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藺牟田いむた瀬戸架橋工区とインフラを活かす取り組み
小杉淳悟

キーワード:海上橋、地域活性化

1.はじめに
薩摩半島から約30 ㎞ の東シナ海に浮かぶ上甑島かみこしきしま中甑島なかこしきしま下甑島しもこしきしまからなる甑島列島。島津の殿様がその稀有な景観を称えた上甑島の長目の浜や、太古の地球を感じることのできる下甑島の鹿島断崖など以前から変わらない豊かな自然が多く見られる。
上甑島と中甑島は平成5 年に甑大明神橋(420m)と鹿の子大橋(240m)により結ばれ、陸路でいつでも移動することが可能となり、島内住民や観光客の動きに大きな変化をもたらした。
上・中甑島と下甑島とは藺牟田瀬戸により隔てられているが、それらを結び” 甑をひとつ” につなぐ夢の懸け橋として、平成18 年度から藺牟田瀬戸架橋工区を進めている(図- 1)。
本稿では、藺牟田瀬戸架橋工区の概要や進捗状況、そして” 甑はひとつ” に向けた地域活性化のための取組などについて報告する。

2.藺牟田瀬戸架橋工区の概要
甑島列島を一つに結ぶ構想は、約50 年前に離島振興協議会が発足したことに端を発し、平成3年に甑島架橋建設促進期成会が設立され、その後も地元の継続的な熱意のある要望を受け、平成18 年度から県により事業に着手した。
藺牟田瀬戸架橋工区は、県道鹿島上甑線の一部の区間で、下甑島の鹿島町藺牟田と中甑島の上甑町平良とを結ぶ5.1㎞の新設区間である。起点側から、鹿島トンネル(497m)、架橋区間(1,533m)、黒浜トンネル(587m)、平良トンネル(1,674m)とそれらを結ぶ明かり部で構成され、全体の8割以上が構造物となっている(図- 2)。

平成29 年12 月時点で、3 つのトンネルと明かり部は概成しており、目下架橋区間の整備を重点的に進めており、平成32 年度の供用開始を目標としている。
藺牟田瀬戸架橋工区が開通すると、現在は航路で出航時間に左右される島内間移動が、いつでも往来することが可能となり、更に、移動時
間も大幅に短縮される(図- 3)。また、現在は島内各地の豊富な観光資源は藺牟田瀬戸により隔てられているが、供用後はそれらを周遊することが可能となり、観光客の増加やそれによる地域の活性化が期待される。

3.橋梁の概要と進捗
藺牟田瀬戸は、南北約35㎞の甑島列島によりさえぎられる潮流が集中する場所であり、瀬戸という名のとおり潮流が速く、また海底地形も相まって複雑な潮流となる箇所がある。また、特に冬季は甑島全体が強い北西の季節風に晒され、藺牟田瀬戸においても強風やそれに伴う高波が多くなる。

(1)設計
架橋区間起点側(下甑島側)と終点側(中甑島側)は比較的水深が浅く仮桟橋施工が可能であるが、架橋中央付近は水深が深い。これを踏まえて区間分けし、区間ごとに施工形態を踏まえて経済性から最適スパン及び橋梁形式を選定した。
藺牟田瀬戸架橋は、構造上4 つの橋梁に分けられた( 第1 橋217m+ 第2 橋550m+ 第3 橋383m+ 第4 橋383m= 全長1,533m) 橋梁で、その橋脚数は14 基となっており、上部工はいずれもPC 連続箱桁橋である。橋梁規模としては鹿児島県内の国道・県道橋では最大規模であり、推奨航路を有する第2 橋の中央径間長は165m と国内最大級となっている。また、第2 橋の上部工最大桁高は9.5m と概ねビル3 階建ての建築物に相当する高さであり、P5 では下部工と上部工を合わせると高さ約50m もの高さとなる。
海上橋であるため十分な塩害対策が求められる。道路橋示方書で定められた塩害地域S 区分の鉄筋のかぶりを確保し、下部工・上部工とも全てエポキシ樹脂塗装鉄筋を用い、さらには、PC ケーブルもエポキシ樹脂塗装仕様とした。コンクリートは海洋コンクリートとして所定のw/c を確保し、さらにマスコンクリートとなる上部工柱頭部には、FEM 解析結果を踏まえ収縮低減剤を混和している。このほか、高欄、排水枡など塩害対策仕様の製品を採用したり、橋面はアスファルトウレタン塗膜系高性能防水工法としている。

(2)施工
施工形態については3000t の大型起重機船の吃水深6.5m を境とし工法を区別している。水深6.5m 以下となる下甑側の第1 橋(A1~P3)、上甑側の第3 橋のP9~P11 及び第4 橋(P11~A2)は仮桟橋からの施工とし、水深6.5m 以上となる第2 橋(P3~P7) 及び第3 橋(P7~P8) は、起重機船やコンクリートミキサー船を用いた海上施工とした。

1)下部工施工
仮桟橋からの施工では、下部工は鋼管仮締切による施工とした。下部工の鋼管仮締切や桟橋の杭の建込みはダウンザホールハンマー工法により施工しているが、同工法の中でも特殊な工法であるPRD-Rose 工法を採用している。これにより、海峡部の施工であるものの、建込み精度を確実に確保することができ、また施工期間の短縮を図ることができた。
海上施工では、P4 ~ P6 のケーソン基礎及びP7・P8 の一括吊込み基礎としており、これらは内地のFD 船で製作し藺牟田瀬戸までえい航したのち、大型起重機船により設置した。前述のとおり、藺牟田瀬戸は潮流が速いため、夏季の凪ぎの、更に潮止まりの時間帯を狙って設置した(写真-1)。平成25 年・平成26 年の夏季は、設置を控えた巨大な基礎を乗せた2200t 大型起重機船が甑島近海にあり、しばらく稀な光景となっていた。

2)上部工施工
第1 橋(A1~P3)上部工は平成26 年8 月までに完成し、現在、第2 橋~第4 橋上部工の施工を進めている。写真- 2 は、海上施工であるP4張出、P5 張出、P6 張出、P8 張出の4 工区と、仮桟橋からの施工である第3 橋P9・P10 張出、第4 橋(P12・P13・P14 張出)工区の、計6 工区の施工状況である。
仮桟橋からの施工は、基本的には陸施工と同様であるが、特に波が高い日は飛沫が仮桟橋に上がることがあり不稼働となることがある。また、資機材の配置や作業車両の往来において、仮桟橋幅に制約されるため、各工区の理解と協力が必要である。

海上施工では、運搬と作業ヤードを兼ねる起重機船や、国内で約30 隻しかないコンクリートミキサー船を用いている。作業員、資材、機材のすべてが海上からとなり、橋梁上部工事であるものの、港湾工事の要素が多分に存在する。施工の進捗を図るため、効率的な施工が求められ、設計では大型ワーゲンを用いて施工ブロックを少なくしたり、施工では地組した鉄筋を搬入したり、支保工を大型化し躯体に近接した作業ヤードを設けるなどしている。

海上架橋であるがゆえに、計画・設計では通常は考慮しない多くの検討事項があり、また施工では多くの制約があるが、それらと向き合いながら、完成に向けて事業を進めているところである。

4.藺牟田瀬戸架橋の課題
藺牟田瀬戸特有の厳しい海象条件に尽きる。
台風が発生すると、陸地であればほとんど影響がないほどの遠方にあっても、藺牟田瀬戸には、うねりが押し寄せ海上施工が困難となるなど、台風接近前後を合わせると約1 週間程度海上作業ができなくなる。また、強い台風が接近すると、高波による仮設物への被害が懸念される(写真- 4)。

主に冬季は北西の季節風により恒常的に強風と高波に晒され作業ができない、あるいは作業効率が低下する状況となる。例え夏季であっても気圧配置によっては同様な状況となり、作業に恵まれない日も多い(写真- 5)。

波高が高い中では起重機船やコンクリートミキサー船を固定するための係留作業に危険が伴ったり、係留できてもロープが切れる恐れがある。また、作業員が移動する通船がピアに近づくにも危険が伴うため、安全第一で工事を進める上では、海象条件が悪い日は作業中止とならざるをえない。
海上工区は当初年間の作業日数を200 日程度と見込んでいたが、現場に着工すると実際には120 ~ 160 日程度の作業日数しか確保できなかった。
このように、いざ現場に臨んでみると、改めて海象条件の厳しさを実感するところである。

5.甑はひとつに向けた地域の取組
(1)市の取組
地元薩摩川内市では、完成後を見据え、様々な取り組みがなされている。
同市においては、甑島の振興や後述の各種会議の進行管理等を担う部署として「甑はひとつ推進室」が設置されている。
平成27 年3 月には、同室により「甑島ツーリズムビジョン」が策定された(図- 5)。ビジョンでは、藺牟田瀬戸架橋工区の完成を観光振興における次のステージに向けた新たな一歩と捉え、観光を主軸として、交流の活発化、地域産業の振興やそれらを後世に引き継いでいくための具体的な方針や行動計画が示された。宿泊・飲食場所やトイレの整備などといった施設系の観光インフラや、イベント開催や滞在型コンテンツの開発や観光ガイドの育成などといったサービス系の観光インフラの整備に計画的に取り組んでいるところである。

また、「甑はひとつ推進会議」では、藺牟田瀬戸架橋工区完成後の島内環境が変わることを見据え、甑島の将来や行政の効率化などについて議論されている。人口減少・過疎化の中にあっても、架橋により完成後全島が一体となることを踏まえ、旧行政区域を越え全島一体となって地域振興策を模索することが必要である、との提言が平成28 年4 月になされている。
このほか、島の玄関口であり観光交流拠点ともなる港のターミナルを改築したり、水戸岡鋭治氏のデザインによる高速船甑島を就航させ優雅な船旅を演出するなど(写真- 6)、様々な観光インフラの整備が進んでいる。

(2)地元の取組
地元では、甑島ツーリズムビジョンを踏まえ、島内の観光地を巡るエコツアーを企画し、その魅力を伝えるガイドを養成するための講座の実施に取り組んでいる。
また、甑島にU ターンした若手経営者により、地魚を使用した新製品の開発・内地への販路拡大が行われたり、観光客を引きつける新しい形態の店舗をオープンさせるなどの動きがある。島内におけるこういった地域活性化を担う動きは画期的なもので、これからの” 人財” として、島の大きなポテンシャルと思われる。
このように、観光客を受け入れ、有意義な時間を過ごしてもらうための取組みが早い段階から行われている。
平成27 年4 月から平成29 年3 月まで、日本テレビの“ 幸せ! ボンビーガール” の企画により、女優(の卵?)の柴田美咲氏(以下美咲ちゃん)が同市の地域おこし協力隊見習い隊員として上甑島に居住した。全国放送の同番組では、甑島の一住民である美咲ちゃんが甑島の生活に溶け込み、地域の人々と協力し悪戦苦闘しながら民宿” こしきの宿”(写真- 7)をオープンするまでの様子が放送された。番組では美咲ちゃんの行動とともに甑島の名所や島の日常風景とその雰囲気が放送され、全国における甑島の認知度も向上した。美咲ちゃんはまさに地域おこしに大きく貢献しており、“ こしきの宿” とともに美咲ちゃんの残した功績は大きい。

(3)県の取組
数多くの有人離島を持つ本県では、平成25 年度~平成34 年度における各離島地域の振興計画を策定している。甑島の振興計画では、藺牟田瀬戸架橋工区の整備のほか、観光施設の整備、水産業の振興や自然環境の保全などを実施することとしている。
観光施設の整備の一環として、架橋区間を一望することができる上甑の木之口展望所と下甑の鳥之巣展望所をリニューアルした(写真- 8)。両展望所とも多くの観光客が訪れるスポットの一つとなっており、藺牟田瀬戸架橋工区への興味の高さが伺える。

インフラツーリズムとして、地元の観光協会とも連携し、来島者を工事現場へ案内し、橋梁工事に身近に接してもらうという取組みを行っている。工事に興味のある親子、島内イベントの参加者、県内の工業高校関係者など多く来島者を案内している(写真- 9)。参加者は皆、スケールが大きく迫力のある海上工事現場を興味深く見ており、好評を得ている。現場を通じて、普段あまり意識することのないインフラの役割を理解したり、インフラ整備に興味を持ってもらうきっかけになればと思う。

また、貫通直後のトンネルに地元の小学生を案内したり、ケーソン設置前のFD 船に地元の方々を案内し躯体に思い思いの絵を描いてもらうなど様々な取組みが実施されている。
展望所や現場で橋やトンネルの工事状況を見られた方々が完成後に再度訪れれば、その感慨もひとしおではなかろうか。現場に興味のある方は、なんなりとお申し出いただきたい。

6.おわりに
藺牟田瀬戸架橋工区は、厳しい海象条件の中鋭意工事を進めており、平成32 年度の完成を目指している。台風の接近や風浪など、工程は海象条件に左右されるが、安全第一を念頭に、効率的で無駄のない施工により工事の進捗を図ることとしている。
インフラストラクチャーとは、国民の福祉の向上と国民経済の発展に必要な公共施設とされる。当たり前のことであるが、整備して終わりでなく、整備以降の地域の向上・発展にどれだけ寄与できるかが大事である。
かつて上甑島と中甑島が結ばれた時がそうであったように、藺牟田瀬戸架橋工区の供用後は、ひとつの島となりいつでも移動することが可能となり、人やものの流れも大きく変わると予想される。災害対応や医療面でも島間の相互の応援体制が構築され、より安心・安全な地域となる。また、甑島の観光・レジャー施設がリンクすることで観光地として今以上に魅力が向上するものと思われる。“ 三人寄れば文殊の知恵” という諺さながらに、甑がひとつになったあかつきには、3 島間の交流により新しい何かが創出されることを期待する。

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