九州・河川技術力の再構築に向けた取組について
~個々の「力」を伸ばし、九州の「河川技術力」向上を目指す~
~個々の「力」を伸ばし、九州の「河川技術力」向上を目指す~
国土交通省 九州地方整備局
武雄河川事務所
技術副所長
武雄河川事務所
技術副所長
今 村 正 史
キーワード:人材育成、事業計画・監理、川づくり、ものづくり、地域連携、コミュニケーション
1.はじめに
近年の社会情勢の変化により河川を取り巻く環境は大きく変わってきており、河川の整備や管理、河川環境の保全・創出など地域から求められる期待は多様化している。一方で、職場環境としては年齢構成の変化、コロナ禍等における地域住民との対話並びに現場経験の減少に伴い、河川に関する業務の多様化に対し体系的に捉えにくく、河川技術の蓄積、次世代への伝承が課題となっている。
このような課題を踏まえ、安全で豊かな九州の河川の管理に不可欠である河川技術力の伝承と向上、さらなる深化を目指した①「未来を切り拓く想像力・企画力、マネジメント力の構築」、②「良質で付加価値を生むモノづくり・川づくりの創造力・実行力の構築」、③「地域からの信頼・協働を得るためのコミュニケーション力の構築」を三本の柱とする「九州・河川技術力の再構築に向けた取り組み」について紹介する。
2.河川技術力の再構築(三本の柱)の形が整うまで
九州地方整備局の未来の河川技術者へ何を残すべきか、そもそも何が足りないのか、何に着目して取り組むべきか、河川部の課長補佐・建設専門官が中心となって約5ヶ月間(R5.11 ~ R6.3)に渡って議論を交わした。
まず、今後10年20年先の河川技術者(後輩達)のために何をはじめるべきか。目指すべき技術力とは何か。次に、現河川技術者の技術力が低下していないか。働き方改革等による仕事の効率化によって、本来、河川技術者として必要な技術や行うべき事、知っておくべき事が忘れ去られないよう、如何にして河川技術力を維持していくか。最後に、職員が自主的に業務に取り組めるようにわかりやすく体系化するにはどうすべきか。これらを主な課題として繰り返し議論を行い、河川技術力の再構築の「三本の柱」が誕生した(図- 1)。

3.再構築の核となる三本の柱について
河川事業に従事する職員が目標を持って取り組むことができるよう、河川技術者に最も大切な「事業計画の立案・遂行」「モノ・かわづくり」「地域連携」における技術力の再構築を柱(三本の柱)として取り組みを進めることとした。
(1)未来を切り拓く想像力・企画力、マネジメント力の構築
「事業計画の立案・遂行」においては、現行の河川整備計画にとらわれることなく、水系毎に目玉となる「中長期事業プラン」を河川・ダム、河川環境、維持管理を含めて立案し、河川部・事務所でロードマップを共有した上で事業化に向けて取り組むこととしている。
立案にあたり水害リスクの低減や維持管理の容易性の確保、目指すべき河川環境の目標に対する保全と創出及び事前防災や施設の長寿命化など総合的な観点から将来を見据えた計画を考えることに留意している。
各流域には過去に立案された大規模なプロジェクトが存在するものの、当時の技術的困難さ等を理由に事業化に至っていないものもある。そのようなプロジェクト(流域に眠る可能性)を掘り起こし、近年の最新技術を含めて再検討することで、流域の目玉となる事業計画の立案・企画力を養うことを目指す。現時点では河川整備基本方針、河川整備計画に未記載のプロジェクトについても「九州ビッグプロジェクト(QBP)」や「Next Dam Project(NDP)」として事業をより見える化し、次世代へ伝承することとした。
具体に、「九州ビッグプロジェクト(QBP)」では、概ね20年先の「中長期プラン」から5年先の「短期プロジェクト」を切り出し、1年先を事業監理(予算要求から予算執行)し、それを繰り返し更新する。5年先のプロジェクトを河川部・事務所が共有し道行きを明らかにすることで、事業マネジメント力を培う(図-2)。

「Next Dam Project(NDP)」では、治水機能増強調査や事前放流、ハイブリッドダムなどダム施策の新たな考え方に照らして、各水系の洪水調節施設の必要性、緊急性を紐解くなど、継続した議論の加速化・深化や治水計画理念の伝承を図っていく(図- 3)

また、技術者の原点に立ち返り、打合せやヒアリングにおいては、平面・水位縦断・構造等の図面や写真、ロードマップ等を用いたプレゼンを積極的に推奨し、懸案事項や事業監理を要する案件については、河川部も伴走支援を行い現場確認・打合せを重ねて解決を図ることとした(写真-1)。

(2)良質で付加価値を生むモノづくり・川づくりの創造力・実行力の構築
「モノ・川づくり」に関しては、多自然川づくりが始まり30年以上が経ち、先輩方の努力により多自然川づくりの思想が定着し、多自然川づくりによる河川整備によって良好な河川環境が形成されてきた。また、河川は無限の可能性を秘めており河川の維持または整備が適切に成されていけば多様で付加価値の高い河川へ導ける可能性が大いにある。ただし、近年頻繁に災害が発生する中、災害復旧等の河川工事においては、早期復旧を重んずるばかり河川環境等への配慮が欠ける事案も少なからず見受けられる。
これらを踏まえ、川づくりを4つの視点(生態系、利活用、景観、維持管理)から捉え、さらに「ひと工夫」(付加価値)を加えた設計から施工に至るプロセスを現場(事務所)で共有することで、多自然川づくりを再認識するとともにモノづくり・川づくりへの情熱・拘りを再構築する。
具体的には、約20年前から予防保全型の河川管理や機能維持のために、被災原因究明や河道応答に関する知見を蓄積してきた九州河道管理研究会に加え、今回新たに河川整備や災害復旧等における川づくりの視点を共有する場として「九州川づくり向上会」を設置した。構成は担当職員からベテラン職員とし、階層別・テーマ別にWG形式で各課題を議論し、成果のとりまとめまでを行い、技術の向上・蓄積を図る(写真-2)。

これからは、「九州川づくり向上会」と「九州河道管理研究会」の二つの会が、九州のよりよい川づくりの両輪・軸となって、九州地方整備局の川づくり技術の向上と魅力のある川づくりを創造し実行していくよう位置づけた(図- 4)。

(3)地域からの信頼・協働を得るためのコミュニケーション力の構築
河川協力団体制度発足から10年が経過し、川を中心に活動する団体は、令和6年度末で45 団体を数える。今後も引き続き河川協力団体と連携した流域活動の継続・充実・発展に向け、コミュニケーション力を再構築していく必要がある。
これまでの流域活動は、対話を重視して地域の課題を明らかにし地域に寄り添いながら行ってきた。しかしコロナ禍以降は、対話が減少し地域との距離が遠くなり、地域の高齢化や世代交代の波もありコミュニケーション不足が顕在化、人と人の関わりが希薄となり官民交流が不足している。
これらを踏まえ、流域治水や川の利活用等の担い手を発掘するため、青年会議所やまちづくり団体、消防団、農業団体、自治会などの新たな団体との意見交換・交流を進めていく。具体には河川協力団体のみならず、任意団体とも事務所が話し合い流域活動につなげていく場として「流域連携会議」を開催する。また、県単位での顔の見えるネットワークづくりとして、河川協力団体と事務所による「県内役員会議」を開催していく。また、河川で活動する団体の次世代との新たな関係構築のため、官民の若手による「みらい会議」を継続実践し充実を図っていく。
今年5月下旬には河川協力団体17名、九州地方整備局職員37名が参加のもと「みらい会議」が開催され、「笑顔の集まる川づくり」を題材にしたワークショップや河川の渡河体験等により川の楽しさや怖さを体感し河川活動の魅力を感じてもらうなど、地域交流・連携への意識向上を図った(写真- 3)。

「みらい会議」へ参加した若手職員達からは、「来年も参加したい、川の見方が変わった」などの声も聞かれ、官民の若手によるネットワークも構築されていると聞いている。今後も継続実践し次世代による川づくりの輪を広げていきたい。
4.再構築の取り組みを継続させる仕組み
河川の技術力向上においては、過去にも色々な取組がなされてきたが、公共事業費の大幅減少、人口減少、団塊世代の退職などにより現職員の働き方が大きく変化したことから、過去の取組を伝承することが困難となったと考えられる。組織の中では組織の長がその取組の趣旨を理解し働き方を考慮しながら重点的に継続・実践していくことが重要と考える。
そこで、整備局主催で行われる事務所長会議を活用し取り組みの実行性・継続性を図ることとした。仕組みとしては、「前年度末に河川部の次年度取組方針を事務所へ伝達」し、その取組方針を参考にして「事務所の取組方針を事務所長から職員へ伝達」し、その後「事務所長会議で各事務所長が報告・共有」を行い、「年度末には次年度の取組に向け目標・改善点を抽出」し、「次年度の河川部の取組方針を更新」していく。このサイクルを繰り返すことで最新の現場の取組(情報)が九州全体に共有され、組織全体の業務に活かされた取組となるとともに、職員が得意とする「力」を伸ばし、チームとして活気のある「河川技術力」の向上につなげる仕組みとした(図- 5)。

5.今後、再構築がもたらす効果と期待
近年、若手職員の採用が多くなってきた事から、いくつかの事務所では自発的に若手職員による勉強会が立ち上がり活発な議論や現場活動が行われている。まさに若手職員の増加により再構築の土台が整いつつある。このような取組が九州全体の取組として実効性、継続性のある再構築の取組となることを期待している。今後は、更なる取組が九州全体に広がり、次世代を担う若い整備局職員が「九州の川の将来を考え」、「議論し」、「現場実践し」、「また考えて」より良い川を創り出していく、それが再構築の第一歩だと考えている。さらに拡充する上では、組織全体がサポートし若手の理解を一層促すことで、層の厚い河川技術者集団を育成していくことが今後の河川行政には重要である。
この取り組みが今後10年20年先の国土交通省河川技術者の一助となり、より良い川づくり・地域づくりに寄与することに期待している。
6.おわりに
令和5年度から「九州・河川技術力の再構築に向けた取り組み」に従事させていただいた。当時の上司や同僚の方々には多大なご指導とご協力、また激励をいただき、「再構築のかたち」が整ったと考えている。ここに感謝を申し上げる。
取組スタートから1年が過ぎ、各地ですばらしい取組が実践されているところであるが、一番大事なのは、この取組を継続していくことである。引き続き、九州地方整備局の河川事業に従事する職員が一丸となって河川技術者の育成に取り組んでいけると信じ、自分自身も肝に命じて取り組んで参りたい。RIVER TECH SKILL UP(図- 6)
