熊本地震による阿蘇大橋地区関連の道路復旧の取組み
辻芳樹
キーワード:平成28年熊本地震、大規模災害、道路復旧
1.はじめに
平成28年4月14日の前震、4月16日の本震と2度にわたり最大震度7 を観測した「平成28年熊本地震」では、熊本を中心に九州全域に甚大な被害が発生した。
その地震により、最も被災が大きかった阿蘇大橋地区関連の道路の被災及び復旧状況について紹介する
2.阿蘇地域周辺道路の役割
熊本地震により大規模斜面崩壊が発生し国道57号が寸断され、国道325号阿蘇大橋が落橋した阿蘇大橋地区に加え、県道28号熊本高森線、村道栃の木~立野線の大規模な被災により、熊本と大分を結ぶ東西軸の大動脈が完全に閉ざされ、阿蘇地域は孤立状態となった。
国土交通省では、本震被災後、直ちに現地入りした国土技術政策総合研究所、土木研究所による技術指導のもと、TEC-FORCE による道路啓開に着手した。
その結果、阿蘇地域周辺では、本震から2日後の4月18日には、「ミルクロード」の道路啓開を完了し、4トン未満の車両について交通を開放し、阿蘇市と熊本市方面の行き来が可能となり、4月22日には大型車も通行が可能となり、国道57号及び国道325号阿蘇大橋の迂回路を確保してきたところである。
さらに同日22日には熊本市街から阿蘇地域への東西軸の一つである「グリーンロード南阿蘇」の道路啓開を完了し、熊本都市圏から南阿蘇方面への大型車による物資輸送の東西軸を回復することができた。
このように、被災から2週間後には応急復旧を概ね完了し、広域の迂回路を確保したところだが、国道57号、国道325号、また県道28号熊本高森線は、熊本都市圏と大分都市圏・宮崎県北地域を結ぶ大動脈であるとともに、阿蘇地域における生活、物流を担い、主要産業である観光を支える道路として早急に復旧する必要があった。
3.主な道路の被害と復旧状況
(1)阿蘇大橋地区(国道57号)
今回、最も被害の大きかった国道57号と国道325号の阿蘇大橋地区では、阿蘇火砕流堆積物と阿蘇火山噴出物からなる斜面の大規模崩落が発生した。
国道57号の被害状況は大量の土砂が崩落し、JRの線路等が並走する黒川に押し流され、国道57号、国道325号は、現在も通行止めとなっている。
このうち国道57号については、復旧に相当の期間を要することから、現道の北側に別ルートで整備することとした。地域の方から幅広く意見を頂いた上で、7月6日, 大津町から阿蘇市に至る約13㎞の別線となる北側復旧ルートを公表した。
現在、トンネル本体工事の発注手続きや現地測量、用地買収を進めるとともに、工事用進入路の工事を進めているところである。
なお、国道57号現道部については、斜面崩壊部下の有人施工のための安全対策が完了したことから、斜面崩壊部下の地質調査に着手し、更に必要な調査・検討を進めているところである。
(2)阿蘇大橋地区(国道325号)
今回の地震では、高度な技術が必要である箇所や甚大な被害が生じている箇所があるため、国による直轄事業として災害復旧の代行を実施することとした。
阿蘇大橋地区の国道325号は、大分側から熊本に入るシンボルとなっていた阿蘇大橋が落橋した。熊本県が管理している補助国道であるが、活断層に隣接しており、深い谷間に架橋すること等から、復旧には高度な技術を要するため、道路法の規定に基づき、直轄代行事業として実施することを5月9日に決定した。
阿蘇大橋の復旧位置については、有識者からなる「国道325号ルート・構造に関する技術検討会」による検討の結果、断層を避け約600m下流側へ移動し、新たに橋長約350mの橋梁を新設することとなり、7月29日に架け替え位置及び橋種等を公表した。橋種については、施工が速く、安全性の高いPC3径間ラーメン箱桁橋に決定した。
現在、阿蘇大橋の準備工として脆弱な斜面の崩壊に対する抑止対策工事を進めているところであり、用地買収に向けた手続きや阿蘇大橋の本体工事の発注手続きを進めているところである。
(3)俵山トンネルルート・長陽大橋ルート(県道熊本高森線、村道栃の木~立野線)
5月10日、熊本地震を大規模災害復興法の定める「非常災害」に指定する政令が閣議決定され、国が復興対策本部を設置できる「特定大規模災害」に次ぐ「非常災害」に位置付けられた。
これにより、都道府県や市町村の要請に応じて、国が道路等の災害復旧事業を代行できることとなり、5月13日、熊本県及び南阿蘇村からの要請により、俵山トンネル等を含む県道熊本高森線及び阿蘇長陽大橋を含む南阿蘇村の村道栃の木~立野線を直轄代行事業として実施することを決定した。
大規模災害復興法は、東日本大震災を受けて、復興事業における国と自治体の役割分担等を定めたものであり、平成25年6月の施行以来、初めての適用となった。
指定された区問のうち, 特に被災規模が大きかったのは、県道熊本高森線の俵山トンネルの覆工コンクリートの崩落や、桑鶴大橋のケーブルの損傷、及び阿蘇長陽大橋の橋台の損傷等である。
俵山トンネルルート(県道熊本高森線)については、6月末からトンネル補修工事に着手し、平成28年12月24日には、村道等を活用した、熊本市と南阿蘇を結ぶ東西方向の交通を確保することができた。また、旧村道等を活用した区間には、被災した橋梁が6 橋あり、このうち5橋については既に補修工事に着手しているところであり、残る1橋についても補修工法が確定次第、工事着手する予定である。
長陽大橋ルート(村道栃の木~立野線)の阿蘇長陽大橋は、既存の橋梁は残っているものの、両側の橋台がともに損傷しており、橋脚及び上部工についても亀裂等が生じた。また、戸下大橋は一部区間が崩落により落橋した。さらに、路線周辺ののり面も、大規模な崩落及び不安定化が生じており、被害は甚大な状況である。
これまで専門家による現地診断を行い、復旧方法の検討行っており、診断・検討の結果、阿蘇長陽大橋は補修によって応急復旧することとし、現在のり面の復旧工事を進めており、平成29年夏を目標に応急復旧による開通を目指しているところである。
4.おわりに
熊本地震から約1年経過し、阿蘇地域一帯の道路が寸断され、これまで住民生活、産業・観光、農産物輸送などにおいて多大なる影響が生じている。今回被災を受けた道路は阿蘇地域のみならず、九州においても非常に重要な道路であり、今後とも一日も早い地域の復旧・復興に向け、取り組んで参りたい。
最後に地震発生後からの応急復旧、啓開作業、現在の復旧工事など、一連の震災復旧対応にあたって頂いている工事・コンサル関係企業の皆様、また地震対策への様々な技術指導を頂いている専門家の皆様に感謝の意を表したい。