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地下鉄福岡空港へ伸びる(その2)
(博多駅ビル街地下をNATMで施工)

福岡市交通局建設部
工事事務所長
柴 田 剛 志

福岡市交通局建設部
工事事務所中比恵・西工区
担当所員
木 下 敬 一

福岡市交通局建設部
工事事務所中比恵・東工区
担当所員
中 村 秀 光

1 はじめに
福岡市高速鉄道1号線延伸工事は,既設の博多駅から福岡空港を接続する約3.1kmの工事で,昭和62年9月から63年5月にかけて7工区を順次着手し,11月末現在,全体平均進捗率は34.9%である。
本稿では,工事始点から約570m間の山岳トンネル工法(NATM)の設計と現在までの施工について報告する。(全体の計画概要,路線概要については,九州技報第4号で掲載済ですので参照下さい。)

2 環境と地質
当区間は,JR博多駅(筑紫口)前のビル街の道路下から始まり,都市ガス,上・下水道,九州電力ケーブル,NTTケーブル等の埋設物がある道路下を経て,一般家屋の建つ民地下を通過後,開削工法を採用している河川(御笠川)に,約75度で接続するもので土被りは12.0m~12.5mと浅い。(図ー1)
ビル(4F~9F)との最近接距離は,3.0mで平均離隔距離は5.0mである。

地質は,地表部から表土(盛土),沖積砂層,洪積砂層,古第三紀の頁岩層の順である。
掘削の対象となる地層は,頁岩のうち風化頁岩(Dc)と軟質頁岩(C,C)が主体で,河川手前120m間には層厚2.0m~3.0mの炭質頁岩層(Cc)が介在している。(図ー2,表ー1)
自然地下水位はGL-3.5m付近にある。

3 設 計
3-1 本 坑
断面的に,10k 100M~10k 245M間は,博多駅の留置線の関係から馬蹄型3連(95m),2連(50m)の特型断面で,10k 245M~10k 668M62間は複線標準断面である。(図ー3)

覆工コンクリートは厚さ50cmの鉄筋コンクリートで,ウォータータイトトンネルとすべく,防水シート(EVAあるいはECB,t=1.5mm以上) で全周を被覆する設計である。
一次支保内容は,表ー2による。
掘削方式,工法は,自由断面掘削機によるベンチカット工法で,坑内運搬方式は軌道方式とした。

3-2 工事用立坑
本線直上に立坑を設けることは,埋設物および道路の切廻しが必要となり多大なる費用がかかることから,道路に隣接している市管理の公園に作業基地を借り,立坑,坑外設備を設置した。
立坑は,内径14mの円型とし,深さは約20mである。
外周にSMW(φ550mm,ℓ=16m)を施工し,NATMを導入した支保内容とした。(表ー2,図ー4)

3-3 連絡坑
立坑と本坑間を結ぶ坑道で,本坑での使用機械,安全通路,換気設備等を考慮して断面を決めた。(表ー2)

4 補助工法の設計
4-1 ディープウエル(D・W)
NATMでの施工にあたり,吹付コンクリートの支保機能が有効に働くように地下水位の低下にD・Wを採用した。
断面のSL付近まで水位を低下させるために,トンネル両側にφ200mmのD・Wを20m間隔に設置することとした。
D・Wの採用に伴う問題点として,地表面の沈下等あるが,揚水試験の結果2mm~7mmと少ない値であったことから採用とした。沈下量が少ないのは,当地域の粘性土が地下水位より上にあること,また,沖積・洪積の砂層が過圧密された状態にあるためと判断される。
4-2 薬液注入
(1)地盤強化注入
掘削対象地質は頁岩であるが,掘削断面上部に風化頁岩(Dc)が現われる区間の岩被り厚は1m~4m程度である。Dc層の上部は,滞水層の洪積砂層(ds)で,D・Wで揚水をしても1m程度水が残ることが揚水試験で判明したため,掘削により切羽で水を抜く恐れもあることから,岩被り厚が4m未満の部分は,ds層を注入して,Dc層と注入したds層とで半径程度(4m)の岩被り厚を確保するよう地盤強化注入を設計した。
(2)止水注入
御笠川右岸には,古第三紀頁岩と白亜紀花崗岩を分ける断層があり,川に近い部分はその影響を受けて相当クラッキーであること,また川に向かって掘削すること,さらに,10-3cm/secオーダーの炭質頁岩層が断面にでてくることから,全周と注入施工ブロック毎のバルクヘッドを設計とした。

5 施 工
5-1 工事用立坑
外周のSMWのソイルモルタルの目標標準強度は,σ28=30kg/cm2として施工し目標通りの強度が得られた。
掘削は,沖・洪積層は,0.4m3クラスのバックホウ,軟岩部は,ブレーカーを併用した。
碿出しは,GL-5mまではバックホウで,以深はクラムバケットで施工した。
NATM区間(約570m)を2工区による施工な為,公園内に10mの離隔で2本の立坑を施工することとなり,相互に掘削の影響が懸念されたが,傾斜沈下計による水平変位は,6mmという結果であった。

5-2 連絡坑
掘削断面積が18.1m2と小さく,頁岩のC岩であることから軟岩用掘削機(90kw級)による全断面掘削ができた。

5-3 本 坑
(1)上半切上り掘削
立坑,連絡坑,本坑の関係は図ー6の通りとなるが,上半盤に取付いてから5.0m間で複線上半断面まで切拡げを行った。上半を10m掘削後,工区境まで上半をバックする型で連絡坑上部を切拡げた。
(2)特型断面部の中央坑掘削
中央坑は,11月20日,既設壁まで無事到達したが,10k 170M付近でDc層の劣化がはげしく切羽の滑落(8m3)が発生したため,掘削断面上部のDc層を地盤強化の目的で注入をした。さらに,切羽の小分割を目的として,10k 130M~10k 170M間をリングカットとし,10k 100M~10k 130M間を上半部のみの中壁を設ける変更をした。

(3)炭質頁岩層部の掘削
10-3cm/secオーダーの炭質頁岩層は,図ー5のような注入を行うことで,掘削断面内の水は滴水程度と止水効果がよくでていた。
(4)施工サイクル

上記サイクルが標準であるが,Dc層の劣化が著しく,剥離,肌落ちの多い箇所は,加背を小分割し,一次吹付を施工後継続して掘削するというくり返しで地表,坑内の変位を極力抑えるようにした。
また,支保工の建込間隔は1.0mを標準としているが,地表沈下の状況により建込み間隔を0.75mに短くし,さらに,先受ボルトも剛性のあるパイプに変更をした。

6 計測
土被りも12.0mと薄いため,地表面沈下測定は10.0m間隔とし,坑内での天端沈下,内空変位測定も地表面とリンクするよう同一距離程とした。
支保内容別,距離程別の測定結果を表ー3,4に示す。
沈下の値としては,標準断面部は,連絡坑掘削,本坑切拡げと同一箇所を2回掘削している区間については,沈下量が最大となり,全体平均では38mmであった。

沈下の傾向として,①沈下の影響範囲は-1.5D~+2Dと長い。②先行沈下量が多い。③支保工の天端沈下がなくても通過切羽の掘削の影響が出る。④鋼製支保工の建込間隔,先受ボルトの長さは,沈下に対して顕著な効果はみられなかった。
特型断面部の沈下量は平均約22mmの沈下で,複線部と比較して断面幅が小さい分沈下量が小さい。
沈下の傾向としては,標準断面部と同様に,①影響範囲は-1.5D~+2Dと長い。②先行沈下は全沈下量の3割近い数字となっている。
天端沈下は,標準部で平均約9mm,特型部で平均約3mm とFEM解析値と概ね同じ値である。
内空変位は,上半の水平測線でみると標準部で平均約12 mm,特型部で平均約14 mmといずれもFEM解析値の2倍~8倍という結果である。
特型部は,断面的に立長であることから,側圧を受けやすく,大きな値になったと思われる。

7 施工の感想
現在まで施工の結果,設計面では,連絡坑断面から複線標準断面へ5mで切拡げたが,もう少し長い距離で摺付けた方が地山,沈下等に対して良かったのではないかと思っている。

8 おわりに
今後の工事は,側坑の掘削,民地下の注入,掘削といよいよ気の抜けない部分に入る。第三者に迷惑をかけぬよう細心の注意を払っての施工が必要と考える。
関係者が一丸となって努力する所存である。
また,関係機関並びに関係各位の御指導,御協力を賜り,厚くお礼申し上げます。

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