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九州地区における土木コンクリート構造物
設計・施工指針(案)の改訂について

岩熊真一

キーワード:コンクリート、設計・施工、指針の改訂

1.はじめに
九州地方整備局は、「九州地区における土木コンクリート構造物設計・施工指針(案)」及び「同手引書(案)」(以下、九州基準と記す)を策定し、道路橋示方書や土木学会コンクリート標準示方書及び国土交通省のコンクリート構造物に関する各種規定・基準や指針を相互に補完するものとして位置付けている。
今回、平成 29 年 7 月の道路橋示方書の改定、土木学会コンクリート標準示方書が 2017 年制定版として改訂されたため、九州基準もこれらの示方書等の改訂を踏まえ整合を図るとともに、これまでの試行により明らかとなった改善点、工夫すべき点や使い勝手も考慮して改訂をした。
本稿では①今回の改訂理由の大きな要素の一つである九州基準の試行結果から浮かび上がった運用上の課題や改善の要望等について、判明したことや検討したこと、②九州基準の主な改訂ポイントについて簡単に紹介する。

2.これまでの経緯
平成 11 年に発生した新幹線トンネル覆工コンクリートの剥落など、コンクリート構造物の不具合が顕在化したことを背景に、平成 13 年 3 月に国土交通省から「土木コンクリート構造物の品質確保について」等が通達された。これらを受けて平成 14 年に「九州地区長寿命コンクリート構造物検討委員会」を設置し「九州地区における土木コンクリート構造物の設計・ 施工指針試行(案)」を策定した。
平成 17 年度から新たに「土木コンクリート構造物品質評価委員会」を立ち上げ、平成 20 年に実態をより反映した九州基準(指針)を策定し、平成 23 年には「九州地方整備局コンクリート評価委員会」(以下、評価委員会と記す)として、指針の改訂ならびにそれを補完する九州基準(手引書)を策定した。
平成 23 年 7 月からは、九州地方整備局で発注する設計・施工において耐久性、スランプ、温度ひび割れ照査に関して九州基準を実設計および実施工で適用すべく試行を開始した。
その後、コンクリート標準示方書の改訂を受け、平成 26 年 4 月に九州基準を全面改訂して試行を継続することにより、コンクリート構造物の品質向上を目指してきた。

3.試行の取組み状況について
3.1 設計段階
九州基準に基づく業務の試行結果について、発注事務所に対するアンケート調査を実施した。試行の対象となった内容のうち、スランプ設定と温度ひび割れ照査に関する運用状況や意見等について以下に示す。

(1)スランプの設定
九州基準では、コンクリート標準示方書に準じ、構造物の構造や施工条件等を踏まえ適切な荷卸しの目標スランプを設定する。設定にあたっては打込みの最小スランプ(目安)に基づく手法を取り入れている。この適用状況について調査した。 平成 23 年度から 29 年度にかけての設計段階における下部構造の設定スランプの経年変化を示したものが図- 1 である。フーチング、壁部材とも12㎝が多いことが分かる。各部材ともにこれまで標準とされた8㎝は極めて少ない。すなわち、設計段階で九州基準に示すスランプ設定の考え方が採用され、十分に理解されていると考えられる。なお、平成 29 年 4 月に国技建管第 13 号において一般的なコンクリート構造物の標準スランプを12㎝としたため、平成 29 年度に設計した構造物においてはその影響もあると推察される。

(2)温度ひび割れ照査
平成 29 年度は対象構造物(橋梁下部工、ボックスカルバート、樋門 ・ 樋管等)の約 6 割で照査がなされている。九州基準では、温度ひび割れ照査を簡易照査もしくは詳細照査を実施するとしており、照査を省略できる構造物寸法についても言及している。そのため、照査を省略したものや代表構造物のみ照査したケースも認められた。

(3)九州基準に対する主な意見
①スランプ設定
・部材毎のスランプ検討は手間が掛かる。
・一律に標準スランプ 12㎝とすると品質が低下する懸念がある。
②温度ひび割れ照査
・CP 法と 3 次元有限要素法の使い分けが難しい。
・施工時期が確定した施工段階で照査すべき。

3.2 施工段階
施工段階における試行結果を確認するため「スランプに関する当初特記およびスランプ変更の有無」、「施工性に対するスランプの影響等」について調査した。調査対象は、平成29 年度工事とした。
(1)スランプの変更
橋台における施工発注段階での当初特記および実際の施工でのスランプの状況は表- 1 となった。
フーチングと翼壁は当初特記と変わらないが、竪壁、胸壁は8㎝から12㎝に変更したケースが複数認められた。九州基準のスランプ設定方法に基づくか、もしくは標準スランプを12㎝とする通達に従うかのいずれかと考えられるが、スランプ8㎝でも施工可能であることを確認して、当初特記通り施工に臨んだケースも認められた。
橋脚に関しても同様な傾向であり、施工段階でも九州基準のスランプ設定の考え方の理解度が徐々に深まりつつあることが確認できた。

(2)施工性に対するスランプの影響
①スランプ 12㎝のメリット
・8㎝に比べて施工性、充填性がよい。
・ポンプ車を使用する場合、12㎝が効果的。
・締固めが容易となり出来映えも良好で、気泡やジャンカの発生が抑制できる。
②スランプ 12㎝のデメリット
・密実性においてコンクリートの品質が劣る。
・ブリージング水の処理に手間取る。
・単位水量が多くなりひび割れが発生しやすい。
③施工者からの提案
・品質向上の観点からスランプ 12㎝の一律化ではなく現場状況で判断すべき。
・高性能 AE 減水剤の設計段階での採用。等

4.改訂について
4.1 改訂のポイント
今回、前項の試行の結果や道路橋示方書やコンクリート標準示方書の改訂に伴い、令和元年 9 月 24 日付けで九州基準を改訂した。
主な改訂点は、次の通りである。

(1)九州基準の位置づけ
九州基準の位置づけを明確にし、各種規定・基準や指針を相互に補完するものとした。

(2)用語の定義
「プレキャストコンクリート製品」や「工場製品」「環境安全品質」などを追記した。

(3)コンクリート標準示方書及び関連基準類の改訂、
    最新の動向・ 知見等を踏まえた改訂
基準類(コンクリート標準示方書、道路橋示方書、日本産業規格(JIS)、国土交通省関連の規定等)の改訂や近年の動向(i-Construction 等)、最新の技術的・学術的知見に基づき、九州基準の改訂をした。
参考とした主な基準類は、
・土木学会「コンクリート標準示方書」
2017 年制定:設計編、施工編
2018 年制定:維持管理編、規準編
・日本道路協会「道路橋示方書(H29 年度)」
・関連基準や日本産業規格(JIS)等の最新情報などである。
主な改訂内容、記載箇所を以下に示す。

改訂①中性化に伴う鋼材腐食に関する照査
・2017 年制定コンクリート標準示方書において、「中性化と水の浸透に伴う鋼材腐食に対する照査」    ガ示され、水の浸透を考慮した「鋼材腐食に対する照査」が導入された。この対応として、評価委員会にて議論を重ね、当面はこれまでと同様に「中性化深さによる照査手法」で運用し、「鋼材腐食に対する照査」は ” 必要に応じて参考にする ” こととした。
・耐久性照査で用いる「環境作用の程度を表す係数(β)」を、コンクリート標準示方書の改訂内容に準じ「一般に 1.6 としてよい」とした。
記載箇所 「指針:2.2.5 構造物の耐久性照査」、「 手引書(本編):1. 耐久性の照査」

改訂② i-Construction「全体最適の導入(コンクリート工規格の標準化等)」(性能規定)への対応
・平成 23 年 7 月の九州基準の運用開始から、打込みの最小スランプを基に荷卸しの目標スランプを設定する手法を取り入れている。これを継続するとともに、最新の基準類等の内容を踏まえ、更なる分かりやすさに配慮し記述を充実化した。
記載箇所 「手引書(本編):2. スランプの設定(打込みの最小スランプ)」

(4)九州地区の地域特性を考慮した記述の充実化
 1)アルカリシリカ反応(ASR)への対応を強化
九州地区では、アルカリシリカ反応性を有する 骨材を含む、またはおそれのある岩体が広く分布している。これらの骨材を今後も使用していく状況を鑑み、設計段階から構造物の環境条件等や海洋環境、凍結防止剤の散布によるアルカリの供給、水掛かり等による水分の供給などを考慮した検討の実施等について記述を充実した。
記載箇所 指針:「1.1 総則(2)」、「2.2.5 構造物の耐久性照査」、「4.4.4 アルカリシリカ反応抑制対策」

2)代替骨材について
海砂の採取禁止等により、天然骨材に代わり使用される砕砂や、九州で調達可能な代替骨材の特性、使用する際の留意点について、最新の知見等を踏まえ記述を充実した。主な対象骨材は、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、銅スラグ細骨材、フライアッシュ、シラス等である。
記載箇所 「指針:4.3.4 骨材」

(5)これまでの九州基準の運用を踏まえた改訂
過年度の運用、実務者等からの質問・要望、九 州基準の趣旨をより正しく伝える必要があると考えられる点について変更・追記した。
1)温度ひび割れ照査
・ひび割れ指数の考え方の記載
・運用上の課題(誤解されないよう配慮)への対応として表記(数値の記載等)を改めた。
・ひび割れ指数に捉われず、実効性が高く実現可能な対策を選定できることとした。
記載箇所 「指針:2.3.2 温度ひび割れの照査」、「手引書(本編):3. 温度ひび割れの照査」 など
2)温度ひび割れ照査の省略について
照査対象構造物のうち、一定の条件を満たすものは温度ひび割れ照査の省略を認めているが、不適切な適用がなされないよう、省略可能とする条件を見直した。
記載箇所 「手引書(本編):3.3.1 温度ひび割れ照査を実施する対象領域の緩和」
3)温度ひび割れの対策について
ひび割れ抑制鉄筋等の適用を追加した。
記載箇所 「手引書(本編):3.6 ひび割れ対策」
4)九州基準の充実化
指針と手引書の相互の整合を図るとともに、より分かりやすく使いやすい記述に配慮し、全体を通して改訂した。

(6)橋梁上部構造の試行事例の追加
工場製作の橋梁上部構造(桁)に耐久性の向上等を目的として高炉スラグ細骨材(BFS)を使用 した事例について紹介した。主な内容は以下の通りである。
・細砂を用いた通常のコンクリートとの力学特性や耐久性などを比較した結果。
・BFS コンクリートを用いた桁は、プレキャストPC 工場で作製して建設現場まで運搬し、架設。
・BFS コンクリートの施工性は良好で、強度も十分に確保された。
・塩化物イオンに関する浸透深さの測定では、材齢 8 週時点ではあるが通常の砕砂コンクリートに比べて 1/3 であり、BFS コンクリートによる上部構造物が塩害に対して耐久性が高い。

4.2 九州基準に関する講習会の実施
九州基準の改訂を踏まえ、九州地方整備局職員を対象に「コンクリート構造物の耐久性向上に向けた品質確保に関する講習会」を開催した。講習会は、①九州基準の周知徹底、②発注者が実施すべき項目の周知、③座談会形式で現場の声の聞き取り等を目的に実施した。
【主な説明内容】
・九州基準が作成された背景・位置付け
・構造物の耐久性照査(中性化、塩害、ASR)
・温度ひび割れの照査(ひび割れ指数など)
・スランプの設定(現場に応じた値:必ずしも12㎝ではない)
【座談会での確認事項】
・維持管理を考慮して上流から対策を行い良いものを作る。
・構造物の設計段階にて、耐久性照査に基づくかぶりの設定、ASR 抑制対策 , 温度ひび割れ対策、スランプの設定を実施する。
・設計段階の検討結果を適切に反映した工事発注を徹底する。
・工事監理連絡会の更なる活用を目指す。
・判断に迷う場合は評価委員会事務局に相談する(特に ASR 抑制対策など)。
・数値だけに捉われることなく、現実的な対策等を検討する。

5.今後の展開
今回の九州基準の改訂版は、旧版同様、九州地方整備局発注の業務、工事への適用が義務づけられる。今後も引き続き新しい知見を基にした示方書類の改訂がなされることや、実務者からの使い易くするための意見等を踏まえ、より一層充実した内容を目指し九州基準の改善を検討していきたい。

6.おわりに
インフラは豊かな国民生活、社会経済を支える基盤であるが、近年、コンクリートに関する不具合が顕在化しつつあるため、コンクリート構造物の耐久性向上が求められている。これらの現状を踏まえ、九州基準が有効に活用されることによって、更なる品質向上・長寿命化などの社会資本整備の充実に寄与することを望む次第である。
【九州基準のダウンロード先】
(九州地方整備局 > 事業者の方へ > 建設技術情報等 > 共通事項(設計要領))
  http://www.qsr.mlit.go.jp/for_company/kensetu_ joho/kyoutu/index.html

謝辞
最後に、九州基準の改訂にあたりご尽力いただいた、九州地方整備局コンクリート評価委員会の委員長である九州大学の濵田教授をはじめとする各委員と各種試行にご協力いただいた九州地方整備局関係者各位ならびに各調査資料、データをとりまとめていただいた一般社団法人九州建設技術管理協会の関係者各位に感謝の意を表します。

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