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九州縦貫自動車道肥後トンネルの施工について

日本道路公団福岡建設局
技術第三課課長代理
河 野 正 博

日本道路公団福岡建設局
八代工事事務所   
肥後トンネル北工事長
前 田 雄 一

日本道路公団福岡建設局
人吉工事事務所   
肥後トンネル南工事長
田 中 秀 和

1 はじめに
九州縦貫自動車道は,北九州市を起点として,福岡,佐賀,熊本の各県を通過したのち,宮崎県えびの市で分岐し,鹿児島市及び宮崎市に至る延長約430kmの高速道路である。
このうち八代I.C~人吉I.C間約39kmは,斜面勾配30~50度の急峻な山地部を通過する典型的な山岳道路で,トンネル23カ所,橋梁55カ所の非常に構造物の卓越した路線である。
肥後トンネルは,当区間のほぼ中央に位置する肥後峠(標高840m)の下を計画高約400mで,ほぼ南北に通過する延長6,340mの長大トンネルである(図ー1)。

当トンネルは,当面下り線を先行施工し,対面交通で供用する計画であり,長大トンネルであることから,将来の上り線の位置にパイロット杭を施工している。
工事はNATMによる上半先進ベンチカット工法により実施したが,数多くの断層破砕帯からの多量湧水に施工は困難をきわめた。
本文は断層破砕からの湧水とその対策について述べるものである。

2 トンネルの概要
肥後トンネルは,図ー2に示すように本坑(下り線)のほか,これと並行するパイロット坑(上り線,掘削面積17m2),本抗とパイロット坑とを結ぶ避難連絡坑16カ所がある。また供用後の換気方式は集じん機付2分割立坑送排気縦流式を計画している。この方式を機能させるため,電気集じん機室3ケ所,地下換気所1カ所,立坑1カ所(φ6.2m,H=250m),および地下換気所と立坑を連絡する換気横坑を施工した。

3 地形および地質
3. 1 地 形
地形は,東北東~西南西方向の地質配列および地質構造の影響を強く受けており,同方向に伸びる河川,山稜が発達している。またこの山稜を直角に横切る谷の発達もあり,むしろこの方向の谷の方が規模は大きく,トンネルはこれとほぼ並行している。
3. 2 地 質
地質は,図ー3に示すように大阪間構造線(仏像線)で境される古生層と中生層の堆積岩からなっている。これは地層の形成された時代から,主に古生代の地層からなる秩父帯に属するものと秩父帯の南に分布する時代末詳の中生層よりなる四万十帯に属するものの二つに分類される。
トンネル区間の大半を占める秩父帯に属する地層は,その時代からさらに,天月層,四蔵層,吉尾層,神瀬層,箙瀬層に分けられる。
秩父帯は,主に石灰岩,砂岩,粘板岩とチャートからなり,これらは概ね東北東~西南西方向の走向配例で北へ50~80度の急角度で傾斜している。
弾性波速度は,石灰岩で4.6km/sec,粘板岩,チャートの互層で3.2~5.0km/secであるが,断層破砕帯と思われる低速度帯(1.3~3.8km/sec,幅20~50m)が十数力所確認されている。
人吉側坑口付近に分布する四万十帯の地層は,板崎層と呼ばれる砂岩と頁岩の互層を主体とする地層で,秩父帯と同様ほぼ東南東~西南西方向で配列し北へ50~80度の急角度で傾斜している。

4 湧水対策
4.1 トンネル湧水の予測と実績
肥後トンネルの地質は,前述のとおり箙瀬層,吉尾層,天月層,神瀬層の粘板岩,砂岩,チャートの複雑な互層帯からなり,低速度帯も十数力所確認されており,当初から施工に際しては,かなりの湧水を予想していた。
しかし,湧水量の実績は,当初の予想量をはるかに上まわる量(最大量,八代側坑口25t/min,人吉側坑口20t/min)となった(図ー4,図ー5)。

4.2 湧水区間での問題点
湧水量の増加に伴いNATMの主要な支保部材である吹付コンクリート,ロックボルトの施工が困難となってきた。具体的には下記内容である。
(a) 吹付コンクリートとして
① 湧水により吹付コンクリートの施工が困難である。
② 湧水により付着が不完全となり,ある程度の吹付厚以上になると,自重により剥離,崩壊する。
③ 地山に付着した吹付コンクリートに品質の低下がある。
(b) ロックボルトとして
① 削孔孔壁が崩壊して,削孔およびロックボルトの挿入が困難である。
② 湧水により全面接着タイプの充填モルタルが流出して所要の品質が確保できない。
4.3 湧水対策工
4.3.1 パイロット坑
-NATMから在来矢板工法への変更-
パイロット坑において,掘削進行に伴ない湧水量の増加は著しくなり,八代側では,坑口から220m付近から,人吉側では坑口から1,000m付近から特に多くなってきた。切羽削孔用の油圧削岩機による先進水抜きを行なっても孔壁崩壊のため集水することが困難になってきた。またその後の区間についても地質状況は,さらに悪くなることが予想されたため,NATMから在来の矢板工法へ変更した。
4.3.2 本坑
(1)八代側の施工
八代側は,パイロット坑坑口から約500m付近から多量の湧水を伴う破砕帯に遭遇し,この時点でパイロット坑は,本坑より約150m先行していたが,鏡押え,リングカット工法,縫地鋼矢板,水抜きボーリングなどの施工を強いられ,本坑坑口約700m付近で本坑がパイロット坑を先行する状況となり,本坑の湧水量がパイロット坑の湧水量を上回るようになった。そのため,本坑切羽においても湧水にみまわれ,本坑で,水抜きおよび地質確認のための長尺ボーリングを実施した。しかし長尺ボーリングについても厳しい地質条件のため,施工も困難を極め,水抜き効果も充分でなく,さらに今後も数力所の大規模な破砕帯が予想された。こうした状況から効果的に水を抜くには,従来から施工されている水抜坑の施工が最も良いとの結論に達し,施工性,経済性等を勘案し,位置,断面,施工法を比較検討した。
(a)水抜工の位地および断面の決定
比較検討表(表ー1)に示すように,先進導坑を断面外に設けると他の切羽に関係なく施工できるので,施工性は良いが経済性に劣る。また,パイロット坑の断面内に設けると小断面内の導坑となり,後方切羽の切拡げ掘削との併進が困難で仮設関係も大幅に変更となる。以上の理由により本坑断面内に水抜坑を先進させることにした。
水抜坑の断面と位置については,下記を考慮して決定した。
① 本坑上半盤上での機械の施工性を考慮し中央導坑をさける。
② 下半盤から上半盤への車輌乗入れに支障を及ぼさないように導坑幅を狭くする。
③ 後方の設備が最も簡単で,本坑内の通行を妨げないようにする。

(b) 水抜坑の施工
水抜坑は,断面3.5m2で,掘削は発破による在来工法,ずり搬出はレール工法とし,水抜坑坑口にずりピットを設けずり搬出をした後,ダンプトラックに積みかえて坑外まで搬出する方法をとった。このずりピットは,下半が進行するにつれ移動し,ずりピット後方の水抜坑の支保工を撤去して下半の施工を行った。
(c) 水抜工の効果
水抜坑は,坑口約840mから,1,743mまで施工したあと,地山の安定をみて中止した。その結果,水抜坑を入れる前には,切羽を安定させるためのフォアパイリング,鏡吹付コンクリート等の補助工法が必要であったが,水抜工を先進させてからは,切羽面での崩落が減り,補助工法を使用する頻度が少なくなり,本坑でのNATM施工が可能となった。
(2)人吉側での施工
人吉側は,パイロット坑2,100m付近で多量の湧水を伴う断層破砕帯に遇し,水抜きボーリング,リングカット工法により施工を進めた。またパイロット坑の実績により,本坑2,000~2,240mの区間は多量の湧水が予想された。
この区間でパイロット坑が580m先行しており,破砕帯が連続していることから,本坑の水抜き効果および施工性を考慮しパイロット坑からの水抜きボーリングを実施することとした(図ー7)。

(a) 水抜きボーリングの計画
水抜きボーリングの施工間隔は,先行しているパイロット坑の湧水量に応じて5~20mとし,削孔径は,75mm,1本当りの延長は,45mである。
(b) 水抜きボーリングの施工
ボーリング削孔は,破砕質の岩のため,孔壁の崩壊などで長時間を要したが,第一回の施工で33本,延長1,395m,第二回の施工で14本,延長568 mを行ない,ボーリング孔からの湧水量は,第一回,第二回の施工完了時で,それぞれ6.4m3/min,2.2m3/minとなり,予想以上の効果が得られた。湧水量は,その後日数経過に伴い減少していき,本坑切羽の到達する頃には1.4m3/minまで減少した。
(c) 水抜きボーリングの結果
水抜きボーリングを実施したことにより,パイロット坑掘削時多量の湧水により難渋した同じ位置でも,本坑の湧水量は,部分的に出水する程度で,大掛りな補助工法を必要とすることなく掘削を進めることができた(図ー8)。

5 石灰岩地帯における空洞対策
5.1 着工前の調査
事前調査により,坑口から約300m付近の万江川沿いには白嶽鐘乳洞が確認されており,この近くの万江川に湧出が見られる。湧水は坑口前を横切る水無川の上流に河川水の流入口があり,上の河川水が含まれている(図ー9)。
これらの位置関係から掘削中に空洞に遭遇する可能性が高く,全体的な位置,規模および地下水の賦存量が大きな問題となった。

5.2 掘削中の調査
切羽前方の空洞の確認,空洞よりの突発的流水および空洞内に堆積した土砂の突発的流出を未然に防止するため,先進調査ボーリングを実施した。先進ボーリングは油圧ドリフタAD200を使用し,削孔径65mm,1回当りの削孔長4.5m程度とした。
5.3 路盤下における空洞調査
調査の方法としては,各種の方法が試みられているが,実績が少なく確立された方法はない。そこで当トンネルでは環境条件等を考慮して,電気探査法と地下レーダー法を併用した。
5.4 空洞対策
5.4.1 空洞形状
空洞は坑口から約1,000mの石灰岩区間で,本坑パイロット坑で,大規模なもの小規模なもの合わせて,45ケ所出現した。これらの空洞の状況は大別すると次の5種類に分類される。
(1) 断面,深さとも比較的小さく,周辺地山も比較的しっかりしており,ガマ的存在のもの。
(2) 断面は比較的小さく連続している。深さはかなり深く,周辺地山は比較的硬い。
(3) 断面は比較的大きいが,深さは浅く,周辺地山は堅硬である。
(4) 断面,深さとも大きく,周辺地山は崩壊性がある。
(5) 掘削路盤下の空洞で,将来路面への悪影響のおそれのあるもの。
5.4.2 空洞対策
対策工は,施工時および完成後のトンネル構造物への影響を考慮し,予想される空洞の規模の状況に応じ,空洞対策メニューをあらかじめ作成し,すみやかに対応した(表ー2)
実施した対策工は,基本的には,H形鋼,鋼矢板などで補強した後,水抜パイプ,注入パイプを設置し,コンクリートおよびエアモルタルを充填した。

6 おわりに
幾多の断層破砕帯からの多量湧水に対策工を講じながら掘削を進めてきた肥後トンネルであるが,経済的な面から地下水排水工法を取らざるをえないのが現状である。水資源の保護から地下水の抑止工法に関心が高まっているなかで,今後湧水に対応できる支保材,支保形式の検討を積極的に進める必要がある。

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