川の自治会や中島川に来ていた人に対するヒアリング調査をもとにまとめてみる。
激特事業の基本方針をまとめると以下のようになる。
・河道掘削,河道拡幅により流下能力を増大させ,再度災害を防止する。
・景観に十分配慮し,新しく架けかえられた橋は,住民の意向もふまえ,可能な限り石橋とする。
・眼鏡橋は,バイパス水路を設け,現在位置に残す。
などである。

調査は表ー1に示すような3段階による評価とその理由を聞きとりにより行った。治水については,よかったという人とどちらでもないという人がほぼ同数で約40%程度,残り20%程度がよくなかったと評価している。水害直後の水害意識調査では「当面最も期待する河川像は被害直後のためか,治水を期待する意識が78%と群を抜き,利水32%,環境21%となっている。これが今後の河川事業の要望となると,治水39%,環境38%,利水21%となりほとんど大きな差はなくなる。これは治水を当面の緊急の課題としつつ,将来においては河川本来の治水・利水・環境機能を備えるべきであるとする意識のあらわれと思われる。」と述べてある。この結果でもわかるように長崎市民にとって今回の水害は極めてショッキングなものであり,危険性についての認識は依然として高い。水害から5年経っているが治水に対する要望は依然高く,他の項目に比べ厳しい評価となっている。
一方,中島川の環境的な側面に対しても関心は高い。例えば眼鏡橋の保全に対しては84%の人が「よかった」と評価しており,石積みの護岸や水辺への階段も高い評価を得ている。一方,化粧コンクリート護岸はあまり評判がよくない。観光客もほぼ同じような評価を示す。
ただし,新しい石橋の評価だけは観光客にはよいが,住民には極めて評判が悪い。これはクリアランスを保ちながら旧石橋のイメージを保とうとしたために,路面よりも石橋が高くなり,橋と道路の取付部が階段となり,渡りにくくなったためである。住民からは,レベルでない,すべりやすい,危険などの意見が出ており評判はよくない。あまり使わない観光客には評判がよくともよく利用する住民には使い勝手が悪く,評価が低くなったのであろう。
以上のように中島川は治水と環境の調和を図ることの重要性を我々に教えてくれた。
さてここで,都市と河川環境の整備について以上の例に基づき,要点をまとめてみよう。

5 水辺の復権を図るという強い意志
以上見てきたように,水辺を上手に生かすことができれば,都市の発展にも寄与することができる。しかし手をこまねいていては何も進展しない。都市計画者も,河川計画者も,水辺を改善することが都市にとって重要であるということを十分に認識し,それぞれの人が,それぞれの立場で水辺の復権を図るという強い意志を持つことがまず重要なことである。すべてはそこから始まる。

6 総合化を図る
長崎や宮崎の例をみても分かるように,治水,利水,ましてや河川環境に偏らないバランスのとれた河川整備を図る必要がある。これらは対立するものではなく両立するものである。
ただしその際,留意しておかなければならないのは,河川の魅力と河川の限界を良く認識しておくことである。どのような魅力が河川にあるかを良く知っていなければ,その魅力を引き出した河川環境整備は不可能である。
一方,対象とする河川の能力をこえた過大な要求は,河川の魅力を損なうばかりではなく,設置した施設の破懐や荒廃をもたらす。河川のおかれている位置や河川の規模,洪水の特性などを考慮した河川環境整備をおこなわなくてはならない。小河川には小河川の役割があるし,大河川には大河川の役割がある。また住宅地の河川と都市中心部の河川ではあるべき姿は異なるはずである。また大淀川のように洪水による河川の変化を前提にした河川整備が基本であろう。

7 まちづくりの視点
川の空間を人はどのように認識しているのであろうか? 川は川の空間として認識されるはずであるが,現在の管理区域ほど明確に認識されているわけではないだろう。計画者は一般の人よりもさらに空間の捉え方を広くもつべきである。すなわち周辺都市部と河川を包含した形で空間を捉えることが必要であろう。河川沿いを公園化し,樹木を繁茂させ,河川と周辺の街並みを完全に分離させた例を見かけるが,河川が見晴らしが良く,なにもないからっぽの空間であるという特徴を考えれば,もう少し河川と都市の親和性を高める工夫が欲しい。
この考えをさらに発展させれば,『都市の中でその川がどのような役割を果すべきか』,『川を良くすることによって都市がどのように発展するか』を考える必要がある。河川を良くすることによって街自体が変わってくることは良くみられることである。それをあらかじめ考える,いわゆる街づくりの視点を持つことが必要なのである。

8 誰のためのデザイン?
アメリカの認知心理学者D.A.ノーマンの「誰のためのデザイン?」という,興味深い,警鐘的な本がある。この本の中でノーマンは工業デザインに対し,心理学者の立場より「人の使いやすさ」の重要性を述べている。最近の電気器具の複雑で使いにくいことや,見てすぐにわからない電話機のボタンなどの操作を例にして,使う人が勉強不足であったりなれていないなどが問題なのではなく,デザイン自体に問題があることを説いている。これは何も工業デザインだけに言えることではなく,土木施設についても同様である。長崎の中島川の石橋群はやむを得なかったのではあるが,ある意味で,使う人の立場を十分に把握していなかったために,評価が低くなったのである。
人の行動特性や認知特性または気持ちについて十分に配慮する必要があろう。このような意味でも計画時における住民参加は重要な課題である。ともかくこれまで土木工学では,「誰のためのデザインか?」という人間,特に個人の心理特性や行動特性に基づいた考え方が欠けがちであったのではなかろうか。この問題は土木にとって今後の重要な課題であろう。

9 環境のための技術
これらのソフトな考え方や計画の進め方とともに,環境に関する技術が伴わなくては良いものはできない。現状では景観や親水活動,生物保全,水質浄化など河川環境に関する土木技術の水準は十分に高まっているとは言い難い。現場において,種々の工夫がなされ,技術の革新が行われることと,これまでの他分野の成果を土木に導入することが課題であろう。これからの土木技術者は専門技術の一つとして,景観や人間工学,生態系に対する基礎的な知識を学ぶ必要があるだろう。筆者もそのために今後とも努力するつもりである。

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