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第4回「技報賞」懸賞論文 『佳作』
都市と農村の双方向的発展を目指した国土づくりの提案

福岡大学 大学院 景観まちづくり研究室
 修士1年
野 村 亮 介

1 はじめに
現在我が国では、景観法策定によって景観に対する国民の意識向上が伺える。温暖化対策の一環である都市緑化にも表れているように、自然は景観資源として特に捉えやすい上に癒しの効果も期待できることから、都市住民における自然に対する需要の高まりは顕著であろう。
一方で、自然で溢れているであろう中山間地を始めとした農村集落の衰退が社会問題として挙げられる。衰退の要因としては、都市部と農村部における就職口や所得、インフラ整備等の格差が考えられよう。それにより都市部に人が流れ、人手不足から農地荒廃・農村集落衰退に繋がっていると考えられる。生産面において、日本における食料自給率は世界の主要先進国の中でも非常に低く(表-1)、平成18年度では39%1)と年々低下の一途を辿っている。現状のままでは将来国内自給が難しくなり、輸入に頼らざるを得ない状況も予測できる。また最悪のケースとして国土の保全ができない事態を招くまでに発展する恐れもあり、深刻な問題と言える。農村は自然環境の保全・国土の保全・水源の涵養・食料の生産といった多面的な機能を有しており、有効利用できる可能性は幅広く、衰退を防ぐ方法を見出していくことがこれからの国土づくりの在り方としても非常に重要であろう。

表-1 主要先進国の食料自給率(カロリーベース)の推移

以上のことから、自然を活かす国土づくりが現実的に求められており、それにより現在のような都市だけの発展ではなく、都市と農村が共存しながら互いに発展することも可能であると考える。そこで本論文では、都市と農村が共存する都市構想である「田園都市」構想を参考に、都市と農村の双方向的発展を目指した新しい都市構想による国土づくりの提案を行う。

2 田園都市構想と類似点のある農村集落の取り組み
まず田園都市構想がどの程度使えるかを判断するために、都市構造などで田園都市と類似している農村集落を調べる。そこでここでは都市近郊に位置し、都市住民を呼び込むことで活性化を図る取り組みを行っている農村集落を事例として取り上げる。
(1)福井県三方上中郡若狭町地区の取り組み
表-2に若狭町事例の概要を示す2)。若狭町地区では本地区が直面する課題として、県平均より10年早い高齢化・年々後継者問題が顕在化する農業生産・特徴を出し切れていない地場産業等を挙げており、それらの解決策として本事業が取り組まれている。本事業では主に研修やインターンシップ等の都市住民を呼び込む事業が行われており、その中でも研修事業が大きく成果を上げている。本地区が大学の集積している京都に近接している地の利を活かし、大学生を中心として研修生の募集を行っている。平成14年度から研修事業を開始し、平成19年度現在までに17名が研修を終えている。ここで注目すべきは、その17名中14名が町内にて就農している、もしくは本取組主体の農業法人に就職している。これは表-2の本取組目的でも掲げている就農・定住に大きく成果を上げていると言える。

表-2 若狭町の取組み概要

(2)新潟市の取り組み
新潟県は日本有数の農業地帯で知られており、県内の多くで都市と農村が隣り合っている都市構造となっている。農業政策課補助金や各種農業振興事業、担い手支援事業など県が多くの農業支援政策を行っており3)、農業従事者にとってこれほど農業が営みやすい環境はないだろう。また地産地消を市が掲げていることも影響してか食料自給率は61%で、県ではなく市でこれほど高い数値を示す都市は全国的に見てもほとんどないだろう。さらに本市は平成17年に近隣13市町村と合併、平成19年に政令指定都市となっている。2007年4月1日現在全国に17市しかない政令指定都市に認められたことは、日本の大都市として認められたことであり、様々な企業が進出してくることも予測できる他、逆に企業を誘致することも不可能ではない。それによって地場産業を活かしつつ都市機能を上げることができよう。
(3)多摩市の取り組み
多摩市は田園都市構想が取り入れられた多摩ニュータウンとして有名で、新宿からも20~30km圏内と好立地の市である。1960年代後半頃から田園都市線・東名高速道路の開通を始めとして交通利便性の向上が図られてきた。しかしながら現在では日本有数の混雑線区となっている他、首都圏に就業者を取られ職住近接の田園都市構想は達成されていないのではないだろうか。就業人口に占める農業就業人口の割合は0.1%で4)、田園都市に欠かせない農地は無いに等しい状況である。私は多摩ニュータウンが田園都市としては失敗だと考え、開発当初からベッドタウンとの位置づけだったこと、バブル崩壊前に開発されたこと、首都圏一極集中による就業者数の増加に対応しきれなかったこと等が原因と考えている。

3 「田園都市」構想を基盤とした国土づくり
前述の事例を分析すると以下のようになった。
① 都市との共存が可能だということを示唆している(事例1)
② 都市機能だけに頼らずとも独立して成り立つことが出来る(事例2)
③ 田園都市として成り立たせる場合、都市と農村の規模・距離を考える必要がある (事例3)
以上のことから、田園都市構想を参考に都市と農村の双方向的発展を目指した新たな都市構想の提案を行う。私が考える都市構想イメージを図-1に示す。

図-1 都市と農村の共存的発展を図る都市構想イメージ

この構想は、田園都市構想において機能が集約された「小さな都市」を並べるのではなく重ねたような構造となっている。中心部には住宅街や買い物ができるスーパー等がある生活居住空間、その周りには農業を行う農村集落空間、さらにその周りには商業施設やビジネスビルなど都市機能を持つ空間、さらにその周りには市民農園といった大規模な農村集落空間を設置する。交通網として住宅地中心部をハブとして地下鉄・鉄道網をスポークのように配置し、それぞれの空間では各交通機関の環状線も配置する。さらに自動車が走行可能なのは都市機能空間のみに制限し、都市部の鉄道駅には大型の駐車場を完備し、パークアンドライドを図る。住宅地から自転車を利用するならサイクルアンドライドも行って良い。この構造により、まず①モータリゼーション社会の改善を図る。東京のように高密度に会社が立ち並ぶ従来の都市では朝の通勤時間に混雑化を招きやすいが、逆に中心部の住宅街から回りに分散させることに加え、都市部の形状を中抜きのドーナツ型にして拡散させる機能を持たせることで、通勤時のラッシュを解消させる。帰宅時間は人によりバラつきがあるため、人の流れを朝晩逆にしたからといって帰宅時に従来の通勤時のように混みはしないと私は考えている。次に②自動車走行可能地域である都市空間を自然で囲むことにより、都市部での問題であるヒートアイランド化を防止する。また走行可能地域を制限していることによりCO削減の大きな助力となり、環境面にも配慮できる都市構造となる。そして③住宅地と都市を近接させることにより、農業従事者の増加・食糧自給率の確保を図る。定年退職者等はそれまで住んでいた住居を移動せずに農業ができ、都市部の若者らに対して農業への誘致を図る。それらによって職住近接型の都市構造にする。さらに④住宅地・商業地など用途毎に集約することにより、都市基盤施設等の整備の効率化が期待できる。加えて波紋のように周囲に広がる構造にした理由として、複数の地域を行き来させて物資や資金の多方向的な循環社会を形成することを狙いとしている。さらに近年の現状として地域コミュニティの形成が大きく問題となっている。マンションが多く立ち並び近所付き合いが減っている現状で、住宅地を密集させることで人と人を出会わせ、地域コミュニティの形成に大きく影響を与えるものと考える。
以上の狙いをもって本都市構想を提案する。

4 おわりに
我が国における国土づくりは人口減少時代に突入して新たな局面を迎えているが、それに対応できていないからこそ農村集落の問題が浮き彫りとなっている。しかしながら農村集落の人々は自らその局面を打破しようと様々な取組みを行っているのだと思う。国がいくら計画を立てようと読みが外れれば問題が起きる訳で、やはり最後は国民一人一人の力が大きく影響してくるのだと私は考える。だからこそコミュニティという言葉が浸透し、問題解決の糸口として重要視されていて、それは裏を返せば浸透しつつあるほど問題が山積みなのかと思う。私たち土木技術者はとても責任の重い職業なのだと今回の論文を書くことで考えさせられた。

参考文献
 1)農林水産省HP
 2)かみなか農楽舎HP
 3)新潟市 HP
 4)わがマチ・わがムラ-市町村の姿-HP

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