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コスト構造改革における新技術の活用効果

国土交通省 九州地方整備局
 九州技術事務所 建設専門官
児 玉 幸 三

(前)国土交通省 九州地方整備局
 九州技術事務所 技術開発対策官
国土交通省 九州地方整備局
 佐伯河川国道事務所 副所長
原 薗 良 和

1.はじめに
平成3年のバブル崩壊以降,社会経済情勢は険しさを増しており,建設行政に携わる関係者は,そのことを踏まえたより効率的な社会資本整備への取り組を余儀なくされている。平成15年に打ち出された公共事業コスト構造改革プログラムでは,平成19年度迄の5カ年で平成14年度と比較して15%以上のコスト縮減率を達成することとしている。
コスト縮減にあたっては,新技術の活用が不可欠であり,活用→調査→コスト分析→評価の流れで確立する良質な新技術を実務にフィードバックすることが重要である。この視点に沿って,九州地方整備局,九州技術事務所では,幾つかの支援施策を実施してきた。
今回,九州地方整備局がこれまでに行った新技術活用推進支援の内容,並びに新技術によるコス卜縮減効果について取りまとめたので,検討すべき課題をまじえここに紹介する。

2.九州地方整備局における新技術活用状況
国土交通省では,平成10年から新技術の活用推進に向けてNETIS(新技術情報提供システム)を運用してきた。表ー1は,九州地方整備局における新技術活用件数(以下活用数とする)と活用調査報告書(以下報告書とする)提出数の推移を示している。活用数は,平成14年度以降飛躍的に増加しており,それとともに報告書提出も年々早くなってきている。すなわち,まずは活用してみようとの考え方に沿って九州技術事務所が,積極的に動き出した結果である。
なお,この表では活用数が平成14年に大幅増加しているが,報告書提出数は翌15年から増加している。この1年の差は,後述する巡回相談のスタート時期に関係するものと思われる。
いずれにしろ,活用数,報告書提出数ともに,ここ数年確実に増加されている。
報告書は,新技術評価委員会が新技術の評価に用いる資料であり,コスト構造改革推進に対しても大きな役割を担っている。そのためには,品質の確かな報告書作成が必要となり,九州技術事務所としても適切な対応が求められた。

3.九州地方整備局における新しい試み
(1)技術支援項目
前節で,九州に於ける新技術の活用数,報告書提出件数が飛躍的に増加したことを述べたが,そこに至るまでには,発注事務所の積極的な取り組みと,九州地方整備局と九州技術事務所が一体となった地道な努力の積み重ねがあった。平成14年度からは,九州技術事務所の担当者が各事務所に支援体制を直接説明して回り,工法抽出や施工歩掛作成に積極的にかかわった。平成15年度からは,工法抽出,施工歩掛作成,従来工法選定,経済性の計4項目についての技術支援を実施している。なお,従来工法とは,対象工事において新技術の比較対照となる従来技術のことである。実務のフローを図ー1に示す。

(2)活用調査報告書記載内容の向上
一方,報告書については,早期の提出が多くはない状況であり,記載内容についても完成度が十分でないものが目立つ状態であった。特に経済性に関する記入の不統一性があった。先に述べたように,コスト構造改革を推進するためのデータに資するには,より精度が高い評価内容が必要である。特に,活用した現場の担当者(発注者,受注者双方)で確認した的確な活用後評価が要求される。
そこで九州技術事務所では,各事務所に対する巡回相談を平成15年度より本格的にスタートした。内容としては,これまでに行ってきた4項目の技術支援のほかに,「活用→調査→コスト分析→評価」と流れるシステムの説明や活用後評価の重要性認識の向上,活用調査報告書記入内容の充実等である。
巡回を整理して一覧化したものが表ー2である。

図ー2は,調査報告書記載内容に関する完成度の変遷を示している。報告書の記載内容のうち,主に①未記入②経済性③工程の3種類に対する完成度について整理した。平成16年度の最終結果は出ていないが,途中に行われた評価委員会,九州技術事務所内報告会の段階では徐々に完成度が高い内容に近づきつつあることが分かる。

4.従来工法の検討と新技術によるコス卜縮減
(1)従来工法の選定
報告書に載せる評価対象分野は,経済性,工程,品質・出来形,安全性,施工性,環境の6分野である。九州技術事務所は,これら6分野の評価に一番影響をもたらす「従来工法の検討」を技術支援の最優先事項と位罹付け,新技術工種の施工前のフィードバックを原則とした。このため,九州技術事務所では,「九州地方整備局内では従来工法の選定や経済比較を同一的な視点で検討する」ことを前提に,副所長以下のメンバーで構成する従来工法検討委員会を設置した。従来工法が異なれば,経済性等の比較結果に差が生じる可能性がある。そこで,表ー3に示す従来工法の定義と設定方法を確認し,事務所内の経験者の意見を踏まえ慎重に検討した。写真ー1は検討会の状況である。

(2)コスト縮減額算定の基本方針
従来工法に関しては,表ー3の定義に従い標準歩掛を適用することを基本とし,新技術のコストに関しては開発者側の提出歩掛をベースとした事務所価格を使用した。すなわち,コスト縮減の算定は発注者側の積算体系で整理したものである。図ー3に,九州技術事務所が提案した従来工法と新技術のコスト縮減率算定フローを,図ー4にコスト縮減率の定義を示す。このフローで算定される金額は,あくまで暫定的な縮減額である。

(3)コスト縮減分析
平成15年度の九州地方整備局発注登録総工事数は1,951件,新技術活用工事件数は372件,のべ活用技術数にして490件であった。新技術の活用指数(活用工事件数/総工事件数)は19%となる。490件(平成15年度実施計画書提出件数)の内,事務所がコスト縮減を目指して新技術を活用した156技術(のべ)についてコスト縮減の効果を図ー3に基づき確認した結果,116技術(のべ)において約14億のコスト縮減がみられた。つまり,従来工法で算定すれば約260億円の費用が見込まれるのに対して,新技術を活用すれば約246億円で施工できることが確認された。

以上の数値は推定によるものであるが,新技術の採用がコスト縮減に大きく寄与することを十分に示唆している。

4.結 論
平成15年度までに九州地方整備局が行った新技術活用推進支援,並びにコスト縮減効果について紹介したが,以下に示すような結果が判明した。
(1)平成14年度以降,九州における新技術の活用数は飛躍的に伸びており,平成16年度は551件に上る。活用調査報告書の提出数も活用数に準じて増加している。
(2)活用調査報告書の完成度が高いものに徐々に近づきつつある。これは,九州技術事務所による巡回相談も成果に寄与しているものと思われる。
(3)従来工法の定義と設定方法の明確化,並びに従来工法検討会の設立により,整備局内での従来工法選定や経済比較を統一的な視点で検討することが可能となった。
(4)平成15年度に九州地方整備局内で活用されコスト縮減を目指した新技術に関して,縮減額は約14億円となり,縮減率は約5%に達する。
以上が今回の取りまとめの結果であるが,重要なポイントは,新技術との比較のための適切な従来工法が選定できるか,如何にして新技術を正確に評価し現場にフィードバックするか,の二点である。
経済性や安全性など,新技術の価値を定める要素は,すべて従来工法との適切な比較から判断される。特に,工事担当事務所が判断材料として重視する経済性等を精度よく推定するためには,従来工法の選定が重要な課題となる。また,新技術の評価は,現場での活用前にある程度行われるが,あくまで推定である。安心して使用できる技術として定着させるためには,活用後の効果を正確に評価することが絶対に不可欠となる。
九州地方整備局と九州技術事務所は,この二点に主眼を置き,現場が必要とする新技術の活用推進支援を目指しているが,今後はイニシャルコストだけでなく,ランニングコスト,環境コストなどを視野に入れた評価が望まれるものと思われる。

5.おわりに
平成10年にスタートしたNETISは,各地方整備局においてその運用,管理に工夫がなされ,よりよいものへと改善が進みつつある。平成17年度からは,新たな技術活用システムとして大幅に改善され,評価試行に重点を置いたシステムとなっている。この新システムにより,九州技術事務所のこれまでの活動を通じで洗い出された問題点が改善され,新技術の活用がよりいっそう促進されることが大いに期待される。

謝辞:本支援に際して多大な協力を賜った,本局企画部ならびに各事務所の関係各位に感謝の意を表します。

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