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東九州自動車道「大鳥川橋」の斜面崩壊対策について
~被災発見から現状把握、対策検討に至るプロセスについて~

国土交通省 九州地方整備局
大隅河川国道事務所
総括地域防災調整官
大 宅 康 平

キーワード:東九州自動車道、大鳥川橋、斜面崩壊、増し杭

1.はじめに
東九州自動車道は、福岡県北九州市を起点に大分県、宮崎県を経て、鹿児島県鹿児島市に至る延長約440kmの高速自動車国道である。
大隅河川国道事務所においては志布志IC~末吉財部ICまでの延長48.0kmを管理している。
本稿では、令和5年9月24日に確認された野方IC~曽於弥五郎ICに位置する「大鳥川橋」A2橋台側面部の斜面崩壊について被災発見から現状把握、対策検討に至るプロセスについて報告する(図- 1)。

図1 大鳥川橋位置図<

2.斜面崩壊の被災要因について
(1)地質の概要
被災地点である大鳥川橋周辺は日本の地質構造区分からすると、中央構造線から延びる臼杵―八代線以南に位置し、西南日本外帯に属する古第三紀以前の堆積岩類(四万十層群等)を基盤岩とし、これらを第四系更新世後期の阿多、入戸、妻屋火砕流堆積物(シラス)が広く覆っている。
(2)大鳥川橋の概要
平成25年に竣工した大鳥川橋は、橋長= 292mのPC3径間連続ラーメン箱桁橋で、斜面崩壊したA2橋台は逆T式橋台、基礎形式は、φ3.5m× 23.5m@2の深礎杭である(図- 2)。

図2 大鳥川橋橋梁一般図

(3)被災の概要
斜面崩壊の規模は、幅12m、高さ19.5m、長さ35mであり、杭長23.5mのうち19.5mが露出した状態であった(写真- 1、図- 3)。

写真1 被災状況

図3 被災状況図

(4)被災の要因
A2橋台のフーチング側面には道路排水側溝と集水桝が設置されていたが、過去に集水桝に接続する側溝がオーバーフローし、シラスからなる斜面が浸食され補修した経緯がある。補修にあたってはソイルセメントで埋め戻し強固なものとしていた。
今回の被災原因も、急勾配で流入した水が、集水桝内で乱流し、流末への流水を阻害した事や草木等の詰まり等による集水桝上流部での流水機能の低下により流水がオーバーフローし補修箇所の更に外側を浸食したものと考えられる(写真- 2)。
令和5年2月の梅雨前点検後から被災を確認した9月末までの雨量観測データでは、時間雨量においては20mm以上の強い雨を合計8回確認しており、その最大値は、R5.8.9 19:00 の38mm/hとなっている(図- 4)。

写真2 被災・補修等履歴

図4 時間雨量データ(R5. 3~R5. 9)

一方、連続雨量においては100mm以上の雨が計3回確認されており、うち経験した最大連続雨量は、R5.8.10 の365mmとなっている(図- 5)。

図5 連続雨量データ(R5. 2~R5. 9)

以上より令和5年2月の梅雨期前の点検時には異常は確認されていないことから、その後の降雨により段階的に浸食が進行していったものと推察する(図- 6)。

図6 被災要因のイメージ

3.斜面崩壊対策について
(1)初期対応状況について
令和5年9月24日に斜面崩壊を確認後、28日、29日、10月3日にテックドクターの現地視察、7日に国総研・土研の道路橋専門家派遣による技術的助言を頂くとともに10月6日より緊急対策を行うため野方IC~曽於弥五郎IC間の全面通行止めを行った。

(2)検討委員会について
斜面崩壊対策を検討するにあたっては、中立性・公平性並びに客観的な立場で助言・評価等をしていただくことを目的とし、学識経験者、有識者等からなる検討会を設立した(表- 1)。

表1 大鳥川橋斜面対策検討会委員名簿

(3)緊急対策について
1)現地状況の確認
検討会での助言を踏まえ、まずは現在の地山の健全度について確認を行った。

①崩壊斜面及びA2橋台前面のコンクリート吹付け等の異常の有無について目視で確認を行った。その結果、斜面については地山のさらなる崩壊、地下水、湧水、水の滲みだし等は見られなかった。また、コンクリート吹付けはクラックは見られるものの水の滲みだしは無く、また排水パイプ、目地からも水の滲みだしは確認されなかった(写真- 3、4)。

写真3 崩壊斜面の状況

写真4 コンクリート吹き付け等の状況

②支持地盤の健全度を確認するため、崩壊した深礎杭の先端部分の支持層への根入長及び支持力の確認を行った。その結果、簡易貫入試験により3.6~3.7m(1.0D=3.5m) はN値30以上であること、また基礎部における地盤の亀裂や地下水が噴き出したような跡も見られないことから当初の支持地盤が健全であることが確認された(写真- 5)。

写真5 杭先端部の支持地盤の健全度の確認

③崩壊した杭周辺地山の健全度を確認するために崩壊斜面の地山強度を山中式土壌硬度計により硬度測定を実施した。その結果、土壌硬度30程度を確認し、目視確認と併せて地山の健全性を確認した(写真- 6)。

写真6 杭周辺地山の健全度の確認

2)浸食防止対策の実施
降雨等により、これ以上の崩壊を進行させないために、浸食防止を目的としたモルタル吹き付けを実施した(写真- 7)。

写真7 モルタル吹き付け状況

3)観測機器の設置
大鳥川橋の橋台や橋台背面の補強土壁や崩壊斜面に動きや変状が見られた場合、路面の段差等により通行に支障が出る可能性があることから、できるだけ早く通行規制を行う必要がある。そのため常時監視を目的とした下記観測機器を橋台周辺に設置した。
[1] 上部工と橋台、橋台と補強土壁の開き、地山の移動を把握するための伸縮計
[2]橋台、補強土壁、地山の傾斜を把握するための傾斜計
[3] 上部工、橋台、補強土壁のそれぞれの位置を把握するためのGNSS センサー
[4]橋台と上部工のズレなどの路面状況、崩壊斜面の変状把握のための常時監視カメラ(写真- 8)

写真8 観測機器の設置状況

(4)交通開放に向けて
被災要因を把握し、緊急対策として浸食防止のためのモルタル吹付や排水処理の対策を行った。さらに橋梁周辺地山の状況、支持層への根入長及び支持力など現地確認結果等を踏まえ、一定の橋梁の安全性が確認された。また、交通開放に向けて、CCTV による変状の監視、構造物や地山の移動をモニタリングする観測機器の設置、雨量基準や変状の閾値など規制基準をもうけて常時監視体制を整えた。
これらを踏まえ現在、設定した雨量基準、変状の閾値を超えた場合は、即時、通行止めを行い緊急点検を実施している。

4.本復旧について
(1)本復旧に向けた対応方針
本復旧に向けた対策は、以下の前提条件に基づき検討を行った。
[1] 既設右杭の周辺地盤が一部喪失し、当該杭の地盤水平抵抗は部分的に期待できないので既設右杭の地盤水平抵抗は一切見込まず、既設左杭のみの抵抗について確認する。
[2] 既設杭の安全性は、地震時発生断面力と実耐力との対比で確認することとし、既設部材の実材料強度を考慮した耐力照査を実施する。
[3] 既設杭のみで水平抵抗が不足する場合には、増し杭の検討を行う。

(2)詳細設計に向けた復旧対策検討方針
1)現況の地震時照査
①斜面崩壊を考慮した荷重分担率の算定
斜面崩壊している既設右杭については地山が喪失している杭頭から20mの範囲は当初設計で考慮していた地盤抵抗は期待できないとしてこれを無視した検討を行い、フレーム解析により、荷重分担率を算出した。算定に際しては既設右杭の杭先端3.5m(=1.0D)は十分根入れされており、当該範囲の地盤ばねは低減しないものとした。
その結果、荷重分担率は、地山が喪失してなければ既設右杭が分担する荷重の大部分を既設左杭が分担する結果となった(図- 7) 。

図7 地震時作用に対する荷重分担率(現況)

②地震時作用に対する既設左杭の耐力照査
前記①で算定した荷重分担率で算出した既設左杭に発生する地震時最大曲げモーメントは、既設左杭の実強度を考慮した基礎本体(杭体)降伏耐力以下であることを確認した(図- 8)。

図8 既設左杭の耐力照査結果(現況・地震時)

このことによりL1 地震時に対しては降伏に至らないことを確認した一方で、大規模地震時においては、当初設計で考慮していた地盤抵抗はなくなっていることを踏まえ、それを補うために増し杭による対策を行うこととした。

2)復旧工法比較検討(増し杭)
増し杭による復旧方法として、「第1案組杭深礎(背面)+ 増しフーチング」「第2案柱状体深礎(背面)+ 増しフーチング」「第3案増し杭(下り線側)+ 増しフーチング」を検討案として抽出した。
第1案と第2案は橋台背面に増し杭を行うため、本線の長期間の全面通行止めが必要であり、社会的影響が大きい。一方、第3案では、資機材搬入・搬出時の一時的な交通規制のみで社会的影響は小さい。また、経済性や施工期間においても第3案が優位となった。さらに用地内で追加買収をせずに増し杭を設置できるなどの現場条件も総合的に勘案し「第3案増し杭(下り線側)+増しフーチング」を採用した。(図- 9)。

図9 復旧工法比較検討(増し杭)

3)斜面崩壊を考慮した補強後の照査
左側増し杭による補強を行う案について、右側(既設右杭)の前面地盤抵抗を無視した場合の荷重分担率の算定を行った(ただし、杭先端3.5m(=1.0D)の範囲は、地盤ばねの低減なし)。
その結果、荷重分担率は、左側増し杭が43%、中側既設左杭が57%となった。その結果を踏まえて既設左杭の地震時最大曲げモーメントは、実強度を考慮した実耐力との対比で、地震時において弾性域内に留まることを確認した(図- 10、11) 。

図10 地震時作用に対する荷重分担率(補強後)

図11 既設左杭の耐力照査結果(補強後・地震時)

(3)安全性(損傷モード)の確認
現況の基礎の状態は、当初設計で考えていたような地盤抵抗が期待できる状態とは異なるため、斜面崩壊を考慮したPushover 解析を実施し、当初設計と増し杭補強した場合の耐荷力-変形関係及び損傷モードを対比し基礎全体としての安全性を確認した。
その結果、当初設計に比べ、現況は基礎全体としての降伏耐力が著しく低下していることを確認、また、増し杭対策後の降伏耐力は、当初設計と同程度まで回復できており大規模地震動に対しても、当初設計と同等以上の安全性を有することを確認した。各検討(当初設計、現況、増し杭対策後)ケースにおける水平荷重と水平変位の関係及び破壊順序を図- 12、13 に示す(図- 12 の●、×の位置を図- 13 の★で表す)。

図12 水平荷重-水平変位の関係

図13 各検討ケースにおける破壊順序

5.A2橋台斜面崩壊の対策方針
崩壊斜面は現在高さ25m程度のほぼ垂直な斜面となっており、シラスの標準勾配(1:0.8 ~1:1.2)に比べて著しく急であることから、安定しているとは言い難い状況である。現在、緊急対策としてモルタル吹付による浸食防止対策を行っているが崩壊抑止効果は小さく、崩壊が進行した場合には橋台基礎や道路の安全性を損なう可能性がある。したがって、さらなる崩壊の進行による道路への影響を防止することを目的として、斜面安定及び浸食防止のための対策を検討した。
斜面からの土圧に対応できる工法(埋め土)とし、既設基礎への影響を考慮して、重機の転圧などが生じない工法から選定し、併せて雨水に対しても適切な排水対策を行うこととした。
盛土体の強度も考慮し現場条件に適した斜面復旧対策として、FCB工法(気泡混合軽量土)を選定した(図- 14)。

図- 14 FCB工法による斜面復旧対策

6.おわりに
大鳥川橋の現在の状況については、本稿を執筆している6月時点では、昨年11月1日の震度4をはじめ、地震や降雨を幾度か経験しているが、常時監視機器データにも異常はなく、また現地の橋梁及び地山にも変状は生じていない。ただし、まとまった降雨や大きな地震が発生した場合は、通行止めを行い緊急点検を実施している。東九州自動車道を利用される方々には多大なるご迷惑をおかけしており今後は、今回の検討結果を踏まえ、増し杭、斜面復旧対策を進め、一日でも早く本復旧を完成させたい。
結びに、今回の検討にあたって貴重なご助言を頂いた「東九州道大鳥川橋斜面対策検討会」の委員の皆様、テックドクターの宮崎大学の李先生、災害時協力業者の皆様、建設会社、コンサルタントの皆様、その他大鳥川橋斜面復旧対策に関わる多くの皆様に深く感謝申し上げます。

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