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令和5年7月の梅雨前線に伴う出水概要と治水事業の効果について

国土交通省 九州地方整備局
河川部河川計画課
建設専門官
中 原 寛 人

キーワード:令和5年7月梅雨前線、出水概要、事業効果

1.はじめに
九州地方は、地形・気象などの点から多様な災害リスクを抱えており、九州各地で毎年のように豪雨による大規模災害に見舞われている。
近年においては令和2年7月豪雨による球磨川での災害、令和3年7月豪雨の川内川、8月には六角川や筑後川で浸水被害等の災害が発生。
いずれの豪雨も、線状降水帯の形成や大雨特別警報が発表される豪雨となった。
また令和4年9月の台風14号においては、宮崎県の一部で大雨特別警報が発令されたものの、五ヶ瀬川ではこれまでの河川改修事業により、国管理区間における五ヶ瀬川からの外水氾濫をギリギリ回避したところです。
本稿では、令和5年7月の梅雨前線に伴う出水の概要と、これまでの治水対策による効果事例について紹介する。
なお、本稿の数値は、速報値及び暫定値であることから、今後の調査で変わる可能性がある。

2.出水の概要
(1)気象・降雨概要及び河川水位の状況
令和5年7月9日12時から10日15時にかけて梅雨前線が対馬海峡に停滞し、前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込んだため、九州地方では大気の状態が非常に不安定となり、広い範囲で強い雨が継続し、線状降水帯が発生(図- 1)。
気象庁は福岡県・大分県・佐賀県に「顕著な大雨に関する気象情報」を7月10日3時9分から8時29分の間に計8回発表した(表- 1)。
この大雨により、九州20 の一級水系のうち、遠賀川水系彦山川、山国川水系山国川、筑後川水系花月川、巨瀬川、小石原川、城原川、松浦川水系徳須恵川の4水系7河川で氾濫が発生し、6観測所では観測史上1位の水位を記録(表- 2)。
また、唐津市浜玉町、佐賀市富士町、久留米市田主丸町、田川郡添田町で土砂災害が発生するなど、九州北部の各地で甚大な被害となった(写真- 1)。

図1 雨量レーダ:線状降水帯発生状況(気象庁HPより一部引用)

表1 気象情報(九州地方整備局調べ)

表2 国管理河川の水位状況

写真1 久留米市田主丸町 千之尾川(ちのおがわ)の土石流災害

(2)ダムの洪水調節の状況
国が管理するダムのうち、下筌ダム(筑後川水系)、厳木ダム(松浦川水系)、嘉瀬川ダム(嘉瀬川水系)、耶馬渓ダム(山国川水系)の4ダムと水資源機構管理の大山ダム、小石原川ダム、寺内ダム(いずれも筑後川水系)の3ダムで洪水調節を実施し(寺内ダムでは異常洪水時防災操作を実施)、洪水時にダムに流れ込む水量の一部を貯め、下流河川の水位がピークとなる時に水量を低減させ、下流の洪水被害軽減に努めた(図- 2)。

図2 河川水位及びダム洪水調節の状況

3.主な1 級水系の降雨、水位、氾濫状況
ここからは氾濫被害が発生した主な河川について紹介する。
(1)遠賀川水系
遠賀川水系では、英彦山雨量観測所(添田町)において、12時間雨量356 mm、24時間雨量421mmを記録(図- 3)。
過去に彦山川流域で約60戸の浸水被害が発生した、平成29年7月洪水の降雨量を上回り、彦山川では計画高水位を超える水位を記録(洪水痕跡より)した(写真- 2)。
これにより、彦山川流域では25戸の家屋浸水被害と河川護岸の崩落(約150m)が発生。
7月10日から緊急復旧工事に着手し、昼夜24時間体制で工事を行い、6日間で緊急復旧工事を完了させた(写真- 3)。

図3 英彦山雨量観測所

写真2 彦山川23k700付近(7月10日午前10時頃)

写真3 (昼夜24時間体制で緊急復旧工事を実施)

(2)山国川水系
山国川水系では、小原井雨量観測所(中津市)において6時間雨量269mm、12時間雨量356mm(図- 4)、樋田雨量観測所(中津市)で6時間雨量164mm、12時間雨量240mmを記録(図- 5)。
過去に山国川流域で約380戸の浸水被害が発生した、平成24年7月洪水の降雨量を上回り、上曽木水位観測所では観測史上最高となる水位(9.41m)を記録(写真- 4)。
これにより、山国川水系で床上14戸、床下16戸の浸水家屋の被害が発生した。

図4 小原井雨量観測所

図5 樋田雨量観測所

写真4 山国川18k800右岸付近(7月10日午前10時頃)

(3)筑後川水系
筑後川水系では、花月雨量観測所(日田市)において平成24年7月洪水の降雨量に匹敵する雨量を記録し(図- 6)、耳納山雨量観測所(久留米市)においては6時間雨量300mm(観測史上最大)、12時間雨量365mm、24時間雨量399mm(観測史上最大)を記録し(図- 7)、過去に筑後川流域で約2,800戸の浸水被害が発生した平成24年7月洪水の降雨量を上回った。
水位の状況については、支川巨瀬川の中央橋水位観測所で3.30m、支川小石原川の栄田橋水位観測所で4.40m、支川佐田川の金丸橋水位観測所で3.60m、支川城原川の日出来橋水位観測所で4.92m と、いずれも観測史上最高の水位を記録。
これにより、筑後川流域で床上1,082戸、床下1,660戸の浸水被害が発した(写真- 5、写真- 6、写真- 7)。

図6 花月雨量観測所

図7 耳納山雨量観測所

写真5 筑後川支川花月川7k800右岸付近(7月10日午前10時頃)

写真6 筑後川支川巨瀬川9k900左岸付近(7月10日午前10時頃)

写真7 巨瀬川の氾濫状況:筑後川合流点から約6km上流の今村橋付近(7月10日15時頃)

4.治水対策による事業の効果
ここからは、これまでの改修による事業効果について紹介する。
(1)山国川水系山国川
山国川水系においては、これまで河道掘削や堤防整備、さらには耶馬溪ダムによる洪水調節を実施しており、これらの治水対策により中津市に大きな被害をもたらした、平成24年7月洪水を上回る雨量を山国川上流域で観測しましたが、山国川での氾濫による家屋浸水被害は194戸から30戸と大幅に減少した(写真- 8、図- 8)。

写真8 山国川青地区(堤防整備、河道掘削)

図8 浸水戸数比較

(2)筑後川水系花月川
筑後川水系の支川花月川においては、平成24年、平成29年と大きな浸水被害を受けたことから、激甚災害対策特別緊急事業として堤防整備や橋梁掛け替え、堰改築、河道掘削や川幅拡大等を進めており、これらの治水対策により日田市に大きな被害をもたらした平成24年7月洪水と同規模の雨量に対し、花月川での氾濫による家屋浸水被害は720戸から11戸と減少した(写真- 9、図- 9)。

写真9 花月川三和地区(堤防整備、河道掘削による川幅の拡大)

図9 浸水戸数比較

(3)筑後川水系下弓削川
筑後川水系の支川下弓削川(福岡県管理)においては、平成30年7月豪雨の浸水被害を契機として、国、福岡県、久留米市が連携して、ポンプの増設やパラペットの整備、雨水貯留施設の整備(令和5年7月時点では未完成)を進めており、耳納山雨量観測所では、観測史上最大の雨量を観測したが、平成30年7月豪雨時と比べ、床上浸水戸数は約4 割減となった(写真- 10、図- 10)。

写真10 枝光排水機場(ポンプ場増設)

図10 床上浸水戸数比較

(4)筑後川水系赤谷川
福岡県が管理する赤谷川においては、土砂・洪水氾濫により、甚大な被害を及ぼした平成29年7月の九州北部豪雨を契機として、国による権限代行制度を適用し、河川整備や砂防整備を実施。
令和5年7月豪雨では、鶴河内雨量観測所において、平成29年7月豪雨に迫る雨量を観測したが、速やかに洪水を流下させるための河道整備や、砂防堰堤、遊砂地、流木捕捉施設の整備など、河川と砂防が連携した災害復旧により、氾濫を生じさせることなく洪水を河道内で安全に流下させることで、人的被害や家屋浸水被害の発生を回避した。(令和5年7月豪雨時には19 箇所の砂防堰堤で約10 万m3の土砂・流木を捕捉)
(写真- 11、写真- 12、図- 11)。

写真11 赤谷川支川乙石川(河道内を安全に流下)

写真12 赤谷川支川崩谷川(砂防堰堤群の捕捉状況)

図- 11 被害家屋戸数の比較

写真13 赤谷川流域の地域コミュニティ協議会より、災害からの復旧・復興に対するお礼(完成式典で感謝のタオルを披露)

4.おわりに
今回、甚大な浸水が発生した筑後川支川巨瀬川については、流域のあらゆる関係者が協働し、流域全体の水害、土砂災害等に対して、再度災害を防止し、強靱な地域づくりを目指す方策について、関係者で議論し、流域治水対策(ハード、ソフト)を推進することを目的として、国、福岡県、久留米市、うきは市と学識経験者等からなる「巨瀬川流域治水推進会議」を令和5年8月28日に設置し「巨瀬川緊急治水対策プロジェクト」を令和5年11月15日に取りまとめた。
今後はプロジェクトの対策メニューを緊急的に実施していく予定としている。
また、国土交通省九州地方整備局と福岡管区気象台では「早めの避難」「早めの対策」「命を守る最善の行動」を促す事や、危機感を伝える事を目的に合同記者会見を開催し、テレビ放送等のメディアを通じて、広く住民にリスク情報の呼びかけを行っており、今回の梅雨前線による影響期間においては計4回の合同記者会見を実施した。
このように各機関の防災情報等を発信し、危機感を伝えるための新たな取り組みも積極的に行っている。
今後も異常気象が新しい日常となりつつある中、気候変動に対応すべく流域治水の視点も踏まえた対策を推進し、九州の安全・安心の確保に努めてまいりたい。

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