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地すべり地帯における道路切土工の情報化施工
―西九州自動車道(武雄佐世保道路)を例として―

日本道路公団福岡建設局
武雄佐世保道路工事事務所
所長
瀬 在  武 

応用地質(株)九州支社
長崎営業所所長
小 野  仁

応用地質(株)九州支社
地盤防災課
井 出  修

1 はじめに
西九州自動車道(武雄佐世保道路)のⅠ期区間は,長崎県東彼杵郡波佐見町を基点とし,佐世保市大塔町を終点とする延長12.0kmの一般有料道路である(図ー1.1)。

当該道路は,新生代古第三紀杵島層群が広く分布する丘陵地帯を,切土工を主体として通過する道路であり,周辺地域には多くの地すべり跡地が存在することから,切土に伴う地すべりの発生が懸念されていた。
したがって,工事着工に先立って地形図,空中写真を用いた地形解析や地表地質踏査の結果をもとに,地すべり跡地を抽出した。その結果に基づき地すべり跡地と判断される地区や,大きな切土箇所についてはボーリング調査を実施して地質状況を確認した。
しかしながら,工事着工後の初期段階において,地すべり跡地でもない予想もしなかった地区で,切土に伴う岩盤の初生すべりが数箇所で発生した。これらの岩盤すべりは,切土に伴う表層岩盤の緩みによるものだけでなく,応力解放に伴う比較的深部のすべりもみられ,ほとんどが流れ盤を形成している層理面に沿ったものであることが判明した。
事前調査では,このような流れ盤構造が認められても,切土に伴って明らかに地すべりが発生すると予想される箇所を確実に特定し,かつ,その規模を予測することは現在の技術レベルでは困難である。したがって,送電線鉄塔などの重要構造物に近接した3箇所の切土のり面についてのみ事前に対策工を施工し,その他の切土箇所は施工段階で対応することにした。これは,上記3箇所の切土箇所を除いては,既設の重要構造物が存在しないことから,施工段階で十分対処できると判断したことによる。
そのため,比較的良好な岩盤と推定された地区でも,地層が流れ盤を形成している箇所では地中変位の動態観測を行い,変状が大事に至る前に速やかに施工対応できるような情報化施工を行うこととした。
ここに,当該地区の地すべりの特徴などを踏まえて,道路の切土工における情報化施工の事例を報告する。

2 観測方法
動態観測は,切土に伴って発生する地中の変位を早期に正確に測定することに主眼を置き,挿入型の高精度孔内傾斜計を採用した。
高精度孔内傾斜計は,図ー2.1に示したように,ボーリング孔に埋設した4条の溝が付いたアルミケーシングを介して,切土等に伴い地中に発生した徴小な水平変位を正確に測定することができる。
測定器は,孔中に挿入するプローブ,地上部で変位を表示するインジケーターおよびこの両者を接続するケーブルより構成される。プローブの両端には50cmの間隔で車輪が付いており,インジケーターはこの50cm間の水平変位を表示することになる。従って,孔底よりプローブを引き上げながら50cm間隔で測定することにより,孔全体の変位を測定することができる。また,プローブはX,Y2軸のセンサーを内蔵しているため,インジケーターのスイッチを切り換えることにより2方向の変位を読みとることができる。
測定結果は現場で確認し,その結果に基づいて応急対策を即座に判断することが必要であったため,観測データの処理には現場で変位量の計算および図化が可能なフィールドディスクロガーを使用した。

3 施工例Ⅰ
(切土が完了した後2~3週間後に変形が顕在化した例)
ここでは,STA.4付近の南側(下り線)のり面施工について述べる。

3-1 地形・地質
図ー3.1に示したように,本地区は,東西方向に延びる斜面の裾部を切土したが,南側切土のり面の背後には,旧地すべりと思われる崩壊地形が認められた。
地質は,砂岩優勢砂岩・頁岩互層からなる。頁岩は10~30cmの層厚で砂岩層中に分布し,スレーキングしやすい性質を有している。地層の走向・傾斜はN45°E,8~10°NWであり,南側のり面では地層は流れ盤を形成している。
この地区では事前に2箇所のボーリング調査を実施し,地質状況を把握するとともに動態観測に供した。ボーリング調査結果によると,GL-5m以深は棒状コアが採取される新鮮な岩盤である。

3-2 変状状況
当地区の切土工は,昭和61年5月に着手された。当地区では,GL-5m付近の風化部と新鮮部との境界面をすべり面とする変状が予想されたが,観測結果では切土に伴う緩みと判断される程度の徴小な変位が認められただけであった。
しかしながら,図ー3.2および図ー3.3に示したように,切土工がほぼ終了し,跨道橋もほぼ完成した昭和62年3月上旬に,新鮮な岩盤内でわずかにせん断的変位が認められた。この変位はボーリングNo.8のGL-14.5m付近で確認され変位量は2~3mmであった。その後はほぼ毎日観測を行い変位の進行状況を把握することとしたが,図ー3.2に示したように,変位の進行は認められなかった。3月中旬の降雨によって,No.8孔では3月20日以降変位が徐々に進行しはじめ,押え盛土を施工する直前にはその変位量はGL-14.5m付近で約8mmに達していた。測定された変位の方向は本線方向であり,図ー3.1に示した旧地すべりブロックとは無関係の初生の岩盤すべりであった。すべり面は,図ー3.3に示したように,法肩より約17m山側の地表に現われた徴小な亀裂とNo.8孔のGL-14.5m付近及び法尻を結ぶもので,流れ盤をなす地層面に沿ったすべり面であった。

3-3 応急対策工
以上のように,明瞭なせん断的変位が確認され,しかも変位が進行しはじめたことにより崩壊に至る可能性があると判断した。しかも跨道橋がほぼ完成している状況にあったため,直ちに応急対策として押え盛土を施工することとした。
押え盛土は,2回にわたって図ー3.3にしめした規模で,延長40m,約1000m3施工した。その結果,図ー3.2で明らかなように,この押え盛土の施工によって,変位はほとんど収束し,跨道橋への影響は全くみられなかった。

3-4 対策工の検討
当地区では,跨道橋がほぼ完成していたことから,側道とのすりつけの関係で排土を主体とした対策工は採用できない状況にあった。したがって,抑止工を採用することとし,アンカー工,くい工,およびくい+アンカー工について比較検討した。
検討の結果,以上のような事項を考慮しアンカー工+現場打ちのり枠工を採用した。
 ① 逆巻きにより施工できる。
 ② 経済的である。
 ③ 土塊のすり抜けがない。
 ④ 工期が短い。

3-5 対策工の施工
早期に変位の進行を止めることが必要であったため,対策工の施工は,次の順序で行った。
① 風化の進行や局部的な応力の集中を防ぐため,法面に吹付コンクリートを施工する。
② アンカーを施工する。
③ 吹付のり面に支圧板を設置し,仮緊張を行う。
④ 現場打ちのり枠工を施工する。
⑤ 本緊張を実施する。
⑥ 押え盛土を撤去する。
対策工施工中は毎日計測を実施したが,押え盛土施工後は変位の進行は認められなかった。
変位が進行し始めてから約2箇月間で跨道橋へ影響を及ぼすことなく対策工を施工することができた。当初からの累計変位量は,ボーリングNo.8では地表で約1.5cm,せん断変位が現われたGL-14.5m付近で約8mmであった。

4-施工例Ⅱ
(事前予知の範囲を越えた複雑な変形が観測された例)
ここでは,STA.60+35付近ののり面施工について,その概要をのべる。本地区では,最終的には1次すべり~4次すべりまで発生した。

4-1 地形・地質
本地区は,凸型斜面(尾根部)の中腹部を切土したもので,地形的には地すべり跡地ではない。
地質は砂岩優勢砂岩・頁岩互層からなり,切土のり面に対して地層は流れ盤を形成している。風化部はGL-5m付近までで,それ以深は新鮮な岩盤である。

4-2 変状状況および対策工の施工
切土に伴う変状状況および対策工の施工手順は図ー4.1に示すが,概略以下のようである。
① 工事用道路の掘削により,風化部と新鮮部の境界付近で小規模な1次すべりが生じた。
② したがって,計画断面の切土に先立ち高精度孔内傾斜計により動態観測孔(No.3孔およびNo.10孔)を設け,観測しながら切土を開始した。
③ 2段のり面の途中まで切り下った時点で,No.10孔のGL-13m付近の新鮮な岩盤部分で層理面に沿った2次すべりが発生した。そのため,応急対策として図ー4.1に示したような押え盛土を施工して対処した。また,この地点で,最終的な切土断面での想定すべり面を検討して,恒久対策工として排土工+アンカー工を施工することとした。なお,アンカー工は,変状の進行状況に応じて逆巻きで施工することにし,増し打ちや増し緊張が可能なように余裕をもたせた。
④ 切土を再開するにあたって,新たに観測孔(No.24孔)を追加し,観測しながら排土工と2次すべりに対するアンカー工(2段のり面および3段のり面)を施工し,残りの2段のり面の切土を完成させた。
⑤ 次いで,最下段のり面(1段のり面)の掘削を始めたところ,観測孔No.3,No.24に層理面に沿った新たな変形3次すべりが発生した。ただし,No.24孔のGL-10m付近での変位量は数mm程度で,地表には変状が認められなかったことから,岩盤の緩みに伴うもので完全にセン断されたすべり面にまでは進展していないものと判断して切土を進めた。
⑥ 1段のり面の切土終了間際になって,図ー4.1に示したように,No.10孔のGL-19m付近に10mm程度の変位を伴う変形4次すべりが現われたが,No.3孔およびNo.24孔にはこれに追従した変形は生じなかった。したがって,この4次すべりを最終すべり面とするアンカー工を施工し,恒久対策工を完了させた。
以上のように,この地区では風化部と新鮮部との境界や層理面沿いのスレーキングしやすい面,および膨張性を有する粘土質凝灰岩の薄層(数mm)等に影響されて,切土施工に伴う複雑な変状形態が観測された。

5 あとがき
西九州自動車道(武雄佐世保道路)I期区間には,157箇所の切土のり面が存在するが,このうち鉄塔などの重要構造物に近接した3のり面についてのみ,事前に地すべり対策工を施工した。しかし,その他の切土箇所は,施工段階で対応することとした。
その結果,28箇所の切土のり面において地すべり・崩壊などの変状が発生した。
これらの変状の特徴は,以下のようであった。
① 地層の流れ盤構造で発生した変状27箇所
② 地すべり地形を呈さない地区で発生した変状26箇所
③ 砂岩優勢砂岩・頁岩互層中に挟在する粘土質凝灰岩の薄層(数mm~数cm)をすべり面とする変状17箇所
これらの変状に対しては排土工,地下水排除工,アンカー工,くい工などの対策工を施工した3)。これらの切土のり面のうち,高精度孔内領斜計を用いで情報化施工を行った箇所については,地中で歪が発生した初規段階の徴小な変位を把握することができたため,大きな崩壊やすべりに至ることなく速やかに対処することができた。
以上のように,施工中動態観測しながら対処していく方法は,効果的でかつ経済的な方法であると考えている。しかし,今後の課題としては,地すべり発生予知技術の向上,特に切土による応力解方に伴う岩盤強度の低下のメカニズムの解明,および地中のせん断歪速度による危険度の判定方法の検討など数多くのものがある。今後これらの課題を念頭においてこの分野に取り組みたいと考えている。

参考文献
1 吉松弘行:ダム湛水と地すべり,土木技術資料 26-9,1984
2 財団法人 日本道路協会:道路土木「のり面工・斜面安定工指針」,1986
3 日本道路公団福岡建設局 武雄佐世保道路工事事務所:西九州自動車道(武雄佐世保道路)Ⅰ期区間地すべり対策検討報告書,1988

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