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九州における既存ダムの洪水調節機能強化に向けて
~関係省庁の密接な連携~

国土交通省 九州地方整備局 
 河川部 低潮線保全官 
島元尚徳

キーワード:水害の激甚化、既存ダムの有効活用、関係省庁間の連携

1.はじめに
令和元年台風19号では、東日本を中心とした記録的な豪雨により、各地で甚大な被害が発生した。国土交通省所管のダムでは146ダムで洪水調節を実施し下流域の浸水被害の軽減を図ったところである。一方でそのうち6ダムについては洪水調節容量を使い切る見込みとなり、ダムへの流入量と放流量を同程度とする異常洪水時防災操作へ移行するものとなった。
ダムによる洪水調節は、下流の全川にわたって水位を低下させ、堤防の越水や決壊リスクを低減するのに加え、内水被害やバックウォーターの影響の軽減さらに、洪水のピークを遅らせることで沿川住民の避難に要する時間の確保など有効な治水対策として位置づけられている。ダムの早期整備やかさ上げ等のダム再生の実施などのハード対策を鋭意行っているところであるが、ダムの新設には長期の期間を要すること、また良好なダムサイトには限界があることなどもあり、利水容量の洪水調節への活用や緊急時における都道府県管理ダムや利水ダムを含めた統合運用、事前放流などのソフト対策は効果的な対策である。

2.既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議
現在稼働しているダムは全国に1460箇所で約180億m3の有効貯水容量を有するが、水力発電、農業用水等の多目的で整備されていることから、洪水調節のための貯水容量は3割の約54億m3にとどまっている。
このような中、令和元年台風19号等を踏まえ、水害の激甚化、治水対策の緊要性、ダム整備の地理的な制約等を勘案し、緊急時において既存ダムの有効貯水容量を洪水調節に最大限活用できるよう、内閣府、国土交通省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、資源エネルギー庁などの関係行政省庁の密接な連携の下、総合的な検討を行うため、「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」が令和元年11月に設置された。その後、必要な措置として「基本方針」を12月に定め、国管理の一級水系について令和2年の出水期から新たな運用を開始した。

3.治水協定の締結について
基本方針に基づき、河川管理者である国土交通省(地方整備局等)と全てのダム管理者及び関係利水者(ダムに権利を有する者)との間において、水系毎に「協議の場」を設け、ダム管理者及び関係利水者の理解を得て、令和2年5月までにダムが存在する全ての水系(99水系)で治水協定の合意を得た。
これにより、全国の955のダムで約46億m3の洪水調節容量に約45億m3の洪水調節可能容量を加え、約2倍の91億m3に増やすことができた。
<治水協定の主な内容>
○洪水調節機能強化の基本方針
・水害発生が予想される際における洪水調節容量と洪水調節に利用可能な利水容量(洪水調節可能容量)
・時期ごとの貯水位運用の考え方
○事前放流の実施方針
・事前放流の実施判断の条件(降雨量等)
・事前放流の量(水位低下量)の考え方
○緊急時の連絡体制
・河川管理者、ダム管理者、関係利水者及び関係地方公共団体の間で、洪水中にも即時・直接に連絡を取れる体制の構築
○情報共有のあり方
・河川管理者、ダム管理者、関係利水者及び関係地方公共団体の間で、共有する情報(降雨予測、ダムの水位・流入量・放流量、下流河川の水位、避難に係る発令状況等)及びその共有方法
○事前放流等により深刻な水不足が生じないようにするための措置がある場合にはその内容(水系内での弾力的な水の融通方法等)
○洪水調節機能の強化のための施設改良が必要な場合の対応

九州では、白川を除く19水系において、国土交通省所管ダム及び河川法第26条の許可を受けて設置された利水ダムの計107のダムで4.7億m3の洪水調節容量に2.7億m3の洪水調節可能容量を加え、約6割増しの7.4億m3に増やすことができた。
協定締結に関係いただいた機関は106機関になる。

4.事前放流の実施方針について
気象庁の「台風に関する気象情報(全般台風情報)」「大雨に関する全般気象情報」などが発表された場合に、河川管理者である国土交通省からダム管理者にその旨を情報提供する。その情報を受けてダム管理者は、降雨予測システムにアクセスし、ダム毎の上流域の予測降雨量がダム毎に設定された「基準降雨量」以上になった場合に、ダム上流域における予測降雨量が流出してダム貯水池に流入するものとし、ダム貯水池へ流入する総量を算定する。その結果から、これからの洪水時の放流等によるダムからの放流の総量を減じるとともに、予測時点の空き容量がある場合にはこれも減じた上で、その総量をダムの貯水位に換算して貯水位低下量を定め、事前放流を実施する。
事前放流は、治水協定に位置づけられた「洪水調節可能容量」を活用し、その容量の範囲において実施する。

※基準降雨量とは、当該ダム下流の河川における現況の流下能力に相当する規模の洪水を設定し算定するもので、上流の流域面積の大きさを考慮した降雨継続時間での任意の年超過確率規模相当の降雨量を基に設定された値。
※洪水調節可能容量とは、台風等の3日前から低下させて確保できる容量であり、各ダムの既設の洪水吐きゲートの能力等を基に設定された値。

5.事前放流後に水位が回復しなかった場合の対応について
事前放流の実施後、低下させた貯水位が回復せずダムからの補給による水利用が困難となるおそれが生じた場合、河川管理者は水利用の調整に関して関係利水者の相談に応じ、必要な情報を提供し関係者間の水利用の調整が円滑に行われるように努める。関係利水者は、渇水調整協議会等において弾力的な水融通の方法を協議する。なお、事前放流に使用した利水容量等が回復しないことに起因して、従前の機能が著しく低下し、かつ降雨予測と実績とに著しく相違が生じたことに合理的理由がある場合、機能回復のために要した措置等について、利水事業者の申し出に基づき、協議の上、必要な費用を負担する損失の補填制度を充てることができるものとしている。

6.洪水調節機能の強化のための施設改良が必要な場合の対応について
効果的な事前放流を行う上で、放流設備の放流能力が小さく制限がある等の場合に、施設改良をすることにより洪水調節機能強化に一定の効果が認められるダムについて、河川管理者とダム管理者及び関係利水者が協働し、必要な対応を進めていく。

7.おわりに
これまでのダムの事前放流は、降雨解析などにより確実に容量回復が見込まれる容量での活用など、利水の共同事業者に支障を与えない空容量の範囲等で行われ、九州では山国川水系耶馬溪ダムなど、一部のダムで利水者等の理解を得て実施してきたところである。今回は国土交通省所管ダム及び河川法26条の許可を受けて設置された利水ダムを対象に、事前放流を行うための「洪水調節可能容量」や「基準降雨量」、事前放流後に水位が回復しなかった場合の対応など損失補填制度について定められた新たな「事前放流ガイドライン」を基に、関係者等と協議を進め、「治水協定」を締結し、実施するものである。引き続き都道府県管理の二級水系にも展開される予定である。
事前放流は、洪水が予想される前に実施するものであり、早期の段階での体制確保や、まだ河川が平常な水位の状態で実施する場合が想定されることで下流河川の安全の確保、対策などの課題があり、今まで以上に河川管理者、ダム管理者等との情報共有、連携体制の確認、強化は重要となってくる。
また、梅雨前線による大雨と台風による大雨とでは雨の降り方等も異なり、降雨予測の高解像度化、高精度化やダム流入量の効率的・効果的な予測のため、AIを活用した降雨予測、活用等も今後期待されるところである。

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