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安全で潤いのある甲突川を目指して
一激特事業を終えて一

鹿児島県土木部河川課
 技術補佐
徳 永 康 一

1 はじめに
二級河川甲突川は,鹿児島市街地を貫流する都市河川である。
平成5年8月6日の豪雨により下流域では,424ha,約12,000戸の家屋が浸水するなどの未曾有の災害が発生した。これを契機に河川激甚災害対策特別緊急事業(以下,激特事業という)等を導入し,平成10年5月末には700m3/sの河道は概成し,残り護岸工事についても平成11年度には完成する運びとなった。
しかし,工事推進上の大きな課題として,藩政時代に架けられた5つの石橋・・・・・(以下五石橋という)の保存問題と,短期間での河床掘削が及ぼす河川環境への影響等があった。
今回,この誌面をお借りして,石橋の移設保存へ至った経緯と,河川環境復元へ向けての取り組み等について紹介したい。

2 甲突川の概要
甲突川は,鹿児島県の西方に位置する八重山(標高676m)に源を発し,姶良カルデラ等から噴出した火砕流堆積物からなるシラス台地を南下して,途中川田川等の支川を合流しつつ鹿児島市内に入り,市街地を貰流して錦江湾に注ぐ,二級河川である。
(甲突川の流域特性)
◦ 流路延長24㎞で10の支川を持つ。流域は約106km2で葉脈状の形状である。
◦ 河川勾配は,河口から10㎞までが1/800程度で,その上流3㎞区問は急勾配の狭窄部となり,さらに1/200程度の緩やかな勾配が続いて郡山町市街部上流からは,1/50以上となる。
◦ 流域は,ほとんどがシラス台地で,その間折谷を流下して河川網を形成しており,急峻な山地を構成している地域は少ない。
◦ 下流沿川は市街部であり.河道を横断する橋梁も多く幹線道路や路面電車軌道等が通っている。

3 8.6水害の状況とその対応
平成5年鹿児島地方は,5月21日梅雨入りし梅雨前線が南下をはじめた6月13日から本格的に梅雨らしい雨が降りはじめ,7月9日に出された梅雨明け宣言(8月31日に「今年の梅雨明けは,はっきりしない」と修正)までの降雨量は,433㎜に達した。その後9月までの間も降雨が続き6月から9月までの雨量は,2,991㎜で平均降雨量(1,133㎜)の約2.6倍に相当する大きな降雨となっている。
特に,8月5日から8月6日にかけての豪雨は鹿児島市を含み隣接する郡山町を中心とした地域で,鹿児島地方気象台で日雨量259㎜,郡山町役場で384㎜を,また時間雨置は鹿児島地方気象台で56㎜,郡山町役場で99.5㎜を記録している。

この郡山町は,甲突川の上流部に位置しており短時間に多量の雨が降ったことが,鹿児島市街地において約12,000戸の床上,床下浸水を引き起こすとともに,新上しんかん 橋,武之たけの橋の石橋を含む15の橋梁が流出する激甚な災害(以下「8.6災害」という)を発生させた。
そのため県としては,再度災害を防止し早急に治水対策を進めるには,一部川幅の狭い区間の拡幅と,河床を約2m掘り下げることで,8.6災害の洪水流量700m3/sに対応することとし,河口から9.4㎞を激特事業で,上流5.2㎞を河川災害復旧助成事業で,いずれも平成5年度から平成9年度までの5ヶ年間で実施した。
また石橋については,橋脚部の根入れが1.2mと浅く,河床を2m掘削することにより基礎の保全が出来ないこと,また8.6災害で2つの石橋が流出したことから,移設して保存することとした。

4 五石橋の取扱い
甲突川に架かる五石橋は,薩摩藩の城下整備の一環として,河川改修とともに1845(弘化2)年の新上しんかん橋から,西田にしだ橋,高麗こうらい橋,武之たけの橋,玉江たまえ橋の順に毎年1橋ずつ架けられたもので,天保年間の財政改革の成功と,肥後から招かれた名石工岩永三五郎によって架橋が実現した歴史的所産である。また4~5連という規模やその意匠,構造等からみて江戸時代における代表的なアーチ石造橋である。
以来五石橋は,社会環境の変化に伴い,ある時は改変を受け,ある時は論議の対象となりながら,150年間にわたって鹿児島市の発展を支え,市民生活の中に脈々と息づいてきた。
しかし,8.6水害で五石橋のうち,新上橋と武之橋の2橋が流出してしまうという結果を招いた。

(1)8.6災害までの五石橋の取扱い
① 都市交通対策の面から
交通流が河川を横断する時,それに架かる橋梁群に集中することになるが,甲突川は鹿児島市街地を二分する形で存在するため,都市交通対策上から重要な位置を占めている。
また,1992年に県が実施したパーソントリップ調査におけるスクリーンライン交通観測結果を見ると,市街部の甲突川断面での交通量は表ー1のとおりであり,断面全体の交通置の伸びよりも石橋における伸びの方が高くなっている。また同調査では,「甲突川の断面においては,現況の交通容量182千台/日に対し,将来(2010年)の交通需要は355千台/日になることが予想され,今後は通過交通排除および流入交通量の適正な分散に合わせ,平面道路におけるボトルネックの解消を図ることも課題である」としている。
都市交通対策は,市街地や全体的な道路網や適切な交通機関分担によって解決すべきものではあるが,五石橋はその架橋位置から通過交通よりも市街地に起終点を持つ交通が大半を占めていること,石橋の交通容量は4橋合わせても25千台程度であることなどから考えると,都市交通の面からはボトルネックになって,既に社会的寿命がきていたと言える。

② 治水対策の面から
五石橋が架けられた当時の甲突川の治水対策は川幅の統一や護岸の整備,土砂の浚深といった河川改修とともに,超過洪水に対して左岸の城下を守るため,「右岸西田町方面は,洪水を漲らしむる設計なりしかば,家々常に舟筏の用意を為し置けり」というような考え方が採られていた。
しかし,右岸側の宅地化が徐々に進むにつれて,右岸西田,原良地区の遊水地としての機能は消滅し流域全体でも昭和40年頃には,戦前の2倍強の14%程度の市街地率となっている。さらに生活の都市化に伴い,路面舗装の施工や排水路の整備等避けることのできない保水機能の低下も進んでいった。
こうした状況の中で,昭和44年の洪水を契機として年超過確率1/100の洪水流量にあたる1,000m3/sを基本高水流量とする甲突川治水計画が策定されることになる。その計画とは前に述べた甲突川の流域特性から「治水安全度は,河床掘削によりできるだけ確保する必要がある」というものであり,五石橋を治水上のネックとし,永い論争の新たな火種となった。
五石橋をなんとか残せないかという願いは,県民誰しもの思いであり,県においてもあらゆる観点からの治水対策の検討が始められることになる。
そして,支川幸加木川の改修を進めるとともに昭和48年からは,開発行為に対する調整池の設置指導が始められ,昭和50年には「鹿児島市都市河川改修対策協議会」が設置され,昭和お年には400m3/s 河道を確保する段階的な改善に着手するとともに,分水路についての水理模型実験に着手した。
昭和59年同協議会において,水理模型実験の結果として分水路による石橋の現地保存は問題が多いことなどの報告がされ,県議会においても知事が「論議は出尽くしたこと,今の状態では治水対策で問題があることははっきりしている。残すとすればバイパスやダムを造ることになるが莫大な金がかかるので,できるだけ早く悔いのない結論を出したい」旨の答弁をしたことから,石橋論争が再燃する。

(2)8.6水害後の石橋保存の取り組み
石橋の現地保存か,移設保存か,の論議の最中,平成5年8月6日の大災害が発生する。論議の五石橋のうち,新上橋と武之橋が流出したこと,残った3つの石橋についても,径間が狭く根入れが浅いことと,今回の洪水の状況から判断すると現地に残したままでは,今後流出する恐れもあることから,移設して保存することとし,知事も平成7年11月の臨時県議会において「県民の生命と財産を守るため,甲突川の河川改修に当って将来を見据えた抜本的な恒久対策を講じ,一日も早く洪水の危険性を解消するとともに,指定文化財である西田橋の流出を避けるために,安全な場所に移設して保存することが,県に課せられた重大な責務」として災害対策が行政の基本課題であり,石橋保存策としても考えられる中で最善策であるという認識を示した。
石橋の保存に当たっては,その取扱いについて十分留意しつつ,可能な限り創建時に近い形で復元するとともに,広く県民,市民に親しまれるよう文化財にふさわしい移設地の整備を行い,末長く保存活用するという基本理念にたち,現在鹿児島市の北側に位置し,岩永三五郎ゆかりの祇園之洲ぎおんのすにおいて,石橋公園として,県,市合同で整備中である。

5 環境復元対策
(1)甲突川生態系復元調査
前述のとおり,甲突JIIは平成5年8月6日の激甚な災害を契機に緊急かつ確実な治水対策として「短期間に全川的な河床掘削による改変」が行われた。この河川インパクトに対する「河川環境の自然の応答」をモニタリング調査し,「その影響」および「自然な状態での河川環境の復元過程」の状況把握等の調査,解析を行い,その結果を踏まえ,今後のより良い河川環境創出の基礎資料とするため,同調査を平成10年度から平成12年度にかけ実施する。
調査範囲は縦断方向として,短期間に河川改修,河川掘削が進められてきた河口から上流約16㎞の区間とし,横断方向は河川区域を基本とし,陸上生物については河川に隣接する公圏内も含むこととした。
調査項目としては,表ー2に示すとおり水域,および水辺の環境に関わりの深い生物群を中心に行い,あわせて生息環境の状況の調査も行う。

(2)甲突川生態系復元調査検討委員会
調査の実施にあたり,河川環境に係わる専門的立場に立脚し,河川改修インパクトからの河川環境復元過程把握に係わる技術的内容について審議助言し,今後実施される自然環境に配慮した河川整備に資することを目的に設置され,平成11年1月第1回の委員会が開催された。

(3)年次計画

6 おわりに
甲突川の8.6災害時の被災流量700m3/s 対応の河川改修も,石橋の撤去保存(西田橋訴訟),団地造成に伴う県の開発指導(水害訴訟)等数々の問題を残しながらも,平成11年度には完成するが,今後とも各戸貯留の促進,治水ダムの建設,遊水地の設置等総合治水対策に積極的に取り組んでいきたい。
また水害で失われた自然環境は,あまりにも大きいものがあるが,河川改修がほぼ概成した現在,河川環境の整備,復元が今後の課題であることから,「生態系復元調査」を平成10年度より実施し,河川環境に係る専門家からなる「生態系復元調査検討委員会」を設置し,さる平成11年1月に第1回の委員会を開催したところである。今後はその委員会の助言,提言を,既に策定している甲突川水辺環境計画の整備方針に組み入れ,県民,市民が水辺に集い,未来を語れる甲突川として整備していきたい。

参考文献
土木史研究 第17号 自由投稿論文
1)「甲突川五石橋の取り扱いに関する歴史的経緯」長谷場良二 他
2)「甲突川の治水史・流域特性の変化と五石橋」牟田神宗征 他
3)「8.6水害に対する甲突川の治水対策および石橋保存対策」知識博美 他

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