遠隔地で災害査定を円滑に進めるためのリモート化の活用
長崎県 対馬振興局
河港課 河川防災班
主任技師
河港課 河川防災班
主任技師
今 泉 慎 哉
キーワード:デジタル技術、リモート、災害査定
1.はじめに
公共土木施設における災害に対し、県民の安全安心の確保のため、迅速な初動と早期復旧が求められる。公共土木施設の災害は、災害復旧事業を活用して対応しており、本県は離島という地理的な制約がある中、限られた人員で、安全かつ迅速に、効率よく事務手続きを行う必要がある。
今回は、災害復旧事業の事務手続き(図1.1)の中で、既存の県庁設備を用いて効率化が図れる見込みがある災害査定に着目し、対馬振興局で実施したリモートによる災害査定について検証を行う。
2.災害査定
災害査定とは、申請者(被災を受けた自治体)、査定官(国土交通省(国土交通省所管の場合))、立会官(財務省)の3者合意をもとに補助対象額を決定するものである。実地査定または机上査定(申請額が1,000 万円未満又は実地査定が困難である箇所)で行われる。うち机上査定については、近年のデジタル技術の発展と普及促進の流れを受け、リモートによる机上査定に関する通知(国土交通省、令和4年4月28日付、表2.1、図2.1)が発出されたことにより、国土交通省と申請者(各自治体)がその具体的な手法を模索しながら取り組んでいるところである。また、災害復旧事業におけるデジタル技術活用の手引き(案)(国土交通省、令和5年7月)が作成され、ドローン撮影や3次元測量等のデジタル技術を災害復旧事業のプロセスに活用する動きも進みつつあり、近年の激甚化、頻発化する災害に対して、最新技術を活用した安全かつ効率的で迅速な対応が、より一層望まれている。
災害査定は本来、原則として実地にて行うもので、申請者にとって被災の事実や被災の程度、復旧範囲等を査定官、立会官に実地で説明することにより合意形成を図ってきた。今回、対馬振興局が申請した災害箇所は、申請金額が1,000万円以上であり通常は実地査定となるところであるが、災害復旧事業におけるデジタル技術活用の手引き(案)3.2 査定方式の適用条件で、実地査定が困難である場合(遠隔地で移動に時間を要する場合)に該当し、リモートによる机上査定を選択することも可能であるため、国土交通省と県庁河川課が協議し、リモートによる災害査定を本県で初めて採用することとなった。
デジタル技術の活用は、機材等の初期コストがかかり、ノウハウの取得までに時間を要する中で、現状、職員のみで対応可能な方法は限られている。そこで今回、既存の県庁設備を活用してリモートによる査定の方法を検討し、申請箇所にリモートパソコンを携行し、現地状況の映像をスマートフォンを用いてリアルタイムで配信しながら説明を行うという試みを行った。
3.対馬振興局における実施内容
3.1.申請内容
災害箇所:二級河川佐賀川(対馬市峰町佐賀)
被災原因:令和5年7月8日から7月11日梅雨前線豪雨
査定日 :令和5年9月21日から9月22日(第3次査定)
申請額 :35,513千円
被災内容:河川護岸崩壊54.4m(写真3.1)
復旧工法:ブロック積工226m2
3.2.リモートによる災害査定(申請箇所からリアルタイムで説明)
○人員体制(写真3.2)
【現場】 【 県庁】
説明者1人 ◆ ←----→ ◆査定官1人
撮影者1人 ◆( T e a m s )◆立会官1人
補助者1人 ◆県随行1人
運転手1人 ( ※◆:画面共有)
【現場】 【 県庁】
説明者1人 ◆ ←----→ ◆査定官1人
撮影者1人 ◆( T e a m s )◆立会官1人
補助者1人 ◆県随行1人
運転手1人 ( ※◆:画面共有)
○機材 リモートPC1 台、スマートフォン1 台、車両1 台(写真3.3、3.4)
○デジタル技術活用
Web 会議ツールMicrosoft Teams、ドローン映像(事前撮影)
Web 会議ツールMicrosoft Teams、ドローン映像(事前撮影)
3.3.朱入れ
リモート査定確認資料(写真3.5)に査定官がサインしPDF化したものを申請者、査定官、立会官、随行者で相互に確認し決定する。なお、申請額が査定決定金額となった
4.リモートによる災害査定の検証
表4.1 のとおり、事前準備や機材に関して、申請者側の手間や新たな負担はほとんどなく、実地査定を想定した場合と比べ、所要時間は120分削減できたことになった。なお、離島への移動は航空機や船舶であり、欠航のリスクや1日の便数が限られることを考慮すると、今回の比較結果以上に時間短縮となり効率化の効果がさらに見込まれる。
5.まとめ
リモートによる災害査定の最も優れた点は、査定官や立会官の移動時間を短縮させることで、1回の査定で離島も本土も含めたスケジュールが組みやすくなり、査定件数を増やす余地が生まれるなど、事務作業を大幅に効率化できることである。
さらに、朱入れの際に申請者が他市町の査定会場に行かざるを得なかったケースの解消や、1回の査定で査定件数が増えることで県随行の人数が抑えられる可能性がある。
また、今回のリモートによる災害査定は、リアルタイム映像やドローン映像を活用したことで、査定官、立会官への説明は十分行えたため、実地査定と遜色ないという感触を得ることができた。なお、今回の3次査定で対馬振興局は1件のみの査定だったが、仮に1自治体の査定件数が複数ある場合(例として実地査定複数件、机上査定複数件)でも、その自治体の班編成を説明班(会議室等での説明班)と現地班(リアルタイムの映像を配信する班)に分けることで、実地査定箇所間の移動時間の合間に机上査定を行うことができたり、また、他市町の机上査定とも調整が図れる可能性が大いにあるため、リモートによる災害査定は積極的に活用すべきだと考えられる。
6.今後
本県では、DX推進のための勉強会を令和5年9月12日に河川課が開催し、九州地方整備局インフラDX推進室の講演等をふまえ、県内の各自治体やコンサルタント等と情報共有、意見交換を行ったところである。今回のリモート査定は官側の効率化を図ったものだが、災害復旧事業にあたっては官民双方が相応の労力を伴うものであり、今後は、できることを積み重ねながら、デジタル技術の活用を通じて、官民双方で、迅速化・効率化・安全性向上を実現していきたい。