河川の環境整備の変遷と整備について
建設省九州地方建設局
河川部建設専門官
河川部建設専門官
古 賀 康 之
はじめに
河川は古来より国土の重要な構成要素として,その社会的役割を果たすとともに,地域社会における風土・文化に深い係わりをもってきた。しかしながら高度経済成長期における急激な都市化の進展に伴い,治水・利水の問題が深刻化し,急を要する治水・利水の施設整備に重点が置かれ環境整備が手薄になっていった。
このような状況の中,家庭排水および工場排水等都市排水は増大し河川の水質悪化は大きな社会問題となっていった。
また,都市化による流域のオープンスペースの減少と公園緑地の絶対量不足等の状況が顕在化してくるにつれ,河川の効用や機能を見直し,水遊びや魚釣りをしたあの「川とのふれあい」をとりもどそうとする動きが強くなってきた。
このような背景のもと,建設省は他省庁に先がけ,44年度より水質浄化を目的とした浄化用水導入等の事業,環境護岸・高水敷整備等を行い,市町村の公園整備と一体とした良好な河川環境形成を図る事業として河川環境整備事業が実施され,63年度から新たに河川利用推進事業が採択されると同時に新規要望に対する対応を図るための実施方針が出された。
さらに,水系環境の保全と創造を図る上で河川に生息する魚,鳥,植物の生息状況や河川空間の利用実態などの把握を定期的,継続的に行うため河川水辺の国勢調査をはじめ,種々の環境調査が行われている。
これらに基づき河川環境の保全と創造に係る施策を一元的,総合的かつ計画的に実施するための「河川環境管理基本計画」(空間管理)が九州管内のー級水系20河川で策定され,この計画に基づき,多様なニーズに応じた整備が計画的に展開できるようになった。また,平成4年度を初年度とする第8次治水事業五箇年計画においても「うるおいのある美しい水系環境の保全と創造」を柱に掲げ,国土の保全と環境の保全との調和を図る目的で図ー1に示す事業が展開されている。
1 九州管内直轄河川環境整備
九州の直轄河川の環境整備,支援のために投入した額および各河川の採択年度を表ー1に示す。
1)河道整備事業
河道整備は,昭和44年度に遠賀川で最初に着手されて以来,47年度に筑後川,番匠川と順次採択され昭和59年度に本明川が採択され管内20河川中19河川で事業が進められてきた。
その主な事業目的と内容を下記に述べると,
(1) 水と緑のオープンスペースとしての「うるおいのあるまちづくり支援」整備
(2) 地域の浮上,活性化を目指した各種の取り組みと(観光資源等)一体となった「地域振興に寄与する水辺環境整備」
(3) 他機関との関連事業と一体とした「広域的利用拠点等としての河川空間整備」
(4) 自治体と地元住民による水辺環境の保全・改善の取り組みとあいまって水辺の持つ価値が発揮できる「地先要望に対する支援」以上の点を基に整備を進めている。
2)浄化事業
浄化事業は,昭和51年度に大野川派川乙津川で最初に浄化用水導入による清流の復活と親水性および市民の憩いと運動広場整備を進めることで採択され,52年度には,筑後川支川池町川で着手するなど,平成3年度までに7施設が稼働し,1施設が施工中である。
浄化事業の主な目的と内容は,
(1) 都市内河川の汚濁の著しい河川に本川等から清流を導水し,河川本来の機能を取りもどすと同時に親水機能,憩いの場としての町づくりが一体となる「浄化用水導入事業」
(2) 都市用水等の取水障害等水質改善を行い,安全な水の供給や浄化された水を利用し,親水機能を図る「礫間等の浄化事業」
(3) 汚濁の堆積により河川本来の自浄能力の低下等により悪臭発生の著しい河川において,浚渫により,生態系の復活等を図る「浚渫事業」
これらの点に基づき整備が進められている。
以上の目的と内容に基づき,九州管内で実施または計画中の主な事業内容と実施例を市町村計画と合わせて以下で述べる。
2 河川環境整備の実例
1)うるおいのあるまちづくり
水と緑のオープンスペースを活用した「うるおいのあるまちづくり」の代表的事例としては,久留米市の池町川および佐伯市の中江川・中川に見ることが出来る。
両河川とも,市の中心部を流れる都市河川で,かつては魚類の棲息する清流で,広く市民に親しまれる川であったが,都市化が進むにつれ水質の悪化にともない悪臭を放つドブ川と化し、河川本来の機能がマヒし市民からも見放された川となっていた。
池町川の場合,河川本来の機能を回復すべく筑後川から0.5m3/sの清流を導き,当時BOD100mg/ℓあった汚濁が,3mg/ℓ程度となり魚類の棲息する清流として蘇ると同時に久留米市は,池町川および河畔を「水と緑の人間都市」のシンボルモールとして整備するため,両岸を緑道とし,市民の憩いとやすらぎの快適空間としてのまちづくりを行った(図ー2,写真一1)。
また,番匠川派川中江川・中川の場合,自然の入退潮量を増加させて水質浄化を計る中江川・中川クリーンアップ作戦と同時に佐伯市は健康・安全で文化的なうるおいのある都市づくりを目指し,市のシンボル城山の緑を背景に武家屋敷が続く「日本の道100選」に選ばれた「歴史と文学の道」の整備。橋梁高欄等のデザイン化による「彫刻のあるまちづくり」両河川の沿岸の緑化・緑道整備浚渫をはじめ親水公園等の整備が進められ,番匠川・中江川・中川を中心とした総合的な町づくりが進められている(図ー3,写真ー2,3)。
2)広域的利用拠点としての河川空間整備
広域的利用拠点として水辺や水面の持つ特徴を活かし,各種施設の整備と河川利用に関する関連他事業との調整を図り,水と緑,観光,レクレーション,地域振興等都市的観点からのネットワークの基に整備されているケースとして,その代表的事例は,久留米市の筑後川リバーサイドパーク整備事業があげられる。本計画は「ふるさと久留米を実感できる」「文化・快適・活力を創造する水と緑の人間都市」づくりの一環として筑後川河川敷利用基本構想(筑後大堰~九州自動車橋区間後10km)を昭和57年度に「筑後川リバーサイドパーク基本計画」として策定し筑後川を主軸とした広域的な水と緑のネットワーク(図ー4)を形成し,市民の憩いとスポーツ,レクレーションの場として河川公園が整備されている。その整備の主なものは,筑後川に流入する支川で汚濁の著しかった高良川の水質を礫間浄化(図ー5)により,高良川に清流をよみがえらせると同時に,本川の環境基準達成(A類型)とを実施する計画と久留米市百年公園とリサーチセンタービル計画との調整により,河川と公園の持つ特性を生かし,水辺・親水ゾーン,研究開発ゾーン等の整備計画に基づき,浄化された水を一部公園内に導水し,親水広場としての整備および清流となった高良川を水辺に親しむ多自然型川づくりとして公園と河川の一体整備が進められている(写真一4)。
また,筑後川の改修事業(引堤)と筑後大堰建設により,広大な高水敷と水位の安定化・河岸整備により,スポーツ,レクレーションの場として軟式野球場,テニスコート,ゴルフ場およびラグビー場等の整備と堤防側帯等を利用した散策路とつつじ公園の整備利用が進んでいる(写真一5,6)。
さらに,篠山城跡,梅林寺,水天宮の歴史的遺産,筑後大堰の近代的河川施設と合わせ,安定した水面を利用したカヌー競技,各種イベントのための環境護岸等の整備が進められ,観戦する人々等多くの利用者に大変喜ばれている(写真一7,8)。
3)地先要望型の支援・整備
地先要望として水辺環境の保全・改善に関するイベントや愛護活動の取り組みが積極的に行われている中での河川環境整備の事例としては,大淀川の宮崎市河川公園や菊池川の山鹿市河川公園等が代表的である。
大淀川河川公園の場合,宮崎市は21世紀型の河川公園として河川愛護,河川浄化の意識の高揚をかかげ,また,昭和61年度から全国でも初めて小学校の授業に「大淀川を教材」として取り入れるなど河川愛護を目的とした河川公園(親水公園,各種イベント広場,芝生広場,野草広場,自然地区)を5つのゾーンにわけ整備を行っている。特に親水公園は子供からお年寄りまで楽しめる施設として河川浄化のシンボルに位置付けている(図ー6,写真ー9)。
山鹿市の場合,地元住民による菊池川と支川を守る会等の水質浄化活動とあいまって菊池川と支川岩野川周辺は平成2年度にラブリバー制度の指定を受け河川愛護と潤いのある水辺空間の形成が進められている。周辺の整備は,スポーツセンター,サイクリングターミナル,市立博物館と古墳群を含めた風土記の丘と一体となった河川公園整備(山鹿広域自転車道の休養施設・スポーツセンターのスタンドとしての側帯公園整備)(子供が水と親しめる水遊び公園,低水路の環境護岸等の整備による魚釣り場の整備や多目的広場の整備)等一連の拠点的整備が行われている。
おわりに
河川は地域環境の一要素であり,人々が安全でかつ健康で文化的な生活を営んでいく上で不可欠なものであり,河川環境の整備にあたっては今後とも地域計画と一体とした整備および安全で良質な水質の保全について多大な工夫を行い河川行政として,地域住民に喜ばれる事業を推進していかねばならないと考えている。