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一般国道191号木与地区における地すべり対策

山口大学工学部 学部長
村 田 秀 一

建設省 山口工事事務所長
瀬戸口 忠 臣

建設省 山口工事事務所
 建設監督官
原 田 秀 賢

1 はじめに
一般国道191号山口県阿武郡木与地区は,平成5年8月の豪雨で斜面災害が発生し,延べ4日間の通行止めを実施した。当該地区は,これまでにも地すべりによる斜面災害がしばしば発生し経済活動や社会生活に多大な影響を及ぼしていることから,安全で円滑な交通を確保するため地すべり対策工の検討を行った。また,異常気象時の通行規制方法について,これまでに集積した降雨データおよび動態観測データを解析し,当該斜面の特性を考慮した合理的な通行規制管理手法検討した。
本報告は,これらの概要を紹介するものである。

2 地すべり地の地形・地質
地形は,標高300m前後の丘陵をなし,日本海に面して急崖を形成している(写真ー1)。

一般国道191号は,この急崖下を海岸線に沿って走る。地質は,中生代白亜紀の流紋岩および流紋岩質凝灰岩に黒雲母花崗岩が貫入している。山頂から急斜面域にかけて接触変成作用をうけ角レキ化された流紋岩類が,その下位のやや緩い斜面域には花崗岩体の貫入により自ら熱水作用の影響を受け脆弱化した花崗岩類が位置する。また,それらを覆うように崖すい堆積物が層状に広く分布する。位置図および地質の模式図をそれぞれ図ー1,2に示す。

このように,岩質の異なる岩体が脆弱な基盤岩に上載しているキャップロック構造の場合は,端部で地すべりが生じやすく全国的には長崎県北松地方の地すべりがよく知られている。本斜面においては,キャップロック構造が花崗岩類の粘土化を促進するとともに,降雨時には粘土化した花崗岩類が難透水層となって地下水位を上昇させ,地すべり運動の素因になると考えられる。

3 地すべり対策工
3.1 崩壊の発生形態
本斜面の地すべり運動は,降水との関連性が高く,その多くは梅雨期や台風時期に集中している。また,地すべり土塊のなかで,頻繁に土砂流出をくり返し活発な動きを示す部分はブロックⅠで,主部であるブロックⅡの動きは緩慢である。降雨時には,最初にブロックIが移動を示し,時間の経過に従いブロックⅡに及んでいく。これらの現象は,ブロックIのすべり面はやや浅く崩壊性の地すべりであるのに対し,ブロックⅡの地すべり面は深くかつ先端部には岩塊が多いため,不均一な挙動を示すものと考えられる。崩壊の発生形態を図ー3に示す。
今後,ブロックⅠの崩壊の進行にともないブロックⅡの不安定化が増すと,大規模(推定崩壊土量30,000m3)な地すべり災害の発生が懸念される。

3.2 対策工法の選定
対策工は,斜面で地すべり活動を停止または緩和させる工法および道路構造を工夫して崩壊土砂を海へ放出する工法が考えられる。
斜面における対策工は,①排土工,②抑止杭工および③アンカー工などあるが,それぞれ①長大法面の出現,②緩んだ土塊の反力不足,③地形的乱れによる施工の困難さなどから,本斜面には適さない。
つぎに,道路構造による対応は,
①洞門工で覆工を設け道路上を流下
②道路下をカルバートで流下
③高架構造にして桁下を流下
などの工法が考えられる。
このうち,②および③は,現況の地形状況や構造物の施工性などから,適当な流下勾配(目標勾配を10゜とした)が満足できないことや,礫および流木による閉塞が危惧される。一方,洞門工による覆工は,現地に調和しかつ施工も比較的容易である。したがって,本斜面の対策工法は洞門による覆工を採用した。
なお,補助工法として地下水追跡調査にもとづき,隣接斜面の安定化もかねて地すべり地以外にある地下水を排除する集水井工を図ー5に示すとおり設置する。

3.3 設計条件
崩壊形態は,降雨により斜面上部で地すべりが発生し,斜面に残存した既往の堆積土砂を巻き込みながら流下する土石流形態と考えられる。そこで本設計では,①渓流堆積土砂が不安定になって発生する土石流についての経験式1)(以下,土石流経験式という)および②昭和47年7月災害の実績(以下,災害実績という)などから洞門工の設計荷重を検討した。
(1)土石流経験式
ピーク流量時の波高は,流下勾配(10°~20°)および流下幅(15m~70m)を変化させ試算した結果,おおむね1m以下となった。
(2)災害実績
昭和47年に発生した災害は過去最大級で,その規模は崩壊土砂(推定流出土砂量26,000m3)が道路方向へ70mおよび沖合80mの区域に流出し,道路上では4mの厚さで堆積した。崩壊を推測して図ー4に示す。

以上の結果から,洞門工に作用する荷重が大きいと思われる災害実績の数値を設計荷重とし,洞門上での土砂の流下状況を予測して以下の2ケースの荷重を設定した。
①ケースⅠ:自由に流下している場合
転石の最大粒径を流動深とし,転石の最大粒径はおおむね2mであることから,土砂が2m堆積した上に2mの土砂が流下する時の荷重を考える。
②ケースⅡ:流下が拘束された場合
既往災害の実績から,4mの堆積土砂の荷重を考える。
本工法の平面図および断面図を図ー5,6に示す。

4 通行規制管理手法の検討
4.1 連続雨量法の課題
当該箇所は,大雨などの異常気象時には事前に斜面崩壊を予知して,通行規制を実施することにより道路管理を行っている。しかし,実際に斜面崩壊を予知することは相当困難で,現行の通行規制管理指標である連続雨量法においても十分とは言えない場合が散見される。
図ー7は,過去5年間の連続雨量の総降雨量を時系列に示した図である。

斜面崩壊は,平成3年7月5日および平成5年8月17日の2回発生し,いずれも通行規制管理基準値(200mm)に達する以前に崩壊した。また,崩壊時(105mm)より総降雨量が大きいにもかかわらず崩壊していない総降雨量は3回ある。このように,本斜面は地すべりの運動形態に従うことから,現行の連続雨量法では律することのできないケースが認められる。そこで,より精度の高い管理指標を構築するため,実施している観測項目の中から有用と考えられる①タンクモデル法および②地表面移動速度測定法を選定し,管理指標としての適用性について検討した。
4.2 タンクモデル法
タンクモデル法は,上下にならんだ数段のタンクを想定し,これらのタンクの貯留量で実際の斜面における土中水分量を表現し,崩壊発生の指標とするものである。タンクの各諸定数は,通常崩壊時における貯留量が際立つように決定するが,今回は地下水と崩壊の相関が高いことから,地下水位の変動に追随するように決定した。構築したタンクモデルおよび貯留量の時系列分布をそれぞれ図ー8,9に示す。

通行規制を発動する際の指標である管理基準値には,
① 管理基準値に達する以前に崩壊してはならない(以下,手遅れ率という)。
② 管理基準値を越え通行止めを行ったが実際は崩壊しなかった(以下,空振り率という)ケースが少ない。
③ 管理基準値を越え崩壊が発生するまでの期間(余裕時間)を適当に有している
などの要件が課せられる。これらの観点からタンクモデル法を評価した。なお,評価方法として,現行の連続雨量法および実効雨量法を比較対象とした。
図ー10は,実効雨量法(半減期を72時間とした)の時系列分布図である。図ー10を見ると,崩壊が発生した最大実効雨量(160mmとする)を管理基準値とした場合,5回通行規制が必要となりそのうち3回は空振りである。

一方,図ー9のタンクモデル法は,管理基準値を5.4mmとした場合,2回通行規制を発動し空振りは0回である。このような視点で,連続雨量法(図ー7),実効雨量法およびタンクモデル法を評価するとタンクモデル法が最も優位となった。表一1に結果をまとめて示す。

4.3 地表面変動計測法
地表面変動計測法は,斜面上にできた亀裂に伸縮計を設置して土塊の移動状況を観測することにより崩壊時期を予知するもので,本斜面では滑落崖に伸縮計を設置して常時自動観測を行い,斜面の安定度を監視している。伸縮計の設置位置,設置模式図および地すべり時に計測した地表面変位の観測結果を整理・加工して,図ー11,12,13に示す。なお,伸縮計(1),(2)は,それぞれブロックI,Ⅱの土塊の挙動を表している。

(1)地すべり特性
図ー12の変位速度および余裕時間の推移から本斜面の地すべり特性は以下のことが言える。
① 土塊の移動は,ブロックⅠから始まり20時間後にブロックⅡへ移る。
② ブロックⅠは,突発的に移動を開始して,移動速度も速い。またブロックⅡは,移動開始から約3日間を要して終息する。
③ ブロックⅡは,崩壊は回避したものの8月19日22:00に変位速度が最高に達し,崩壊までの余裕時間は2時間と迫った。その後,緩やかに終息に向かった。
(2)基準値の設定
管理基準値は,低く設定すると予知の確率は高まるものの交通規制期間が長くなる。他方,管理基準値を高く設定すると本来の目的を失するなどトレードオフの問題が生じ,それらを調和さすことが肝要である。
一般に,滑落の危険速度は2~5mm/hを越える場合2)と言われている。本調査においても,ブロックⅠはその範囲を超えて崩壊し,ブロックⅡはおおむねその範囲で終始して崩壊に至らなかったことから,危険速度は2~5mm/hの範囲が適当と考える。したがって,管理基準値は2~5mm/hの範囲でかつ崩壊までの余裕時間(8時間程度)確保および適切な規制期間など前述の課題を勘案し,変位速度4mm/hとした。
4.4 通行規制管理運用
連続雨量法は,無降雨期が3時間以上連続すると累積降雨量はキャンセルされ,その結果先行雨量が及ぼす斜面内部への影響は考慮されない。これらを改め,斜面の含水状態から安定度を判定するタンクモデル法および地すべり土塊の挙動から直接崩壊予測を行う地表面変動計測法などの管理指標を追加して用いることとした。通行規制管理フローを図ー14に示す。
なお,実際の運用は各指標の特徴,斜面の地すべり特性および現地調査結果を総合的に判断して実施する。

5 おわりに
本調査で得られた知見および成果は以下のとおりである。
1)花崗岩を基盤とする地域の災害の多くは崩壊の形態を呈するが,キャップロック構造が存在する場合は比較的大規模な地すべりの形態を呈する場合がある。
2)山腹で発生した地すべり崩壊が土石流に変化する崩壊形態では,対策工として崩壊土砂を道路上で処理する洞門による土石流覆工が考えられる。
3)異常気象時の通行規制管理方法について,現行の管理指標は連続雨量法を用いているが地すべり斜面では崩壊予測が適中しない場合も多く,より精度の高い崩壊予知を行うためにはタンクモデル法および地表面変動計測法などの指標を併用することが望ましい。
最後に,検討にあたり助言いただいた山口大学および建設省土木研究所の方々に厚くお礼申し上げる。

参考文献
1)建設省河川局土石流対策技術指針(案)
2)道路土工 法面工・斜面安定工指針

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