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九州地方整備局におけるCIMへの取り組みについて
桒原正純

キーワード:情報の一元化、見える化、情報化施工

1.はじめに
CIM(Construction Information Modeling/Management)とは計画・調査・設計段階から3次元プロダクトモデルを導入し、施工、維持管理の各段階においても3次元モデルに連携・発展させ、あわせて事業全体にわたる関係者間で情報を設計、施工段階のさまざまな検討を可能とするとともに、一連の建設生産システムの効率化・高度化を図るもので、国土交通省では平成24 年度よりその導入検討とモデル事業における試行を開始している。

2.建設業が置かれた状況
九州の建設業の状況は、建設投資額(平成24年度見通し)は約3.9 兆円で、ピーク時(6年度)から約48.6%減、建設業就業者数(23 年度末)は約5万2千業者で、ピーク時(11 年度末)から約18.4%減、建設業就業者数(23 年平均)は54.5 万人、ピーク時(7, 8,11 年平均)から約25.2%減となっている。(次頁の図:九州の建設投資、許可業者数及び就業者数の推移)を参照。このような状況から、建設業に就職する若年層が減少しており、国全体の高齢化の速度を上回る形で建設労働者の高齢化が進んでいる。
一方、社会資本の高齢化も進展しており、20年後には、コンクリートの耐用年数ともいわれる50 年を経過した社会インフラが多数を占めるようになることが予想される。これらの社会資本の維持管理、延命措置が大きな課題となることは周知のとおりである。
このような事態を打開するには、建設産業の生産性を向上させることが不可欠であり、受発注者間の情報共有システムの一般化や写真を元に3次元データを作成する写真計測技術などICT技術の進展を踏まえ、土木分野に革命的変革を起こす可能性がるのがCIMである。
土木分野においてもICT技術の導入が進みつつあるところであり、これらのツールと建築におけるBIMの仕組みを融合させCIMの構築の導入に向けた検討を進めているところである。

3.建設生産システムの課題とCIMのねらい
わが国の公共工事においては、原則として設計と施工が分離されてきた。現在の調査、設計から施工、維持管理まで図面や報告書という形で前段階から次段階へ情報を渡していく建設生産システムは、各段階が独立していることの弊害が指摘されている。個々の段階での電子化・情報化はある程度進んでいるが、土木分野においては、未だ建築分野のBIMのように建設生産システムのあらゆる段階でモデルを共有したシステムは構築されていない。
今後は、これまで取り組んできた情報化技術を要素技術として、それらを統合・発展させて建設生産プロセス全体として情報化を推進し、業務の効率化をはじめ建設事業全体での生産性の向上を図る必要がある。

4.CIMの導入効果
CIMにおける3次元モデルとは、単にコンピューター上に精緻な仮想構造物の形状を表現するだけでなく、材料・部材の仕様・性能・数量、コスト情報等、実構造物としての属性情報をも併せ持った情報の集合体を設計段階から構築するものである。
【CIM導入の効果】
◆設計段階においては、効率的、かつ幅広い比較検討等が可能となる他、構造物の干渉チェックによる設計ミスの削減、数量の自動算出、構造物の可視化等。
◆設計から施工に移行する際に、3次元モデルによる円滑なデータ連携が図られる。
◆施工時のデータを順次モデルに追加することにより、出来形確認等の施工管理の効率化が図られるとともに、維持管理に活用する3次元モデルが構築される。
◆施工時に時間軸を追加(4次元モデル)するなどの応用により、施工計画の最適化、効率的な施工管理、安全の向上等が可能となる。
◆工事完成時の3次元モデルに維持管理において必要なデータ(属性データ等)を連携させることにより、維持管理に活用できる3次元モデルが構築され、管理の効率化・高度化が可能となる。
◆発注者においては、発注業務(設計図書の作成、積算など)、監督・検査業務の効率化が図られる。

5.今後のCIM試行における課題
①上流側~下流側まで一連の流れでのCIMの試行
・データ作成の手間が大きく費用対効果が薄いため、設計単体でのCIM活用では効果が実感できない。
②現状業務に必要以上の負荷を与えないための属性情報の取捨選択
 ・建設プロジェクトでは大量な情報が発生するため、全てをCIMモデルに取り組むとモデルが重たくなり、有効な活用が困難になる。
③人材育成
・官民共に属性付3次元データを扱える人材が不足しており、効果を実感しにくい。
以上の点が挙げられている。

6.九州地方整備局におけるCIMへの取り組み状況
局内に九州地方CIM導入検討会(委員長:小林一郎 熊本大学大学院教授)を平成25 年7月に発足して、事務所を巻き込む形でCIMの推進を図ることにした。

第1回の検討会では、
◆H 24 年度北九州国道事務所において試行で実施したトンネルの3次元設計の説明
◆九州で初めて3D設計を行った「曽木の滝」の事例紹介
◆今後の九州地方整備局におけるCIMのあり方について議論した。
CIMの導入を図るためには職員への周知がまず不可欠との結論から、平成25 年9月から12月にかけて全県7地区で講習会を実施し、事務所から延べ約250 人が出席した。
1回の講演会には3時間を費やし、CIMの概念説明にとどまらず、業務改善、効率化の糸口についても出席者から具体的な意見を聞き、課題整理を行ってきた。
周知徹底を心がけたのはCIMの位置づけで、重視したのは“ M ” の部分である。通常の「モデリング」ではなくあえて「マネジメント」を使うことを強調してきた。

キャラバンの成果としては、H 25 年度当初に「福岡201 号筑豊烏尾トンネル(糸田工区)新設工事(北九州国道)」、「八重川津屋原沼改修事業施設検討業務(宮崎河川国道)」で試行に着手していたが、CIM概念の理解に伴い業務2件、工事2件の計4件の試行が下記の表のとおり追加された。

【各事務所の出席者から出された意見】
①地形データに写真を組み合わせモデルは、災害発生時の検討に有効。
②小規模な橋梁補修・補強設計の実施に属性情報が付与されていれば有効。
③トンネルでは、管理に必要な属性として“ 湧水” や“ 変位” 情報のみで良い。
④導入に当たっては、統一的な基準を策定してほしい。
⑤ICT(MG)活用の再の出来形管理が可能となれば効率化が図れると思われる。
⑥設計費は高価となるのでは無いか
⑦3次元ソフトの使用環境を整える必要がある。
事務所には、維持管理にまで3次元モデルデータを有効活用することを前提に導入目的を探るよう促している。描いているのは、最も上流の調査段階から順を追って維持管理まで引き継がれていくマネジメントのCIMを期待している。

【WG の活動事例の紹介】
トンネルCIMのWGでは、トンネルCIMモデル利活用の流れを議論した。今後のトンネルCIMモデル導入に向けての方向性を筑豊烏尾トンネルの試行工事で確認していくことにしている。

【平成26 年度の取り組みについて】
現在、トンネル、河川改修、ダム、橋梁などのいくつかの試行を通して事例づくりに取り組んでいる。今後は各WGや現場実態を通して
◆発注者にとって便利で必要だと思えるデータとは、どのようなものか。
◆計画当初から竣工まで共有し、更新していくモデルとはどうあるべきか。
を検討し、3次元データが維持管理段階まで繋がる様々な施策と工事、維持管理の現場にいる人の要求が呼応するマネジメントシステムの構築への取り組みを進めることにしている。

7.おわりに
建設生産システムの変革を目指し、CIMを導入して建設業の生産性を高めるためには、建設ライフサイクル全般における情報の一元化が重要となるため、設計・施工・維持管理の各局面での情報の確実な入力が不可欠である。そのため、すべての局面の関係者がCIMを活用することでメリットを享受できるようなシステムの構築を検討していきたい。

【参考文献】
1)CIM技術検討会(平成24 年度報告)
国土交通省におけるCIMへの取り組みと今後の展望/国土交通省大臣官房技術調査課
発行:一般財団法人経済調査会
2)特集 公共工事の品質確保と入札契約制度の適正化
CIM(シム)の導入に向けて(月刊建設13-02)
国土交通省大臣官房技術調査課工事監視官 石川雄一

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