平成24年7月に発生した九州北部豪雨では、7月12日未明から昼前にかけ熊本県北部や大分県西部を中心として前線の影響で線状降水帯が発達し、各地で記録的な大雨となり、大きな災害や浸水被害が発生した。

菊池川水系合志川でも佐野水位観測所において観測史上最高水位を記録、また、合志川流域では、はん濫危険水位以上の状況が長時間継続し、橋梁や農業用取水堰などの河川横断工作物が存在する区間では、工作物の上流区間で越水はん濫が発生し広範囲にわたる浸水被害を被った。

同流域においては被災直後からの応急対策、河道の整備ならびに河川横断工作物の改築などを確実に行い、令和6年3月に事業が無事完成し、治水安全度を向上させたためここに紹介する。

平成24年7月11日午後に朝鮮半島付近で停滞していた梅雨前線が、12日朝には対馬海峡まで南下した。梅雨前線の南側にあたる九州北部地方では、九州西海上から暖かく湿った空気が流れ込み、大気の状態が非常に不安定となった。このため、12日未明から昼前にかけて、熊本県熊本地方・阿蘇地方・芦北地方・球磨地方、大分県西部を中心に発達した雨雲が次々と流れ込んだ。その後も不安定な大気の状態が続き、14日まで激しい雨が降った（図－ 1）。

菊池川流域でもその豪雨の影響は顕著であったが、中でも支川合志川では近傍の大鶴、平真城、合志の雨量観測所において、ともに最大3時間雨量が200mmを超えるなど、これまでに経験したことのない非常に強い豪雨が発生した（図－ 2）。

このため、合志川の佐野水位観測所では11日未明から水位が上昇し、12日1時30分には水防団待機水位、2時40分にははん濫危険水位（3.10m）、3時00分には計画高水位（3.30m）を超過し、6時20分に観測史上最高水位（4.92m）を記録した（図－ 3、図－ 4）。

合志川では、はん濫危険水位以上の非常に高い水位が長時間継続したため、合志川の国管理区間では、舟島橋から高江橋の約5kmの区間にわたって、河川から川の水が溢れ出した（図－ 5）。

この合志川のはん濫により、特に熊本市、菊池市では、多くの家屋が浸水し、甚大な被害が発生した（写真－ 1、表－ 1）。

これに対して地元では、水防団等による浸水家屋の救助等の水防活動、公民館等への避難者に対する炊き出し等の避難支援活動を実施した。

また、今回出水で浸水した地域の一部である、熊本市北区植木町では温泉街がほぼ全域にわたり浸水するなど、観光産業等にも大打撃を与えることとなった（写真－ 2、写真－ 3）。

前述の洪水被害の対策として、被災後ただちに河川に堆積した土砂の掘削工事に着手するとともに、洪水の流れを著しく阻害していた堰の改築、橋梁の架け替えのための計画・調査及び設計に取りかかった。

川づくりにあたっては、洪水の流下の障害となる河川横断工作物（平島堰・山城堰・舟島橋）の改築を柱とし、河道掘削等も実施していくことから、治水安全度の確保だけでなく、瀬と淵の再生及び土砂の再堆積防止にも配慮した多自然川づくりを実施した。一方、事業が長期間継続するため、地元及び関係機関の事業に対するご理解とご協力が必須であり、頻繁に地元説明会や見学会等を開催した（写真－ 4、写真－ 5）。

以降、合志川の河川整備における最大の懸案だった、平島堰改築に着手（平成27年9月）、続いて舟島橋架替に着手（平成29年11月）、そして令和元年に山城堰の改築に着手（令和元年8月）し、横断工作物改築に着手後、約9年にわたる歳月を要したが着実に対策を進め、令和6年3月に無事、事業を完成させた（写真－ 6、写真－ 7）。

これら一連の事業の完成により、事業の契機となった平成24年7月出水規模の洪水による越水はん濫を防止するとともに、菊池川河川整備計画の目標流量を安全に流下させる事ができるようになった（図－ 6）。

発災直後の応急対策を皮切りに河道掘削・護岸整備等を着実に進めるとともに大規模な堰の改築を2 基、橋梁の架け替えを1橋行うということもあり、調査計画・設計当初からの地元及び利水者調整、そして施工に至るまで13年という歳月を要したが、令和6年3月16日に無事、事業の完成を迎えることができた（写真－ 8）。

このように事業完成を迎えることができたのも災害対策協定にて昼夜問わずご尽力いただいた協力業者の皆様、各設計・地質コンサルタントの皆様、本事業の推進にあたり、事業へのご理解・ご協力ならびに激励くださった地元の方々、また関係する全ての方のご支援の賜物として、ここに合志川災害対策関連事業を完成させることができたこと、深く感謝申し上げる。