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川辺川ダム事業における環境対策事例について

建設省川辺川工事事務所
 調査設計課長
光 成 政 和

建設省川辺川工事事務所
 調査設計課 環境対策係長
鶴 本  慎治郎

1 概 要
川辺川ダムは,球磨川水系の右支川,川辺川(熊本県球磨郡相良村大字四浦)に建設を進めている,①洪水調節,②流水の正常な機能の維持,③かんがい,④発電の目的を持つ多目的ダムである。川辺川ダム計画地点は,人吉市上流の球磨川と川辺川合流点から上流約20km地点に位置している(図ー1参照)。

現在,ダム本体工事の準備工事として国道445号,県道村道などの付替道路工事などを実施している。ダム計画地点およびその周辺は豊かな自然を有していることから,自然環境と共生したダムづくりが必要であると考えられ,当工事事務所においては,付替道路工事等の準備工事の段階から環境に配慮した様々な取り組みを実施している(図ー2)。
川辺川ダム事業における環境に配慮した主な実施事例を紹介する。

2 環境巡視員制度の導入
(1)目 的
ダム事業を進めるにあたっては,地域の自然環境に十分配慮する必要がある。
このため事業区域の環境保全や動植物の環境調査のために日常的に事業区域やその周辺を巡視,観察し,なお一層環境に配慮したダム事業を進めるために環境巡視員制度を導入することとし,平成5年6月から実施している。
(2)環境巡視項目
① 事業区域やその周辺における環境調査
a 動物や植物に関する観察,調査を行う。
b 自然環境の保全と創造のために実施した施工箇所を追跡調査する。
② 工事に伴う環境保全状況の巡視
a 動植物に対する配慮
b 工事に伴う濁水の発生の有無
c 工事現場における清潔の保持
d 工事に伴う異常騒音,振動,悪臭,ほこり等の有無
e 工事関係看板等の保全状況
(3)環境巡視員の構成
環境巡視員は,動植物の専門家と土木工事の専門家の2名構成とし,その資格および巡視内容は,次のとおりである。
① 環境巡視員(動植物)
川辺川流域の動植物に関して専門的な知識を有しており,貴重な動植物の識別などが行える者,一週間に2回程度環境巡視を行う。
② 環境巡視員(土木)
2級土木施工管理技士以上の資格を取得後4年以上の実務経験を有する者で自然愛護精神に富む者,原則として,休日を除く毎日巡視を行う。
(4)環境巡視による成果
① 環境調査結果
当工事事務所では,植物(陸上植物,付着藻類),動物(哺乳類,鳥類,爬虫類,両生類,魚類,陸上昆虫類,水生昆虫類,甲殻類,貝類)について,基本計画を策定した昭和51年度から調査を実施してきている。これらの調査結果に加え,環境巡視員による日常的な調査により,平成6年度調査においては,貴重な注目すべき動物6種類を,また,注目すべき植物としては,ダム関連区域の14地域で35種類を確認している。これらの種については環境巡視員やそのほかの学識経験者や専門家の指導を得ながら保護していくこととしている。
また,平成5年の秋には,ヤマセミが付替国道工事の際発生した切土法面に営巣していることが環境巡視員により発見された(写真ー1参照)。
このため,日本鳥類保護連盟地方委員のご指導をいただきながら営巣地周辺を現状のままの状態で保存しながら周辺の緑化を行った。平成6年の春には卵から6羽の雛が孵り無事巣立っていったことが環境巡視員により確認された。本年度においても,ヤマセミの営巣が確認されている。環境巡視状況を(写真ー2)に示す。

また,付替道路擁壁に設置している口径75mmと100mmの2種類の水抜き穴に鳥類が営巣していることが環境巡視員の報告によって確認されている。
このほか,環境の保全と創造のために実施した施工個所についても,環境巡視員により施工後の状況を引き続き観察調査しているが良好な成果が得られており,今後も一層環境に配慮して事業を進めることとしている。なお,このような環境巡視結果は,中間報告という形で報告会を開催し,その結果を一般の方々にも報告している。
② 付替道路計画変更の検討
付替国道の九折瀬地区においては,シダ類を代表として石灰岩地域に特有な貴重な植生が数多く分布していることが,環境巡視員の詳細な調査により確認され,環境巡視員から保全の提案が当工事事務所に対して行われた。
これら貴重な植物を保護するため,付替国道の道路線形を川側に変更し,工法を当初の切土施工から橋梁設置の工法に変更することとし,現在計画変更の作業を行っている。このため,切土施工に伴う地山の掘削を行う必要がなくなり,現状のまま保全することが可能となった。

3 球磨川の貴重な動物手帳の配布
当事務所等が所管するダム関連工事,砂防工事,河川工事等に従事する関係者に「球磨川の貴重な動物手帳」を配布し,球磨川流域に生息している可能性のある貴重な動物の保護に役立てることとしている。
この手帳には,動物の生息場所を絵図で示した上で,一種づつカラーで紹介し,その特徴や見分け方,生息環境分布を簡単に解説している。
また,工事などを行う場合の注意事項や発見した場所の対応などについても説明し,工事関係者が積極的に貴重な動物の保護に努めることとしている。写真ー3に動物手帳の事例を示す。

4 付替道路の設計施工において環境に配慮した事例
(1)深礎工法の採用
① 道路計画
川辺川ダム建設に伴う付替道路延長は,付替国道約15.4km,付替県道約3.7km,付替村道約19.2kmの合計約38kmであり現在60%程度の進捗である。ダムおよび貯水池周辺の地形は急峻であり,このような急峻な山腹斜面に沿って付替道路は計画されている。
② 深礎工法による付替道路建設
川辺川ダム事業において付替道路を図ー3(a)に示すように通常工法で施工すると,地形が急峻であるため掘削に伴う法面が長大化するとともに,地形の掘削土量が多量となることから,道路建設に伴う掘削法面積や掘削土量を極力少なくすることが望まれる。このため,図ー3(b)に示すような深礎工法を採用することとした。このことにより,道路建設に伴う環境への影響を最小限にとどめることができる。
深礎工法は,建設工事費が割高になる傾向があり適用にあたっては,地形・地質条件や動植物等の自然環境などを総合的に評価する必要がある。

(2)緑化計画(グリーンプラン)
ダムおよび貯水池周辺において,地域の植生と調和した緑化を計画的に進めることは重要である。このため,学識経験者の方々などのご指導を得て現時点でのダムサイトおよび貯水池周辺における緑化の指針「川辺川ダムグリーンプラン」を作成した。緑化検討のフローを図ー4に示す。
この「グリーンプラン」は,地域の現状と特性をまとめた上で,緑化の基本的な考え方を示し各ゾーンごとに景観を彩る中心的な木として自生種の中からテーマ木を選定している。さらに緑化の方法について,道路の沿道緑化,残地緑化,および法面緑化に分けて緑化の方針をとりまとめ,具体的な緑化計画を示している。

5 付替道路工事における小動物保護のための工夫事例
付替道路建設において新設の道路が,小動物の生息域を分断しないようにまた,排水側溝に落下しても自力で脱出できるような工夫をしたのでその事例を紹介する。
(1)検討の対象とする小動物
今回保護の対象とした小動物は,次のとおりである。
 ①哺乳類:モグラ・ネズミ類
 ②両生類:イモリ・カエル類
 ③爬虫類:トカゲ・ヘビ類
(2)保護のための工夫
① 横断管
生息域を分断する可能性のある場合は,道路の下に横断管を埋設し,道路通行車両を避けて道路の反対側に移動できるようにした(写真ー4参照)。

② U字型側溝の切り欠き
U字型排水側溝に幅20cm程度の切り欠きを入れ,側溝に落下した小動物が自力で脱出できるように
した(写真ー5参照)。

③ 避難用シェルター
排水側溝の側面に幅20cm,奥行き20cm程度のシェルターを設け,動物の一時的な避難場所とした(写真ー6参照)。

④ 緩傾斜型側溝
掘削法面の小段に設置する排水側溝は,緩傾斜型の側溝とし側溝から簡単に這いあがれるようにした(写真ー7)。

(3)施工場所
以上のような小動物保護のための工夫は,学識経験者のご指導を得ながら小動物の生息分布密度の高い区域を調査し,現在までに7箇所で実施している。今後も必要箇所に設置する予定である。
(4)追跡調査結果
施工後は,環境巡視員等により追跡調査を行い効果を把握している。現在までのところ,横断管に入っているジムグリ(ヘビ)やシェルターに隠れているクツワムシ,ヒキガエル,テントウムシ,ヤマミミズなど,また切り欠き側溝には,ヒキガエル,ゴミムシ類,ヤマミミズなどの利用が確認されている。
今後も追跡調査を行うとともに,設置箇所を増やし,必要に応じて改良も加えていきたいと考えている。

6 鳥と昆虫の広場公園
自然環境とのよりよい調和を図るための取り組みの一環として,付替国道445号の工事により発生した残地(小浜地区:約0.2ha)において,鳥と昆虫の生息環境の創造をめざして「鳥と昆虫の広場公園」を施工したのでその概要を紹介する(写真ー8参照)。

(1)整備の考え方
① 植 栽
当該公園は,鳥や昆虫の生息環境の創造を主な目的としたものであることから,貯水池周辺で確認されている鳥の食餌木としている樹木を,常緑樹,落葉広葉樹を中心に選び出し,四季における花期や果期の時期を考慮の上最終的に樹木を選定し植栽した。
② 施 設
a せせらぎ水路
 鳥の水飲み,水浴,あるいは水辺を好む小動物や植物のための,隣接する渓流から水を引き公園内にせせらぎ水路を作り,小規模ながら自然河道に近づけるように落差工を数箇所設置している。
b 丸太積み
 クワガタなどの昆虫類の発生源や生息用の小空間を提供するため,広葉樹の皮付き幹を約1m程度に積み上げたまま放置している。
c 石積み
 ぐり石を約1m程度の高さに積み上げ,昆虫類の越冬場所や小動物の避難場所としている。
d 堆積場
 地面に穴を堀り,その中に広葉樹の落ち葉を埋め込み,雑多で多様な生態の生息空間としている。
e 砂浴場
 鳥の砂浴場を設置。
f とまり木
 とまり木として樹皮の粗いカシ類の枯れ木を配置した。腐食して,樹木の中に昆虫類が生息することも期待。
(2)施工後の観察調査結果
平成6年6月に完成したこの公園は,完成後約1カ年が経過しつつあるが,環境巡視員の調査によれば次のようなことが明らかとなった。
① せせらぎ水路について
a 小鳥の水浴び,水飲み場としての利用は非常に高い。
b シュレーゲルアオガエル,ヤマアカガエル,カジカの発生を確認。
c イノシシ,シカ等の足跡が確認された事により,これら動物が水飲み場として利用。また,ニホンザルの群が同様に利用している現場を確認。
② 堆積場,小鳥の食餌木について
a カブトムシ幼虫の発生を百個体余確認。
b 冬鳥の餌木利用と周辺鳥類の増加を観察。餌木の木の実であるコムラサキは3月末に完全に食べ尽くされていることを確認。
以上のように数多くの鳥や昆虫などが利用していることが観察され,ほぼ当初の目的は達成されているものと考えられる。また,堆積場にモグラが侵入しカブトムシ等の幼虫が食べられていることが報告されているので,堆積場周辺のネットの張り方を考慮する必要がある。今後も,昆虫類,鳥類の保護保全に大きな成果を期待できる施設等を計画し,自然環境の創造に努めていきたいと考えている。

7 貯水池周辺での巣箱の設置
ダムサイトおよびその周辺の鳥類を保護するため適地に営巣地を確保するとともに,その近傍に実のなる木を植栽するほか餌となる昆虫類が集まるように倒木等の設置をあわせて行い,良好な生息環境の創造を行うこととしている。
昨年の秋,日本鳥類保護連盟地方専門委員のご指導を得ながら,巣箱を製作し,貯水池周辺の適地に巣箱を設置したので事例を紹介する。
(1)対象とした鳥類
わが国では,巣箱に巣をつくる鳥として,スズメ,シジュウカラ,ヤマガラ,ヒガラ,コムクドリ,ムクドリ,コゲラ,アカゲラ,アオゲラ,ブッポウソウ,アイリス,オソドリ,アオバズク,フクロウなどが知られる。
今回は,その中から,ダム周辺に生息している鳥として,シジュウカラ類(シジュウカラ,ヤマガラ,ヒガラ),コゲラ,アオゲラ,ブッポウソウ,アオバズク,オシドリを対象として巣箱を設置することとした。
(2)巣箱の種類,モニタリング調査
巣箱は,利用の対象となる鳥の種類によって異なるため5種類の巣箱を製作し設置した。表ー1に巣箱の種類を,写真ー9に巣箱の事例を示す。また,平成6年度環境巡視員モニタリング調査による,巣箱営巣状況を表ー2に示す。

8 おわりに
川辺川ダム事業においては,昭和51年3月に特定多目的ダム法に基づく基本計画の策定以来,動植物等に関する環境調査を実施し,環境保全方策の一層の充実を図ってきた。紙面の関係で記述できなかったが,道路法面緑化対策,ホタル保全対策,地元樹木を考慮した椿の仮移植等の対策も実施している。
今後この様な方策のもとに自然環境と共生したダムづくりをめざして事業を進めていきたいと考えている。また,このような取り組みが,地域の活性化にも役立つことを念願している。
最後になったが,ご指導いただきました学識者の方々,調査や事業にご協力いただきました地域の皆様方,設計や工事に携わってこられた関係者や諸先輩の方々に心からの謝意を表したい。

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