鹿児島中央地下駐車場の計画と施工
鹿児島市都市再開発課
推進係長
推進係長
城 下 芳 和
1 はじめに
平成4年8月28日,中央公園の地下駐車場が供用開始された。
当地下駐車場は,鹿児島市一番の繁華街・天文館近くに位置しており,本市における第1号の都市計画駐車場である。
近年のモータリゼーションの進展は著しい。そしてこの自動車の急速な普及に伴い,市民(消費者)の動向も大きく変化してきた。現在では,駐車場の有無がその地区の商業の死命を制すると言っても過言ではない状況になってきている。
本市においても状況は同様であり、一世帯当たりの自動車保有台数は,平成2年度には約1.15台となっている。
また,昭和63年度,本市が行った駐車場整備計画調査によると,この天文館一帯を中心とする中央地区における平成5年の時間貸系駐車場の整備必要量は,平日と休日のピーク時には,それぞれ4,900台,6,800台と推定されており,不足量は昭和62年と比較して平日,休日それぞれピーク時で200台,2,100台程度になると推定されている。
2 第三セクター設立の経緯
当地下駐車場の建設は,第三セクター「鹿児島中央地下駐車場株式会社」が事業主体となり,NTT-Cタイプの無利子融資制度等を活用して行われたものである。
この第三セクター「鹿児島中央地下駐車場株式会社」は,地元民間サイドが自ら資金の募集を行うなど,地下駐車場建設に非常な熱意を持って取り組み,民間サイドから行政サイドヘのアプローチがなされ,設立されたものである。
このようなケースは,全国的に観ても稀であると思われるので簡単に紹介する。
この中央公園地下の駐車場整備については,昭和50年代当初に商工会議所が作成した商業近代化実施計画の中での提言や天文館を中心とする中央地区の関係団体からの建設陳情などがあり,また鹿児島市としても都市計画駐車場としての整備の検討を行うなど,官民ともどもその実現に向け様々な取り組みが続けられてきた。
しかしながら,市としては,その整備の必要性は充分認めながらも,地下駐車場建設には莫大な建設コストを要し,事業収支の見通しが厳しいことなどから,市が事業主体となる地下駐車場整備は無理であるとしていた。
そこで,当中央地区商店街では,昭和63年9月に「中央地区駐車場建設促進世話人会」を発足させ,まず,事業協同組合が事業主体となる地下駐車場建設に取り組んだ。建設資金は特定高度化資金の活用を考えていた。この建設計画に対し,世話人会では,平成元年6月の時点で参加申込者数230名,3億3千6百万円の出資申込を得たが,この組合による駐車場建設には返済計画など解決困難な問題が多々あり,この方向での取り組みを断念した。
このようなことから,世話人会は,県・市が参加する第三セクターが事業主体となり駐車場を建設することにその方向を変更した。資金は,前述のとおりNTT-Cタイプ無利子融資等である。
平成元年9月,世話人会は鹿児島商工会議所とともに,市に対して第三セクターヘの参画の意向打診を行った。市はこれを受け,この事業への参画を決断した。
このように,関係者の多大な努力のもと,平成2年6月,資本金8億5千6百万円,中央地区商店街等217社からなる中央地区活性化事業協同組合,地元の大型店・銀行・有力企業,鹿児島商工会議所,鹿児島県,鹿児島市など42団体の出資による第三セクター「鹿児島中央地下駐車場株式会社」が設立されたのである。
総事業費は,31億7千万円,収容台数約600台,工事費の約50%をNTT-C無利子融資で,約20%を民間都市開発推進機構などの政府系融資で賄う計画であった。
以後の経過は次のとおりである。
平成3年2月25日 都市計画駐車場の決定告示
同 3月28日 公園占用許可
同 4月5日 都市計画事業認可の告示
同 5月1日 駐車場建築工事起工式
平成3年12月21日 管制システム工事着工
平成4年7月31日 建築工事完了
同 8月15日 管制システム工事完了
同 8月28日 供用開始
3 地下駐車場建築計画と施工
事業実施にあたって,我々は,次の三つの条件を必ずクリアーする必要があった。
① 建設コストの低減。
② 工期短縮。
③ ランニングコストの低減。
これらは,当地下駐車場の事業成立性から要求されたものである。
したがって,建設費については,自動車1台あたり500万円台の水準を求めなければならず,工事期間は約17カ月を目標とした。また,開業後の経費節減のための対策も当然綿密に講ずる必要があった。
このようなことから,我々は次のような設計条件を設けた。
① 安全で高効率の駐車場計画
② 安全確実で低コストの仮設計画
③ 適切な構造・工法の採用
④ 必要最小限の階高の設定
⑤ 適切な給排気設備,電気設備の採用
⑥ 駐車料金精算方法を含む,最良の駐車場管制システムの構築
そして,これらの条件に対して採用された方針,工法等は,次のようなものとなった。
(1)安全で高効率の駐車場計画
まず,当駐車場の平面計画を決定するにあたり次のような設計方針で対応することとした。
① 自走式駐車場とする。
② 場内は,全て一方通行とする。
③ 入退場動線は,車庫入れ動線と分離する。
④ 入退場動線は,地下1階,地下2階ともそれぞれ独立したものとし,地下1階の料金清算所でのみ交差させる。
⑤ 車両誘導の管制システムを構築する。
①は,開業後の人件費節減の考え方から,その他は,駐車場の安全対策上からも必要条件としたものである。
また,車庫部の柱割り付けは,8m×8mを基準として,入退場路の有効幅員は6mとして計画した。これらの条件のもと,収容台数602台,総延べ床面積18,495m2の駐車場の平面計画がまとめられた。自動車一台当たりの所要面積は30.7m2である。この値は,一般的な地下駐車場の面積と比較して,20%以上低減していることになる。
(2)安全確実で低コストの仮設計画
当駐車場の建設地は公園であり,オープンカットで工事を進めることができる。また,これを工事期間の短縮に繋げることができる。これらの有利性を最大限に活用するため,土留め壁として柱列式ソイルセメント系地下連続壁工法と除去式地盤アンカー工法を採用することとした。
柱列式ソイルセメント系地下連続壁工法は,他の工法,例えば,鋼矢板工法に比べて,
① 止水性が高く,周辺道路への影響が少ない。
② 地盤の液状化に対して有効である。
③ 工期が短い。
④ 掘削土量が少なくなる。
⑤ この土留め壁を外壁用型枠とすることができ,外部足場が不要となる。
などのメリットが挙げられ,コストの面から見ても,かなり有利である。
山留めに採用した除去式地盤アンカー工法は,山留め壁をこのアンカーで自立させるわけであるが,切梁工法と比較して,コストは若干高くはなるものの,柵杭・切梁などの障害物がなくなるため,掘削工事や土砂の搬出,鉄筋工事やコンクリート工事等の本体工事が施工しやすくなり,工期も短縮できる。
特に,当公園の周囲は,国道,県道に囲まれていることから,この工法の採用には非常に適した地であった。
(3)適切な構造・工法の採用
当駐車場の構造・工法には,フラットスラブ構造に,グリース・ポリエチレンなどの防錆材で被覆したPC鋼材をそのままコンクリート中に打ち込むアンボンド工法を組み合わせたフラットスラブ・アンボンド工法を採用した。その特徴は,
① スパンを大きくとれる。
② 大きな積載荷重に耐えられる。
ところにあり,当方の要求する柱割りつけが可能になるなど,駐車場として最大限の機能を発揮させることができた。
(4)必要最小限の階高の設定
また,このアンボンド・フラットスラブ工法では梁が不要であるため,排煙ダクトや消防設備の配管等を天井に張り巡らせるのに有利である。そこで,給排気設備,排煙ダクト,消防設備配管,照明設備等の建築設備の所要寸法についてさらに詳細に検討を行い,必要最小限の階高を求めた。そして,これらを総合的に組み合わせ,必要有効階高を3mとした。ちなみに,車路部の有効高さは,2.3m以上,車庫部は2.1m以上確保してあり,駐車場法の基準に適合している。
結果としては,建物の全体的な高さをかなり低く抑えることができ,コンクリート工事や型枠工事,鉄筋工事のコストダウンが図れた。加えて,掘削深さや土留め壁の根入れ深さも低減されることになり,これらについてもかなりのコストダウンが図れた。
(5)適切な給排気設備,電気設備の採用
排気設備にはディリベントファンシステムを採用した。
これは,駐車場内に大きな空気の流れをつくることにより,場内の空間全てを排気用ダクトとして利用するシステムであり,長大な給排気専用ダクトやそのための余分な階高の嵩上げも必要としないため,コストダウンが図れた。
給排気用の送風機・排風機には,インバーター制御方式を採用した。これは,駐車場利用の変化を場内にセットした炭酸ガス濃度検知機で読み取り,モーターの出力を制御する方式であり,電力使用量をかなり削減できる。また,駐車場内の照明器具は電圧を200Vとしている。これらは,開業後のランニングコストの軽減を図る目的で採用した。
(6)駐車料金精算方法を含む最良の駐車場管制システムの構築
当駐車場の地下1階,地下2階の収容台数は,それぞれ281台,321台である。そして,それを地下1階は5つのゾーン,地下2階は6つのゾーンに分け,それぞれのゾーン毎,さらに,その中の車室毎に利用状況を表示し,ドライバーの的確な誘導を図っている。
また,通常は地下1階だけで営業を行い,地下2階へは入場させない。地下1階が約85%利用された時点で自動的に地下2階へのゲートが開き,同時に地下2階の照明が点灯し,給排気設備も始動するシステムにしてある。
さらに,場内の安全確保のためには,場内の主要な箇所に41台の監視用テレビカメラを設置している。
一方,駐車料金の精算については,通常の駐車場出口での精算方式に加えて,事前・無人精算方式を採用した。これは,駐車場出口の精算所付近の混雑を解消し,スムーズな出庫を行うことを目的にしたものであるが,省力化にも資する。
このように,運営管理のほとんどは自動あるいは遠隔操作で行えるようにしてあり,これらはすべて人件費節減,電力使用量節減などのランニングコスト軽減を目的としている。
4 おわりに
以上述べたような基本設計段階での詳細な検討・工夫により,実施設計においては,自動車1台当たりの建設単価を当初の計画どおり500万円台前半の水準を確保し,工事期間については,15カ月で可能とした。
この計画の実施,特に工期の遵守は,かなり厳しいものではあったが,この地下駐車場建設工事を受注され,綿密な施工計画と施工管理のもと,当初の計画どおり工事を完了させた共同企業体に対して,衷心から感謝申し上げたい。
また,開業後のランニングコストについては,全体が把握できるまでには,これから若干の時間を必要とする。周辺交通の変化についても同様であり,今回,ご報告できないことをご了承頂きたい。