直方バイパスの開通について
-道路の壁面緑化の新たな試み-
-道路の壁面緑化の新たな試み-
建設省 北九州国道工事事務所
工務課長
工務課長
佐 藤 敏 行
建設省 北九州国道工事事務所
工務課 設計係員
工務課 設計係員
石 橋 良 介
1 まえがき
直方バイパスの事業では,道路構造等の関係から連続地中壁と横断パイプを併用したサイホン方式による地下水対策工法の採用,騒音対策の観点から従前の排水性舗装より以上に交通騒音が低減できる性能規定方式による排水性舗装の採用,道路植栽として法面緑化やプランター(緑化補助材)によるプロック積の壁面緑化の試験植栽など,いくつかの新工法の採用や新たな試みを行ったが,今回は,そのうち,主にプランターによるプロック積の壁面緑化工法を中心に紹介するものである。
2 事業概要
直方バイパスは,直方市内の交通混雑の解消を目的として,北九州市八幡西区馬場山から直方市下境までの全延長7km,うち直方市頓野までの延長4kmを建設省で,また直方市頓野から直方市下境までの延長3kmを福岡県において事業を行った。
平成12年9月4日に,全線暫定2車線での供用を図ることとなった。
これにより,直方市の交通混雑の解消はもとより,地域の産業・文化・経済の活性化に大きく寄与するものと期待されている。
計画概要および試験植栽位置図は図ー1に示す通りとなっている。
3 道路構造
本バイパスの直方市頓野地区では,騒音対策や環境保全に配慮し,図ー2に示すように堀割構造となっている。
堀割構造とすることにより,地層条件から帯水層を分断することとが懸念されたため,地下水環境の保全の観点から,可能な限り従前の地下水状態に復元するために,連続地中壁と通水管の組み合わせたサイホン方式による地下水対策工法を採用している。
このため,本区間では,雨水による以外には,水分補給がされにくい道路構造となっているために,植栽の環境としては極めて厳しい環境となっている。
このような中で,地域住民からは大気保全の観点から濃密な植栽を行うように要望されていた。
そこで,緑化ブロックによる植栽を検討したが,高さが5m以上になるために,大型緑化ブロックの採用なども検討したが,構造面から用地の追加買収の必要性やコストが相当高くなることが予想された。
以上のことから,厳しい植栽環境の中での新たな植栽方法として,特にプランターによる壁面植栽をメインとした,新たな植栽の試みを行うこととした。
4 試験植栽について
今回の道路緑化のポイントは,堀割構造のために,地下水が遮水されており,雨水以外には水分の補給が期待できない厳しい環境におかれている。そこで,土壌改良による土壌の保水性を高めるための工法,乾燥に強い植物の選定,法面および壁面に利用できる緑化補助材の選定などの検討を行うとともに,試験植栽による生育調査を行った。
(1)試験植栽地の選定
直方バイパス内で,今回の施工予定箇所とほぼ同じような植栽環境にあると考えられる,図ー3に示す左側法面(西側法面)で,試験植栽およびその生育調査を行った。
(2)作業フロー
道路緑化(法面および擁壁面)の工法および植栽樹種の選定を行うために,以下の図ー4に示す作業フローにより,現地調査,試験植栽および生育調査を行った。
(3)施工期間および調査期間
施工期間:平成11年6月1日~平成11年6月8日
調査期間:平成11年6月24日~平成12年4月20日
(4)試験植栽場所
北九州市八幡西区星ケ丘
(5)試験植栽方法
イ)法面緑化について
・土壌改良
土壌改良は,施工箇所の切土法面は固結性の高い粘性土のために,現状では生育不可能と考えられたので,樹木の生育基盤としては真砂土を主体として,土壌改良材に保水性と養分を持ち合わせているミネロックファイバーAIOを使用することとした。その割合を14%,20%として試験施工した。
土壌改良A:真砂土+改良材14%
土壌改良B:真砂土+改良材20%
また,降雨時の土砂流出防止および土中の土壌の保水性を高めるために,マルチング材として,黄麻(ジュート)の植物性繊維シートと化繊不織布(防草)シートの2タイプを使用して,雑草の侵入試験を行った。
マルチングA:ジュートマルチング
マルチングB:防草シート
・樹種の選定
樹種の選定については,生育が早く,乾燥,排出ガスに強いハイビャクシン(バーハーバーおよびプルーパシフィックの2種類),ヒペリカムヒデコートの3種類を選定した(表ー1)。
ロ)ブロック積壁面緑化
プロック積壁面緑化については,図ー5に示すように,擁壁下部からの本格的な植栽は出来ない構造となっている。
擁壁の高さは5m以上あり,上部から垂れ下がる植物としてツタ類による植栽が考えられるが,枝が切れるなど,早期の緑化が期待できない。そこで,擁壁の側面にプランター(緑化補助材)を取り付ける方法で,壁面緑化を図る試験を行うこととした。
・プランターの材質
壁面緑化として,プランターを取り付けることから,植物の生育や景観の検討を行うとともに,擁壁への影響を最小限にするために,プランター材質による軽量化と図ることとした。
その結果,軽量でプランター内の根の生育や景観を考慮して,木製およびGRC製のプランターを中心に試験植栽を行うこととした。
・樹種の選定
樹種の選定にあたっては,気根により吸着する性質の登はん性と植栽実績を考慮して,ナツヅタ,オオイタビ,イタビカズラの3種類を混植とした(表ー2)。
・土壌改良
プランターの土壌改良は,露地の場合と環境が大きく違い,長期にわたる保水性と養分などが必要になると考え,試験植栽の条件に適当と見られる改良材を表ー3に示すように選定し,調査を行った。
・灌水方法
プランター内の生育条件は悪く,降雨の無い日が続くと極端な乾燥状態になることから,それぞれのプランター毎に,木製は灌水無しと上部からの灌水有りの2タイプ,GRC製はプランター内の底面灌水装置付きによる灌水を行うこととした。
(6)試験植栽の生育状況調査の結果について
イ)法面緑化
試験植栽の法面勾配は1:1と急な勾配となっているが,実際の植栽工事箇所の法面勾配は1:1.5であるため,実施に合った勾配と植物生育に必要な土壌改良の厚さ30cmを盛土し,試験植栽を行った。植栽状況は図ー6,7に示すとおりである。
調査期間は,平成11年6月24日から平成12年4月20日までの計10回の調査を行った。
生育状況の評価については,本調査の6月から9月までは例年になく降水日数が多く,気象庁によれば日照時間は例年の50%程度とのことであり,土壌水分も十分で乾燥することもないようであった。
各樹種毎の生育状況は図ー8から図ー10に示すとおりである。
① ハイビャクシン(パーハーバー)
樹木の生育はB-1の土壌改良20%で58.5cmとAの土壌改良14%で53.1cmとその差は5.4cmと土壌改良の多い方が樹木の成長が良いように見られる。
② ハイビャクシン(ブルーパシフィック)
樹木の生育はCの土壌改良14%で45.0cmとC-1の土壌改良20%で44.8cmとその差0.2cmと土壌改良とは余り関係が見られない。
③ ヒペリカムヒデコート
樹木の生育はEの土壌改良14%で53.7cmとF-1の土壌改良20%で51.0cmとその差2.7cmと土壌改良の少ない樹木の成長が良いように見られる。生育の評価としては植付けから10ヶ月で,最終調査が初春であったことから,樹木の成長は冬の落ち込みより立ち直りにばらつきはあるが,おおむね数値としてその差が明確になってきている。
土壊改良の14%と20%での成長差はあまり見られず,マルチングについてはジュートの方が多少雑草の侵入が多くみられた。
ロ)壁面緑化
調査期間は,法面緑化の生育調査の期間は同じ期間である。
樹木生育調査では,ナツヅタ,オオイタビ,イタビカズラの3種類を試験植栽し,土壌改良材では保水性を見極めるためアルファベース,ビバソイル,泥炭,ミネロックAIOの4種類について改良を行った。
本来の目的は壁面のプランターとして使用するため,管理がないものとして,乾燥に対する保水性を試験するものであったが,前記と同様に本調査期間の6月から9月までは例年になく降水日数が多く,気象庁によれば日照時間は例年の50%程度とのことであり,土壌水分も十分で乾燥することもないようであった。
生育状況については,実際施工では,プランター設置後の管理面では,耐久性のものが望まれるため,プランターの材質では自重が軽く樹木の成長には木製が一番成績が良かったがプランターと灌水の作業および効果からGRC製プランターを採用した。また,樹種はナツヅタとオオイタビの2種類を採用した。その生育状況の結果は図ー11から図ー12に示すとおりであった。
① ナツヅタ
泥炭での生育状況が最大で95cmと一番よく,次いでビバソイルの75cmの成長が見られた。
② オオイタビ
泥炭での生育状況が最大で70cmと一番よく,次いでビバソイルの57cmの成長が見られた。
土壌改良材ではアルファベース,ビバソイル,泥炭,ミネロックのいずれも保水性はあるが,アルファベースの成績は良くない。泥炭はpHが5.5程度で酸性のため今後の生育に注意が必要と考えられる。
したがって,試験施工の生育調査からビバソイル,泥炭およびミネロックが適していると判断し,採用することとした。
5 施工方法について
試験植栽の結果をもとに,配植計画は,図ー13に示すように計画し,実際の施工を行うこととした。
(1)法面緑化
試験植栽の結果をもとに,土壌改良A(真砂土+土壌改良材14%)による土壌改良を実施し,マルチング材は防草シートを使用することとした。
また,樹種は上面にヒペリカムヒデコート,下面にハイビャクシン(プルーパシフィック)による植栽を実施した。
(2)壁面緑化
今回は,大型プロック積の表面に,アンカーボルトを埋め込み,プランターを取付けることとした。
プランターの取付けの作業歩掛は,トラッククレーンを使用し,取付け金具を2人で35個/日程度,本体プランターは,3人で35~40個/日を取付けを行うことができた。
施工上の注意点としては,プランターの取付けは,石積ブロックの伸縮目地に取付け金具がまたがらないように,プランターの取付け位置の割付けを行った。また,植栽の生育状況等を加味して,プランターの配置を決定した。
プランターの取付け作業は布製のスリングロープを使用し傷が付かないように配慮した。
6 施工後の生育状況について
今回の施工時期が夏季(8月)に当たったために,一部枯死するものもあったが,灌水の頻度を高くした結果,施工後3ヶ月を過ぎようとしているが順調に推移している。特に,プランターによる壁面緑化の生育状況は,ナツヅタ(被覆速度:速い)は3ヶ月で50~80cm程の成長が見られ,植付け時は,苗木は10cm程度であったが,現在では石積みを這う程になっている。
また,オオイタビ(被覆速度:遅い)は3ヶ月で15~20㎝程の成長が見られ根付け時は,苗木は10㎝程度で,葉は子供の爪ほどの大きさであったが,3ヶ月過ぎた現在では葉の長さは3㎝以上に成長した(写真-1)。
7 経済比較および管理方法について
プランター(緑化補助材)による壁面緑化についての経済比較および今後の管理方法については下記のとおりとなっている。
(1)経済比較
従来の緑化ブロックとの経済比較は表ー4に示すとおりとなっている。
今回の工法を採用することにより,コスト縮減や工期の短縮が図られた。
(2)管理方法
今後の維持管理としては,プランター等に混入する雑草の除草や適当な時期の灌水や施肥等が重要なポイントとなると考えられる。また,その作業に当たっては,直方バイパスの平日の交通量が多いことから,交通量の少ない休日でのメンテナンスが必要となる。
8 まとめ
直方バイパスでの今回の試験植栽の試みは,従前は緑化が行われていない,通常のブロック積みや擁壁の壁面緑化の可能性を探るとともに,低コストでの植栽を行おうとするものであります。
今後は,実施の施工したものの,生育状況の継続的な調査や維持管理などを通して,問題点や課題の整理を行い,本格的な実用化に向け,必要な改善などを行っていきたいと考えています。
なお,今回の試験植栽にあたりまして『九州緑化協議会』の全面的なご協力に感謝申し上げます。