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MMS計測を活用した堤防管理について
~堤防排水集中区間の抽出~
工藤勝次
藤川保則

キーワード:天端排水集中、MMS、堤防管理

1.はじめに
 筑後川は、流域面積2,860km2、幹川流路延長、143㎞で九州最大の一級河川である。筑後川の堤防は、長い年月をかけて築造され、古いものでは50年以上経過しているものもある。また、下流域の堤防は感潮区間となっていることから、粘性土を含んだ複雑な土質構造となっている。
また、近年の降雨により平成20年6月の久留米市安武地区をはじめ、平成27年8月(台風15号の影響)には久留米市大善寺地区など、堤防が崩壊する被災が発生したことから、台風15号による筑後川左岸18k310 ~ 18k360区間(大善寺地区)の川表法面崩壊(2箇所)の被災要因及びその調査方法・結果についてまとめた。特に今回の事象を踏まえ雨水集中区間の監視が重要であるといった視点によりMMS調査を活用した面崩壊等が予想される箇所の抽出方法の検討を実施したので、その検討方法とその結果を報告する。
なお、被災原因の究明にあたっては、秋山壽一郎九州工業大学教授、以下6名の学識者からなる「筑後川堤防調査委員会」を設立し、専門家の意見を伺いながら検討を行った。

2.被災の概要
2.1 台風15号の概要
台風15号は、25日6時過ぎに熊本県荒尾市付近に上陸し、その後、九州北部を縦断した。雲仙岳では60分間に134.5㎜(アメダス観測値)と短時間に強雨が記録されている。
大善寺地区近傍の筑邦雨量観測所における総雨量は約140㎜であったが、25日5:50~6:50の60分間に75㎜を記録している。一方、瀬の下水位観測所の水位は、25日14時に最高水位3.69mを記録したが、平常時よりも40㎝程度高い水位であった。

2.2 被災の概要
大善寺地区で発生した法面崩壊の延長は、上流部が約11m(天端道路亀裂を含むと15.2m)、下流部が約10mであった。崩壊が生じた下面には多量の水がたまっていた。

3.被災箇所の調査
被災直後はテックドクター(当日)、国総研・土研(2日後)による現地調査が実施され、助言により被災直後の試料採取やコーン貫入試験等を実施した。

被災要因検討にあたっては、被災箇所を中心に約800m 区間において、堤防天端の面的な形状を把握するため、モービル・マッピング・システム(以下、「MMS」)調査を実施した。
また、法面表層の緩みや堤体内に砂層の介在など、複数の崩壊素因を想定して調査項目を設定し、被災箇所の上下流を含めた6 断面(被災箇所2断面、上下流4断面)で地質調査を実施した。

3.1 堤防の形状
MMS調査による天端標高図では、暖色(赤、黄、緑)から寒色(青)の順で標高が低くなることを示している。被災箇所付近の堤防の標高は、上下流が高く、それに挟まれた低い区間となっている。
断面④の横断形状は、川裏側の道路が低く、高い川表法肩と川裏側歩車道境界ブロックに挟まれた凹地状の地形になっていたことがうかがえる。

3.2 堤防の土質
調査の結果、堤防の土質構造は次のとおりである。
〈堤体〉
・昭和30年以前に築堤された粘性土による旧堤(Bc1 層、Bsc1 層、Bcs1 層)に対して、細粒分のやや卓越したシルト層(Bc2)で1.5 m~2m程度嵩上げされたのが元々の堤防と考えられる。
・昭和44年頃に概ね定規断面(Bsc3)となり、平成20年頃に天端の拡幅(Bk4)が行われている。

〈基礎地盤〉
・堤体の直下には、2~3m程度の厚さで沖積粘性土層(Ac1層、Ac2層)が堆積しており、そこに積砂質土層(As1層)がレンズ状に差し込む構造となっている。
・崩壊した土層に該当するBc2層は、粒度分析の結果、砂分を10~30%含むことが確認された。

・全断面の法肩部で行ったRI-三成分コーン貫入試験等の結果、概ねGL-1.50mの深度まで相対的に緩み領域が確認された。被災断面と無被災断面を比較しても、大差無くほぼ同様の状況あることが分かった。
堤体を構成する土層(Bsc1、Bc1、Bcs1、Bc2、Bsc3)と基礎地盤の表層(As2)について、現場透水試験と、室内透水試験を実施しており、特に崩壊を生じたBc2とBsc3に対しては、砂分が多いことからマリオットサイフォンによる透水試験を実施した。その結果、堤体については、い透水係数で浸透しにくい土質で構成されている一方で、崩壊した土層に該当する表層付近のBc2層は土質から想定される透水係数よりも高い透水性をもつことが分かった。

3.3 排水状況
川裏側の歩車道境界ブロックには半円状の排水孔が8m間隔で設けられているが、これらの排水孔には土砂の堆積等により閉塞したものが確認された。
また、前述したとおり被災箇所付近の天端は、上下流の堤防に比べ低く、川裏側が凹地状となっており、短時間の豪雨時には排水不良によって天端に水たまりができやすく、溜まった雨水が天端中央を超えて、川表側に排水される状況があった。

4.被災メカニズムの検討
被災要因の推定にあたっては、解析を主体として行うこととした。解析は降雨を外力として与え、飽和―不飽和浸透流解析により、最も高い堤体内浸潤線時の円弧滑りによる安定解析により行った。降雨外力については、筑邦雨量観測所の被災時の実績降雨に加えて、天端の上下流から集中してきた雨水を天端排水として付加する必要がある。

4.1  外力の設定
被災箇所周辺のMMS調査結果を用いて、堤防天端高について整理する。川表法肩は仮復旧後の標高を捉えているため、被災前の写真を確認すると流水痕がみられ、図-10の赤破線のように約50mの区間が低かったと推定される。

集水区間に降った雨は最も低い区間(以下、排水区間)に集中することから、集水区間に振った降雨量を用いて崩壊区間に排水されたと考えられる降雨強度を算定した。
「集水区間の雨量①」と「排水区間の表法面の雨②」は、「排水区間の天端と法面の排水量③」に等しいため式1となり、計算すると、降雨強度r´ は被災時降雨強度rの2.5 倍に相当したと推定される。

被災箇所の天端排水集中を考慮した解析においては、降雨を2.5倍(時間75㎜→ 187.5㎜)に引き延ばして与えることとし、水位外力は平常時より40㎝程度高い水位だったため、平水位相当を定常状態で与えるものした。

4.2 解析結果
天端排水がすべりに与えた影響について把握するために、被災時降雨を被災した断面④と被災しなかった下流の断面①、上流の断面⑥に与えた場合と、被災した断面④に4.1で設定した、被災時降雨外力に天端排水集中を考慮した外力を与えた場合の安定解析を実施した。その結果、
・被災時降雨の条件では、3断面とも崩壊の目安となるFs = 1.0 を上回る結果となった。
・一方、天端排水の集中を考慮して断面④について解析を行った結果、Fs= 0.96となり、Fs=1.0を下回る結果となった。

4.3 被災メカニズムの推定
分析結果を踏まえると、被災メカニズムは以下の通りと考えられた。
・堤防天端の延長370m 区間に降った降雨が、樋状となった天端を通じて、縦断的に低い区間に集中した。
・天端道路の川裏側に設置されていた歩車道境界ブロックの排水孔も目詰まりしていたことから、集中した雨水が川表側に流出した。
・崩壊区間では雨水に天端排水が加わり、降雨量の約2.5倍の雨水が法面を流下していた。
・細粒分の含有率から法面表層の土層Bc2は完全な粘土ではなく、透水係数も10-3cm/s オーダーと高いことから、法面には雨水が浸透しやすく、浸透時の強度が低下しやすい土層であった。
・解析の結果、天端排水集中を考慮した場合、Fs= 1.0を下回ることが確認された。
したがって、降雨に加えて天端排水が堤防表法面に浸透し、法面表層の間隙水圧が上昇した結果土質強度が低下し、法面の崩壊に至ったと考えられた。

5.筑後川における雨水集中箇所の抽出
5.1 MMS調査の概要
今回の法面崩壊は、天端排水が集中して法面に浸透したことが原因である。筑後川の他区間において、天端排水が集中している箇所を把握することを目的として、本川の築堤区間(高潮区間を除く)の両岸約94㎞でMMS調査を行った。

調査結果については、縦断的な集水地形を把握するため概ね0.5mピッチで天端中央、川表・川裏法肩の天端縦断図と、面的な集水地形(片勾配・凹地地形)を把握するため、堤防天端の標高コンター図を作成した。

5.2 排水集中区間の堤防の形状的な特徴
MMS調査結果に基づき、排水集中区間を抽出する際の目安を把握するため、( ⅰ ) 集水延長、( ⅱ ) 上下流標高差、( ⅲ ) 上下流縦断勾配に着目し、以下の検討を行った。

5.2. 1 現地調査による排水集中区間の把握
排水集中区間の条件を「集水延長が概ね100m程度以上、かつ同区間の高低差が0.1m以上の区間」「定期横断図より、天端の凹みや歩車道境界ブロック等が確認できる区間」と仮定し、この条件により抽出された50区間について、法面のガリ侵食・流水痕跡の有無を確認するため現地調査を行った。
その結果、24区間で流水痕跡等が確認され、特徴としては下記のとおりであった。
・集水延長80m以上
・上下流標高差0.2m以上
・上下流縦断勾配0.3%以上

また、橋梁等の取付部が約半数を占め、片勾配区間(曲線部)でも流水痕跡等が確認されたため、このような箇所については、注視する必要があることが分かってきた。

5.2. 2 変状箇所による排水集中区間の把握
平成24年7月の九州北部豪雨により法面侵食等が発生した箇所のうち、天端排水が要因と思われる7箇所を抽出し、今回実施したMMS調査結果を整理した。その結果、7箇所の内、3箇所(約4割)が片勾配区間(曲線部等)であった。また、天端の上下流の縦断勾配が大きくなりやすい橋梁取付部や曲線部かつ片勾配区間を除けば、以下の形状特性を持つ区間で法面侵食を受けていることが明らかとなった。
・集水延長50m以上
・縦断標高差0.2m以上
・上下流の縦断勾配0.3%以上

5.2. 3 排水集中区間の抽出フロー
これまでの検討結果に基づき、排水集中区間(要注意区間)の抽出フローを作成した。
橋梁取付部及び片勾配区間(曲線部)については、流水痕跡が多数確認されたため、要注意区間として設定した。
上下流縦断標高差及び上下流の縦断勾配の目安の値については、現地調査及び過去変状発生箇所とも同じ値であるため、標高差0.2m以上、縦断勾配0.3%以上と設定した。
集水延長ついては、過去変状が発生した箇所の中で50mが一番短い区間長であるため、目安を50m以上と設定した。

5.2. 4 抽出フローの妥当性の確認
今回検討した抽出フローが妥当であるか、過去3年間の巡視点検により、天端排水集中が原因と考えられる小規模なガリ侵食等が発見された箇所が、フローにより抽出されるか整合性の確認を行った。
巡視点検により発見された34箇所のうち33箇所が一致する結果であった。合致しなかった箇所の特性としては、交通量が多く轍やクラックが多数生じており、ポケット的な水たまりが生じ車両通行時の水はね等が流水痕跡の要因と考えられる。

5.3 MMSによる天端排水要注意箇所の抽出
MMS調査結果と今回作成したフローにより天端排水要注意区間を抽出すると、202箇所となった。
この202箇所を現地調査にて目視点検を行った結果、天端排水が集中したことによる法面侵食が約半数の104箇所で確認された。

5.4  MMS調査の総括
今回実施したMMS調査により、堤防天端の形状を面的に把握し、閾値(筑後川では、集水延長・標高差・縦断勾配)を設定することで、通常の定期縦横断測量だけでは把握できない、天端排水集中区間を概ね抽出できるものと考えられる。

6.筑後川における堤防管理のあり方
6.1 大規模な法面崩壊が予想される箇所の抽出
天端排水要注意区間の対策必要性の判断としては、図-18に示すとおりである。
特に、法面勾配が2割よりも急勾配で、集水区間延長が300m(過去の被災箇所の集水延長は概ね300m以上)を超える箇所については、抜本的な対策が必要である「大規模な法面崩壊等が予想される箇所」と位置づけ、該当する6箇所については、法面の緩勾配化(一枚法化)に合わせて、天端排水対策を実施している。
集水区間延長が300m未満の箇所については、法面侵食の状況により、必要に応じて補修を行い、変状を経過観察することとした。

6.2  天端排水要注意箇所の巡視点検
天端排水要注意区間については、定期的に実施している巡視を雨天時に行う場合は、雨水排水が集中しているか、天端の排水不良が確認できるか等、重点的に確認するとともに、年2回実施する堤防点検においては、下記の視点で確認することとしている。
・法肩付近に侵食痕や肩落ちを確認できるか
・法面勾配が2割よりも急であるか
・法面の緩みを確認できるか
・天端排水機能を低下させる要因は無いか
なお、MMS調査については、定期縦横断測量に合わせて実施し、データの更新していく予定である。

7.おわりに
今回の堤防被災は、天端排水が主要因となって発生したものであるが、これまで天端排水は堤防管理において重要視されていない項目である。
本局河川部では、今回の事象を踏まえ、巡視点検の基準となる各種マニュアルに堤防天端の排水状況を確認項目として追加するとともに、今後は堤防道路の管理者に対し、路面排水の適切な管理を行うよう指導していく方向で検討が行われているところである。
本検討では、MMSを活用した調査によって、堤防の雨水集中区間における法面崩壊等が予想される箇所の抽出方法を示し、併せて雨水集中区間の監視の重要性を鑑みて、巡視や点検における対応方針を示したことが成果であると考えている。
今後、これらの成果を活用して、筑後川の堤防管理を高度化し、さらなる安全性の確保を図ることが重要であると考える。

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