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新北九州空港連絡橋の計画と施工について

福岡県新北九州空港連絡道路建設事務所
 橋梁建設課長
田 口 松 義

1 はじめに
新北九州空港は,現在の北九州空港の代替として,北九州・京築圏域200万人の航空利便性の確保と地域活性化を図るため,周防灘沖約2kmの海上に約370haの埋立てにより,平成17年の開港を目指して建設が進められている海上空港である。
空港島と対岸の新松山埋立地(福岡県京都郡苅田町)を結ぶ新北九州空港連絡道路は,橋長2.1kmの海上連絡橋を含む延長7.8kmを県道新北九州空港線として整備し,国道10号および東九州自動車道苅田IC(仮称)に接続する計画である(図ー1)。
新北九州空港連絡橋は,空港に隣接することから上方を空域制限,下方を航路制限により拘束されている。また,海底地盤は非常に軟弱かつ複雑であるなど厳しい条件下にあった。さらに,北九州地域の新たな玄関口となるだけでなく,周辺地域から遠く見渡せる位置になるため,周辺景観への配慮が強く求められてきた。このため学識経験者から成る新北九州空港連絡橋設計・施工委員会を組織し,構造面,景観面から設計・施工の検討を行い,橋梁形式の決定,施工法の選定に至っている。
ここでは,連絡橋の設計および施工の概要を紹介するとともに,平成8年度から実施している工事状況について報告する。

2 新北九州空港連絡道路の概要
新北九州空港連絡道路は空港・港湾・陸上交通を連結し,北部九州の産業発信基地の根幹をなすものであり,福岡県の重点プロジェクトに位置付けられ,地域活性化の目玉として注目されている。道路計画概要は以下のとおりである。
(1)路 線 名  県道新北九州空港線
(2)道路延長  7.8km
         うち,陸上部4.8km
            海上部2.1km
            空港島内道路0.9km
(3)道路規格
   ①橋梁部
    第3種第1級 設計速度80km/hr
   ②道路部
    第3種第2級 設計速度60km/hr
(4)道路幅員  4車線(片側3m歩道付)
(5)計画交通量 16,700台/日
(6)工  期  平成8年度~平成16年度

3 新北九州空港連絡橋の橋梁計画
新北九州空港連絡橋は,架橋位置が空港島に近接していることおよび陸域と空港島間の海域を横断して架橋されることから,空域制限や通航路の幅,高さなどの交差条件が厳しい中央径間部と,その両側の架橋条件が比較的緩やかな側径間部に分けられる(図ー2)。

(1)中央径間部
中央径間部は,以下の項目に着目して橋種決定を行った(図ー3)。
① 中央径間部は船舶通航路が設けられるため,この通航路幅130mに余裕を見込み210mとした。また,通航路制限高さは24mを確保することにした。
② 航空機の運行上の安全を確保するため,飛行場付近における建造物の高さは航空法による制限があり,新北九州空港連絡橋は,水平表面TP+51.1m以下の高さに空域制限されている。
③景観上のポイントとして,シンボリックな形式で,かつ周辺小島の稜線と橋の側面の曲線が調和し,陸から海へのつながりをイメージした形式とする。
以上の条件のもと,側径間への連続性,シンボル性,構造特性,経済性および施工性等を比較検討した結果,鋼モノコード式バランスドアーチ橋を選定した。

(2)側径間部
側径間部は,空域制限を受けるが他には特別な制限を受けないため,スパン長を比較的自由に選定できる状況にあった。
① 空域制限からTP+51.1m以下の橋梁とした
② 耐震性・走行性を考慮し,多径間連続化が可能な形式とする。
③ シンボリックな中央径間部との景観上のバランスと構造的な連続性を確保する。
以上のような点を特に考慮し検討した結果,構造特性,経済性,景観性に優れている10径間および11径間連続鋼床版箱桁橋を選定した。

(3)下部工形式
下部工(主に柱部)は,鋼製橋脚(鋼管杭+設置フーチングタイプ)とRC橋脚で検討を行った結果,
① 本橋梁は水面上の橋脚高さがあまり高くないこと。
② 鋼製橋脚の場合,じん性確保などを考慮するとコンクリートの充填が必要となること。
③ このため鋼製橋脚の利点である死荷重が軽減できなかったこと。
などからRC構造とした。橋脚形状は,景観を考慮した八角形断面を基本とし,上部工荷重をしっかり支えるイメージをもつY形としている。

(4)基礎工形式
基礎形式は,海上施工でありかつ軟弱な地盤が複雑であることから,以下の条件を満足する必要があった(図ー4)。
① 海上工事となる下部工および基礎工の施工は干満差4mを考慮する必要がある。
② 地質は上層部に軟弱な粘土層が存在し,中間層は粘土と砂・砂礫の互層地盤で,N値が50を超える層もある。確実な支持層は,海底面下25~75mの砂質変成岩である。
③ 工事海域周辺はカキ,ノリの区画漁業権が設定されているため,海水の汚濁は避けなければならない。
このような条件を踏まえて基礎形式としてⓐ鋼管杭基礎,ⓑケーソン基礎,ⓒ鋼管矢板井筒基礎の3案を選定し,比較検討した結果
① 築島が不要であること。
② 大規模な桟台を必要としない。
③ 仮締切りと本体を同時に施工でき,工程が短縮される。
などの条件で優れている鋼管矢板井筒碁礎を選定した。

4 新北九州空港連絡橋の施工
連絡橋の下部工は24橋脚と1橋台から構成されており,このうち22橋脚が海上部に位置している。
通航船舶の安全を確保し,かつ工事の安全な進捗を図る目的から,現在側径間の3P~5P間に設定されている船舶通航路を,早期に中央径間の12P~13P間へ切替える必要があった。このため中央径間部の6橋脚(10P~15P)について平成9年3月に着手した。
その後,上部工の中央径間部である鋼モノコード式バランスドアーチ橋は平成10年3月から工場製作を開始した。

(1)下部工の施工
下部工の施工手順を図ー5に示す。このなかの「⑤コンクリート工」は井筒内の掘削が終了後,敷砂を施工し,底板コンクリートの打設を行う。
この底板コンクリートは仮締切部を含む鋼管矢板井筒基礎に作用する土圧および水圧に対する支点として機能するとともに,仮締切部内での作業の安全性を確保するために施工するものである。
底板コンクリートは,水中施工となるため水中不分離性コンクリートを使用している。
頂版工の施工は,仮締切内の海水をポンプアップしたのち,鋼管矢板と頂版コンクリートを一体化するための鉄筋のスタッド溶接,頂版鉄筋の組立,コンクリート打設という手順により行っている(写真一1)。

橋脚施工上の主な特色は次のとおりである。
① かぶりは10.5cm以上を確保
塩害,中性化に対して鉄筋コンクリート構造物の耐久性設計に関する考え方に基づき,設計耐用期間100年間の劣化深さを算定すると10.5cmとなった。また,コンクリート標準示方書設計編では「特に厳しい腐食性環境では10cm以上が望ましい」となっており,総合的に判断して10.5cmのかぶりを確保することとした(図ー6)。

② 高炉セメントB種(高炉スラグ微粉末置換率60%)の使用
海上橋であり外部から浸透する塩化物によって高アルカリ環境になることが十分に考えられるため,アルカリ骨材反応防止対策を目的として,高炉スラグ微粉末をセメント量に対し50%以上置換したものを使用している。なお,高炉スラグ微粉末のアルカリ骨材反応抑制効果については,確認試験により,その有効性を確認している。
③ ひび割れの補修
温度ひび割れ量を減らすためには,コンクリートの水和発熱量を低減する必要がある。そのため低発熱ポルトランドセメントと粉末度の大きい高炉スラグ(6000cm2/g)を組み合わせた発熱の極めて小さいタイプの高炉セメントB種を使用している。また温度ひび割れ指数確保のため,感潮帯および海中部の一部に断熱型枠を使用することにした。しかし実施工においては,これらの対策を行っても発生するひび割れがあり,これに対する補修計画として,ひび割れ幅が
 0.2mm以上 ー エポキシ樹脂系にて補修
 0.2mm未満 ー かぶりにより対処
する方針とした。

(2)上部工の施工
上部工は前述のとおり,鋼モノコード式バランスドアーチ橋の施工中であり,平成11年10月に架設を行った。この橋梁は工場においてブロック製作,仮組立て,大ブロックの組立てまで行い,大ブロックを台船にて架設現場まで海上輸送した。架設は3,700t吊大型FC(フローティングクレーン)船を使用し大ブロック一括架設工法により行った。架設要領,架設重量および架設長さ等を図ー7に示す。架設順序は新松山側のBブロック,空港島側のCブロックを架設し,最後に中央のAブロックの順序で行った(写真ー2,3)。Aブロックの架設は,あらかじめ150mm空港島側に設置していたCブロック側を,引込みながら作業を行った。今後は継手部分の現場溶接,ボルト接合,架設機材の撤去等を行って完了する予定である。

本橋の橋の色は,
  アーチ部
    ブライトグリーン(マンセル値:8.0G6.5/9.8)
  桁部
    ホワイトオパール(マンセル値:9.4G8.2/1.3)
としている。この色は一般住民の方々へのアンケート調査,色見本を使用した現地での見え方調査および委員会,景観部会での検討を踏まえて選定されたものである。なお,塗料は海上連絡橋などに使用実績があり,長期の耐久性に優れているふっ素樹脂塗料を採用している。

5 おわりに
新北九州空港連絡橋の工事は,下部工の8橋脚(6P~9P,16P~19P)を,また上部工は前述のとおり鋼モノコード式バランスドアーチ橋架設後の工事を施工中である。
現在,工事が順調に進捗してきていることは,地元漁業関係者はじめ関係官公署の方々のご理解とご協力の賜物と感謝するとともに,平成17年の新空港開港に向け,残る連絡道路建設事業の推進には万全を期していきたい。
新北九州空港連絡橋は,福岡県でも施工例の少ない事業であり,設計・施工上の諸問題について「設計・施工委員会」の委員の方々には,専門的な立場から貴重なご意見,ご指導を頂いた。誌上を借りて心から感謝の意を表します。

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