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建設コスト縮減策としての柔構造樋管について

建設省 武雄工事事務所
 工務第一課長
河 野 忠 彰

㈱建設技術研究所 福岡支社
 技術第6部課長
上 村 俊 英

㈱建設技術研究所 福岡支社
 技術第6部
中 島 克 人

1 はじめに
樋管は堤内地の雨水の排水や農業用水等の取水のために堤防内に構築され,出水時には堤防としての機能をも受け持つ構造物である。ところが,従来の樋管は函体直下に空洞が発生することが多く,樋管周辺堤防の水密性の低下が問題となっていた。
そこで,建設省では樋管周辺の堤防の水密性を維持するために柔構造樋管の開発を行い,今後は柔構造樋管を主体として設計・施工を行っていこうとしている。
また,建設省は政府の公共工事費削減の方針に沿って「公共工事の建設費の縮減に関する行動計画」を策定し,建設コストの縮減に向けた取り組みを行っているところである。
本稿では,柔構造樋管が従来の樋管に生じていた問題点を解決するだけでなく,建設コストの縮減にもつながる樋管である点に着目し,建設コス卜縮減策の一つとしてとらえた場合の柔構造樋管についての報告を行う。

2 柔構造樋管の概要
従来の樋管に多く採用されてきた支持杭基礎は,函体の沈下を容認しないいわば「剛支持」方式の基礎であった。また,函体は継手を設けずに長いスパンとする「剛構造」方式であることが多かった(以下,この剛支持・剛構造方式の樋管を「剛支持樋管」と呼ぶ)。このため,函体の埋戻しや築堤に伴って函体周辺の地盤が沈下すると,面体直下の空洞,堤体や函体のクラックが生じることがあった。これらの変状は,樋管の持つ堤防としての機能を低下させるものであり,設計上の課題となっていた。
これに対し,柔構造樋管は樋管自身があたかも堤防の一部として挙動することにより,樋管の持つ堤防としての機能を確保した樋管である。柔構造樋管の考え方は,以下に示す柔支持基礎と柔構造函体との2つに分けて説明される。
(1)柔支持基礎の考え方
函体直下の空洞や堤体のクラックを防ぐには,函体と周辺地盤との相対沈下を少なくする必要がある。そのために支持杭などを用いずに面体を周辺地盤と同じように沈下させようとするのが柔支持基礎である。
(2)柔構造函体の考え方
函体の基礎地盤の沈下量は,盛土荷重の大小に応じた沈下分布を描く。このため,函体が地盤の沈下分布曲線に追随できるよう可撓性のある継手を設けて函体をスパン割し,函体直下の空洞や函体のクラックを防ごうとするのが柔構造函体の考え方である。

3 柔構造樋管の建設コスト縮減効果
柔構造樋管は,剛支持樋管に用いられてきた支持杭を使わないなどの点で,建設コストの縮減が図れる樋管としても注目されている。
柔構造樋管と剛支持樋管の建設コストにおいて差異が生じる主な項目は,以下に示す基礎工(杭および沈下抑制工),地盤の沈下すり付け対策工,仮設工,継手の4項目である。
(1)基礎工(杭および沈下抑制工)
① 沈下抑制工の必要性
柔構造樋管は沈下をある程度容認する樋管であるため,基礎地盤の沈下量が小さければ地盤を無処理のまま基礎として用いることができる。一方,基礎地盤の沈下量が大きい場合は,樋管の用排水機能に支障が生じないように沈下を抑制する必要がある。沈下抑制を必要とする目安は,表ー1に示すとおり基礎地盤の沈下量が30cmを越える場合となっている。
剛支持樋管は函体直下の空洞の発生などを防ぐため,表ー1に示すとおり基礎地盤の沈下量を10cm以内に抑制した上で用いるのが妥当とされている。

② 建設コスト縮減効果
柔構造樋管は基礎地盤の沈下量が30cm以内であれば支持杭や地盤の沈下抑制工が不要となり,基礎の工事費が削減できることとなる。
基礎地盤の沈下量が30cmを越える場合は,柔構造樋管においても図ー2に示すような置換・浅層改良,浮き固化改良体,浮き杭などの沈下抑制工を施して基礎地盤の沈下量を30cm以内に抑えなければならない。しかしながら,同じ地盤で剛支持樋管を採用しようとする場合においても図ー2に示すような沈下抑制工を用いて基礎地盤の沈下量を10cm以内に抑えなければならないため,基礎地盤の沈下量が大きな場合においても柔構造樋管を採用した方が地盤の沈下抑制工の規模が小さくて済む分,基礎工事費は縮減できることとなる。

(2)地盤の沈下すり付け対策工
① 地盤の沈下すり付け対策工の必要性
剛支持樋管は函体の沈下がほとんど生じないため,函体と周辺地盤との相対沈下によって堤体のクラックなどが生じることがある。また,柔構造樋管は函体が周辺地盤と同じように沈下するために剛支持樋管のような変状は起こりにくいものの,地盤の沈下抑制を行う場合には剛支持樋管と同様の変状が発生することがある。このため,剛支持樋管,柔構造樋管に係わらず函体と周辺地盤との相対沈下が大きくなる場合には,図ー3に示すように改良深さや改良率を変化させた地盤改良を行うなど,地盤の沈下すり付け対策を行う必要がある。

② 建設コスト縮減効果
剛支持樋管は図ー4に示すとおり,函体と周辺地盤との相対沈下が大きいことから沈下すり付け対策の規模が大きくなるのに対し,柔構造樋管は函体と周辺地盤との相対沈下が比較的小さいことから地盤の沈下すり付け対策の規模は小さくて済む。したがって,柔構造樋管は剛支持樋管に比べて地盤の沈下すり付け対策を必要とする場合が少ないばかりか,必要となった場合においてもその規模は小さいため,対策工の工事費を縮減することができることとなる。

(3)仮設工
これまで述べたとおり,柔構造樋管は剛支持樋管に比べて基礎工,地盤の沈下すり付け対策工の小規模化が図れる樋管であるため,その工期も短くなる。工期が短縮されれば,締切り,土留等に用いられている仮設鋼材等のリース費用が縮減されることとなる。また,規模の大きな樋管で出水期にも施工が及ぶような場合,一般に鋼矢板二重締切などの大規模な仮締切堤を設置することが多いが,工期が短縮されることで非出水期内の施工が可能となれば,仮締切堤の規模が縮小されて大幅な仮設費の縮減が可能となる。さらに,コストの縮減額を評価するのは難しいが,堤防の開削期間が短縮されることによって,工事期間中の堤内地の治水安全度が向上することにもつながる。
(4)継 手
以上の3項目は柔構造樋管を採用することで建設コストの縮減が図れる項目であるが,継手に関しては柔構造樋管の方が高コストとなることが多い。
柔構造樋管は継手を設けてスパン割を行い,函体の地盤沈下に対する追随性を確保するものである。したがって,柔構造樋管では剛支持樋管の継手として多く用いられてきたコンクリート巻立てのカラー継手に変えて,図ー5に示すようなより可撓性のあるゴム継手や可撓継手などを用いる必要がでてくる。
これらの継手は一般にカラー継手よりも高価であり,また地盤の沈下が大きい場合には継手の数も増えるため,柔構造樋管の継手費用は剛支持樋管よりも高くなることが多い。しかしながら,(1)~(3)に示す項目によって縮減される費用に比べれば継手の費用は小さいことが多く,樋管全体の費用は縮減される場合がほとんどであるといえる。

4 建設コスト縮減の事例
ここでは,柔構造樋管として設計・施工を行った釈迦寺排水樋管と中郷排水樋管を例に,柔構造樋管の建設コスト縮減の効果について紹介する。
(1)釈迦寺排水樋管
① 樋管の概要
釈迦寺排水樋管は,六角川右岸27k/600付近に計画されている自然排水の柔構造樋管である。表ー2に樋管の諸元,図ー6に概要図を示した。
樋管計画位置付近にはN値4程度の礫混り粘土質砂層が厚さ2m~5m程度分布している。また,同層の下位には傾斜した砂岩が分布している。
樋管設置位置における地盤の沈下量は最大20cm程度と推定された。このため,基礎形式には地盤をそのまま無処理で用いる浮き直接基礎を採用し,沈下抑制や地盤の沈下すり付け対策は行わないこととした。また,函体は可撓継手を2箇所設けて3スパンとした。
樋管設置位置は無堤区間であるため,施工時には施工ヤードのドライワークを確保するために鋼矢板一重締切による仮締切りを設置することとした。

② 建設コスト縮減効果
表ー3に釈迦寺排水樋管の柔構造樋管によるコスト縮減額(直接工事費)を示す。釈迦寺排水樋管は剛支持樋管とした場合に支持杭の長さが短いこと,仮締切りの規模が小規模であることからコストの縮減額は僅かであったが,約4,000千円(剛支持樋管とした場合の全体工事費の約10%)の縮減が可能となった。

(2)中郷排水樋管
① 樋管の概要
中郷排水樋管は,六角川右岸11k/700付近に設置された自然排水の柔構造樋管である。表ー4に樋管の諸元,図ー7に概要図を示した。
樋管設置位置付近にはN値0,一軸圧縮強度qu=1~3kgf/cm2の軟弱な粘土層が厚さ16m程度堆積している。
樋管設置位置における地盤の沈下量は最大130cm程度と推定されたため,基礎形式にはDJM工法(改良深さ6m,改良率30%)による浮き固化改良体基礎を採用して地盤の沈下量を25cmに抑制し,さらに改良深さを変化させることにより地盤の沈下すり付け対策を行った。また,函体は可撓継手を3箇所設けて4スパンとした。
施工時には堤防の開削を伴うため,鋼矢板二重締切による仮締切堤を設置することとした。

② 建設コスト縮減効果
表ー5に中郷排水樋管の柔構造樋管によるコス卜縮減額を示す。中郷排水樋管では,剛支持樋管とした場合に支持杭や地盤の沈下すり付け対策工の規模が大きくなることから,約20,000千円(剛支持樋管とした場合の全体工事費の約20%)の縮減が達成された。

5 おわりに
柔構造樋管は,その考え方が平成9年10月に改訂された「建設省 河川砂防技術基準(案)設計編」にも取り入れられていることもあり,今後ますます設計・施工例が増え,治水安全性の向上とともに建設コストの縮減に寄与するものと期待される。

参考文献
1)川上義幸他:軟弱地盤における構造物設計の一手法,九州技報第11号(1992,6)
2)早川正治他:柔構造樋管の試験施工について,九州技報第13号(1993,6)
3)島本卓三他:柔構造樋管の沈下抑制工の設計法について,九州技報第20号(1996,12)
4)㈶国土開発技術研究センター:樋門・樋管設計指針(案),(改訂中)
5)㈳日本河川協会:建設省 河川砂防技術基準(案)設計編

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