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サボーランドパーク姶良
一触田川の防災対策におけるオープンスペースの高度利用について一

鹿児島県鹿屋土木事務所河川港湾課
 技術主査
(前 鹿児島県土木部砂防課 技術主査)
福 元 純 二

鹿児島県土木部砂防課
 技師
松 元  勇

1 はじめに
触田川は鹿児島県中部の姶良郡姶良町に位置する二級河川思川の支川(図ー1)であり,流域の地質は特殊土壌であるシラスが大半を占めている。平成5年6月より9月にかけて断続的な集中豪雨,台風により南九州南部はかつて経験したことのない記録的な豪雨となり各地に甚大な被害をもたらした。これらの一連の豪雨災害による被害は死者・行方不明者121名(内土砂災害による死者105名),被害総額3,000億円と昭和26年ルース台風以来の大災害となった。なかでも,姶良郡姶良町において幸いに死者こそでなかったが,昭和57年に造成された姶良ニュータウン(1,387戸)西側斜面の触田川源頭部のシラス山腹が延長約1.50km,高さ30m~40mにわたり崩壊し,多量の土砂・倒木が下流域の人家や耕地等に壊滅的な被害をもたらした(表ー1,写真ー1)。この復旧対策として平成5年度に災害関連緊急砂防事業,二次災害を防止するために平成6~8年度に触田川本川思川水系において砂防激甚災害対策特別緊急事業が新規採択され,現在着々と防災対策事業として工事の進捗が図られている。今回,以上の大災害の防災対策工法により生まれたオープンスペースの高度利用について平成6~8年度に地方特定河川環境整備事業を採択し,周辺団地住民はもとより県民に親しんでもらえる砂防公園“サボーランドパーク姶良”の計画策定を行っているところである(表ー2)。

2 防災対策工法
(1)検討委員会
当地区の防災対策工法においては,地質が特殊土壌であること,大規模な崩壊であることおよび源頭部山腹と渓流の一貫した対策を策定する必要があること等から高度な技術的判断を要するため委員会を設置した(表ー3)。

(2)防止対策
① 山腹の崩壊抑制
山腹上部の崩壊を抑制するため,シラス土工指針に基づいて山腹の切土整形を行い,法枠工等による山腹工を計画した。山腹下部の浸食による崩壊を抑制するため,切土した残土により崩積土末端付近から緩勾配の押え盛土を行うとともに地下水排水工および透水性土留擁壁工を計画した。
② 渓流の不安定土砂の流出抑制
河道などに堆積している不安定土砂や流木を捕捉し,下流域への流出を抑制するためダム工を計画した。
③ 洪水の氾濫防止
氾濫域における豪雨時の洪水流を安全に流下させるため,下流耕地,人家部に流路工を計画した。
(3)景観対策
防止対策施設は下流域および高速道路等からの景観に配慮し,周辺環境に調和するような景観対策を行った。
① 山腹工
山腹上部の法枠工内には,山腹の安定に影響を及ぼさない草木本類を植栽して構造物が見えないようにし,山腹下部の押え盛土には樹木の植栽を計画した。
②砂防ダム
砂防ダム施工時に化粧型枠を用いることにより,コンクリート面の明度を低くして構造物を目立たなくするとともに,化粧型枠のアクセントにより画一的な印象をやわらげた。

3 砂防公園“サボーランドパーク姶良”計画
(1)検討委員会
この山腹下部に出現した約6haのオープンスペースの有効利用について,地元および町から熱烈な要望があり,多様な意見を効率的に集約し,憩いの場として地元住民に利用しやすい快適な砂防ランドスペースを創出するため,公開方式の委員会形式をとることとした。この検討委員会のメンバーとしては学識経験者,行政担当者はもとより自治体の代表,地元代表,地元小学校代表など公園利用者である地元住民より広く意見を募り基本計画を策定した(表ー4)。当初,3回の予定であったが地元およびマスコミ等からの反響が大きく,意見の集約を図るために4回の開催となった。

(2)基本理念
当施設は,基本的には砂防施設であり,従って人命・財産を守った上でさらにそれを発展させて地域および広域的な住民の生活の向上に寄与しようとするものである(図ー2)。

(3)ゾーニング
各地域をその特性によりゾーニングを行った(図ー3)。

① 南部地域(花の広場)
南向きの斜面で,まとまった広がりを持っており,日常的な活発な利用がなされる箇所として,風土・気候に合致した豊かな緑に囲まれた積極的なレクリェーション施設整備区域とした。
② 中央地域(生き物達の森)
3つの尾根とそれに囲まれた2つの分節された地形を含む地域は,周辺環境と多少隔絶された固有の雰囲気をベースに生態系の充実した多様な森林空間を創生する区域とした。
③ 北部地域(育てる森)
静的な環境特性を活かし,将来的に人と自然の安定した共生の場としての永続性のある森林を育てていくことを通して,人間交流の促進を図ることのできる森林育成区域とした。
④ 水辺区域(生き物達の水辺)
第2号ダム上流部に水辺のレクリェーションとして機能させるため水生植物・昆虫の棲息,子供たちのジャブジャブ遊びの可能な池を造成する区域とした。
⑤ 緑のベルト地帯(散策を楽しめる緑地)
始良ニュータウンの西側の縁となる町有地は街をとりまく緑の帯を形成し法面急崖の心理的不安感を排除し,日々の散策,ジョギング等を促す緑道として機能する区域として計画した。

(4)施設計画
ゾーニングを行ったあとの施設計画は表ー5の通りとなり,完成した場合は図ー4,図ー5の通りとなる予定である。

4 今後の展望
現在,災害関連事業における法面の復旧および押え盛土等の防災対策工事は完了しており(写真ー2),砂防公園の施工に着手している。公園の安全性および維持・管理等については現在,姶良町と密につめているところであるが,検討委員会での基本計画に基づいた形での砂防公園の展開を今後図っていきたいと考えている。

5 おわりに
本計画は,災害の防災対策工法により出現したオープンスペースに砂防公園をつくり,砂防によって新しい地域文化を創造していくものであり,全国でも類例をみないケースであるため,関係諸機関との調整を図りつつ計画を遂行していき,平成8年度の完成を図りたいと考えている。
また,平成5年の本県での災害に対して中国から災害のお見舞として建材用の石材500トンが寄贈されており本計画においても一部使用し,日中友好の一役を担うこととなっている。

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