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GIS(地理情報システム)を用いた士質調査資料の活用について

㈶沖縄県建設技術センター
 試験研究部 土質室
呉 屋 健 一

1 はじめに
土木構造物等の設計の際には,必要な地盤情報を得るため土質調査が行われる。その調査の中でボーリング調査は重要な調査項目の1つである。
設計対象となる構造物が帯状に長い場合,あるいは面的に広がりをもった場合には数本から数十本のボーリング調査が行われる。その調査結果から土層推定断面図等の設計資料を作成することになるが,数本のボーリングデータから水平方向に連続した土層断面図を描くためボーリング地点間の地盤情報は周辺データからの推定となる。地層構成,不整合等がある程度把握できている場合には推定に大きな問題はないと考えられる。
しかし,構造物基礎を支持する層の起伏が激しい場合,地層構成が複雑な場合には,水平方向に変化する地盤特性を適切にとらえる必要がある。
そこで,今回は地理情報システム(Geographic Information System,以下GISとする)を用いて点在するボーリングデータに空間座標(XY座標とZ深度)をもたせて水平方向につながりをもったデータ(推定)とすることにより,地盤特性(地層構成,地下水位,基盤深度等の分布)を把握しようとするものである。

2 中城湾港(新港地区)の例
中城湾港(新港地区)では,浚渫土砂を用いた埋立てによる臨海部の土地造成が行われている。埋立直後の地盤は軟弱なため安定・沈下対策としてバーチガルドレーン工法であるプラスチックボードドレーン(以下PDとする)工法やSCP(サンドコンパクションパイル)工法等の地盤改良を行っている。
地盤改良設計において沈下対策としては全沈下量,残留沈下量および沈下時間が主な問題となる。沈下量の算定方法は,いくつかあるが新港地区では次式のmv法を採用している,
 S=mv*△P*H
 ここに,S:沈下量(m)
     mv:体積圧縮係数(m2/kN)
     △P:増加荷重(kN/m2
      H:圧密層厚(m)
上式からわかるように沈下量は,圧密層,増加荷重が同一であれば圧密層厚が厚いほど沈下量は大きくなる。新港地区の土層構成は上層から,浚渫土砂からなる埋立層,在来地盤の珊瑚礫,珊瑚礫混じり粘土,沖積粘土および基盤となる新第三紀堆積岩の島尻泥岩層である。地盤改良深度は埋立て土層から基盤となる島尻泥岩層までである。その基盤は起伏が激しいことが既往の報告等で知られている。
これまでの実績をみると数本のボーリングデータを用いて沈下量計算に用いる圧密層厚を決定しているため,実地盤の圧密層厚を設計に十分反映できていないことが多い。
これを模式図で示したのが図ー1である。基盤となる島尻泥岩層の起伏が激しいため,図のように設計圧密層が実際の圧密層よりも薄い場合や逆に厚い場合が生じることがある。圧密層厚以外の地盤条件に変化がないとして考えるとき,圧密層を厚くとらえた場合には,設計沈下量よりも実沈下量は小さな値を示すことになり,圧密層を薄くとらえた場合には設計沈下量よりも大きな沈下が生じることとなる。このように沈下量を問題とする場合には,圧密層厚を適切に把握し計算モデルを設定することが重要であり,圧密層の底面となる基盤の深度を適切に把握することが前提となる。PDは埋立層上面から打設し基盤である島尻泥岩層を先端としている。そのPDの打設結果から基盤までの鉛直方向の距離を知ることが可能である。
ここでは,GISを用いてボーリングデータから各層の地盤情報を面的にとらえ,ボーリングデータとPDの打設結果から,基盤の深度特性をとらえる。

3 各層の地盤情報
GIS上の各図面の構成は,図ー2のとおりであり,ベースとなる港湾計画図等の図面上に他の図面をかぶせるイメージである。

今回用いたボーリング本数は,約750本で柱状図から座標,標高,地下水位,N値,層厚,層区分等を読みとり,アクセス等のソフトを用いて表ー1のようにデータベース化した。データベース化したボーリング情報をGISソフトにより図面上に図ー3のようにプロットし位置情報と関連させる。GIS上の画面で各ボーリング点をクリックするとその点の地盤情報が図ー4のように表示され、各地点のボーリング情報が引き出せるようになる。
データベースから各データ項目に関する図を作成することができる。現在,基盤の深度分布,圧密沈下量分布,各層の層厚分布および地下水の分布等を作成中である。
また,設計に用いられた土質試験結果についてもボーリングデータと同様にデータベース化を行った。これらのデータを用いて各土層の物理・力学および圧密特性を把握するため現在データ整理中である。

4 碁盤の深度特性
基盤の深度について過去の設計および施工例から考えてみる。施工箇所は図ー5のとおり3次埋立て地内の先端部分に位置する。施工範囲は図ー6に示すように地盤改良幅20m,延長約320mで打設ピッチにより3つの区域に分けられており,ピッチはそれぞれ1.7,2.1,1.8mである。図中のメッシュの交点がPDの打設位置である。

図ー7に設計時と施工完了後の基盤深度の比較を示す。断面は図ー6に示すA-A断面である。図にはボーリング調査結果による土層推定断面,設計に用いた設計基盤深度およびPD打設結果からのPD打設基盤深度の3つを示してある。ただし,PD打設箇所とボーリング箇所の水平距離は約6mある。この図からわかるように,Ⅵ区域では設計基盤深度と実際のPD基盤深度に若干の差はあるものの全体の形状としては一致していることがわかる。Ⅶ区域については,設計基盤深度が実際の基盤深度よりも浅くなっている。Ⅷ区域については,Ⅶ区域と逆で設計基盤深度が実際の基盤深度よりも深くなっているのがわかる。

改良区域全体のPD打設基盤深度を立体的に示したのが図ー8で,そのコンターを図ー9に示す。これらの図からPD打設基盤深度は延長方向だけでなく,延長直角方向にも変化しているといえ,起伏の激しさがわかる。

この起伏をPD打設長からみると表ー2に示すように,設計と施工時の平均打設長には1.3~8.1mの差が生じている。また,最大打設長と最小打設長の差は8.1~11.7mもありこの値そのものが基盤深度の高低差であり,非常に険しい地形であることがわかる。

このようなことから数本のボーリング調査では基盤深度を正確に把握することは難しいといえる。
次に,設計時における基盤深度の推定精度が圧密沈下量の算定にどの程度影響があるかを計算してみた。表ー3に沈下量の比較を示す。表中の基盤既知の場合とはPD施工完了後に基盤深度を十分に把握できた場合に設計ラインを決め計算した値である。ここでは,基盤の延長直角方向(図ー7の奥行き方向)の変化および他の層厚の変化はないものとし,基盤深度のみが変化するとしている。いずれの計算でも沈下量に10cm程度から数10cmの差があることがわかる。

また,設計定数,層厚等の他の条件を固定して,基盤の直上の沖積粘土層厚に1mの相違が生じた(基盤深度が1m上下に変化)場合には沈下計算から5cmの沈下量変化がある。
基盤深度の把握の必要性を述べたが,仮に設計時点でかなりの精度で基盤深度を知り得たとして圧密沈下算定モデルの断面数を少なくし,設計・施工すると,地盤を単純モデル化することによる実地盤との圧密層厚の相違が大きくなる。その結果,沈下の遅れや不同沈下等の問題が生じ新たな対策工の必要が生じる。
また,圧密沈下算定モデルの断面数を多くし,より忠実に実地盤の圧密層厚を設計に反映させると,設計上煩雑となり,PDの打設ピッチのパターンが多くなり施工が難しくなる。したがって,いずれの場合においても圧密層厚のばらつきを考慮した圧密算定モデルの決定が必要であると同時に,圧密沈下の遅れ,不同沈下等をある程度見込んだ設計とすることが求められる。

5 おわりに
GISを用いて土質調査資料の活用例として各層の地盤情報把握と基盤の深度特性をとりあげたが,今回報告したのはごく限られた区域である。これからデータを整理,分析することにより新港地区全体の地盤特性の把握ができると考えている。
このように点在するボーリングデータ等にGISを用いることにより,利用価値の高い土質調査資料とすることが可能である。

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