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六角川における河川緑化資材の検討

国土交通省 九州技術事務所
 調査試検課 専門職
大久保 章 雄

国土交通省 九州技術事務所
 調査試験課長
荒 木 辰 彦

国土交通省 武雄工事事務所
 調査課長
泊  耕 一

1 調査の背景
平成5年の環境基本法の施行,平成6年の環境政策大綱(国土交通省の環境方針)の公表,平成7年の生物多様性国家戦略の決定,平成9年の河川法改正(河川管理の基本方針に生物の多様な生息生育環境の確保が追加された),そして,平成11年の環境影響評価法(生態系の保全等の新視点の追加)の施行など,環境への負荷の低減と生態系の保全と調和についての国民の要請が高まっている。さらに本年9月末には,日本生態学会から「外来種ワースト100」が選ばれ(オオブタクサ,セイタカアワダチソウ,ホテイアオイ等),外来種を規制・管理する法制化の動きが見られ,10月16日には滋賀県議会において,琵琶湖における外来魚の再放流を禁止する条例が成立している。
これらの生物多様性の取り組みの1つとして,河川堤防の緑化資材として,外来種を排除した九州の郷土種の供給体制を確立することを目的に,六角川河川敷を試験フィールドとした調査検討を行うものである。

2 対象郷土種及び外来種
(1)郷土種及び外来種の定義
平成4年度 河川水辺の国勢調査(植物調査編)及び『河川における外来種対策に向けて(案)リバーフロント整備センター編』などの既往文献・資料及び現地調査を参考に学識経験者による検討会を開催して,郷土種の定義を検討した。
 ① 郷土種
 ・自然分布している範囲内に存在する種
 ・地域に自生分布している種
 ② 外来種
 ・自然分布範囲外から侵入し定着した種で,生物多様性を脅かす可能性のある種

(2)郷土種の選定
郷土種の定義を踏まえ,以下の観点で本業務における郷土種を選定した。
 ・過去の調査で六角川に広く分布している種
 ・明治以降に侵入した種は除く
 ・堤防植生にふさわしい種
 ・堤防の土を保持することを目的とするため,主に根が強い多年草を選定する。
 ・施工後は,早期に根の生長が必要であるため,1年草からも選定する。
以上の観点より,本業務において選定した郷土種を表に示す。

(3)駆除対象外来種の選定
駆除対象外来種は,外来種の定義を踏まえ,以下の観点で本業務における駆除対象外来種を選定した。
 ・六角川に広く分布
 ・他の植物の発芽を抑制する種
以上の観点より,全国的に広く分布し,六角川においても同様に広く分布しているセイタカアワダチソウを駆除対象種として選定した。

3 実験方法の検討
本業務は以下に示す3つに大別できる。

(1)遺伝子の分布調査
六角川の上流で採種したチガヤを下流の堤防緑化に使用する際,同じ六角川でも遺伝子の違いが大きい可能性がある。本業務での郷土種とは,対象地域に自生分布する種であるため,同じ種類の植物であっても,生息する場所が異なり遺伝子の違いが大きいと,同じ郷土種として取り扱うことはふさわしくない。
そこで,本業務では最も基本となる遺伝子の多様性に着目し,対象河川である六角川の上流,中流,下流域において生息するチガヤの遺伝子解析を現在実施しており分析中である。この結果を踏まえ,郷土種の供給範囲を決定する。

(2)育苗実験
対象郷土種を堤防緑化工事で実際に利用するために必要な基礎的データを取得する目的として育苗実験を実施することとした。
① 播種による育苗実験
採種した郷土種を,実際の施工を想定して,種子吹き付け前の裸地に基盤育成材等と混合して,吹き付けを行う。
② 埋土種子による育苗実験
六角川周辺で採取した土の中には,発芽条件が整わずに発芽していない種子が,潜在的に含まれている。それを埋土種子と呼ぶが,郷土種を得るためには埋土種子を活用する方法もある。
埋土種子を堤防法面に播いた場合,周辺の土に潜在的に存在し生育する種を把握するために実験を行う。
③ 地下茎による育苗実験
多量の郷土種の種子を工事対象地域周辺で確保するためには,種子の採種によるものだけでなく,他の方法も検討する必要がある。郷土種の中には地下茎で生育する種もあり,この特性を活用し,施工において利用するために,地下茎による育苗実験を実施する。

(3)外来種駆除実験
草刈り機の駆除では,生命力の強いセイタカアワダチソウの根は土中に残存するため,抜根に比ベ駆除効果が小さいと予想されるが,省労力かつ短期間で効率的に作業が実施できるという利点もある。駆除効率が低いという欠点は,年に何回も刈り取ることにより光合成による生長を抑制することができダメージを与えることで,補うことができると考えられる。
そこで,草刈り機による駆除の効果的な回数を抜根による駆除と比較しながら検討する。

4 あとがき
現在,九州技術事務所と武雄工事事務所との共同で,六角川を試験フィールドとして実施中である。九州地方整備局では初めての取り組みであり,今後検討結果について逐次報告する。

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