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昭和33(1958)年9月27日、宮崎県日南市飫肥板敷生まれ。地元の日南高校を卒業後、東京学芸大学へ進む。卒業後昭和58年に教師となり19年経つ。モットーは「知的な授業をして子どもたちに力をつける」「どんな子どもでも勉強はできるようになる」。向山洋一氏(東京教育研究所 代表)が提唱するすぐれた教育財産の共有化運動に共鳴し、氏が中心になって構築したポータルサイト、トスランドの利用を広めようと尽力中。4年前に4校目の三納小学校に赴任。現在は6年生を担任。44歳。
取材・文/西島 京子
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●ゆるやかな流れを見せる一ツ瀬川水系(2級水系)三納川。上流には長谷ダムがある
●総合的な学習の成果を発表する子どもたち
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宮崎県のほぼ中央に位置する西都市は、豊かな自然に恵まれたまちで、かつては日向の中心地として栄え、古事記や日本書紀にも記されている神話伝承の地として知られている。312基もの古墳が点在する西都原古墳群は、全国でも最大級の古墳として国指定の特別史跡になっており、古代への壮大なロマンに彩られている。
多くの史跡や文化財を有する西都市には、祭りも多く伝えられており、一方ではプロ野球ヤクルトスワローズのキャンプ地となるなど、スポーツランドとしても知られている。
西都市の4分の3は森林であり、ホタルやヤマメなどが生息する清流が多い。市でも安全で快適なくらしづくりのための環境保全に熱心に取り組み、特に河川に関しては啓発運動や愛護団体の育成支援を行っている。
西都原古墳群より車で西へ10分ほど行ったところにある三納小学校でも、校舎のすぐ横を流れる一ツ瀬川支流の三納川での学習に力を注いでいる。実際に子どもたちが三納川に触れあう機会は非常に多く、地域の人々の活動も、三納川と密接に関わっているようだ。
平成14年から始められた三納小学校の総合的な学習の時間で、三納川を学んだ6年生たちがその成果を壁新聞にした。それが同年に開催された国土交通省九州地方整備局および社団法人九州建設弘済会主催の「第1回 小・中学生『私たちの川』壁新聞コンテスト」で学校賞を受賞したのだ。
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●6月に行われた総合的な学習の時間で、三納川の生物を探して遊ぶ4年生の子どもたち
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三納小学校の歴史は古く、平成12年に創立100周年を迎えた。統合など、もともとの歴史をたどれば130年くらいになるという。歴代の校長の写真がずらりと並ぶ校長室で、6年生担任の分衛先生に話を伺った。
「総合的な学習の時間に、三納小学校の場合は3年生から6年生に15時間ずつ三納川の学習をすることにしたのです。具体的には、3年生は『レッツゴー三納川~それ行けチビッ子探検隊』というネーミングで三納川へ行き、主に川の植物とか生物に触れ合いながら遊びを体験し川への興味を持たせるようにし、4年生は『わたしたちの三納川』として、川の観察や水辺活動を通して環境や暮らし、農業へのつながりなどを学びました。5年生は『郷土の自然とふれあおう』というテーマで、川の水質検査などをして環境をとりまく問題点を考えさせるようにしました。また6年生は『わたしたちの三納川』として、今よりもっと三納川をきれいにするためにはどうしたらよいか、ということに取り組みました。今の三納川は20年前よりきれいですが、地域のお年寄りの方々は、50年前のほうがもっときれいだったと言います。河川敷には美しい砂地があってよく遊んだそうですよ」。そして透明度がとてもよくて、どこでも川底が見えたそうです。
10年前から三納川周辺を清掃しようと、地域の人々とPTAが立ち上がり、河川と河川敷の清掃活動を始めた結果、次第に三納川はきれいになっていった。当初は自転車や空き缶などの大きなゴミが川にあふれていたという。
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●すいかを持ち、子どもらしい表情を見せている6年生たち。三納川でのキャンプは一生の思い出になるだろう
●「三納地区花つくり会」の指導で、三納川の河川敷にコスモスの種を植える子どもたち
●「三納っ子を育てる会」主催の魚のつかみ取り大会では、多くの子どもたちが夢中になって魚を追う
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子どもたちが三納川に触れ合う時間はかなり多い。総合的な学習の時間もそうだが、ほかに地域の人々で組織する「三納っ子をすこやかに育てる会」が、年間に4、5回川で遊ぶイベントを企画し、子どもたちを楽しませてくれるという。
「カヌー教室や魚のつかみ取り大会、魚釣りとかがあります。この会は自主的な会で、三納地域のほぼ全戸が入っています。お父さんの出席率が高くて、いろいろな体験をさせてくれます。三納の子どもたちは本当に幸福ですよ。新学期には校門の前に並んで『今学期もがんばろうね。』と声を掛けてくれるなど、子どもたちをしっかり育てたいという思いが伝わってきます」
夏には授業時間に3回ほど三納川で泳ぐ。6年生は6年生の学級PTA主催で夏休み最初の土曜日にキャンプをする。これには6年生全員で参加しており、現在6年生は1クラス、37人だけだ。
「飯ごう炊飯をして、キャンプファイヤーを楽しみます。お父さんなど父兄が多く参加して、川でいかだを組み子どもたちを遊ばせるんです。お父さんたちは三納川で幼いころから遊んでいたので、遊ばせ方が非常にうまいんですよ」
「三納地区花つくり会」という団体もあり、子どもたちは毎年コスモスの種を植えたり、なたねを育て油を絞って、家庭科で使うという活動に参加している。この「三納地区花つくり会」と「三納っ子をすこやかに育てる会」が共催で、毎年4月29日に三納河川敷で約80匹の鯉のぼりあげが行われている。これは、子どもの健康と、小中学生の健全育成、地域住民の親睦を図るために毎年行われているもので、平成14年で8回目となった。さらに、平成14年10月10日には児童会活動として「第1回三納川ウォークラリー」が開催された。コスモスの咲き乱れる三納川河川敷をクイズを解きながら散策する子どもたちのほのぼのとした姿が目に浮かぶようだ
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三納川は小学校の校庭を横切り土手を上がって道を渡ると目の前にある。階段を降りると河川敷で遊べるようになっており、大きな石の上を歩いて川を渡ることもできる。
「これは護岸工事をしてからなんです。この川は昔、暴れ川と言われていましてね、夏になるたびによく氾濫したそうですよ。それで長谷ダムが作られたんですけどね。最近は子どもたちが水害にあうことはありませんが、一度大きな台風のときに一部の地域が避難したことはありました。川があるということは、自然の怖さも教えられますね。総合的な学習の時間を過ごしたことで、子どもたちの環境意識が高まったのは確実です。一般的には『川で遊ぶな』と学校は強く指導するものですが、三納という地域の伝統でしょうか、地域の皆さんが川にかかわりながらの子育てに非常に熱心で、すばらしいと思います」
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●4年生たちが三納川でつかまえた魚たち。川の生き物は多く、鮎やうなぎ、いだと呼ばれる魚もいる
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三納川のことを学びながら子どもたちは壁新聞を作った。「三納川のことをまず知ろうということで、西都土木事務所の井上さんに教室に来てもらい話をしてもらったんです。治水のこと、川と産業のこと、生活排水のことなどを学ばせてもらいました。特に、川のよごれの原因は生活排水だと知って、子どもたちは、びっくりしていました。その後、子どもたちは家庭でラーメンの汁は残さないようにとか、牛乳は捨てないで庭の土に返そうとか、アクリルたわしを使ってできるだけ洗剤を使わないようにしようと、パンフレットを作り、三納全戸に配布しました。宮崎県の環境情報を流すホームページをのぞいたり、結構皆パソコンにも馴染んでいます。川を知ることは、自分の身の周りの自然とか歴史とか文化とか人々の暮らしなどを理解すること。あと、環境問題への認識が進むことにつながります。川の学習を通して、環境問題への意識を持ち続け、川など環境のためにできることをしながら大人になったときの環境を考える原動力になってくれればいいと思っています」
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●8月18日に開催された「三納っ子をすこやかに育てる会」主催のカヌー教室の様子。父親たちの熱心な姿が頼もしい
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「総合的な学習では新しい発見がありました。女の子たちのグループが川の生き物を調べるために地元の方の家を訪ねて、昔の川の生き物を描いた絵巻を借りてきてカラーコピーを取り、それを壁新聞で紹介したんです。面白かったのは、そこに自分が知らない魚がいたんですよね。私は子どものころ酒谷川支流の仮屋川で真っ黒になって魚取りをして遊んでいたので、自分が知らない魚はいないと思ってました。でも三納川にかつていた魚たちは、とてもきれいでした。その壁新聞を応募して『学校賞』というのをいただいたんです」
総合的な学習の時間は今年からの本格始動で、三納小学校の先生方も2年間かけてこの計画を激論しながら作り上げたという。
「今後はテーマをもう少し整理しなければならないと思っています。それが課題ですね。僕達は子どもを受け持って、勝負できるのは1年間だけなのですが、子どもに豊かな価値観を持たせたい、子どもが本来持っているいろいろな可能性に気付かせたい、伸ばしたいと思っています。それができたときが一番嬉しいです。そして、自分が子どもだったころのようなきれいな川を取り戻したいですね。これからはもっと行動していかなければ」と分衛先生は目を輝かせた。