『森の都くまもと』のシンボルとなる河川整備が竣工
~景観まちづくりを取り入れた河川整備(白川『緑の区間』)~
~景観まちづくりを取り入れた河川整備(白川『緑の区間』)~
国土交通省 九州地方整備局
熊本河川国道事務所
流域治水課 流域治水係長
熊本河川国道事務所
流域治水課 流域治水係長
秀 島 雅 子
キーワード:合意形成、景観・利活用、水と緑の空間
1.白川の特長
白川は、その源を熊本県阿蘇郡高森町の根子岳に発し、熊本平野を貫流し、有明海に注ぐ一級河川である(図-1)。下流部には平成24年4月に全国で20番目(九州で3番目)に政令指定都市に指定され、約74 万人(令和7年5月時点)が暮らす九州第三の都市・熊本市が広がっている(写真-1)。
白川は上流域が急勾配で、下流域が緩勾配であるとともに、有明海の干満の影響で洪水が流れにくいため、下流域で氾濫しやすいといった特徴をもっている。また、市街部では堤内地盤高が川から離れるほど低くなっており、一旦白川がはん濫すると、甚大な被害となる危険性があるため、早急な河川整備が必要である(図-2)。
今回は、白川の熊本市中心市街部に隣接する「緑の区間」の整備について説明する。



2.「緑の区間」の概要
熊本市の中心市街部に位置する「緑の区間」は、河岸にクスノキやエノキを始めとした多様な樹木が繁茂し、白川の川面に映る木々の緑と遠方に見える立田山を望む景観は「森の都くまもと」の象徴であり、熊本市民の憩いの場として親しまれている(写真-2)。

一方で、当該区間は川幅が上下流に比べて狭く治水上のネック箇所となっており、はん濫した水は熊本市中心市街部に甚大な被害を及ぼすことになるため、早急な河川整備が望まれ、この周辺の都市景観と調和した良好な河川空間の形成と治水安全度の向上が求められていた(写真-3、図-3)。


4.「緑の区間」の検討及び整備(Ⅰ期整備)
4.1 改修計画発表、河川法改正、白川流域住民委員会の発足、河川整備計画の策定
昭和61年に発表した緑の区間の改修計画は、環境や景観に配慮しておらず、「森の都くまもと」の象徴でもある白川河岸の樹木群が消失する内容であったことから、環境や景観に配慮すべきとの意見を地域住民や文化団体等から頂くこととなった。
その後、平成9年に河川法が改正され、治水・利水に加え、「河川環境の整備と保全」が目的に位置付けられ、「地域の意見を反映した河川整備計画制度」が導入された。こうした背景を踏まえ平成11年2月に関係住民の意見・要望等の反映方法の提案、集約された意見・要望を総合的に評価・審議し、助言を頂くことを目的に、熊本市長や学識経験者を始め地域に知見の深い方で構成する「白川流域住民委員会」を発足し、白川水系河川整備計画策定に向けて検討を行った。
白川水系河川整備計画の中で、「緑の区間」の整備方法は、治水と環境の調和を図りながら、用地幅を小さくできる自立式構造の特殊堤を基本とし、堤防のデザインや水辺づくり、樹木の配置について住民の意向を採用しながら検討し、治水整備を行うことを盛り込み、平成14年7月に策定した。
4.2 整備内容の検討体制とその内容
平成14年7月に「白川流域住民委員会」の下部組織として地域住民・行政・専門家を委員として「白川市街部景観・親水検討会」を立ち上げ、緑の区間の整備のあり方に関する基本的な考え方について検討した。
その後、平成18年度から「白川市街部景観・利活用検討会」に名称を変更し、「白川市街部景観・親水検討会」(以下検討会)で決めた整備のあり方に関する基本的な考え方に基づき、地域住民・行政・専門家による検討を行い、具体的な整備方法や維持管理のあり方についてとりまとめを行った。
さらに、「白川市街部景観・利活用検討会」の実行組織として植栽、施設計画検討ワーキンググループ(以下WG)と地域住民による分会(以下分会)を設置した(図-4)。

WGには、行政だけなく熊本大学の景観の専門家、植栽の専門家、樹木医、造園の専門家等と模型を用いてイメージを共有しながら詳細な整備計画の作成を行った。
分会ではWGで作成した整備計画について、沿川4校区の地域住民と地区毎の課題について意見を出しあい、具体的な整備方法、維持管理のあり方についての意見をとりまとめ、それをWGで整備計画に反映させた(写真-4)。

4.3 整備コンセプト(Ⅰ期整備)
検討会で下記のように基本テーマ、基本方針がとりまとめられた。
●基本テーマ
~「森の都 くまもと」のシンボルとして市民に親しまれる水と緑の拠点づくり~
●基本方針
・現在の景観を活かした将来の景観づくり
・緑の拠点としてふさわしい場所とするため の植栽計画
・親水性に配慮した水辺空間
4.4 景観づくりに配慮した植栽計画(樹木の移植等)
左岸側は、河岸を約15m掘削するため、事前に樹木の樹齢や健康状態を調査し、従前の景観を確保するために主要な樹木は極力移植を行った。移植にあたっては、事前に対象樹木約130 本に根回しを行い、極力樹木にとって健全な状態で移植を行った。
特に、樹齢約100年にもなる2 本の大径木のクスノキについては、樹木への負担を考慮して江戸時代から続く伝統的な造園工法である「立曳き工法」にて移植を行った(写真-5、図-5、写真-6)。



4.5 Ⅰ期整備内容について(左岸緑地、水際散策路、石積み護岸)
上下流に比べて川幅が狭く、未整備であった堤防の整備と左岸側の川幅の拡幅、拡幅に伴う樹木の移植を実施した(図-6)。

改修前の緑の区間の低水護岸は、無機質なコンクリートブロック積みの護岸が連続し、水辺に近づくことができず、単調な水際となっていたことから、水辺に安心して近づき白川の水面を感じられる水際の散策路を整備し、平成27年4月に竣工した(写真-7、8)。


5.「緑の区間」の検討及び整備(Ⅱ期整備)
5.1 河川整備計画の変更
平成14年7月に策定した白川水系河川整備計画では、昭和55年洪水、平成2年洪水(概ね1/20 ~ 1/30)を安全に流下させるため、基準地点代継橋での流量2,300m3/sを洪水調節施設で300m3/s調節し、2,000m3/sの流量が安全に流下できる河道の整備を目標として、河道整備を進めⅠ期整備を竣工した。
その後、平成24年の洪水を受け、進められた激甚災害対策事業を含めた事業の進捗状況、計画策定以降の河川を取り巻く社会状況の変化、今後の気候変動への適応等を踏まえ、白川の更なる治水安全度の向上を目指し、令和2年1月に白川水系河川整備計画の変更を行った。変更した白川水系河川整備計画は、年超過確率1/60規模の洪水を安全に流下させるため、基準地点代継橋での流量2,700m3/sを洪水調節施設で300m3/s調節し、2,400m3/sの流量が安全に流下できる河道の整備を目標としている。
5.2 整備内容の検討体制とその内容
白川水系河川整備計画の変更を行う中で、「緑の区間」周辺住民から堤防嵩上げが望まれるようになり、「白川『緑の区間』整備検討会」を立ち上げ、堤防嵩上げによる整備の検討にあたり川への眺望、動線確保、利活用に支障がないように配慮し「緑の区間」整備計画(案)をとりまとめた。
その後、「緑の区間」整備計画(案)について幅広く意見を募るため沿川3校区の地域住民の方や「緑の区間」の利活用者等に沿川校区ワークショップや現地ヒアリングにより直接意見を伺い、熊本河川国道事務所HP でも「緑の区間」整備計画(案)を公開し、意見募集を行った(写真-9、図-7)。


5.3 設計コンセプト(Ⅱ期整備)
白川「緑の区間」整備検討会で下記のとおり基本テーマ、基本方針がとりまとめられた。
●基本テーマ
まちと川のつながりを感じられる安心・安全な「水と緑の拠点」の保全・創出に向けて あらゆる関係者が一体となって取組み、更なる地域防災力の向上をめざす
●基本方針
1.今ある景観の継承
既存の樹木は極力保全し、適正な管理を行えるようにします。
2.川とのつながりの保全
川の眺望を保全し、安全なアクセスを確保し、多様な利活用空間を保全します。
3.周辺との一体整備
安全性・利便性・維持管理性等が向上するものであれば、周辺施設との一体整備を検討します。
4.安全性・防犯性の確保
かさ上げによる死角となる箇所の安全・防犯対策の確保を行います。
5.地域による利活用・運用
陸閘や照明等のハード施設を減災ソフト対策に活かします。地域や白川小学校との連携を強化します。
5.4 Ⅱ期整備の内容について(堤防嵩上げ、管理用通路嵩上げ)
地域住民からの「今ある緑豊かな景観を極力保全したい」という意見を踏まえ、Ⅰ期整備の堤防をそのままの位置で嵩上げし、樹木への影響を最小限に抑えた(図-8)。
堤防の嵩上げに伴い管理用通路の嵩上げも行い、管理用通路の壁は石積みを中心に修景し、川の護岸と同じ石の積み方を行うことにより、周辺景観に一体感を持たせている(写真-10)。
明午橋橋詰めは、整備前にサクラが植えられ、花見で賑わっていた思い出を残して欲しいという意見があり、地域の思い出を残すためサクラを植樹した。
また、新たにまちと川を緩やかにつなぎ、今後の利活用を考慮した空間になるような橋詰め広場の整備を行い、令和7年3月に竣工した(写真-11)。



6.緑の区間の利活用
「緑の区間」では、Ⅰ期整備の竣工(平成27年4月)と併せて「ミズベリング」※の取組みを進めるため水辺の新しい活用の可能性を探る社会実験として「ミズベリング白川74」を実施した。
実施にあたり、沿川4校区の自治会長、学識者、青年会議所や熊本市からなる「ミズベリング白川74 実行委員会」を立ち上げ、オープンカフェ、マルシェの開催、白川沿川学校や市民団体の吹奏楽部による演奏会、カルチャースクールによる発表会を企画し実施した(写真-12)。

※「ミズベリング」とは、「水辺+RING(輪)」、「水辺+R(リノベーション)+ING(進行形)」の造語です。
その後、「緑の区間」で水辺の賑わいを創出し、魅力あるまちづくりに貢献できるような環境作り、「緑の区間」を活用してまちづくりに貢献できるような水辺の賑わいを創出するための企画・運営をするために、市民・企業・行政が協力して平成28年に「白川「緑の区間」利活用推進協議会」(以下、協議会)を立ち上げた。
その後、協議会を主体に白川夜市などの社会実験を実施してきたことを受け、熊本市より「都市・地域再生等利用区域」の指定に関する要望が九州地方整備局に提出され、河川敷地占用許可規準に基づき「緑の区間」の左岸側が「都市・地域再生等利用区域」に指定され、協議会が占用主体となり、飲食提供などの店舗による営業やイベント開催が可能になった。
毎月(12月~2月は除く)第4土曜日に「白川夜市」が開催され、地元のお店40~50 店舗ぐらいが集っておいしい食べ物、飲み物を提供しながら、ライブ音楽、川でのアクティビティを実施している(写真-13)。

今回、Ⅱ期整備中も継続して白川夜市は開催されてきた。利活用の更なる後押しとなるように、「緑の区間」整備計画(案)の作成段階から「白川「緑の区間」利活用推進協議会」の意見を取り入れた整備計画を作成してきた。
令和7年4月26日(土)に竣工を記念し「白川昼市」として竣工式と同時刻に開催し、多くの人で賑わった(写真-14、15)。
工事完成後の声として、「堤防を1.0~1.6mかさ上げしているが、意外と圧迫感を感じない。」、「イベント時の防音になっている。」とのご意見があり、更なる利活用へ期待されている。


7.おわりに(白川の流域の未来を守るために)
今回竣工した「緑の区間」や令和6年に白川上流で完成した「阿蘇立野ダム」などにより治水安全度は向上しているが、更なる治水安全度の向上に向けて、下流の固定堰群の改築等の河川整備を進めている。
さらに、河川整備だけでなく気候変動による水害の激甚化、頻発化に備え、国、自治体だけでなく、企業、住民の方も一緒に流域全体で水害を軽減できるように流域治水を進めていく。
