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無人化施工技術等及び土石流・溶岩ドーム監視技術の変化
~雲仙砂防事業のこれまでとこれから~
西島純一郎

キーワード:無人化施工、土石流監視、溶岩ドーム挙動観測

1.はじめに
平成2 年11 月に噴火した雲仙普賢岳の火山活動は、周辺地域の生活や経済活動に甚大な被害を与え、死者行方不明者44 名を出すまでに至った。そこで平成5 年に「雲仙復興工事事務所(当時)」が新設され、噴火災害により被害を受けた地域の安全を確保し、地域の早期復興に貢献するため、砂防堰堤・導流堤等の砂防施設整備を進めてきた。
事務所創設当初は、土石流の影響を受ける地域での除石工事が急務であったが、施工においては、火砕流・土石流が多発する危険な区域での施工となるため、同年7 月に無人化施工(遠隔操作)の技術提案を「試験フィールド制度」で公募を行い、選定された技術をもとにした試験施工を経て、本格的に無人化施工技術を導入することとなった。当初は、除石工事への適用のみであったが、技術開発が進み、水無川1 号砂防堰堤など構造物構築においても無人化施工技術が導入され、その後も先進的なICT 技術を取り入れて、技術の高度化が図られてきた。
また、雲仙・普賢岳の噴火活動は現在終息しているが、山頂から裾野にかけて1億7千万m3にもなる未固結状態の火山堆積物が厚く堆積しており、山頂には1億m3の溶岩ドームと称される巨大岩塊群が不安定な状態で存在している。この溶岩ドームの挙動観測については、砂防工事の安全対策として平成9 年から観測しており、観測開始から現在(令和元年5 月)まで約1.3m 東側へ移動しており崩壊等の危険性が懸念されている。学識者を交えた委員会により溶岩ドーム崩壊時の周辺区域への被害の可能性が示されるとともに、溶岩ドームの挙動について、継続的な調査・観測が必要であること、発生可能性が高い災害に対して事前にハード対策を行うこと、並びに関係機関が連携して災害対策を行う事が重要であることが示された。これを受け、光波測距やGB - SAR(地上配置型合成開口レーダー)等を用いた挙動観測、航空レーザー測量による差分解析など、今では様々な技術を応用した挙動観測を実施している。
このように、平成5 年からスタートした雲仙砂防事業で開発、進化してきた技術のこれまでとこれからを以下に記述する。

2.無人化施工技術
2.1 危険区域での有人施工技術
平成5 年の事務所発足当時、土石流災害の拡大を防止するための緊急応急対策が求められており、施工中の安全を確保しながら作業を実施できるシステムの確立が急務であった。
そこで、監視員が常駐する監視所を設置し、気象台や自衛隊などからのリアルタイムの情報とあわせ、火砕流発生を確認した場合や降雨による土石流発生の可能性がある場合に、スピーカーやフラッシュライト、無線等により作業員に退避を指示するとともに、工事の事前中止の判断を行うシステムを構築した。このシステムは、火砕流の心配がなくなった今日でも溶岩ドーム崩壊の監視等を含め、当事務所の安全管理システムの一部として継続運用している。

2.2 無人化施工技術の導入
雲仙・普賢岳の活発な噴火活動により火砕流・土石流が頻発する状況での緊急応急対策は危険を伴うが、周辺の町への被害を最小限にするにはどうするかが大きな課題であった。そのような火砕流等の危険がある区域内でも安全に土石流堆積物を掘削・運搬できる技術を民間から公募し、試験フィールド制度を利用して技術の有用性を確認した。これにより、平成6 年10 月より本格的な無人化施工技術を適用した工事がスタートした(図

- 1、写真- 2)。

2.3 無人化施工技術の発展
その後、水無川流域での基幹施設となる水無川1 号砂防堰堤建設に着手し、本体部において世界で初めての無人化施工によるコンクリート打設が実施された。通常のコンクリートに比べて流動性が非常に低い超硬練コンクリートを使用して構造物を構築するRCC 工法、また袖部には現地の火山堆積物にセメントを添加混合した材料を締め固めて構造物を構築するCSG 工法が新たに開発された。いずれの工法も所要の品質強度を十分に確保することが確認され、完成から約20 年経過した今でも目立った劣化や損傷は見られず、その有用性は保たれている。
これを契機に無人化施工技術は飛躍的な発展を遂げることとなり、土砂掘削運搬だけでなく、当時最先端のGPS 技術を応用した無人測量機などが開発され、測量から施工、出来形管理など工事における大部分に無人化施工技術を導入するに至った。また、水無川2 号砂防堰堤での大型コンクリートブロック型枠の無人化施工をはじめ、鋼製スリットや根固ブロック、アーチカルバート設置など様々な構造物構築における無人化施工に発展していくこととなった(写真- 3)。

これら建設機械の発展にあわせ、通信技術においても技術開発が進んだ(表- 1)。当初の通信は機械制御用に特定小電力無線、カメラ画像伝送用に50GHZ 帯の簡易無線を主に使用していたが、状況によっては混信しやすく、同時に操作できる機械台数も限られたものであり、実用上の到達距離も300m 以下と短いものであった。現在は無線LAN 技術による制御が主流となるなど、無線技術においてもより高度な技術が導入されてきた。
さらに、平成23 年度には、長距離無線LANや人工衛星(操作系の通信に限定)を使用した実証実験をおこない、約80㎞離れた長崎河川国道事務所からの光ファイバーを使用した超遠隔操作実験も実施するなど、より遠隔から操作する技術の開発にも取り組んできた。

2.4 情報化施工と無人化施工
無人化施工は、現地からの画像をもとに遠隔操作するため、その支援システムとして早い段階から様々なICT 技術が導入されてきた。
3 次元バックホウ誘導システム(マシンガイダンス、マシンコントロール)はバックホウにGPSや角度センサーなどの各種センサーを設置、位置や姿勢などの3 次元データを取得し、あらかじめ入力しておいた3 次元設計データにリアルタイムでバケットの位置を合成、オペレーターがモニターを見ながら丁張りがなくとも正確な出来形を整形できる、もしくは機械そのものをコントロールするシステムであり、これによりオペレーターの経験や技術に頼らず、均一で高い品質の出来形を取得できるものである。
また、現在では、ドローンなどを活用した出来形管理システムの採用により、より高精度の測定を効率的に行うことが可能となった。
このように、各種センサーの精度向上やパソコンなどの情報処理能力向上、よりリアルタイムで大容量の通信技術を応用し、無人化施工技術はさらに進化している。

3.土石流・溶岩ドーム監視技術
事務所発足当初より砂防堰堤や導流堤等の砂防工事を進めると同時に施工中の安全確保や砂防計画への反映のために、土石流と溶岩ドーム崩壊の双方を監視するシステムを構築している。

3.1 監視カメラと光ケーブルネットワーク
通常、土石流などの土砂移動現象の発生を検知するには、比較的簡易に設置可能で安価であるワイヤーセンサーや振動センサー、降雨を検知する雨量計などを設置することが多く、日本全国でこれらセンサーによる土石流検知が進められており、雲仙・普賢岳においても、平成3 年に最初のワイヤーセンサーが設置された。
しかし、水無川上流域の大部分が警戒区域に設定され、ワイヤーセンサーの張り替えが容易に出来ないことや、当時頻発していた火砕流によりセンサー本体等が破壊されることもあり、影響のない場所に設置した監視カメラによる監視が重要であった。この監視カメラは、土石流の氾濫や被害の様子も確認でき、火砕流の発生や溶岩ドームの小崩落等の変状も直接確認できる利点がある。監視カメラは溶岩ドームの東方向を中心に設置されており、その一部は最新の高解像度カメラで、3㎞以上離れた箇所からでも高解像の映像を得ることが出来るようになっている。
また、これら各種センサーの観測データや監視カメラの画像データは光ケーブルネットワーク(図- 2 黒線部)に接続され、雲仙復興事務所の防災室においてリアルタイムで確認すると同時に、地元ケーブルテレビへ配信するなど一般市民向け情報提供を行っている。

3.2  振動センサー、雨量計による異常検知技術
土石流発生時の降雨状況を正確に捉えることは、警戒避難基準等を検討するためにも重要である。そのため、国土交通省の広域雨量レーダーに加えて、雨量計を国、気象庁、長崎県など各機関が島原半島各所に設置し、相互に情報提供する雨量監視網を構築している。
振動センサーは、当初は土石流や火砕流の発生そのものを検知する目的で設置しており、現在でも水無川流域、中尾川流域に全7箇所設置している。
振動センサーの観測データは振動波形で表されるが、これまでのデータ解析により、土石流の場合の波形、溶岩ドームの小崩落の場合の波形等、ある程度現象ごとの波形の傾向が分かっている。
図- 3 の中段は、平成28 年6 月発生の土石流において観測された振動センサーの振動波形、同じく図- 3 の上段は平成28 年11 月に発生した溶岩ドームの小崩落において観測された振動波形である。これを見ると、土石流の場合は、比較的長い時間振動が継続するとともに、増幅部と減衰部のデータが比較的緩やかに変化している。これと比較して、小崩落発生時の波形データでは、土石流の波形よりも比較的短い時間で増幅減衰を行うとともに、特に増幅時の変化が比較的急激であることがわかる。
振動センサーが一定規模以上の振動を検知した時には、情報配信システムから事務所職員にアラートメールが送信されるようになっているが、その際にこの波形を確認して現象種別を判断する際の参考としている。

3.3 溶岩ドームの挙動観測
溶岩ドームの挙動観測手法については、学識者を交えた委員会において、観測内容や監視基準(溶岩ドームの監視を強化し、溶岩ドーム崩壊の危険性判定を開始する基準)を決定した。この決定を踏まえ、現在は溶岩ドームの常時観測として光波観測、GB-SAR、振動センサー、震度計、センサーネット傾斜計、光ワイヤーセンサー、雨量計の7 種類を設置しており、これに加えて定期的に上空からのレーザー測量を行って挙動を監視している。このうち、光波観測およびGB-SAR の結果について下記に示す。

3.3.1 光波観測
光波による観測は平成9 年から継続しており、反射プリズムをヘリコプターにより溶岩ドーム上に設置し、山麓の2 箇所(大野木場、天狗山)からの距離と角度の変化を光波測距儀により常時計測している(図- 4(上))。現在では8 基のプリズムで観測している。最も長い平成9 年から観測しているP8 プリズムでは観測開始から現在まで約1.3m 東南東方向へ移動している(図- 4(下))。平成9 年からの変化量を年換算した場合、約60mm/ 年である。平成30 年の年変化量は約30mm/ 年、令和元年の年換算変化量が約50mm/ 年であることから、観測開始からの年換算変化量よりはやや小さいものの、近年も移動し続けていることがわかる。

3.3.2 GB-SAR(地上設置型合成開口レーダー)
GB-SAR は、地上型の合成開口レーダー装置であり、基本原理は衛星を用いた合成開口レーダーと同様に対象物に向けて照射した電磁波と対象物から反射した電磁波の位相差より対象物表面の変位を求めるもので、ある程度の雲は影響を受けずに観測が出来る。水無川上流部に機器を設置して平成23 年に観測を開始し、現在も観測を続けている。
GB-SAR によって得られるデータは、観測範囲を面的にとらえ、画像として表現される。
得られた画像データのなかで、特に注視すべき箇所は図- 5 に示す、外縁部の「A4-3」「M1」「M2-4」「M2-1to3」「Dome1」であり、各観測結果を図- 5(下)に示す。これによると、年間30 ~ 40mm 程度の変位が認められる。

4.これからの技術発展にむけて
4.1 最先端技術開発へのフィールド提供
近年、自律走行技術やドローン等による遠隔調査技術が飛躍的に進歩しており、砂防事業においても無人化施工技術や施設の維持管理技術への応用が期待されている。平成29 年度は半水中形クローラダンプの遠隔操作と自律走行の実証実験や立ち入り制限区域内での火山堆積物の遠隔センシング技術の実証実験が当事務所の事業区域内で実施された。
クローラダンプの自律走行実証実験は、近年の豪雨災害で浸水被害箇所での応急復旧や水際・半水中部での災害対応が喫緊の課題となっていることから、「次世代無人化施工技術」として産・官・学共同で開発を進めているものであり、実証実験で得られた結果をもとに、さらなる技術開発が進められることが期待されている(写真- 6)。

また、火山堆積物の遠隔センシング技術実証実験については、火山噴火時の高精細な土石流発生予測には火口周辺の堆積物の状況を詳細に把握する必要があり、人が立ち入ることができないことから、ドローンからサンプリングロボットを投入・回収することで遠隔操作でのセンシングを行う技術の開発が進められている。この実証実験により、その技術の有用性が確認された。
さらに、平成30 年度からは砂防施設の安全かつ効率的な点検を実施するための実証実験が行われている。これは、ドローンが自律飛行しながら自動巡回により施設点検を行うものであり、これまでは険しい山間部にあることが多い砂防施設を遠隔で効率的に点検を実施すべく進められているものであり、この実験により様々な評価を行い、今後の技術開発や制度設計に反映させる予定である(写真-7)

4.2 「UNZEN」ロゴマークによるPR
「モニター画面を見ながら遠隔操作で建設機械を操作する技術」として当事務所で発展・進化していった無人化施工技術は、現在も東日本大震災での福島原発災害対応や熊本地震での法面崩壊危険箇所など、二次災害が懸念される環境での応急復旧作業で活躍しており、日本各地での災害復旧に欠かせない技術となっている。
そこで、当事務所が存在する雲仙という地域を無人化施工技術発祥の地として国内外にアピールするために「UNZEN」をモチーフとしたロゴマークを作成、現場で稼働する建設重機に取り付けてPR を展開している(写真- 8)。

5.終わりに
雲仙・普賢岳の噴火開始から約30 年がたち、平成から令和へと時代が移るなかで、警戒区域内における無人化施工技術は、工事従事者の安全管理に資する技術としてその時代の最先端技術を取り入れながら発展・進化してきている。今回紹介した技術においても簡潔に記したが、実際は諸先輩方の並々ならぬ苦労と工夫があったからこそここまで発展してくることができ、工事従事者のみならず、周辺の住民の安全安心にも寄与していることは特筆すべきである。これからも、当事務所で長年にわたり蓄積された知識や技術をもとに、平成噴火によって形成され、今なお変化し続けている平成新山とその山麓をフィールドとして、無人化施工をはじめとするさらなる技術開発や地域防災力向上の取組などを支援していくことができると思う。

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