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筑後川水系における不特定用水確保の取り組み
~筑後川水系ダム群連携事業の必要性~

国土交通省 九州地方整備局   
筑後川河川事務所 開発調査課 課長
村 上 裕 明

キーワード:水資源開発基本計画、不特定用水、導水事業

1.はじめに
筑後川水系は、北部九州の社会経済の発展に伴う水需要の増大等に対処し、広域的な水開発を行うため、昭和37年の利根川水系、淀川水系に継ぎ、昭和39年10月に全国で3番目の水資源開発促進法による水資源開発水系の指定を受け、昭和41年2月に「筑後川水系水資源開発基本計画(通称:フルプラン)」が決定された。その後、フルプランは数回の変更を経ながら、江川ダム、寺内ダム、松原・下筌ダム再開発、合所ダム、大山ダム、筑後大堰、福岡導水及び佐賀導水、小石原川ダム等の水資源開発施設が盛り込まれ、整備されてきた。
一方、福岡都市圏等への域外導水等の水資源開発に対し、筑後川の既得利水の尊重と流域優先が基本であること、既得利水(農業用水、都市用水及び水産等)の安定的な供給を図るため、上流ダム群による不特定容量の確保と筑後川下流地域の既得利水の合口を促進するとともに、新規利水に優先した既得利水の取水と水産業、特にノリ漁業に対する配慮がなされることが強く求められてきた。
特に昭和54年の筑後大堰の着工に際しては、筑後大堰下流の河川流量を巡って工事着工の阻止運動が展開されるなど、福岡都市圏等への域外導水等に対し、筑後川の河川流量の確保の重要性が強く訴えられ、水資源開発の基準となる瀬ノ下地点流量が争点となった。
このような社会的な動きを受け、関係者間で協議の末、筑後川の水資源開発基準流量は河川環境の保全、既得利水、水産業に影響を及ぼさないよう配慮するため、瀬ノ下地点流量を40m3/s とすることが、昭和55年12月に福岡県、佐賀県、大分県及び熊本県知事等の了解のもと確認された。
筑後川水系ダム群連携事業はフルプランに位置づけられた最後の施設であり、瀬ノ下地点流量40m3/s を確保するための事業である。

図1 流域概要図

図2 瀬ノ下地点の河川流量不足への補給(概念図)

2.筑後川流域の特徴
筑後川は、その源を熊本県阿蘇郡の瀬の本高原に発し、高峻な山岳地帯を流下して、日田市において、くじゅう山地から流れ下る玖珠川を合わせ典型的な山間盆地を流下し、その後、夜明峡谷を過ぎ、小石原川、佐田川、巨瀬川及び宝満川等多くの支川を合わせながら、肥沃な筑紫平野を貫流し、さらに、早津江川を分派して有明海に注ぐ、幹川流路延長1,143km、流域面積 2,860km2の九州最大の一級河川である。
筑後川下流域の既得用水は、農業用水が約8割を占めており、沿川の水道用水、工業用水としても取水利用されている。下流部の汽水域は、有明海固有種のエツ、アリアケシラウオ等が生息するなど、様々な植物や底生動物、鳥類が生息し、豊かな生態系を形成している。
筑後川流域は、ほぼ西九州内陸型気候区にあり、流域平均年降水量は約2,120mm(全国の平均降水量1,560mmの約1.4倍)で、その約4割が6月から7月上旬にかけての梅雨期に集中し、台風の発生時期と合わせた6月から9月の4ヶ月間の降水量は年降水量の約6割を占める。なかでも、上流域は、多雨地帯となっており、年降水量が3,000mmを超えるところもある。流域の降雨特性として、支川玖珠川の上流域よりも筑後川本川の上流域の降水量が多く、中流域では北部の朝倉山地より南部の耳納山地の降水量が多い傾向にある。北部九州地方の年間降水量は全国平均を上回るものの、人口一人当たりの降水量は少なく、渇水になりやすい特性がある。

3.水利用の状況
筑後川の水は、上流から下流に至るまで、発電用水や農業用水等で繰り返し利用され、水道用水として、流域内の久留米市及び鳥栖市等で利用されているほか、導水路を通じて福岡県南地域、佐賀東部地域及び福岡都市圏へ広域的に供給されており、福岡都市圏の水道用水の約3割は筑後川の水でまかなわれている(図- 3)。また給水区域の総人口は約380 万人を超え、福岡県の人口の約68%、佐賀県の人口の約50% の人々の生活を支えている(図- 4)。
さらに久留米市や佐賀市をはじめとして、流域内外の約50,000haにおよぶ耕地の灌漑用水に利用されており、福岡県の農業生産額の約58%、佐賀県の農業生産額の約26%を支えている(図- 5)。

図3 水利用の状況

図4 各県の人口に占める筑後川給水区域総人口の比

図5 各県の農業生産額における筑後川の灌漑区域内の生産額が占める比率

瀬ノ下地点の近年までの実績流量では、冬場(10月~翌年3月)は松原・下筌ダム再開発により、昭和58年以降は大渇水を除いて概ね瀬ノ下地点流量40m3/sは確保されているが、夏場(4月~ 9月)の実績流量は、40m3/s を確保できていない日がほぼ毎年発生している(図- 6)。

図6 瀬ノ下地点流量40立方メートル/s未満の日数(夏期:4月~ 9月)

4.渇水の状況
筑後川水系では、概ね2年に1回の頻度で取水制限が実施されている。特に昭和53年、平成6年、平成14年に大規模な渇水に見舞われ、筑後川流域をはじめ、福岡都市圏等においても取水制限等を余儀なくされ、市民生活、社会経済活動に大きな影響を及ぼした。
昭和53年渇水では、母子がふるさとへ一時帰宅する渇水疎開や多量の水を使用する飲食店等で渇水倒産が発生した。また平成6年渇水では、瀬ノ下地点40m3/s以下の日数が236日間にも及び、久留米市水道企業団や鳥栖市水道、佐賀東部工業用水で最大20%の取水制限が発生した。渇水時においては水源施設の総合運用及び松原ダムからの緊急放流等の渇水調整が実施されている。
河川環境については渇水時における地域の取組みもあり、筑後大堰下流の汽水環境が保たれてきているが、平成17年には夏場の瀬ノ下地点流量が約12m3/sまで激減し、エツの水揚げが減少する事態が生じた。

図7 渇水状況

5.事業概要
筑後川水系ダム群連携事業は、筑後川本川の流量が豊富な時に佐田川の木和田地点まで最大2.0m3/s を導水し、江川ダム、寺内ダム、小石原川ダムの一時的な利水容量の空き容量を活用することで、都市用水の優先的な確保等により不足している流水の正常な機能の維持のための用水を確保し、既得用水の安定化、河川環境の保全を図るものである。事業概要は下記のとおりである。
■事業箇所 福岡県朝倉市外
■諸元 導水路約10km 最大導水量2.0m3/s
■総事業費 約740 億円

図8 事業概要図

図9 事業効果

6.おわりに
筑後川水系ダム群連携事業は平成13年度に実施計画調査に着手し、令和4年8月5日の社会資本整備審議会河川分科会事業評価小委員会において令和5年度予算概算要求に係る新規事業採択時評価がなされ、建設段階移行の予算化は妥当となり、概算要求中である。
また現在、国土審議会水資源開発分科会においてリスク管理型の「水の安定供給」に向けたフルプランの抜本的見直しを含む全部変更の議論がなされており、筑後川水系ダム群連携事業については、独立行政法人水資源機構が国土交通大臣より承継する案が示されている。さらに筑後川水系の特徴や水資源開発の歴史的背景等を踏まえ、適正な土砂管理及び河川環境の保全に努め、下流既得水利、のり漁業をはじめとする水産業及び有明海の環境に影響を及ぼさないよう十分配慮する案が示されている。

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