一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
薩摩川内市道 隈之城くまのじょう高城たき線「天大橋てんたいばし」の修繕代行について

国土交通省 九州地方整備局
鹿児島国道事務所 保全対策官
河 野 勝 仁

キーワード:直轄診断、修繕代行、ECI方式

1.はじめに
鹿児島県薩摩川内市が管理する天大橋(写真-1)は、直轄診断及び修繕代行による補修が行われている。
天大橋は1984年(昭和59年架設)に竣工し、「道路法等の一部を改正する法律(平成25年6月)」に基づき、薩摩川内市が道路橋定期点検要領による橋梁点検を行っていたが、平成29年の点検でASR(アルカリ骨材反応)による劣化が疑われる損傷が確認され、原因究明と適切な補修工法の検討にあたっては高度な技術力が必要となった。
薩摩川内市からの要請を受け、九州地方整備局、国土技術政策総合研究所、国立研究開発法人土木研究所の職員で構成された「道路メンテナンス技術集団」による直轄診断を行い、その診断結果を受けた薩摩川内市より修繕代行の要望があったため、令和元年度より鹿児島国道事務所が対策の検討及び工事を行うこととなり、現在、鋭意施工中である。
本稿は、直轄診断から補修工法の検討、修繕代行による補修工事までの取組みを紹介するものである。

写真1 天大橋(上流側から望む)

図1 位置図

図-【天大橋 諸元】

2.直轄診断
(1)経緯
天大橋は平成29年度の点検では、判定区分はⅢ(早期措置段階)であった。ASRによる劣化が疑われる損傷が確認されたことから、橋梁の健全性への影響について把握する必要があったが、原因究明および適切な補修工法を検討するにあたっては高度な技術力が必要となった。
また、PCポステン箱桁の中央ヒンジ部にクリープ変形と疑われる垂れ下がりがあり、今後も垂れ下がりが進行した場合、車両の通行や橋梁構造への影響が懸念されたため、早急に変状の原因究明を行うべく直轄診断が必要と判断された。
平成30年度に薩摩川内市から要請を受け、九州地方整備局、国土技術政策総合研究所、国立研究開発法人土木研究所の職員で構成された「道路メンテナンス技術集団」による直轄診断が行われ技術的助言が報告された。

(2)直轄診断の結果
上部構造は、プレテンT桁、プレテン中空床版、ボステン箱桁、ボステンT桁と4 種類の形式が存在する。
プレテンT桁、ポステンT桁における劣化損傷は比較的少なかったが、プレテン中空床版、ポステン箱桁においては、このまま進行すると橋の安全性に影響すると考えられるひびわれ等の劣化損傷が確認された。
また、当該ポステン箱桁は、中央ヒンジを有する構造であるが、路面高測定の結果、ヒンジ部の垂れ下がりが確認された(写真- 2)。

写真2 中央ヒンジ部の垂れ下がり

箱桁内部のヒンジ部分においても上床版側の遊間が設計値よりも狭くなっていることが確認された(写真- 3)。

写真3 中央ヒンジ部遊間状況

下部構造に関しては、陸上部に存在する張出式及びラーメン式の橋脚においては大きな劣化損傷は見られないが、河川内に存在する壁式(小判型)橋脚においては0.2mm以上のひびわれが多数見られた。
プレテン中空床版、ポステン箱桁に対して実施したSEM-EDS試験及びカナダ法による残存膨張量試験の結果、当該橋梁にはASR反応性骨材が含まれており、残存膨張率も有害の範囲であることが明らかとなった(写真- 4)。

写真4 SEMによる目視試験結果

図- 2 に、これらの診断結果を示す。

図2 直轄診断の結果

3.補修工法の検討
(1)ポステン箱桁における中央ヒンジ部の垂れ下がり対策
中央ヒンジ部の垂れ下がり要因を推定するため長期荷重によるクリープを考慮し、建設から現在までの中央ヒンジ部の変位量を計算した結果、計画高より15.5㎝下がる結果となった。検討の結果から、長期荷重によるクリープ変形も中央ヒンジ部の垂れ下がりの原因のひとつであると考えられた。
また、当該橋梁はASR骨材を含んでおり、残存膨張率が有害の範囲となっていることから、今後ASRが進行することによる中央ヒンジ部の垂れ下がりを防止する必要があった。
対策として、中央ヒンジ部の連続化によりヒンジ構造から剛結構造へと構造変更することで変形を拘束する方法を採用した。
構造変更に伴い構造に作用する応力状態が変わるため、曲げせん断耐力が不足する箇所については外ケーブル(写真- 5)、炭素繊維シートにより補強することとした。
また、ASRの進行により静弾性係数が低下し垂れ下がりが進行する恐れがあるため、橋面防水工により劣化因子を遮断する対策を行うこととした。

写真5 外ケーブルによる補強状況

(2)河川内RC橋脚におけるASR対策工
ポステン箱桁の河川内橋脚については、ASRによる残存膨張率が有害の範囲であり、ひび割れは今後も進行することが推測された。また、水、酸素等の劣化因子の浸入により内部鉄筋の腐食を助長させる可能性があり、劣化因子を遮断する対策もあわせて行う必要があった。
このため、ひび割れ補修工によりひび割れ注入を行い、劣化因子を遮断したうえで、RC 巻き立てにより既設橋脚を拘束し耐荷力の低下を防ぐこととした。

(3)プレテン中空床版下面のひびわれ対策
プレテン中空床版の主な損傷は、床版下面の橋軸方向ひび割れであり、平成30年度直轄診断時の調査では、プレテン中空床版のASRによる残存膨張量率は、有害の範囲である事が確認された。
路面の滞水、さらには降雨の度に桁内部へ滞水が確認されていることを考慮すると、今後、水が浸入し続けることで状態が確実に悪化し、ひび割れの急激な進行、縦締め、横締めPC鋼材の腐食等が懸念された。
このため、橋面防水工、耳桁端部への水切り設置工、ひび割れ補修工により劣化因子の侵入を遮断する対策を講ずることとした。

4.修繕代行による中央ヒンジ部の補修工事
(1)中央ヒンジ部の補修工事
令和3年3月、ポステン箱桁(P8-P11)のうち、中央径間のヒンジ部の垂れ下がり進行を抑制するため、ヒンジ部の連続化・外ケーブル設置等の工事に着手した。
ヒンジ部連続化の施工手順は、①中央ヒンジ部の床版撤去(写真- 6)、②鉄筋組立、③コンクリートによる一体化(写真- 7)、④外ケーブル緊張(写真- 8)の流れで進めるが、施工にあたっては、品質確保や安全性の観点より車道を約2 ヶ月間、終日、全面通行止めにする通行規制の必要が生じた。
日交通量2万台が利用する天大橋を長期にわたり全面通行止めにすることによる周辺道路への影響を低減させるため、①通行規制期間の短縮、②通行規制に対する道路利用者の認知度向上、③渋滞発生時における即時対応が課題となった。

写真6 中央ヒンジ部の床版撤去

写真7 コンクリートによる一体化

写真8 外ケーブルの施工状況

そこで、効果的な渋滞対策を検討するため、天大橋を利用している車両の動向を調査、ETC2.0プローブデータを用いた交通解析を行い、通行規制を実施した場合の周辺道路の交通量を推計し、渋滞対策を検討した。

(2)通行規制時間の短縮
今回工事はECI方式(設計段階から施工者が関与する方式)を採用しており、設計段階から施工業者とともに規制期間の短縮に向けた施工方法の検討を行った。

(3)道路利用者の認知度向上
関係機関への事前説明、薩摩川内市の市報と公式LINEでの周知、全ての道路管理者・交通管理者による道路情報板への表示、ラジオ放送、周辺店舗等へのポスターの掲示などの取り組みを行った。

表1 関係機関による認知度向上取り組み

また、郵便局の「配達地域指定郵便物」を利用し、当該地域に存在する全ての住宅・事業所等(約1 万4 千戸)に対して工事チラシを配布した。
さらに、ETC2.0プローブデータを用いた交通解析結果を参考に、通行規制の1ヶ月前から天大橋の高欄や周辺の跨道橋など、道路利用者の目に付きやすい場所に横断幕、規制看板を設置した。

(4)渋滞発生時の即時対応
ETC2.0プローブデータを用いた交通解析により天大橋を利用する車両の約6割が、国道3号へ転換することが確認されたため、国道3号の実測交通量と推計交通量を比較することで交通解析の現況再現性を確認し、通行規制時の交差点の渋滞予測を行った。
また、予測結果については、信号現示に関する交通管理者との協議に活用した。
通行規制初日(R4.2.1)、市街地の太平橋・開戸橋を含む主要な道路の旅行速度と渋滞長調査を実施し、朝の通勤時間帯の所要時間を通行規制前後で比較したところ、所要時間が約3 倍に増加し、その他の路線においても渋滞が確認されたが、事前に交通管理者へ渋滞予測結果を提供していたことから、速やかに信号現示が変更され、翌日には県道42号の渋滞長:現示変更前600m →変更後100m になるなど、渋滞が概ね解消された(写真- 9)。

写真9 渋滞状況(県道42号)

(5)Twitter(現「X」)による施工状況の発信
より多くの住民の方に工事状況や通行規制の必要性を理解して頂くため、Twitter を活用し、最新の施工状況を週に一度のペースで掲載し、近隣住民以外も含む道路利用者へ工事の必要性と理解の周知に努めた(図- 3)。

図3 Twitter(現「X」)による施工状況説明

5.修繕代行による橋脚部の補修工事
(1)RC巻き立て補修・仮締切工法(STEP工法)
P9 及びP10橋脚補修は、STEP工法により土留め・仮締切工を施工後、ひび割れ注入(写真-10)を行い、橋脚巻き立てコンクリートを施工する。
令和4年度より着手したP9橋脚の補修が完了し、令和5年度よりP10橋脚の補修を行っている。

写真10 P9橋脚補修のひび割れ注入状況

土留め・仮締切工のSTEP工法とは、分割された締切鋼板(鋼製パネル)を補修対象の構造物の周りに組み立てて河床に沈設し、圧入ジャッキにより必要な深度まで圧入。圧入と併用して締切鋼板内の土砂を掘削し、止水処理・支保工を設置後、締切鋼板内を排水してドライな作業空間を確保する工法である(写真- 11)。

写真11 P9橋脚補修の仮締切状況

令和4年度のP9橋脚補修において、河床の土質は砂質土を見込んでいたが、施工では、岩塊・丸太・鋼材等の障害物が発生し、礫質土、障害物の撤去に相当日数の時間を要し、工程・施工性が著しく低下する問題が生じた(写真- 12)。

写真12 P9橋脚補修の掘削状況

このため、令和5年度より着手したP10橋脚補修では、土留め・仮締切工施工前にスケルトンバケットによる掘削工を実施し、潜水士の水中作業、ジェットポンプの土砂排出に支障となる障害物を撤去し、施工性の確保に努めた(写真- 13)。

写真13 P10橋脚補修の掘削状況

(2)その他の課題
STEP工法の締切鋼板がフーチングに着底した際、鋼板刃先と既設フーチングの間に隙間(最大で10㎝程度)により水の流入が生じるため、刃先へフラットバーを設置しコーティングを行うことで止水対策を行うなど施工の向上に努めた。

6.おわりに
令和3年度より開始した天大橋の補修工事は現在も継続中であり、工事の安全・品質を確保しながら効率的な施工に努める。
併せて、天大橋の修繕代行手続きに関する経緯を整理し、今後の円滑な修繕代行手続きが円滑に進むように努めることで、修繕代行事業の有用性を高めていきたい。

参考文献
1)橋梁補修工事の全面通行止めにおける道路利用者への広報活動について(令和4年度九州国土交通研究会)
2)天大橋補修設計業務(令和3年3月 国土交通省九州地方整備局鹿児島国道事務所)

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧