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福岡前原道路における鋼橋塗替え計画の策定

福岡県飯塚県土整備事務所
所長
右 田 隆 雄

福岡県福岡県土整備事務所
主任技師
古 賀 成 善

キーワード:部分塗替え、塗替え計画

1.はじめに
福岡前原道路(以下「本道路」という)は、西九州自動車道の一部をなす延長 14.2㎞の 4 車線一般有料道路(福岡県道路公社管理)で、平成15 年(2003 年)に全線供用開始した(図- 1、写真- 1)。

本道路は、全延長の 8 割(11.5 km)が高架橋で、高架橋のうちの 4 割(4.6 km)が鋼橋である。
塗装経過年数別(2018 年現在)の、鋼橋の現況を表- 1 に示す。

橋数は 64 橋、塗装経過年数は、8 年~ 21 年にまたがり、16 年から 20 年経過した橋梁が、約 5 割(29 橋)占めている。
なお、高架橋 1 橋のカウント方法は、ジョイントからジョイントまでを 1 橋とし、分離した上り線下り線を、それぞれ 1 橋とカウントしている。
今回、部分塗替え仕様による鋼橋塗替え計画を策定したので報告するものである。

2.塗装の現状調査
橋数 64 橋のうち、一般塗装系が 48 橋、重防食塗装系が 16 橋である。
塗装の現状調査は、1 回も塗替えしていない一般塗装と塗替えした重防食塗装の橋梁それぞれ 1 橋ずつ実施した(表- 2)。

調査項目は以下の 4 項目である。
①外観目視
②塗膜厚
③付着塩分量
④塗膜付着力

3.調査結果
(1)外観目視
1)一般塗装
①上塗り中塗り塗料が剥離し、フェノール樹脂MIO 塗料が露出している。主に下フランジ下面で剥離し、特に橋脚付近が顕著(写真- 2、3)。

②継手部のボルト頭部や下フランジのエッジに錆がみられるが、全体的に腐食の程度は軽微(写真- 4、5)。

2)重防食塗装
ウェブ、下フランジともに点錆が見られるが、塗膜は光沢を有し、健全な状態が維持されている
(写真- 6)。

(2)塗膜厚、付着塩分量、塗膜付着力(表-3)
1)一般塗装
①上塗り中塗り塗料が剥離し、フェノール樹脂MIO 塗料が露出している箇所以外においては、塗膜厚は、設計値を満足している。
②付着塩分量は、計測上限 2,000mg/㎡を超え、飛来塩分の影響を受けていると考えられる。
③露出しているフェノール樹脂 MIO 塗料の塗膜付着力は 1.5Mpa を超えており、活膜として十分期待できる。なお、調査対象橋梁ではないが、Rc- Ⅲで塗替えられた橋梁で再剥離が生じていないことからも、このことが確認できる。

 2)重防食塗装
塗膜厚、付着塩分量、塗膜付着力ともに良好な結果であった。

一般塗装系と重防食塗装系の塗膜構成を表- 4、表- 5 に示す。

4.塗替え計画対象橋梁の選定
今回の塗替え計画は、現状調査で良好な結果であった重防食塗装橋梁は除外し、塗替えしていない一般塗装系の橋梁 26 橋を対象にすることとした。
なお、重防食塗装は、上塗りの耐候性が高いことに加え、下塗りの犠牲防食作用によって、損傷が面的に広がらず、板厚方向に局所的に進行する傾向を示す。したがって、重防食塗装橋梁に部分的な欠陥が生じた場合、その部位だけをタッチアップ的に補修することで、橋梁全体の耐久性向上に繋がると考えられる。
計画対象橋梁 26 橋の橋長は、約 3,600m、塗装面積約 68,000㎡である(表- 6)。

5.塗替え仕様
一般塗装橋梁の現状調査結果を踏まえ、以下に示す部分塗替えによる仕様を計画した。
①桁端部、支点部、継ぎ手部はRc- Ⅰ塗装系。
②それ以外は、活膜(フェノール樹脂 MIO 塗料) 残しの Rc- Ⅲ塗装系。
標準的な橋梁の、部分塗替え仕様図を図- 2 に示す。

Rc- Ⅰと Rc- Ⅲの塗膜構成を表- 7、表- 8 に示す。

6.塗替えライフサイクルコストの算出
図- 3 および表- 9 に、一般塗装系橋梁 26 橋の、部分塗替え仕様(Rc- Ⅰ+ Rc- Ⅲ)と、全面Rc- Ⅰ、全面 Rc- Ⅲによる塗替えライフサイクルコストの比較を示す。
部分塗替え仕様(Rc- Ⅰ+ Rc- Ⅲ)の工事費は、全面 Rc- Ⅲと比較して、供用 50 年後で 50%、供用 100 年後で 60%となった。
ここで塗替え期間は、部分塗替え仕様(Rc- Ⅰ+ Rc- Ⅲ )、全面 Rc- Ⅰは 40 年、全面 Rc- Ⅲは 15 年とした。なお、桁端部等の厳しい環境にもRc- Ⅲを用いる全面 Rc- Ⅲは、桁端部等の腐食の再発が早まると考え、2 回目、3 回目の塗替え期間を、それぞれ 0.9 掛けとした。

鋼橋の塗替えは、歯の治療に例えられると考えます。
なお、本道路は都市部の高架橋なので景観を考慮する必要があるが、山間部の鋼橋において塗膜状態が比較的良く、かつ、景観を考慮する必要がない場合、部分塗替え仕様における桁中間部のRc- Ⅲを施工しない場合もありうる。
その場合、桁端部等だけの部分塗替え仕様(Rc- Ⅰ)となり、1 橋あたりの工事費は部分塗替え仕様(Rc- Ⅰ+ Rc- Ⅲ)の 65% となる。
2018 年に実施した部分塗替え仕様(Rc- Ⅰ+ Rc- Ⅲ)による工事状況を写真- 7 ~ 10 に示す。

7.おわりに
鋼橋の塗替えは、歯の治療に例えられると考えます。
虫歯の治療は Rc- Ⅰ、歯石の除去などのメンテナンスは Rc- Ⅲに相当すると。歯石の除去などのメンテナンスに Rc- Ⅰ相当の虫歯治療並みの根本的な治療はやりすぎですし、反対に、虫歯の治療に、Rc- Ⅲ相当のメンテナンス治療を施しても効果がありません。
本論文で述べた、部分塗替え仕様は、良質かつ経済的な塗替え仕様と考えますので、是非、参考にしていただければと思います。
本論文の作成にあたりご尽力いただいた、一般財団法人土研センターの安波氏、中島氏に対し、塗装および鋼構造の見識に敬意を表するとともに、感謝申し上げます。

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