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一般国道3号・長六橋の設計と施工について

建設省熊本工事事務所
工務第三課長
後 藤 博 義

建設省熊本工事事務所
設計係長
坂 口 栄 男

1 はじめに
長六橋は,慶長6年,加藤清正により最初に架けられた由緒ある橋であり,九州の最重要幹線である国道3号が,熊本城の外濠となる白川を横河する位置に架設されている。旧長六橋は,昭和2年に架設された。歩道と2車線の車道を有し,また架設当時は鉄道橋としても使用された下路タイドアーチ橋であるが,交通量の増大と老朽化に伴い架け替えられることとなった。この結果変則五差路の解消と,白川の河川改修が一歩進むことになりました。
橋梁計画は景観に配慮することとし,長六橋計画委員会による形式選定,デザインに関する諸検討を行い,熊本市の新しいシンボルとして,また,市民に親しまれる橋を目指した。

2 橋梁概要
発注者;建設省 熊本工事事務所
工事名;熊本3号 長六橋
位 置;熊本県熊本市
河川名;一級河川 白川
橋 長;123.2m
支 間;40.29m+41.50m+40.29m
幅 員;22.0m~32.1m(両側に3.0m歩道あり)
斜 角;A1側75°30′,A2側72°30′
橋 種;ー等橋
構造型式;上部工PC3径間連続箱げた橋
     下部工A1 ラーメン式橋台
        橋脚 小判型壁式橋脚
        A2 逆T式橋台
  基礎工 場所打コンクリート杭(φ1,500)
仕様材料;コンクリート 主げた σck=350㎏/cm2
            その他 σck=210㎏/cm2
      鉄 筋  SD30
      PC鋼材 主方向 12T12.4
           横方向 12φ7
           鉛直方向 鋼棒φ32

3 計画
3.1 主げた断面の検討
長六橋は,熊本市内を走る幹線道路に架かる橋であるため,歩道付き一等橋としての役目のほかに,電力,ガス,水道,電気通信管が添加され,まさにライフラインと呼ぶにふさわしい橋梁である。
主げた断面は,経済性はもとより,これらの数多い添加物を合理的にまた景観を損なわないよう配置する必要があり,予備検討時の上下線分離2室箱げた断面のほか,3種類の断面形状に付いて比較した結果,第4案の上下線一体2主げた箱げた断面を採用することとした。なお,けた高は,白川との交差条件により,中間支点上で2.300mに制限された。
3.2 構造形式の検討
構造形式は,連続げた型式,中間橋脚剛結合のラーメン型式および中間橋脚1点剛結合のラーメン型式を比較検討した結果,連続げた型式とした。
最終的な固定支承の位置は,ラーメン橋台となるA1とした。
3.3 架設工法の検討
白川の渇水期は,10月~翌年5月の8か月であり,増水期には度々旧橋梁ぎりぎりまで水位が上がり,河川改修が急がれている。従って架設工法としては,河川とは無関係に通年的に施工が可能な工法および渇水期を利用して施工できる工法として,次に示す7案について比較検討を行い,①と④を選定した。
接地式支保工架設として
①現場打コンクリート方式 支柱式支保工
②現場打コンクリート方式 大型梁式支保工
③プレキャストブロック方式
カンチレバー架設として
④架設作業車による片持張出し工法
⑤架設げたを用いた現場打コンクリート方式
⑥架設げたを用いたプレキャストブロック方式
押出し工法として
⑦調整ブロック(等けた高とするため)を用いた押出し工法
更に,①と④について詳細に比較した結果,P2~A2間は,出水期においても支柱式支保工で施工でき,カンチレバー架設が必要となるのは,P1からの張出しブロック8個のみであること,幅員が22~32.1mと広い上に変化しており特殊な架設作業車が必要となること,などの理由により,①の支柱式支保工架設,場所打コンクリート方式を採用することとした。A1~P1~中央径間中央部分については,渇水期を利用して施工することとなる。
3.4 下部工基礎型式および躯体形状の検討
下部構造および基礎構造の検討は,固定支承位置,橋脚形状および杭種の選定について行った。
固定支承位置は,A1とP2の2ケースについて比較した結果,経済性,河川阻害率の関係,A1橋台はボックスラーメン型式であるので比較的大きな水平力に抵抗できる,などの理由によりA1橋台位置とした。
橋脚形状は,①中実小判型,②中空小判型,③中実台形小判型について経済性および施工性を比較検討した結果,基礎杭の本数は3ケースとも変わらず経済性に大きな差がないので,施工性に優れた中実小判型を選定した。
基礎の支持層は,当初,地下30m付近の託摩砂レキ層としていたが,その直下の地盤である新期阿蘇火砕流が砂質土であり沈下が予想されるため,より強固な第四期更新世砥川溶岩層(地下45m付近)を支持地盤とした。従って,長六橋における基礎工は,次の条件を満足する形式でなければならない。
①託摩砂レキ層を打ち抜けること。
②大きな転石あるいは玉石に出会った場合,速やかにその対処ができる工法であること。
③民家が多い地区であるので,施工公害(振動,騒音)が比較的少ない工法であること。
④経済的であること。
施工性,経済性について検討した結果および上記①~④の条件も満たしていること等から,本橋基礎工は,場所打コンクリート杭ベノト工法を採用することとした。
杭径は,φ1200,φ1500およびφ1800について比較した結果,託摩砂レキ層打ち抜き実績の多いこと,ケーシング引き抜きに対しパワージャッキなどの使用により比較的容易に対処できる,などの理由によりφ1500とした。

4 設計概要
4.1 主げたの設計
主げたの設計は,基本的に2主げた箱げた断面をセンターラインで分割し,上流側および下流側の各々1室断面として梁理論で設計した。ただし主ケーブルは,クリテイカルとなる断面で決定した本数を,他方にも配置した。
活荷重偏載の影響は,立体骨組解析により照査した。A1付近は幅員が22.0~32.1mに変化するので途中から上流側の箱断面を1室から2室に変化させて対応した。この付近についてはFEM解析を行い照査している。
4.2 下部工の設計
下部工の設計は,出来るだけ財団法人国土開発技術研究センター所有の自動設計の使用が中心となったが,A1橋台は,ラーメン橋台であるため,A2橋台については逆T式ではあるが,橋軸直角方向の幅が20m以上(24.2m)となるため自動設計の対象外となった。

5 施工概要
5.1 下部工施工
5.1.1 場所打ち杭工
一期工事(A2橋台,P1,P2橋脚)はベノト工法,二期工事はエクセル工法により施工した。
ベノト工法では,河床より-22~-26m付近の託摩砂レキ層(玉石層)の掘削に時間を要した。またケーシングの引き抜き作業においては,河床より-26~-35m付近の軽石混り火山灰質土層で,地山の締め付け現象による引き抜き困難となり,一定品質に杭体を築造することができなくなった。このため工事を一時中止し,工法変更の検討およびケーシングパイプの引き抜き試験を行った結果,引き抜き可能深度は約27mと判断されだので,27m以深は鋼管杭を埋め殺す工法で施工を行った。ケーシングと鋼管との切除は水中切断機を使用した。この工法は,鋼管接合溶接,支持層先端部ミルク注入,鋼管切断などの作業工種が多くなり,施工に日数を要した。
二期工事は,ケーシングパイプが全周回転し,また地層や岩石に応じた周速に変速できるエクセル工法の採用により,託摩砂レキ層の掘削にはやや時間を要したものの,引き抜き作業はスムーズに行うことができた。

5.1.2 架設工
河川内のP1橋脚は,クローラクレーン35tと高周波バイブロハンマーを使用して,支持杭H-350,桁材H-300により仮桟橋を設け,鋼矢板Ⅲ型で二重締切を行い築造した。
5.1.3 躯体工
橋台および橋脚の型枠組立は合板を用い,コンクリート打設は1.5m~3mピッチでポンプ車を用いて行った。
5.1.4 護岸工
仮締切を築堤し,水中ポンプ6インチを3台使用して水替を行い,低水護岸部は粗面ブロックを張った。また高水護岸部は,20tクレーンを使用して環境ブロックを張った。
5.2 上部工施工
5.2.1 施工概要
2主げた箱げた断面の3径間連続桁を場所打ちするための支保工は,河川内に基礎杭としてH鋼を打込み,その上に四角支柱および枠組を組立てる構造とした。
支保工施工に先立ち,仮桟橋を河川部に設置し,H鋼の打設,支保工組立て・解体,主げたの施工等全般に使用した。主げたは,下床版と腹部,その後に上床版と断面を2回に分けてコンクリート打設するため,材令差による乾燥収縮応力を小さくするよう,橋軸方向についても3分割して施工した。なお,打継目は,側径間の曲げモーメントの変化点に設けた。表5.1に工程表を示す。

5.2.2 支保工
A1~P2間の支保工は,水深が1.5m~2mの河川部にあり,基礎杭のH鋼(300×300)は,仮桟橋から,45tクローラクレーンおよび75tトラッククレーンを使用し,バイブロハンマーで打込んだ。H鋼の根入れ長は,河床から7mとした。
基礎杭の上には四角支柱を建て込み,横ばりに588×300のH鋼を用い,そのうえにビティー枠を組み,主げたのけた高変化に対処した。なお,基礎杭は,河床面で水中切断を行い撤去した。
P2~A2間は,洪水敷きで支保工高が低いため,枠組支保工とした。基礎は,クラッシャーランを敷きならし,転圧後,鋼矢板を敷き並べた。この径間は,主げたのコンクリートを最初に打設したので,3か月余り主げた自重を支保工で受けることとなった。
5.2.3 型枠工
型枠は,美観に配慮し,全て樹脂塗装合板を使用した。組立てに際しては,変断面の曲線,アルコーブ部などに特に注意を払った。
5.2.4 コンクリート工
主げたコンクリートは,橋軸方向に3分割し,断面内でも腹部・下床版と上床版の2回に分けて打設しだ(図5.2参照)。コンクリート打設は,桟橋上にポンプ車2台を据え付け,ブームと配管によって行った。1回の打設数量は,中央部が最も多く約440m3となった。上床版の橋面仕上げは,上下線各1台の簡易フィニッシャーを用いて行った。

5.2.5 PC工
主げたの主ケーブルはフレシネー工法12T12.4床版横締めケーブルは12φ7,腹部鉛直締めはPC鋼棒φ32を使用した。主げたを分割施工としたため,主ケーブルはコンクリート打設後に挿入することとし,主ケーブルのシースは径が通常より大きい70mm,板厚も0.4m/mの厚鋼板のものを使用した。
主ケーブルの緊張は,連続ケーブルのみでけた自重応力に対応できるので,連続ケーブル緊張後支保工を撤去し,その後,中間支点部上床版ケーブル,側径間下床版ケーブルの順で行った。
なお,床版横締めケーブルおよび腹部鉛直締め鋼棒の緊張は,主ケーブル緊張前に先行して行った。

6 長六橋の景観設計
6.1 長六橋の生い立ち
熊本市内の古い橋にはその架設年代にちなんだ名前が付けられているものが多い。安巳橋,明治橋,明十橋,長六橋などである。
長六橋はその名の通り,慶長六年(1601年)加藤清正が熊本城築城の際竣工したものである。当時この橋は,熊本城下から白川対岸に通じる唯一の橋で,南面防備と日向・薩摩方面への交通の要衝として重要な橋であった。
現在の鉄橋(長六橋)は大正12年(1923年)の大洪水により流失したものに替えて昭和2年(1927年)に完成された。開通式は,橋の両側にやぐらを組み,餅投げ,飴投げ,にわか等二日間に亘る盛況ぶりであった。当時,橋の規模,設計のユニークさは森の都熊本のシンボル的存在で,人々に「白川に架かる鉄の橋」として愛され,現在まで熊本市民に親しまれてきた。

6.2 景観デザイン・メージの決定
6.2.1 長六橋計画委員会
長六橋は架橋以来50年以上を経過し,老朽化が進み交通量の増大,河川改修計画等の要請から架替えが計画された。計画に際しては「長六橋計画委員会(吉村虎蔵委員長)」を設置し橋種決定および景観デザインの基本イメージの提案がなされた。
橋体は重厚な連続PC箱桁とし,存在感をアピールする。橋面構造は長六橋の歴史的背景を重視する。現橋タイドアーチ橋の造形的イメージを強調する等の景観デザインコンセプトが示された。
この主旨に基づき次のようなデザイン提案を行った。
6.2.2 デザイン提案
〔A〕熊本城・白川の歴史を素材としたデザイン
熊本は,火の山「阿蘇山」から名付けられたのか,古くから「火の国=(肥後の国)」と呼ばれ,様々な歴史的変遷ののち加藤清正公により熊本城下が形成された。熊本城はその北に茶臼山を,内堀に井芹川,坪井川を配し,外堀として阿蘇に源を発する白川を擁している。この白川はたびたび氾濫し,そのため清正は土木事業,治水事業に精力を傾け,その結果「石はね」,「はなくぐり石」,「長六橋」などが現存する。
 このような歴史的背景と「長六橋」そのものが近世熊本の創始者加藤清正公により架設されたものであることから,長六橋の景観設計のテーマとして「加藤清正」,「熊本城」等の歴史的雰囲気を取り入れることを提案した。
〔B〕熊本の歴史性をイメージしつつ現長六橋の象徴性を強調したデザイン
 熊本にはシンボル的存在,ランドマーク的存在が数多くある。それは「阿蘇山」であり,明治時代黎明期を象徴する「田原坂合戦場」等々である。熊本市内に目を向ければ熊本城を中心に白川,坪井川,水前寺公園,江津湖があり,中でも白川に架かる「長六橋」は市民にとってその歴史性も含めシンボル性,ランドマークとして長く親しまれて来た建造物であることから,新設橋の景観イメージとして現橋を強く意識した。
〔C〕周囲と環境との調和,親しみやすさを表現したデザイン
 市内を貫流する白川,町の周囲をとりまく立田山,花岡山,金峯山,それに江津湖,水前寺公園がアクセントとして調和し,町全体が自然の中に溶け込んでいる。新しく架替えられる長六橋も自然との統合を図ることを中心に,その歴史性をも若干加味した,市民に親しまれるデザインとした。
A~Cに共通したデザイン・イメージとして熊本城にまつわる熊本の歴史性。熊本市のシンボル,国道3号のランドマークとしての現長六橋タイドアーチの造形を中心に据えるということになろう。その他熊本の自然景観,風物等も取り込んだ景観デザインを検討することとした。
6.2.3 橋面構造・各施設のデザイン
(1)高欄・親柱
橋軸方向に長く伸びた高欄は全体のイメージを特徴づけるものであるバラスター形状は,現長六橋のタイドアーチをモチーフとした。親柱は現長六橋の橋門構の尖塔をレプリカとして残すこととした。高欄の材質は微細な形状に追随するアルミ合金製。親柱はブロンズ製とし色調は,ブロンズの重厚さを備えたものである。

(2)中央分離帯
中央分離帯の橋端部には,加藤清正の烏帽子を象った自然石の彫刻を配し,槍をモチーフとしたアルミパイプで分離柵を構成した。

(3)歩道部舗石
バルコニ一部は,熊本城の石垣をイメージさせる乱張石造とした。熊本城の石垣は整然とした石組と異なり荒々しいイメージの個性的なもので,これを舗石デザインに持ち込んだ。
(4)アルコーブ
市民の憩いの場としての橋の機能を向上させる目的で4カ所のアルコーブを設けた。当初設計では予定されていなかったもので,最大張出し量は,5mを超える大きな物となった。この部分には熊本出身の彫刻家によるブロンズ製の彫像を設置する。

(5)照 明
照明灯は高欄デザインとの整合を図り,シンプルで都会的なイメージを重視した。

あとがき
長六橋は旧橋のタイドアーチのイメージが定着し,歴史的名橋として市民に親しまれ,ある意味では熊本市のシンボルともなっているものである。
本橋架替え計画に当たっては,タイドアーチのイメージを高欄に取り入れる等,旧橋を意識したデザインとするとともに,熊本の歴史にも題材を求め,重厚な仕上りとなるように心掛けた。また,構造的には,上下線一体の連続PC箱桁橋を採用し,添加物が景観を損なわないように配慮した。
本橋は平成3年4月,無事開通した。長年に亘る関係諸兄の御尽力に敬意を表するとともに絶大なご協力をいただいた熊本県,熊本市の関係各位に深く感謝の意を表します。

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