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呼子大橋(PC斜張橋)の設計と施工

佐賀県農林部武雄農林事務所
次長
久 我 尚 弘

佐賀県農林部農道係長
宝 蔵 寺  博

1 まえがき
呼子大橋は,佐賀県北西部の玄海灘に面した東松浦半島の北端に位置し,東松浦郡呼子町殿の浦(本土)と離島加部島を結ぶ全長728mの道路橋である。この橋は昭和57年度から県営の農道整備事業により実施され平成元年4月開通したものである。
加部島は,本土との最短距離550m,面積2.68km2,人口約800人,産業は主として農業と漁業である。島には140haの農地があるが,農産物のすべてが本土の市場には船により運ばれており,農業用水についても,そのほとんどを雨水や湧水に依存しており,また,日常生活についても定期船に頼るしかなく,教育,文化,医療など多大な支障を生じていた。
呼子大橋は,これらの諸問題を解決し,島民の長年の悲願である本土との一体化を図るため,地元,県,農水省が一丸となって計画したものである。

架橋地点は,玄海国定公園内にあり,また玄海漁業の主要基地で2,000t級船舶の避難港にも指定されている呼子港の港湾区域内にある。また,加部島側は漁業区域に指定され,付近には養殖いけすが設置されている。本土側取付部付近には,豊臣秀吉が大陸へ出兵したおりの諸大名の陣跡が点在している。このような立地条件のもと,船舶航行の安全,周辺漁業への影騨,文化財の保護などを考慮して,主径間(メインスパン)L=250mの橋梁を計画するに至った。

橋梁形式については,経済性,耐震性,耐風安定性,施工性,維持管理などの総合的な検討を経て,長大スパンでかつ桁下空間を広くとることができ,さらに美観的にも優れた3径間連続PC斜張橋を採用した。250mのメインスパンをもつ橋梁は,コンクリート橋としては国内最長である。
このように地震国である我が国で初の本格的PC斜張橋の建設であり,架設地点は季節風が強く台風の通過頻度も高いことから,数多くの解決すべき課題があったため,計画設計に際しては加部島架橋技術検討委員会(委員長 渡辺明九州工業大学教授)を設置し,架橋ルート,スパン割,構造形式,設計条件,耐震性,耐風安定性など広範囲にわたって綿密な検討を行った。

2 設計概要
(1)設計条件
 道路規格:3種4級
 構造形式:3径間連続PC斜張橋
 橋  長:494.25m
 スパン :121.0m+250.0m+121.0m
 幅  員:全幅10.9m(車道5.5 m,歩道2.0m)
 活荷重 :TL-14,群集荷重
 設計水平震度:KH=0.13
 設計基準風速:V10=41.7m/s
本橋は主径間L=250mのPC斜張橋であるので,設計に当っては基本的には道路橋示方書を準用することとしたが,海洋架橋調査会で取りまとめられた「PC斜張橋上部工設計指針(案)」なども参考とした。さらに,耐震性や耐風安定性の検討については架橋地点の地震特性を考慮した地震応答解析や風洞実験を行い,技術検討委員会において十分審議・検討された。
(2)構造の概要
斜張橋は,主桁,主塔,斜材の3つの構造部材から構成されており,設計条件によって構造形式を選定する。本橋の場合,地震応答特性,クリープ,乾燥収縮と温度変化による拘束力,活荷重特性などを考慮してサスペンデッドタイプ(主塔と橋脚は剛結,主桁は主塔から斜材で吊る無支承の連続桁)を採用した。
(イ)主桁
主桁の断面形状には,ホロースラブ,T桁,箱桁,エッジーガータなどが考えられるが,本橋では,桁自重をできるだけ軽くすること,ねじり剛度が大きいこと,海上橋であるため塩害を受けにくい断面とすること,添架物の配置と維持管理上望ましい断面とすることのほか,特に耐風安定性を考慮して,部分模型風洞実験結果より,ウェブを斜めに傾け,桁両端にウインドノーズを有する逆台形2室箱桁断面を採用した。特に桁高は,等桁高2.2m(桁高/スパン=1/114))と非常に低くスレンダーである(図ー3)。

(ロ)斜材
マルチケーブル(多斜材)方式のPC斜張橋はカンチレバー架設に適しており,斜材定着部を分散できるので個々の定着スペースを小さくできる。また,この方式は桁高を低くできるとともに,各斜材の固有振動数が異なるので共振しにくく,振動に対する減衰効果が大きい。
そこで,本橋では主桁の施工時応力度,斜材張力,ワーゲンの能力などから,斜材段数は17段配置とし,主桁の斜材定着間隔は7.0~7.5mとしている。
また,斜材の側面配置形状は地震時における主桁の橋軸方向変位の拘束効果の大きい準ハープ形とし,正面配置形状は幅員構成やねじり剛性を高めるために,2面吊りとした。
(ハ)主塔
主塔の形状は,斜材を2面吊りとする場合,門形,A形,逆Y形,2本タワーなどが考えられるが,本橋の場合,耐震性,経済性,施工性などから中間梁を有する門形RC構造を採用した。
塔の高さは,斜材の鋼重と主桁の圧縮力に影響を及ぼし,塔が高くなれば斜材の鋼重と主桁の圧縮力が小さくなる。しかし,塔の高さ(H)を最大スパン長(L)に対してH=0.20~0.25Lよりも高くすることは経済的にみて意味がないというF・Leonhardt,W.Zellnerらの研究結果があり,本橋ではL=250mであるからH=0.25L≒62.6mとした(図ー4)。

3 上部工の施工
PC斜張橋は風の影響を受け易く,また本橋の場合張出し架設を行うため,完成系の耐風安定性の照査だけでなく,架設時の耐風安定性についても全橋模型の風洞実験を行って検討した。しかし本橋は片側最大張出しℓ=122.0mとなり,主桁張出しの先端は自由端になっており,たわみやすくなっているので工程計画はP系,P系同時張出とし,施工中最も不安定な構造となる70%以上張出し前にS.62年の台風期をむかえ,S.63年の台風期までには,P系,P系の主桁を連結するようにした。
施工法は,フォルバラワーゲンによる張出し架設工法であるが,架設時の主桁の応力度から,主桁を斜材で吊り上げた状態で張出す必要があり,そのため主塔,斜材も主桁と並行して施工する。標準サイクルは,主桁片側2BLの張出し施工と並行して塔1BLおよび斜材片側1ケーブルの架設を行う。図ー5に施工順序を示す。

(1)主桁工
一般的なPC桁橋の施工と同様,橋脚部施工後橋脚頂部に支保工を組み立て,両側2台のワーゲン組立てが可能な最小長さℓ=16mの主桁柱頭部を施工する。
本橋の場合,完成系では主桁は橋脚,主塔と剛結されず,また支承もないサスペンデッドタイプであり,架設中における柱頭部での仮固定構造の検討が重要である。仮固定構造には,
① 水平固定(水平変位固定,鉛直変位,回転はフリー)
② ピン固定(水平変位,鉛直変位回定,回転はフリー)
③ 剛結(水平変位,鉛直変位,回転とも固定)
などが考えられるが,架設中の耐風安定性や変形の大小,理論と実際の施工状態の対応性などを考慮して剛結構造とすることとした。剛結構造は,橋脚頂部施工時にPC鋼棒(φ32mm),鋼棒(φ100 mm)を埋め込んでおき,柱頭部主桁施工後にPC鋼棒を緊張するものである。(図ー6)
これは,施工時,地震時の曲げおよび軸力を柱頭部に配置した仮締め鋼棒とコンクリート仮固定沓でとり,施工時,地震時および風による主桁回転時の水平力を柱頭部に埋め込んだ鋼材で受けもたせるものである。

柱頭部の施工が終わると,主桁にフォルバウワーゲンを2台組み立て左右同時に張出し部の施工を行う。1サイクルは,稼働率(75%)を考慮して,標準部が10.5日,斜材定着部が13.5日で,平均12日である。張出し部の施工終了後,側径間端部を吊り支保工で施工し,その後中央連続部を閉合施工する。仮固定の撤去は,連続ケーブルの一部を緊張した後に行う。
なお,コンクリート打設はポンプ車による配管打設としているが,近年コンクリート構造物の塩害対策が問題となっている折,本橋の場合も海上橋であり海砂を使用している生コンのため,塩分含有量のチェック,打設前の型枠の清掃,打設時の締固め等に特に注意をはらっている。また,鉄筋のかぶり厚についても,技術検討委員会での検討の結果,直接外気に接する部分は5cmとし,その他の部分については3.5cmとしている。

(2)主塔工
主塔の施工は,ハイピアーの考え方と同じであるが,本橋の場合足場は主塔施工用としてだけでなく,斜材施工のための足場も兼用するので,大パネル型枠によるジャンプアップ工法で行う。また,塔は高い鉛直精度が必要であり,かつ斜材定着部を正確に据付けなければならないので,鉄骨を主塔コンクリート中に埋め込む。鉄骨は,現場内の鉄骨組立て架台上で精度よく地組みし,斜材さや管を固定した状態でタワークレーンで吊り上げ,既設の鉄骨に接続し固定する。なお,側径間閉合時から,完成後クリープ,乾燥収縮終了時までの非対称荷重によって生じる主塔の水平変位が無視できない量と考えられたため,主塔の横越し(P,P系ともそれぞれ側径間側にそらせる)を行うこととした。コンクリート打設は,主桁と同様ポンプ車による配管打設としたが,高層部は流動化剤を使用し,スランプを8cmから12cmに大きくして施工した。

(3)斜材工
斜材は,工場で所定の長さに加工され防錆処置を施した,いわゆるプレハブ斜材を採用した。斜材の架設要領を図ー7に示すが,コイル状で入荷された斜材を橋面上に配置したアンリーラーにセットし,主塔側はタワークレーンにより引込み位置まで吊り上げ,後は主塔鉄骨上にセットした小型ウインチ(チラック)にてあらかじめコンクリートに埋設したアンカー付きさや管内に引き込む。主桁側は橋面上のウインチにて引き込み位置まで引き寄せ,モノストランドを介して小型のセンターホールジャッキでさや管内に引き込み,所定の位置にセットする。緊張作業は,張り出し時は最外縁斜材の1次緊張(約100t/本)とそのすぐ下段斜材の2次緊張(30t/本ゆるめる)を行う。また,主桁閉合後に全斜材を調整緊張する。緊張は主塔側で行うが,塔,主桁にねじりモーメントが作用しないようにジャッキ4台を使って同時に行う。斜材の緊張管理は,初期導入力については圧力と伸びの両方で行うこととし,緊張後の張力検定は振動法およびロードセルで行う。なお,主桁,側斜材定着部はステンレスカバーを施し,ウレタン樹脂を充填して防錆処置の対策を講じた(図ー8)。

4 施工時の耐風安定性観測
(1)主 桁
本橋の架設地点は,台風の通過頻度も高く,かつ季節風も強く,また,本橋のようなスパン長が長い,可撓性に富む構造で張出し施工した例は,我が国のPC橋梁ではないことから,技術検討委員会では施工中の耐風安定性についても重要視し,2次元モデルあるいは3次元全橋モデルによる風洞実験を実施し十分検討した。その結果有害な自励振動(ギャロッピング・フラッター等)は58.5m/s以下では発生せず,また,作業性に影響を及ぼす低風速励振も風の仰角が4°以下で構造減衰がδ=0.03以上では問題にならないと判断された。ただしバフェッティング(自然風の乱れによる不規則振動を対称とするので以下ガスト応答と称する)については,留意の必要性が認められた。
そのため,実際の施工においても安全性を確認するために,主桁張出し施工中における自然風下での耐風性挙動を観測した。測定要領を表ー1に示す。

観測は,昭和62年7月から開始しており,張出し長さが35%~70%までの観測データで得られた解析結果は,以下のとおりである。
①主桁の振動モードは,1次の主桁逆対称モードおよび2次の主桁対称モードである。これらの振動数は,計算値とほぼ一致している。
②応答としては,ガスト応答による振動で,当初予想された低風速励振の発現はみられなかった。
③構造減衰は,δ=0.06~0.12が得られた(表ー2)。
以上により施工中においてもギャロッピングやフラッタ等の危険な自励振動は発現しないことが確認された。しかしながら今回の施工については主桁の側径間閉合時および中央閉合時には,ガスト応答に伴う主桁の振動変位があると,型粋や支保工に有害な変位が生じることが懸念され,主桁を固定する対策(前述)を行った。

(2)斜 材
本橋の斜材は,2本の並列ケーブル(直径D=75.5mm,ケーブル間隔S=1.85D~5.96D,直径D=83.5mm,ケーブル間隔S=1.92D~5.39D)からなり,風下側ケーブルにウェイクギャロッピングと見られる顕著な上下振動の発生がみとめられた。
そのため,斜材の振動観測を行い,必要な制振対策(制振装置)を講じた。
① 制振装置
本装置は,当初瀬戸大橋の岩黒島橋で使用されたものに準じたものであり図ー9に示すとおり,内管および外管から構成されており,内管はテフロン板を介して,外管に対して自由に回転できるようになっている。
この装置を仮制振装置として取付け,制振装置の効果を測定し,良結果が得られた。本橋では,この装置の効果をより補足するため制振ワイヤーで連結し採用した。
なお,制振装置の取付位置は,低次振動モードの節を考慮してケーブル長さの7/24点を基本とした(図ー10)。

5 あとがき
以上,呼子大橋の設計,施工の概要を報告したが,説明不足の点は御容赦いただきたい。建設期間中には工事最盛期の62年8月超大型台風(瞬間最大風速50m/s)の洗礼を受けるなど幾多の難関を生じたが,建設業者の方々のご努力とご健闘,また関係各位のご尽力により本年4月無事開通の日を迎えることが出来た。ここに紙面を借りて改めて感謝申し上げます。

参考文献
1 呼子大橋工事誌(佐賀県農林部)平成元年
2 昭和59年度 農林漁業用揮発油税財源身替農道整備事業加部島地区測量設計委託第1号(加部島架橋技術検討委員会)
3 片渕弘晃・久我尚弘・曽川文次・中上昌二郎:呼子大橋(仮称)設計と施工計画,プレストレストコンクリート,Vol29,1987
4 久我尚弘:呼子大橋(PC斜張橋)の設計と施工,土木施工,VoI28,1987
5 久我尚弘・蘭信助・日紫喜剛啓:呼子大橋上部工の施工,橋梁,1988.6
6 久我尚弘・竹田哲夫・徳山清治・日紫喜剛啓:呼子大橋(PC斜張橋)の施工時の耐風性観測,プレストレストコンクリート,Vol30,1988.

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