既設橋梁の震災対策
九州地方建設局
道路部道路管理課
道路部道路管理課
1 はじめに
平成7年1月17日(火)に発生した兵庫県南部地震は阪神地方に甚大な損害を与えるとともに,生活基盤をなす高速道路,国道,県道等にも大きな被害を与えた。特に道路橋においても,高架橋が倒壊するなどし,現在懸命の復旧が行われている。
道路橋の耐震基準については,関東大震災以来各種震災のたびに耐震設計の整備を重ね,耐震性の向上に努め計画的に震災対策事業を進めてきていたところであるが,今回の事態におよび,ただちに「兵庫県南部地震により被災した道路橋の復旧に係る仕様」(以下,復旧仕様という。)が通知され,当面の対応として既設橋梁の補強についても復旧仕様を参考とする旨が通知されている。
これに伴い,九州地方建設局管内の既設橋梁についても復旧仕様に基づく対応を早急に実施することとしている。
2 復旧仕様に基づく当面の既設橋脚の対応について
当面の橋,高架の道路等の補強については,緊急度の高い橋梁(複断面区間の橋梁や跨線橋,跨道橋等)のうち昭和55年以前の道路橋示方書より古い耐震設計に係る基準を適用した鉄筋コンクリート製の単柱橋脚および落橋防止装置を優先的に実施する。
なお,今回の補強対象の橋脚躯体の形状は縦横比が1:3以下の橋梁を対象としている。
(1)鉄筋コンクリート橋脚の補強
既設橋梁の補強では耐力とじん性の向上が求められるが,上記を満たす工法として曲げ耐力制御式鋼板巻立て工法および鉄筋コンクリート巻立て工法等が復旧仕様において提案されている。
① 曲げ耐力制御式鋼板巻立て工法
曲げ耐力制御式鋼板巻立て工法とは図ー4に示すように,橋脚躯体を鋼板で巻き,鋼板と躯体コンクリートを無収縮モルタルまたは,エポキシ樹脂等により一体化させる。
橋脚基部は鋼板とフーチングの間に5~10cmの間隔を設け,鋼板に形鋼を溶接し,アンカー筋をフーチングに定着させる工法である。
②鉄筋コンクリート巻立て工法
図ー5に示すように,既設橋脚に鉄筋コンクリートを巻立てる工法であり,地震時保有水平耐力を大きく向上させる必要がある場合に適している。この工法では,アンカー鉄筋により既設橋脚およびフーチングと巻立てコンクリートを一体化させることが重要である。また,軸方向鉄筋の段落し部における補強後の降伏水平耐力が柱基部における補強後の降伏水平力より大きくしなければならない。
この工法を用いる場合は,復旧仕様に従い基礎の照査が必要となってくる。
(2)落橋防止対策
既設橋梁の落橋防止対策については復旧仕様を準用し,図ー6に示すながれに基づいて設計を行う。
3 管内の状況について
九州地方建設局が直轄管理する橋梁について,車両総重量の規制緩和(25t対応)に向けた橋梁の補修・補強対策については現在事業を進めており,完成は平成9年度早期を目途にしている。今回の単柱橋脚の補強は緊急度の高い橋梁(複断面区間の橋梁や跨線橋,跨道橋等)については,平成8年度までに対策を完了させるよう事業を進めてきている。なお,管内には約900橋の橋梁(15m以上)があるが,今回の対策となる橋梁は23橋梁(146橋脚)となっている。また,落橋防止対策についても緊急度の高い橋脚から復旧仕様に基づく対策を早急に行うようにしている。
4 今後の問題点
現在,既設橋梁の橋脚補強対策および落橋防止対策は当面の間,復旧仕様に準じ対策を行ってきているが,既設図面,報告書,竣工図書等の有無の場合の取り扱い,基礎工まで含めた補強工法のあり方,架設地点が河川部,海上部の取り扱い,壁式橋脚の補強工法のあり方等についての問題点を解決する事が望まれる。
5 まとめ
今日まで社会資本整備に努めてきたが,兵庫県南部地震を契機に今後,道路橋の維持管理の重要さがますます要求されると思われる。
九州地方建設局管内の既設橋梁についても上記の問題を早期に解決し,安全性,耐久性,経済性に十分配慮した対策を行って行く必要がある。
参考文献
「兵庫県南部地震により被災した道路橋の復旧に係る仕様」の準用に関する参考資料(案)(社団法人日本道路協会平成7年6月30日)