平成 8 年度技術士試験をかえりみて
(建設部門出題傾向と解答例)
(建設部門出題傾向と解答例)
日本技術士会九州地方技術士センター 育成委員会専門委員
総 括 矢 野 友 厚
土質および基礎 野 林 輝 生
鋼構造およびコンクリート 是 石 俊 文
河川砂防および海岸 上 村 俊 英
道 路 中 野 道 男
平成8年度技術士第2次試験の筆記試験は,昨年8月28日および29日に福岡市ほか8ケ所の試験場で実施され,筆記試験合格者に対する面接口頭試験は,同年11月30日から12月15日までの間に東京で実施された。技術士試験の指定試験機関である㈳日本技術士会の発表では,8年度の技術士第2次試験の受験申込者総数は26,167名で,前年度に比し2,841名(+12.2%)の増で,2万人の大台を軽く突破したはか,10年前の昭和61年度の10,271人に対して2.5倍強,合格者総数もまた,昨年度を2.1%上回る2,118名に達したと報じている。
なお平成9年度の受験申込者総数は27,794名(建設部門18,182名)に達し,うち福岡試験場での受験申込者数は2,249名(建設部門1,562名)である。また,昨 8年度の建設部門の受験申込者総数は全部門申込者総数の64.2%に当たる16,799名で,このうち筆記試験受験者数は8,582名,最終合格者数は1,256名で,合格率は筆記試験受験者数に対して14.6%,受験申込者総数に対して7.5%で国家資格としてますます評価が高まるなか,これまでどおり試験合格は相当に厳しく狭き門であることを示している。
なお,合格者について分析した結果は
(1)年代別試験結果ではその占用率は
20代……0.8%,30代……36.7%,40代……41.0%,50代……19.2%,60代……2.2%,70代……0.1%
合格者の平均年令は43.1才となっている。
(2)合格者勤務先別試験結果
国立機関……5.8%,地方自治体……6.6%,大学……0.4%,公社公団等……4.7%,民間……81.5%,自営……0.3%,無職……0.7%となっている。
(3)最終学歴では
大学……87.7%,新旧高専……3.6%,短大……1.1%,その他……7.6%である。
一方,平成8年度の筆記試験ならびに面接口頭試験の試験科目と設問傾向には殆ど変化はなく,具体例をあげてその概要を記述すると次のとおりである。
まず,筆記試験選択科目Ⅰ-1(午前9時~12時の3時間で解答記述)の問題は,受験者がこれまで体験してきた技術士に相応しい業種をいくつか具体的に示させ,その業務における技術的問題点と,それに対して受験者が採った技術的解決策を具体的に記述させ,その業務の技術的特色を明らかにさせる仕組としている。このⅠ-1の問題は,建設部門の11種類の専門科目の全てにおいてこの20年間弱,間題設問文章の文言に多少の変化はあるものの本質的に内容として同性質の設問形式をとっている。ここに一例として河川砂防および海岸Ⅰ-1,このほか道路Ⅰ-1の問題全文を示して受験における考え方を説明する。
選択科目(9-4)河川砂防および海岸 9~12時
Ⅰ-1 次の間題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ。)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,技術的責任者として実際に行った仕事のうちから一例を挙げ,技術的に説明し,現時点での評価と反省,改善すべき事項および将来に対する展望について述べよ。
選択科目(9-7)道路 9時~12時
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ。)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,あなたが技術的責任者として行った仕事のうち,技術士にふさわしいと思われるものをいくつか略記せよ。
さらに,そのうち1つを選び,その業務内容,あなたの役割および得られた成果について述べるとともに,技術的事項に関して,現在の技術水準から見た評価を反省および今後の見通しについて詳述せよ。
選択科目(9-11)建設環境 9時~12時
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ。)
あなたが経験した建設環境に関する業務について,次の設問に答えよ。
(1)技術士の業務としてふさわしいと考えられるものを3つ挙げ,それぞれについて業務の技術的内容およびあなたが果たした役割を簡明に述べよ。
(2) (1)項に挙げた業務の中から1つを選び,技術的問題点およびその対応の基本的考え方を記述するとともに,あなたが採った技術的解決策とその理由について述べよ。
(3) (2)項の内容について,現在の技術水準から見た評価および今後の課題について述べよ。
(1)テーマ選定の基本
テーマ選定の基本を全く誤解している人が意外と多い。例えば①大規模な事業に従事したこと,②有名なプロジェクトに関与したこと,③目新しい仕事をなしたこと等,全く必要ではない。どこにでも見受けられるような平凡な仕事であっても,「自分の頭で考えて創意工夫を生み出した」という中身なのである。自分自身の体験業務を選定することのみが試験官の要求している内容で、必ず埋解しておかねばならない不可欠事項である。
なお,体験論文を仮に他人に書いてもらって筆記試験をパスしても,口頭試験の際の厳しい設問において,必ず化けの皮がはがされる運命をたどるので,絶対に自己の体験業務であること。
(2)テーマ表現の良否の事例
業務の背景をうたい込み,業務の中に施した自分の働きを表現した特色を出すこと。
悪い事例 △△橋の設計,道路の計画
良い事例 路線選定を伴う山岳道路橋の調査,計画と評価
(3)体験論文作成上の具体的配慮
① 受験申込書に記入した「専門とする事項」に整合していること。
② 専門的応用能力を発揮した内容であること。
③ 社会性,経済性,地域性に富む内容であること。
④ 施工性に対する検討がなされていること。
(4)論文の流れの甚本
一般に「起・承・転・結」換言すれば「序論」・「本論」・「結論」という文章構成が必要である。論文構成の概要は,①はじめに ②問題点 ③技術的対応 ④現時点からの批判 ⑤おわりに のようにまとめたら書きやすい。
ここに文章構成の全体の流れを有する形態を紹介する。
“この事象の原因を○○○の方法で調査した。特に留意した項目は△△△であり,得られたデータを□□□の方法で分析したところ○○○であることが判った。したがって原因は△△△であると判断し,対策の検討を行った。設計にあたっては,□□□のような点に留意し,いろいろなことを比較検討してこのような計画を立てた。結果も大変良好であった。
以上の流れ要旨は,論文をドラマチックに盛り上げるよい方法であると思われる。
(5)「現時点での評価」記載のワンポイント
一昨年には阪神・淡路大震災が発生し,国土,建造物等は大災害を受け,昨年も又,北海道の道路トンネル大崩壊に直面した。一方,地球環境に関する諸問題はますます重要度を加えている。
したがって,体験論文が構造物であれば,その安全性と環境に及ぼす影響の二点から,反省評価を加えることを忘れてはならない。
(6)体験論文合格が全試験合格の第一ハードル
筆記試験は,午前の部として体験論文,午後の部には選択科目の必須問題と専門問題の解答を要求されるが,結果的に午後の部がいくら良くできても,午前の部の判定結果が合格ラインに達していなければ全体での合格に対しては失格となる。
その理由は,午後の部の問題は知識を問う傾向が強く,技術士合格の補完的役割を演じているためである。したがって,まず体験論文作成に全力を投入されたい。
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次に,筆記試験選択科目Ⅰ-2(午後1時~5時の間に,Ⅱの問題と一緒に出題)の問題は,各選択専門科目ごとに,各専門技術分野における最近の技術動向をふまえ,各専門的事項について解答論述させるもので,設問内容は本稿の次頁以降に土質および基礎,鋼構造およびコンクリート,河川砂防および海岸,道路の4科目についてそれぞれ一例を示したように比較的各技術分野の基礎的技術に関わるものが主休となっている。
Ⅰ-2の問題と一緒に出題される筆記試験必須科目,Ⅱの問題は,建設部門全体に共通する事項で例年2題出題し,いずれか1題を解答させる方式で,平成8年度の問題は次のとおりである。
必須科目(9) 建設一般 1時~5時
Ⅱ 次の2問題のうち1問題を選んで建設部門全体の問題として解答せよ。(茶色の答案用紙を使用し,解答問題番号を明記し,4枚以内にまとめよ。)
Ⅱ-1 わが国の建設技術の課題について述べるとともに,今後の技術開発のあり方について,あなたの意見を述べよ。
Ⅱ-2 わが国の社会資本整備を進める上で,求められる品質について論じるとともに,それを確保する方策について、あなたの意見を述べよ。
Ⅱの問題に対応する勉強の方法としては,当年の建設白書の熟読,最近のトピックス,最近発生した建設関連の重大事象等について資料作成の上解答を用意しておくことが肝要である。
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以上のⅠ-1,Ⅰ-2,Ⅱの3科目の問題のうち,Ⅰ-1は前述のとおり問題設問文章が本質的に固定化に近い状況のため,予定答案をあらかじめ作成し,完全に丸暗記して試験に臨むことが可能であり,3時間の解答時間で制限文字数一杯の解答を書くのが普通である。しかし,Ⅰ-2およびⅡの午後からの科目問題に対しては,受験者自身の筆記速度を考慮し,各問題に対しバランスのとれた時間配分を行うことが肝要で,以降頁の解答例に付記しているような留意が必要である。
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筆記試験合格者に対して行われる面接口頭試験における設問事項にも,これまでと異なった傾向は殆ど認められず,平成8年度試験においても設問項目は次の3項目に分類要約できるようである。
① 受験者の技術的体験を主眼とする経歴の内容と応用能力を問う。
② 必須科目および選択科目に関する,技術士として必要な専門知識と見識を問う。
③ 技術士としての適格性および一般的知識を問う。
以上が平成8年度技術士試験の概要と出題傾向であるが,以下に同年度筆記試験選択科目の4問題を選定し、当育成委員会の技術士に解答の執箪をもとめ,模範解答例として参考のため例示する。
当技術士センター育成委員会は,例年技術士試験受験者のための総合受験対策講座を継続的に実施し,九州地域受験者の受験対策に役立ってきており,技術士資格取得を目ざす技術者は気軽に当センターに相談されるようお奨めする。
土質および基礎 平成8年度
Ⅰ-2 次の10問題のうち4問題を選んで解答せよ。ただし,Aグループから2問題,Bグループから2問題を選訳すること。(緑色の答案用紙を使用し,問題ごとに用紙を替えて解答問題番号を明記し,Aグループについては1問題1枚以内,Bグループについては1問題2枚以内にまとめよ。
ここではBグループの1問について解答例を示すこととする。
Ⅰ-2-6(B)
液状化による地盤流動が構造物の基礎に被害を与えることが1964年の新潟地震で初めて注目されて以来,1968年の十勝沖地震,1983年の日本海中部地震や最近の釧路沖地震,北海道南西沖地震,そして咋年1月の兵庫県南部地震においても同様な事態の発生が認められた。この現象に関して以下の設問に答えよ。
(1) 地盤流動が構造物の基礎に及ぼす影響について
① 地盤流動が生じる可能性が高い地形や地盤状況
② 地盤流動の発生機構
に着目して論ぜよ。
(2) 図に示す埋立て護岸付近の橋梁基礎について次の事項を論ぜよ。
① 新たに建設される場合の計画および設計の考え方
② 既に,護岸と平行に離間距離d=15mのところに側面が位置するように施工され,高架橋として使用されている場合の基礎の補強対策の考え方
(1)地盤流動が構造物の基礎に及ぼす影響について
基礎地盤に液状化現象が生じた場合,斜面と言えないほどの緩勾配の地盤においても地盤流動が生じ,大きな永久変位が残ることが,過去の地震被害調査報告結果から明らかにされている。このような地盤流動は変位が大きく,地震発生後も継続する場合が多く見受けられることから,基礎地盤上に存在する構造物に与える影響が大きいことが懸念される。特に新潟地震では、地盤流動に伴い構造物の基礎杭に被害を受けていたことが報告されている。永久変位の発生状況および地形・地盤状況は次のとおりである。
1)永久変位は地表面のほぼ傾斜方向に沿って発生しており,発生起点である微高地部では多数の地割れ・地表面沈下等が発生し,収束地点である低地部では噴砂・噴水現象が見られ,地表面は隆起する傾向にある。このため,永久変位発生地域の地表面は一層平坦化することになると考えられる。
2)永久変位が発生する地域は,中小河川が存在し且つ周辺地盤および地下水位がわずかではあるが傾斜しており,これら中小河川はかつて大河川の本流や河道の一部であった可能性が高い。
このような永久変位が発生する原因として以下項目が想定されるが,明確に解明されていないことから,今後の一層の究明が不可欠と考えられる。
① 非排水繰返しセン断を受けた後の基礎地盤の残留強度が元のセン断強度を大幅に下回る。
② 緩勾配地盤のある部分に生じた過剰間隙水圧が伝播することにより,強度の低い滑面が生じ広い意味での斜面破壊が生じる。
③ 発生した過剰間隙水圧により浸透した地下水が不透水層に遮られ,地表面近くに地下水位が比較的高く緩い地層を形成する。
(2)埋立護岸付近の橋梁基礎について
1)新たに建設される場合の計画設計について
橋梁基礎計画基礎地盤周辺に液状化発生の可能性がある場合,この対策工として①サンドドレーン・グラベルドレーン等による地盤改良,②橋梁基礎周辺における鋼矢板・連続地中壁等の遮断壁設置,③既成杭の打ち込みによる地盤改良,④基礎地盤の液状化を考慮した杭基礎の設計,等が考えられる。
ドレーン工法は液状化時に発生する過剰間隙水圧を消散させて基礎地盤の強度低下を抑制する工法であるが,逆に当該橋梁基礎から離れた場所の過剰間隙水圧が,短時間に伝播してくる可能性もあり,その適用にあたっては十分な検討が必要と考えられる。以上の対策は基礎地盤に対する対策であるが,橋梁基礎本体の設計においてもⓐ橋梁の水平変位量の制限に対する緩和,および上部工の単純梁化並びに落橋防止の設置,ⓑ基礎杭上部のジン性を向上させるための鋼管コンクリート杭等の適用,ⓒ橋梁基礎の残留変位を最小限に低減させるために,できるだけ長尺摩擦杭等を適用する,等の検討も必要であろう。
2)既設高架橋基礎補強対策について
既設高架橋周辺基礎地盤に液状化発生の可能性がある場合この対策工として①既設高架橋周辺における鋼矢板・連続地中壁等の遮断壁設置,②増杭による既設高架橋基礎の補強,等が考えられる。鋼矢板・連続地中壁等による締切工法は,既設高架橋周辺を締切ることにより基礎地盤の流動を抑制して,既設高架橋への影響を低減させるものであるが,締切壁に作用する液状化時の土圧に関する評価が明確でなく,液状化時に発生した過剰間隙水圧が,地震時に消散する過程での甚礎地盤の沈下は避けられないことから,これらに対する既設高架橋への影響についての検討がきわめて重要と考えられる。
コンクリート 平成8年度
Ⅰ-2-9(C)
コンクリート構造物の長寿命化のための,設計,施工,維持管理の段階における技術について述べよ。
1 設計段階における技術
1)耐震性能の明確化
構造物の耐用期間内に発生する確率の極めて小さい地震動に対しても,地震後に構造物の耐荷力は低下せず,残留変形が許容限度内にある状態とする性能をもたせる。また免震や制震技術についても検討する。
2)許容ひび割れ幅の設計
鋼材腐食に対する環境条件が「一般の環境」「腐食性環境」「特に厳しい腐食性環境」のどれに相当するかを正しく把握し,コンクリート表面のひび割れ幅を環境条件,かぶり,供用期間等から定まる鋼材腐食に対する許容ひび割れ幅以下に設計する。
3)適切なかぶりの確保
構造物に要求される耐火性,耐久性,重要度,環境条件,施工誤差等を考慮して適切な値を設計図に明示する。
2 施工段階における技術
1)優れた主任技術者の選定
コンクリートの製造過程と構造物の建設過程について総合的知識を持ち,様々な現場の施工条件に応じて施工計画を立案できる能力,さらに不測の事態が生じた場合(天候の急変やアジテータ車の遅延に対する判断など)にコンクリート工事の中止を命令できる能力を併せ持つ技術者を選任すること。
2)鉄筋の加工および組み立て
鉄筋が比較的多い箇所では,鉄筋の加工誤差によって所定の位置に配筋することが困難になり,所定のかぶりが得られなかったり棒形振動機を挿入することが困難で適切な締固めができない場合がある。従って,鉄筋の加工形状を原寸の定規等で確認する。
3)特別な型枠や表面防護工の採用
透水性型枠を使用してコンクリート表面を細孔量の少ない,ペースト分の濃い緻密な層とする。また表面にタイル張り,耐候性の確認された樹脂塗装などの防護工を行う。
4)適切な養生
部材表面部のコンクリートを緻密で空隙の少ないコンクリートとするために,表面仕上げ方法および適切な温度で湿潤に保つ養生方法と養生日数を確保する。
5)躯体防水コンクリートの採択
一般的にコンクリート製造の際,セメントが水和反応をするに必要な水量は30%内外であるが,コンクリートのコンシステンシーを得るため水セメント比を40~70%にすることが多い。この過剰水のため硬化したコンクリートは多孔質となりこの間隙を通って透水したり,Ca(OH)2がコンクリート表面に流出しコンクリートの中性化を早める。この対応には躯休防水コンクリートの製造が必須であり,そのための防水混和材が必要となる。新材料・新工法委員会で推奨する40年の実績を持つ活性シリカ混合材ベストンを使用すれば余剰水をゲルに変換でき躯体防水の実施のほか,クラックに対する抜群の自癒作用も可能で優れた効果。
3 維持管理段階における技術
1)維持管理の区分の設定
構造物の重要度,第三者影響度,予定供用期間,環境条件,さらには維持管理の難易度などで維持管理の必要性は大きく異なる。また劣化予測,補修・補強などの維持管理の難易度も相違する。そのため以下のような維持管理区分を設定し,それに見合った点検方法や頻度で点検を実施する。
A;予防保全を基にした維持管理 B;事後保全を基にした維持管理 C;目視観察を主休とした維持管理 D;直接には行えない無点検維持管理
2)点検の内容
以下に示す劣化機構による損傷の外観上の特徴を参考にして実施する。
① 塩害…鉄筋軸方向のひび割れ,錆汁,コンクリートや鉄筋の断面欠損など。
② 中性化…鉄筋軸方向のひび割れ,コンクリートはく離など。
③ 凍害…微細ひび割れ,ポップアウト,スケーリング,変形など。
④ アルカリ骨材反応…膨脹ひび割れ(拘束方向,亀甲状),ゲル,変形など。
⑤ 化学的コンクリート腐食…変色,コンクリートはく離など。
⑥ 疲労(道路橋床版)…格子状ひび割れ,角落ち,遊離石灰など。
3)補修計画
劣化原因と劣化程度に適合させた断面修復工,表面保護工,ひび割れ注入工,鋼板接着工,FRP接着工などによって補修する。
河川砂防および海岸 平成8年度
Ⅰ-2-3 (B)
河川堤防および基礎地盤の地震による被災形態をいくつか例示し,それをふまえて,耐震性を向上させる方策について述べよ。
1 河川堤防および基礎地盤の地震による被災形態
河川堤防の多くは土堤で作られており,土堤の地震による被災形態は,おおむねI型;法面崩壊,Ⅱ型;堤体破壊,Ⅲ型;地盤と堤体の破壊,Ⅳ型;堤体沈下の4つの型に分類される。
これらのうち,I,Ⅱ型の多くは地震動により堤体土の緩い部分がすべるような被災形態である。
Ⅲ,Ⅳ型やⅡ型で破壊範囲が基礎地盤にまで及ぶ場合は基礎地盤が液状化したときに多く見られる。また軟弱な粘土地盤が地震動により強度低下して破壊することが考えられている。
2 河川堤防の確保すべき耐震性
河川堤防は洪水から堤内地を守ることを目的としていること,被災しても復旧が比較的容易な土堤を構造の基本としていること,延長の長い堤防の全範囲を対象として対策を実施するのは困難であることなどの特徴を持つ。したがって,河川堤防については地震により壊れない堤防ではなく,壊れても浸水の二次災害を起こさないことを耐震性の目的とすべきである。
3 耐震性を向上させる対策
地震と洪水が重なる確率は小さいと考えられることから,建設省では潮位や堰等の湛水位を対象として被害後の堤防高がこの水位に対して1mの余裕高を確保できない場合について事前の対策を講じることとしている。その他の場合は被災後の復旧による対策を講じるのが現実的である。
(1)被災後の復旧による対策
被災後の復旧は土砂による堤防の再構築を基本とする。震災後も土砂を調達できるように防災体制などを整備しておくことが必要である。
(2)事前対策
被災形態がIおよびⅡで破壊範囲が堤体土と予測される場合は①材料改良,締め固めによる堤体土の強度増加,②押さえ盛土,堤防の緩傾斜化,根固めブロックの設置によるすべり力の抑制などの対策を講じる。
被災形態がⅡ,Ⅲ,Ⅳで原因が基礎地盤の液状化の場合は,液状化対策として③押さえ盛土,堤防の緩傾斜化,根固めブロックの設置による地盤の有効応力増加,④動的,静的締め固め工法による地盤の密度増加,⑤ドレーン工法による過剰間隙水圧の消骸,⑥地盤改良工法による地盤強度増加,⑦鋼材の剛性利用による地盤の変形抑制,あるいはこれらの組み合せ工法を行う。また,軟弱な粘土地盤ですべり破壊が被災要因となると考えられる場合は,上記③,⑥,⑦が有効な対策となる。
4 対策に際しての留意点
対策工の実施に際しては,まず河川改修工事で耐震性を向上させる工法を選定する。事前対策のうち③は河川改修工事の一つで,堤防の治水機能や親水性を向上させる工法であることから,積極的に検討すべき工法といえる。
事前対策のうち,⑥や⑦は基礎地盤の地下水を遮断したり堤体内の浸透水の水位を上昇させることがあり,環境や堤防の洪水時の安定性に影響を与えることがあるので,採用に際しては地下水や浸透流についての検討を要する。
5 おわりに
河川堤防の地震による崩壊は堤内の浸水という甚大な被害をもたらすことがあり,耐震性の向上が必要となっているが,河川堤防の確保すべき耐震性と,さらに堤内地の資産状況とを考慮して,基礎地盤の特性に応じた対策を効率よく実施していくことが肝要である。
道路 平成8年度
Ⅰ-2-1
建設から維持管理まで含めたライフサイクルコストを考慮した道路の計画,設計のあり方について,あなたの意見を述べよ。
1 はじめに
世界経済の成長に従って輸送需要は増大し,また,平成5年には車両制限令が20トンから25トンに改訂されたこと等に伴い,舗装をはじめとした道路構造物の負担は益々大きくなっている。また,道路ストックも増大し,事業費に占める管理費は年々増加していることから,建設から管理までのライフサイクルコストを考慮した計画,設計のあり方が論議され始めている。
2 現状における課題
アスファルト舗装などを例にとると,初期投資は安いが補修回数が多いことから,道路管理者の負担ばかりでなく,工事中の渋滞等に伴う道路利用者の損失,時間損失など社会経済的な損失も大きい。
一方交通量を見れば大半が道路計画時の予測よりも多くなっていることに加え,大型車も増大していることから道路構造物の負担は,年々大きくなっている状況にある。
3 課題に対する取り組み
上記のような課題に対しては,現在,交通渋滞解消のためのバイパス,環状道路の整備,交差点改良,立体交差化などの整備が行われているが,今後は,次のような観点での取り組みが必要である。
(1)道路計画
従前は,交通需要を前提とした道路整備が進められてきたが,今後は,地球環境の観点から輸送の効率化や省エネルギー型の交通体系を考慮し,できるだけ交通量を減らすような道路計画を行う必要がある。
① 自動車トリップ数の減少方策
人流に対しては,マイカーから公共交通機関,自転車,徒歩への転換,通勤者の相乗り(カープール)などにより減少することができる。また,物流の面からは,トラックから鉄道・海上輸送へのモード転換や,物流拠点の整備,共同集配送,輸送貨物の帰り荷斡旋などにより,物資輸送の合理化施策を積極的に推進していくことが必要である。一方,わが国の貨物輸送の交通機関別シェアの現状を見ると,道路交通が全体の90%を分担している状況にある。このような中で,モードの転換を促進していくには,車依存型を転換して,公共交通機関を中心とした開発などへの新たな取り組みが必要である。
② 自動車走行距離の短縮
近年,自動車1台当たりの平均走行距離は,世帯の複数所有の増加もあって減少しているものの,人口当たりの年平均走行距離では増加傾向にある。これは,近年の道路の進展に伴い,人口の郊外化が進み,車依存型のまちづくりが進行していることなどが要因と考えられる。
今後の道路整備は,沿道の土地利用規制を徹底して,無秩序な開発を防止していく必要がある。一方,地域開発に当たっては,常に地域の交通計画を基本において,職住接近,商住混合などのまちづくりを目指す必要がある。
(2)道路設計
設計に当たっては,将来の管理費のかからないルート選定を行なうことは勿論であるが,その構造物の耐用年数を設定したうえで,初期投資から補修費用を含めた長期的な観点でのコスト縮減方策を検討する必要がある。
① 設計段階
従前は材料費の削減に主眼をおいた設計がなされていたが,近年においては材料費は安価で安定している。しかし,建設労働者や熟練工の不足なとから,工事費に占める人件費は,年々高くなっている。このようなことから,熟練工の不要な単純な構造や標準化にすることが,人件費も安く,将来の管理も容易になる。また,単純化や標準化することで熟練工でなくても所要の品質が確保できる。
② 工事段階
耐久性を考慮しながら初期投資を安くする必要があるが,そのためには,プレハブ化による生産性の向上やリサイクル材の利用,機械化の促進などを積極的に取り組む必要がある。
③ 管理段階
日常の維持管理はもとより,いつの時点で補修するのか,あるいは,取り壊して新設する方が安価であるかを見極める必要がある。そのためにも,構造物の寿命を診断するような機械の開発や判断基準を設定していくことが必要かつ重要である。
4 おわりに
わが国のこれまでの道路整備は,効率性,経済性が重視され,その整備が進められてきたが,これからは最先端の情報通信技術を活用して,渋滞,工事,公共交通機関などの交通情報をリアルタイムに提供するシステムや,自動料金収受システムなどの新しい道路交通システムを導入して,エネルギー消費や地球環境への負荷の小さい交通体系を構築していく必要がある。また,設計施工において要求される品質を確保しながら,コストの縮減に積極的に,かつ,継続性をもちながら息長く取り組む必要がある。
今後は,点から面的な視点での取り組みが必要かつ重要である。そのためには,他省庁との連携を図り,農道,港湾道路,公共交通機関などと一体となった取り組みが必要である。
付記
解答用紙はB-5版の横書き・左綴じで,一行当たり25字を表面に14行,裏面に18行を配した800字詰めの答案用紙である。答案の作成に当たっては次の諸点に留意する必要がある。
① 筆記速度を養成し,Ⅰ-1以外の全問題答案への指定枚数の80%以上が埋められること。
② 設問文の意図内容を十分に把握したうえ,なるべく多くの事柄が盛り込まれること。
③ 報告文ではない形の論文となるためには,自分の意見,見解が述べられること。
④ 記載順序を体系づけて,論文の展開へ配慮し,主張内容に一本の筋が通されること。
⑤ 多義的に読める曖昧な表現を避け,一義的にしか読まれない文章が書かれていること。