一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
平安座海中大橋における斜張橋斜材振動制御について

沖縄県土木建築部 中部土木事務所
 土木第一課長
山 城 和 男

沖縄県土木建築部 中部土木事務所
 土木第一課主任技師
比 嘉  清

沖縄県土木建築部 都市計画課
砂 川 勇 二

1 はじめに
平安座海中大橋は,主要地方道伊計平良川線道路改良事業の一環として,沖縄本島中部の勝連半島と平安座島を結ぶ通称海中道路に架かる橋梁である。本地域は,沖縄本島中南部の中でも風光明媚な金武湾に位置し,沖縄トロピカルリゾート構想の重点整備地区にも指定されていることから,景観も考慮し県内では初めてのPC斜張橋が採用されている。構成は起終点側の側径間部が2径間連続PC箱桁橋(70m),中央径間部が2径間連続PC斜張橋(140m)で総延長280m,全幅員が25.7mである。本橋は平成3年度から事業が開始され平成10年度に完成した。

近年,優れた構造特性および景観上のシンボル性等から盛んに斜張橋が建設されているが,それにつれて明らかになってきた問題に,斜張橋ケーブルの風による振動現象がある。これは,風がケーブルに吹き付けた時にケーブルの風下側に発生する渦等の乱れによって引き起こされる空力的な振動現象である。
斜張橋の斜材の振動を制御する理由として,斜張橋は斜材の張力が入った状態で構造的に安定しており,振動による疲労で斜材に重大な影響がでるようなことになれば,その構造自体が危険な状態になること,また,目視で確認出来る程度に振幅が大きくなると,車中あるいは歩行者から斜材の振動している状況が見えた時に非常に不安感を与えるということ等が挙げられる。
本橋においても,風により目視で10cm程度の振幅で斜材が振動している状況が確認されたため,振動の可能性および条件等を調査した上で斜材が振動する可能性のある箇所を特定し,制振装置を取り付けることとした。
本報では,実橋で行った斜材振動調査,風向風速測定の結果と,その結果を受けて取り付けた制振装置のケーブル振動制御効果について報告する。

2 橋梁概要
構造一般図を図2-1,2-2に示す。本橋は,セミファン型の吊り型式で張られた斜材で幅広の桁を中央部で支持しており,斜材をP2~P3間は縦に2本,P3~P4間は横に2本配置して主塔の幅を抑え,主塔の威圧感を極力軽減しているのが特徴である。

3 斜張橋ケーブルの風による振動
一般的な円断面を有する斜張橋ケーブルに発生する振動としては,渦励振,レインバイブレーション,バフェッティング,ウェイクギャロッピングなどが挙げられる。以下に,既往の研究資料からそれぞれの振動について概説する。
(1)渦励振
風が作用した場合,ケーブルの後流にはカルマン渦と呼ばれる交番渦が発生する。この渦の発生周波数とケーブルの固有振動数が一致することで生じる振動が渦励振と呼ばれている(図3-1)。しかしながら,その励振力は極めて弱く,対数減衰率で0.01~0.015程度の構造減衰がケーブルに付加されれば発生しない。

(2)レインバイブレーション
降雨を伴ったある風向の風が作用した場合,ケーブルの上下面には2本の水路が形成される。レインバイブレーションは,この水路形成によってケーブル断面が空力的に不安定な形状となって発生するケーブル振動である(図3-2)。この振動は,ポリエチレン管被覆ケーブルのように表面が滑らかな場合で,風速が6m/s~18m/s程度の範囲で発生する限定的振動であり,ケーブルの固有振動数が3.0Hz~3.5Hz以上では発生しない。対数減衰率で0.02~0.03の構造減衰を付加すればほぼ制振できる。

(3)バフェッティング
自然風の風速変動によって生じる不規則な強制振動で,振幅は風速と共に単調に増加する。あらゆる弾性構造物で発生する現象であるが,振幅が微小であれば問題とならず,実橋において問題となった事例は報告されていない。

(4)ウェイクギャロッピング
2本のケーブルが並列に配置された時,風上側ケーブルの後流(ウェイク)の作用によって風下側ケーブルに発生する振動がウェイクギャロッピングと呼ばれるものである(図3-3)。ウェイクギャロッピングは,ケーブル径をDとすると並列ケーブルの間隔が1.5D~6Dの範囲で生じ,過去の実橋観測結果によれば,斜材の固有振動数をfとした場合,V=25f・D~50f・Dの風速域から発現する場合が多いようである。励振力はケーブル間隔によって変化し,制振に必要な構造減衰については,設計上は対数減衰率で0.05程度の値を目安にしている場合が多いようである。

4 斜材振動調査
本橋では.図4-1に示すようなポリエチレン被覆のプレハブタイプケーブルを3本または4本束ねたマルチ型と呼ばれるケーブルを,P2~P3径間は縦列にP3~P4径間は並列に1.0m間隔で配置している。マルチ型ケーブルはシングルケーブルの場合と比べ減衰性は大きいと予測されるが,その構造減衰の大きさによっては,渦励振およびレインバイブレーションの発生条件を満足する可能性があり,また,風向によってはP2~P3側(橋軸方向の風),P3~P4側(橋軸直角方向の風)の両側とも並列ケーブルと考えられるため,ウェイクギャロッピング発生の可能性がある。そこで本橋では,斜材に計測器を取り付け強制振動させることにより振動実験を行い,また,架橋位置において約1年間にわたって風向・風速を観測することにより,風によるケーブルの振動問題が発生する可能性を検討した。

(1)ケーブル振動実験
① 実験方法
ケーブルは人力により加振し,加振周波数を各ケーブルの1次固有振動数,加振方向を橋軸(面内)方向とした。なお,斜材緊張時に計測した固有振動数を基に,振動する可能性が高いと推定される固有振動数が3.5Hz以下のケーブル20本を検討対象ケーブルとした。ケーブルの減衰性測定は,ケーブル加振後の自由振動波形をケーブル長の1/40程度の位置に取り付けた加速度計を用いて測定し,その波形より1次振動モードの波形を抽出して対数減衰率を算出した。図4-2にケーブル番号および計測位置を示す。

② ケーブル減衰性測定結果
表4-1,図4-3に各ケーブルの対数減衰率測定結果および振動波形測定例を示す。表中の上段・下段は縦列,上り線・下り線は並列ケーブルである。表より,全ケーブルの対数減衰率は0.01~0.015(平均対数減衰率で0.013)程度確保されているため,渦励振については制振対策無しでほぼ制振できると思われる。レインバイブレーションについては,抑制できる対数減衰率0.02程度は確保されていないが,それに近い構造減衰は確保されている。しかも,本橋はマルチ型ケーブルのため,降雨時にケーブルをつたって流れ落ちる水滴がザイルクランプ位置で止まってしまい水路形成ができにくい,つまり,ケーブルが空力的に不安定な形状となりにくいため,レインバイブレーションの発現は抑制されるものと考えられる。

(2)風観測
① ウェイクギャロッピングの発現予測
既往の研究資料によると,ウェイクギャロッピングは下記に示す風速およびケーブル間隔の範囲で生じるとされている。ここに,Ucr:発現開始風速の下限値(表4-2),Ucl:発現終了風速(Ucl=3.65/D),D:ケーブル径である。
 風   速  U:Ucr≦U≦Ucl
 ケーブル間隔 H:1.5D≦H≦6.0D

上記の関係について,本橋のケーブルについて検討した結果を表4-3および図4-4に示す。本橋は,ケーブルを数本束ねたマルチケーブルを採用しているため,ケーブル断面の外縁に接する外接円を1本のシングルケーブルと仮定し,ケーブル径はその外接円の径としている。検討結果から判断すると,ケーブル間隔は発現間隔の範囲内にあり予測発現開始風速もかなり低い値であるため,本ケーブルではウェイクギャロッピングの発現が予測される。実際,ウェイクギャロッピングと思われる振動が確認されている。

② 風観測および観測結果
ウェイクギャロッピングの発生において重要な要素である架橋位置での風向風速の状況を把握するため橋梁上に風向風速計を設置し,平成8年5月より平成9年6月までの約1年間にわたり風観測を行った。図4-5に測定位置および計測器配置を示す。風向風速計は最大風速70m/sまで耐え得るプロペラ型風向風速計を用い,計測機器は箱桁内に配置して観測を行った。なお,風向は南北に沿って0゜および180゜の角度で設定した。

図4-6に風向風速測定結果の一部を示す。記録値はそれぞれ1分間毎の最大瞬間風速値である。グラフよりウェイクギャロッピングの発現が予測される領域に当たる風速は頻繁に現れており風向についても,橋軸方向および橋軸直角方向のどちらからも吹いている状態で,本橋においてウェイクギャロッピングが発現する可能性が高いことが分かった。

5 ケーブル制振対策
制振対策前のケーブル振動実験および風観測等の結果より,本橋のケーブルはウェイクギャロッピングの発生が予測され何らかのケーブル制振対策が必要であると判断されたため,制振方法について事例や性能等の調査を行い制振対策の検討を行った。
(1)制振対策
現在用いられているケーブルの制振対策方法を表5-1に示す。従来,斜材相互連結方式が多く用いられていたが,維持管理の必要性や煩雑な景観となること,面外の振動に対応出来ない等の理由から,近年,ダンパー方式の実績が多くなっている。空力的方式は,斜材断面を変更し制振するものであるが,実績も少なく,ウェイクギャロッピング発生の可能性がある。本橋では,経済性や維持管理面,美観,性能等を総合的に検討し,粘性せん断型ダンパーを採用した。

粘性せん断型ダンパーは,ダンパー内に入れられた粘性体の粘性せん断抵抗によってケーブルの振動エネルギーを吸収するダンパーで,コンパクトで高欄の高さ以下に収まり目立たない,構造が簡単で斜材下端に設置するため取付が容易に行える,面内,面外の振動にも対応し微振動にも制振効果を発揮する等の特徴を有している。
しかし,P2~P3径間は縦2本縦列の形状であるため,下から斜材を支える形状である粘性せん断型ダンパーの取り付けが不可能であった。そこでこれらの斜材には,粘弾性体のせん断抵抗を利用する粘弾性体ダンパーを円筒形で新たに製作し取り付けることとした。両ダンパーに使用されている粘性休および粘弾性体は,難燃性,耐候性,耐久性,熱安定性に優れた高粘度の高分子材料で,繰り返しのせん断にも粘性の低下を起こさず安定した抵抗力を保つ特性がある。図5-1にダンパー形状を,写真5-1に取付状況を示す。写真はP2~P3径間の斜材で,上段が円筒型の粘弾性体ダンパー,下段が粘性せん断型ダンパーである。

(2)ダンパー設置位置検討
ケーブル振動の発現には様々な要因が含まれるが,マルチ型のケーブルということもあり,ある程度の構造減衰が確保された固有振動数が3.0Hz以上のケーブルには発現する可能性が低く,発生しても部材に影響を与える程の振動には発達しないと考えられる。したがって,ダンパーの設置位置はダンパー設置前の振動実験において固有振動数が3.0Hz以下のS-11~S-16の12ケーブルを対象とすることとした。S-9,S-10ケーブルも固有振動数が3.0Hz以下となっているが,ケーブル長が短いこと,シングルケーブル(対数減衰率は約0.003程度)に比べて構造減衰が大きいこと,これまで実際にケーブル振動が確認されていないこと等を考應し,経過を観察した上で必要であれば設置を検討することとし,今回は設置対象から外した。

(3)ダンパー制振性能実験
ダンパーの制振性能を確認するため,ケーブルの振動実験をダンパー設置前の振動実験と同じ方法で実施した。なお,ダンパーは設置後に0.05以上の構造減衰を確保することを目標として設計されている。表5-2に対数減衰率測定結果を,図5-2にダンパー設置後の自由減衰振動波形を示す。図より,ダンパーを設置すると数十秒間の内に振動は殆ど減衰しており,ダンパーの振動制御効果がかなりあることが分かる。対数減衰率についても目標とした0.05以上確保されており,本橋に適用した粘性せん断型ダンパーおよび粘弾性体ダンパーは,その制振性能が十分期待できることが確認された。

6 おわりに
近年,斜張橋における斜材の振動現象が問題となっている。本橋でも,強風時のケーブル振動が確認されたため,振動実験,風向風速の観測,既往の研究資料による検討を行った結果,制振対策が必要であると判断された。数種の制振対策を検討し,粘性せん断型ダンパーおよび新たに製作した粘弾性体ダンパーの2種の制振装置を取り付け,振動減衰性確認実験を行った結果,制振効果が十分期待できることを報告した。
最後に,本橋での調査・検討に携わってもらいました関係者の方々に,深く感謝いたします。

参考文献
1)米田昌弘:斜張橋ケーブルの風による振動とその制御,土木学会第2回振動制御コロキウムPartA,pp.21-40,1993.8
2)建設省土木研究所共同研究:斜張橋並列ケーブルのウェークギャロッピング制振対策検討マニュアル(案),共同研究報告書,1995.9
3)松野栄明:斜張橋並列ケーブルの耐風制振技術,土木技術資料38-3,pp.10-11,1996.
4)吉村徹,岡林隆敏,山森和博,砂川勇二:可搬型振動計測システムによる斜張橋ケーブル振動の計測,土木学会橋梁振動コロキウム,1997.9

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧