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LP(レーザープロファイラ)データを活用した
直轄道路沿線斜面の潜在的災害危険箇所の把握について

国土交通省 九州地方整備局
 九州技術事務所    
 維持管理技術第一係長
山 内  聡

キーワード:道路防災点検、潜在的災害危険箇所、LP調査、スクリーニング

1.はじめに
近年の地球温暖化により時間降水量 50㎜以上降雨の平均年間発生回数が 1976 年~ 1985 年と 2009 年~ 2018 年を比較して 1.4 倍となっているほか、平成 30 年 7 月豪雨など過去 10 年で 3 割のアメダス観測点(414 点)において観測史上最大雨量を更新している。また、平成 30 年度の土砂災害発生件数は昭和 57 年以降最多となる 3,459 件にのぼり、平均発生件数(1,015 件)の3.4 倍を記録した。
このような気候変動による災害外力の増大を踏まえ、国土交通省では平成 30 年 11 月 27 日の「重要インフラの緊急点検の結果及び対応方策」による 3 ヶ年緊急対策として法面対策等を実施しており、道路区域内外の危険箇所からの土砂災害対策の防止に取り組んでいる。これらをうけて、九州技術事務所では、直轄道路沿線斜面における潜在的な災害危険箇所を把握するため、計測点群密度を 4 点 /m2とする航空レーザープロファイラ調査(以下、LP 調査)を実施した。
今回、道路に影響を及ぼす可能性のある潜在的な災害危険箇所を LP 調査により取得した 3 次元地形データを利用し、簡易地形判読によりスクリーニングを実施した事例について紹介する。

2.道路沿道斜面の道路防災管理上の課題
直轄道路沿線斜面では、過去の道路防災総点検(H 8、H18 総点検)で全線の安定度調査を行ったのち、カルテ点検等の道路防災管理を通年で実施している。一方、道路防災総点検の再確認から 13 年が経過しており、気候変動による災害外力の増大や経年変化から、道路区域外に起因する土砂災害等の危険箇所の把握が課題となっている(写真-1)。特に安定度調査未実施の点検対象外斜面での危険箇所の把握は、道路管理者にとって多大な時間と労力を要し、高精細な LP 調査を活用した災害危険箇所のスクリーニングを実施し、防災点検業務での安定度調査候補箇所を迅速に選定する必要があった(図-1)。

写真1 斜面山頂部からの崩落(令和2年7月豪雨)

図1 安定度調査でのLP調査の位置づけ

3.LP調査による3次元地形データ取得
(1)3次元地形データの取得・活用効果
従来の LP 計測では点群密度が 0.5 ~ 1 点 /m2程度のデータを用いて災害要因の判読に用いられてきた。今回の LP 調査では 4 点 /m2の高精細な 3 次元デジタル地形データを取得することで、以下のメリットがある。
①従来の等高線地形図と比較して微地形表現力が高く、判読や現場での位置特定精度が高い。
②微地形表現図は落石源や崩壊地などの災害危険箇所を図上で直接判読抽出することが可能。
③デジタル地形データのため、傾斜量や標高区分、地形凹凸等を強調した多彩な微地形表現が可能となる。
④災害前後の地形差分解析から、崩壊範囲や断面・土量の把握、崩壊ブロックの変動方向の把握等が可能。
⑤高精細な微地形表現図を現地点検に活用することで、点検の効率化や点検記録の位置精度や信頼性向上が図られる。

(2)九州管内におけるLP調査の概要
九州管内では、北部地区 4 県(福岡・佐賀・長崎・大分)と南部地区 3 県(熊本、宮崎、鹿児島)の 2 業務で直轄道路沿線を対象に LP 調査を実施した。2)本稿では北部地区の調査・検討結果について述べる。LP 調査は、図-2 の工程からなり、 ① LP 計測範囲の設定、②市街地・山地での LP 計測、③オリジナルデータからフィルタリングによって 3 次元データを作成(グラウンド点群データ)、④その他データ(グリッドデータ、簡易写真地図データ、微地形表現図)及び単元斜面作成を行った。これらの LP 調査結果から 3 次元地形データを作成した。

図 2 LP調査の作業フロー
図

(3)LP調査範囲および単元斜面の設定
調査範囲は、直轄国道沿道の地形を市街地と山地に区分した。市街地は道路幅員 15m に沿道区域 20m を加えた片側 35m 範囲、山地は道路中心より道路に影響する斜面の尾根から崖下までの範囲(200m ~最大 2㎞)とした。
斜面の災害危険箇所より発生した落石や崩壊土砂は、道路から尾根・谷筋に囲まれた範囲で影響を及ぼすと考えられるため、尾根・谷筋に囲まれた道路に影響を及ぼす範囲を「単元斜面」として区分し、単元斜面をカバーするように設定した(図-3)。

図3 計測範囲・単元斜面の概念図 1)(出典原図に追記)

単元斜面の設定では、平成18 年度防災点検要領3)に示されている第2 絞り込みに準拠し、橋梁横過部の除外や、災害要因地形判読範囲の目安(1㎞)および近年の土砂災害の到達距離(2㎞)を踏まえ、道路から尾根までおおむね1㎞~ 2㎞の範囲で技術者が判断し、北部地区でのべ6,269箇所を抽出した。LP 調査範囲設定結果から、図- 4 のように北部九州地区では延長1,370㎞(市街地611㎞、山地759㎞)のうち、のべ458km2(市街地39km2、山地419km2)を計測範囲として設定した(山地平均LP 計測幅は片側276m)。

図4 北部九州地区の航空LP調査範囲

4.災害要因地形による斜面危険度の判定
(1)災害危険箇所の流れ
LP データを活用した災害危険箇所のスクリーニングは、簡易地形判読から災害要因地形を抽出し、単元斜面で最も顕著な災害要因地形の不安定度と道路への影響度から斜面危険度を判定する手順で行った(図-5)。

図5 災害危険箇所の抽出フロー

(2)簡易地形判読による災害要因地形の抽出
災害危険箇所の抽出は、微地形表現図上の単元斜面内を対象として、斜面内に分布する落石源や崩壊地形、地すべりや土石流堆積物といった「災害要因地形」を応用地形判読士等の専門技術者が抽出した。道路防災点検要領 1)に示された 10 種類の災害要因地形を①~⑩の類型番号化し、判読位置の中心に類型番号を記載する簡易な地形判読作業を行った(表-1)。災害要因地形はのべ 2 万箇所抽出し、これらの判読結果は事務所・路線毎に 1/5,000 縮尺の簡易地形判読図に整理した。

表1 判読災害要因地形の類型番号(抜粋)

図6 微地形表現図による簡易地形判読結果

(3)顕著な災害要因地形の抽出
簡易地形判読結果から、同一単元斜面内の災害要因地形のうち、最も不安定で道路への影響が大きい「顕著な災害要因地形」を専門技術者が判定・抽出し、図-6 の赤四角数字として記載した。抽出した顕著な災害要因地形の災害リスクを評価するため、地質リスクマネジメント等で一般的に使われているリスクの発生確率と影響度をリスクスコアの評価項目とするマトリクス評価手法 3)を適用した。なお、現状の道路防災管理では現地確認を伴う安定度調査の要因評点が唯一オーソライズされた定量評価手法のため、評価結果の瑕疵責任の観点からマトリクス評価項目は専門技術者判断による定性判定結果を用いた。ここでは、顕著な災害要因地形の類型番号毎に、リスクの発生確率に相当する地形の「不安定度」と、道路への「影響度」を表-2 の判定基準から専門技術者が「大・中・小・無し」に判定した。

表2 災害要因地形類型毎の安定度・影響度判定基準

(4)斜面危険度カテゴリ区分設定
単元斜面毎の顕著な災害要因地形の不安定度・影響度判定結果から、図-7 のように横軸に不安定度の大中小、縦軸に影響度の大中小と影響なしを配置し、想定されるリスクスコアが大きい順にカテゴリⅠからカテゴリⅩまでの斜面危険度に区分した。図-7 の数字(%)は後述のカテゴリ区分に占める既往防災点検対象箇所数の比率を示す。カテゴリ上位Ⅰ~Ⅵ(Ⅳを除く)の単元斜面では、災害危険箇所である既往防災点検対象箇所が過半数を占めており、カテゴリⅦ~Ⅹよりも高リスクな斜面といえる。

図7 災害要因地形の斜面危険度カテゴリ区分(案)

(5)斜面危険度カテゴリ区分設定の検証
新たに安定度調査候補箇所とする単元斜面を抽出するため、既往防災点検対象斜面が十分カバーされるカテゴリ区分までを「高リスク斜面」として設定した。
検証は、4.(2)~(3) の試行作業を行った国道 201 号(9㎞~ 27㎞)の 84 箇所を対象とし、カテゴリⅠから既往防災点検箇所の累積カバー率を集計した。表-3 の検証結果から、全てのランクがカテゴリⅥで累積カバー率 75%を超えるため、「高リスク斜面」とした区分は概ね適当であることを示している。

表3 既往防災点検のカバー率とカテゴリの検証結果

(6)スクリーニング結果
単元斜面毎の顕著な災害要因地形から、単元斜面上にカテゴリⅠ~Ⅹと図-7 の区分色を追記したスクリーニング結果図を路線毎に作成した(図- 8)。カテゴリⅠ~Ⅵの高リスク斜面を災害危険箇所としてスクリーニングした結果、点検対象外斜面 4,619 箇所のうち、722 箇所(約 15%)が潜在的災害危険箇所に相当することを確認した。また、防災点検対象箇所 1,650 箇所のうち、高リスク斜面が約 57% を占め、カルテ対応以上は 7 割が高リスク斜面であった。

図8 斜面危険度カテゴリ区分結果

5.事前の備えとなる防災・減災対策へ
今回のスクリーニング結果から、これまで点検対象外であった単元斜面から新たに災害危険箇所に相当する可能性があることが分かった。今後、各事務所で実施する防災点検等の道路防災対策に反映してゆく必要がある。

図9 斜面危険度カテゴリ区分結果

道路防災点検要領 1)で規定する安定度調査箇所の選定では、第 2 絞り込みの段階で地域特性の把握と災害要因の判読を行って安定度調査候補箇所を抽出した後、専門の点検技術者による現地確認を踏まえて最終的な安定度調査箇所を選定する。(図-1)本手法で抽出した潜在的災害危険箇所は、現地調査を伴わない迅速調査である。スクリーニング結果は安定度調査箇所を抽出するための一指標として、道路防災点検業務において地質学に基づく地域特性、日常巡視・既往災害履歴等を踏まえて災害要因地形を精査し、現地確認を行ったうえで安定度調査箇所を選定する必要がある点、カテゴリ区分の低リスク斜面であっても災害発生の可能性はある点に留意されたい。
LP データは、高精度で広範囲に災害リスクを把握するのに有効であり、路線の重要度等を勘案し、計画的・継続的にデータを取得することが必要である。取得データの差分解析により斜面の変状や進行状況を面的、定量的に把握することで事前の対策への活用に期待する。

6.おわりに
九州技術事務所では取得した LP データを管理担当事務所へ HDD で提供し、事務所職員でも簡単に 3 次元点群データをビューワソフトで閲覧できるよう納品している。

図10 ビューワソフトでの表示例


今後、取得した 3 次元データを蓄積・保管し、利用できる仕組みを構築する必要がある。そのためには、利用方法に適用したデータの選定方法の整理や、それに応じた保管サーバの構築も課題となると考える。
LP データを基図として整備したことで、2 時点比較など沿線状況の把握が可能となり、3 次元データを使用した検討など使用機会も増えることが予想される。一方、植生が密生している箇所では精度が低下する可能性もあることから、その他の測量技術(UAV や MMS、地上レーザー)で代替、補完する等、危険箇所の判別精度の向上、スケッチ等で対応していたカルテ作成の精度の向上、現地確認のルート検討など点検時の安全確保と労力軽減も期待される(図―11)。

図11 LPでの調査結果事例

事務所からの意見等を踏まえ、本手法の見直しや 3 次元データの利活用方策を具体化して発信してゆけるよう取り組んでゆきたい。
今回の執筆にあたり、LP データから斜面危険度判定、スクリーニング結果をとりまとめ、ビューワソフトや貴重な情報を提供いただいた国際航業株式会社、アジア航測株式会社の皆様に感謝の意を表す。

参考文献
1)(一社)全国地質調査業協会連合会:道路防災点検の手引き(豪雨・豪雪等)及び点検要領 2019.10
2)九州北部地区航空レーザ測量業務 報告書2020.3(九州技術事務所)
3)(一社)全国地質調査業協会連合会:地質リスク調査検討業務発注ガイド リスクスコアの例 p23、 2016.10
4)令和 3 年度国土交通省予算概算要求概要2020.9

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