九州技報 第11号 巻頭言
九州地方建設局長
藤 川 寛 之
国力や国民の消費生活水準に比べ未だに低い水準にある我が国の住宅・社会資本整備の現状は「豊かな暮らし」を享受出来ない大きな要素の一つと指摘されており,これらの整備拡充は今後の内政施策の大きな柱として位置づけられ「公共投資基本計画」にそって拡大推進を図っていくこととしている。また,これら公共投資の推進においてはストック(量)の充実にとどまらず高度,多様な意識,感覚を保持する国民,社会のニーズに適切に対処する質の高い資産の形成が求められてきている。
一方,これら公共事業推進の実務を担う建設関連産業においては近年,若年者離れが急速に進展するなど今後の建設実務の円滑な推進に深刻な問題を投げかけてきている現状にあり,これらは近年の産業の高度化や国民の労働ニーズの変貌等の中で労働時間や労働環境,賃金水準や雇用形態などの多くの面で相対的に立ち遅れてきていることが要因と考えられている。このような今後の建設事業推進を取巻く諸課題を克服し,良質な住宅・社会資本整備の円滑な推進を達成していく上で建設技術に課せられる使命は非常に大きいものがあり,次のような視点等を踏まえ対処していく必要がある。
一つには,今後の社会や国民,利用者等の高度なニーズヘの適切な対処にむけた技術の展開であり,地球環境や資源問題などの社会的諸課題や,より豊かな生活の実現にむけたニーズに対し,あらゆる分野の高度技術の結集と応用による対処といった視点である。
二つには,今後我が国の労働人口が減少化する中で生産性の向上は今後の公共事業の堅実な推進を支える課題であり,これら生産性向上にむけた技術の応用,改良といった視点である。
三つには,前述とも若干競合するが,危険,汚い等の労働環境を払拭し安全に,快適に,早く,確実に,楽に,生産性を上げると共に建設労働の環境,イメージを改善していくために技術をどのように応用,改良していくかといった視点である。
建設技術に求められる課題は必ずしも産業界,また研究機関,また行政機関それぞれで個別に対処できるものでなくまさに産,学,官のニーズやシーズまたノウハウや施策を総合して対処,推進していくことが必要となってきている。九州地方においても,このような意識背景から先般,当面産,官のニーズを結集し,今後の技術開発を適切に誘導するため九州における建設業界諸団体,機械団体と地建,各県等行政機関において「九州建設技術開発会議」を発足し,それぞれの立場で当面している問題意識の交流や建設技術へのニーズ交換,収集等を行ってきている。当会議では建設技術の個別テーマ毎に部会を設け,会議構成員のほかテーマにかかる専門産業団体や学識経験者の参加を得で個別技術の開発,改良等の検討を行っていくこととしている。また,これらの場で検討されるテーマは地建における官民共同開発やパイロット事業等の技術開発制度に積極的に適用し,本省や土木研究所等と連携しつつ新技術の普及につなげていきたいと考えている。
関係の皆様方におかれても今後の建設技術に期待される使命を踏まえられ技術開発にむけ,さらに一層のご努力とご活躍を念願いたすものである。